37話 すこし成長しました
第2章の開始です
アリサがうちに来てからもう1年経つんだよねぇ。
わたしの専属ってことに少しは文句言う人もいるかなって思ってたけど、全く無くてむしろ応援してる人だらけとか、ほんと愛されてるねぇ。
本人が凄く頑張ってるのもあって、うちの人たちからの評判がとても良い。というか思いっきり可愛がられてるよね。可愛い妹や娘を相手するみたいで、微笑ましい感じ。
アリサで思い出したけど、あのロリコン勇者(名前完全に忘れた)が全然来なくなったんだよねぇ。神聖王国に呼び戻されたんだっけ。
あそこって今は復興がんばってるから、おそらくそれの手伝いかなんかだろうけど。できればこのまま永久に来ないでください、その方がアリサのためでもあるし。
それに対してカイルの奴、定期的にくるんだよなぁ。
うちのお弟子さんたちに稽古つけてもらってるそうだけど、お前の本拠地は天狐の里じゃなかったのかとね。しかもなんでこの都市に家借りてるんですかね。
強くなること自体は良いことだけど、稽古が無いときも頻繁にくるのはやめてほしい。
そういう時っていっつもアリサと喧嘩するんだもん。しかもずっとだし、わたしのアリサを盗られる感じがするからちょっと嫌。
「お嬢様、どうかしましたか?」
「なーんでもないよ~。ちょっと余計なこと考えていただけ。それで、準備はできた?」
「はい、大丈夫です。お願いします!」
「はいよー」
わたしとアリサはこうやって定期的に術装を使っての勝負形式で訓練をしている。お願いされたときは驚いたなぁ。
そもそもアリサはお母様やシズクさん、お弟子さんたちとも同じことしているから、実はわたしが相手をする意味ってあまりないんだよね。
でも、どうしてもわたしとも戦いたいって言うのがアリサの希望。実際に戦うことでわたしの癖とか弱点を把握し、それをカバーできるようにするためとかなんとか。
日常だけでなく戦闘時にもわたしの専属として動きたいんだろうねぇ、がんばりやさんめ。
「それじゃいつも通り、わたしは魔力抑えて魔衣も無し、使うのは術技のみで月華の形態は使わない、でいいよね?」
「はい。私がもっと強ければいいのですが、まだまだなので」
「いつも言ってるけど、周りがとんでもないだけだからね」
比較対象が明らかにうちのお弟子さんだからなぁ。どっかで一般の人の強さを見せた方がいいような気がしてきたわ。
「んじゃいっくねー。術技、烈火!」
「耐えて見せます! 術技、烈火!」
わたしの月華とアリサの大太刀が互いに炎を纏いながらかち合い、そして鍔迫り合いになる。
触れ合う個所からは火花が走る。
だけど
「どうしたのアリサ? だんだん腰が落ちてきてるよ」
「くぅぅぅぅ」
「押し返す気があるならもっと魔力高めて! それにわたしは片方の月華だけ、このままもう片方振り落としちゃう前にどうにかして!」
加減はしているけど、決して手は抜かない。
どんどん押し込んでいるから、アリサの膝が地面に触れそう。押し返すのは無理かな?
さてどうしよう、もう一刀をそのままぶつけるか、それとも。
よし、ここは
「術技、烈空!」
右の月華で押し込んでいるところに、左の月華で真空の刃を発生させながら薙ぎ払う。このままだと薙ぎ払われるけど、さぁどうするの?
「な、なら術式連続展開! 砂塵の嵐、破邪の結界、金剛装!」
へぇ、〝砂塵の嵐〟で目くらましとなる砂嵐を発生させ、同時に薙ぎ払いの速度を落とさせる。
次に〝破邪の結界〟で薙ぎ払いの威力を弱める壁を作ると。
最後に〝金剛装〟で全身の防御力を高めて攻撃に耐えるってわけね。
でもなぁ
「耐えるのではなくて避けなさい! 術技、烈破!」
烈空の発動を強制解除、そのまま烈破の発動へ遷移させる。
烈破は破壊を目的とした衝撃を与える技。魔力の消費は高いけど、烈震の振動で崩すよりも強力。
烈破を発動させれば砂塵の嵐はほぼ無力、発生する嵐そのものを破壊していく。
そのままの勢いで今度は月華を結界へぶつける。結界にぶつけたらさらに魔力を高め、烈破の力で一気に結界も破壊。
こうなると
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
烈破から発せられる衝撃が直に当たり、アリサが吹っ飛ぶ。
いくら金剛装を使っていても、至近距離で当てれば簡単に弾き飛ばすことができるのよね。
「ぐっ、ま、まだ、です」
「すごいボロボロだけど立てたね。魔衣は完全に吹き飛んでるから結構なダメージっぽいけど」
大太刀を杖にして何とか立っているって感じかな? カイルならギブアップしてるのに、たいしたものだなぁ。
「前にも言ったかもだけど、アリサは受けたりいなすのに意識をもっていきすぎ。もしもわたしの刀が毒や呪いを持っていたらどうしたの? 受け止めたら感染しちゃうよ?」
「そ、それは……」
アリサって良くも悪くも真面目で素直な子だからね。だけど世の中、毒や麻痺、呪いや幻覚といったいやらしい攻撃をする敵も多いからねぇ。
「絶対に受けちゃダメってわけじゃないけど、基本は回避して受けるのは最後にしてね。力比べの時とかは受けてやってもいいかもだけど、敵との実戦だと危険性が高いから」
「は、はい!」
うん、元気がいいお返事でわたしは満足です。
まぁ戦い方は一朝一夕で変わるものじゃないし、今後もちょくちょく注意していきましょー。
「で、どうする? 1回の烈破だけでボロボロになっちゃったけど、続ける?」
「もちろん、お願いします!」
おーおー、わかってはいたけど折れるどころかさらにやる気を上げてきたね。やる気によって魔力も活性化してきてるし、良いことだね。
「それじゃいっくよー」
「はい!」
それから1時間くらい、アリサを吹っ飛ばしたり叩き付けたりしてたけど、最後まで諦めなかったわ。ほんと根性あるよね~。
訓練で負った傷は再生術で治したので綺麗さっぱり。
でも魔力を使いすぎての疲れは休むしかないので、今はわたしの膝を枕にして寝ている状態。
膝枕って好きな子にしてもらうのはもちろん良いけど、するのもなかなか良いものですね!
「あんっ、おじょう、さまぁ……そこはだめぇ……」
「いったいどんな夢見てるんですかアリサさん!? ひじょーに気になるよ!」
アリサの顔を見るけど、う~ん、わからん。
笑顔っぽいけど、夢の内容はさっぱりだわ。まさかえっちぃ夢……はさすがに無いか。でも気になるし、あとで聞いてみようかな~。
しっかし1年間見てきたけど、ほんとがんばるよねぇ。絶対に専属メイドの座は譲らないって気持ちが出てるからかな?
無理しだしたら止めないと駄目だけど、今のところは大丈夫。このまま順調に天魔に進化してくれるといいなぁ。
さてと、アリサが起きるまで暇だし、術技の発動媒体を改良しよっかな。次の段階に入っても、おそらく今のアリサなら使いこなせると思うんだよね。
今は発動媒体側で魔力の消費を決めてるけど、今後はアリサ自身がどの程度魔力を使うのか決めれるように変えていく必要がある。その方が戦術も広がるし、威力の調節もしやすくなる。
ゆくゆくはわたしと同じように発動媒体無しで使えるようになってもらいたいけど、これは天魔にならないと無理かなぁ。
あーそうだ、新しい術技も使えるようにしないと。
いっそのことオリジナルの術技を作れるように改良するのもありかな。わたしたちが考えもしない術技を編み出したり、掛け合わせたりするかもしれないしね。
それにせっかくなら精霊力も使えるようにしちゃおうかな。
わたしの魔石の影響からか、只人族なのにアリサの精霊力がどんどん高くなってるんだよね。これを有効活用しないのは勿体ないし、今から鍛えれば精霊の召喚も容易にできるんじゃないかな?
となると、これは本格的な改良になるなぁ。
んー、素材はまだあったはずだし組み込む術式も把握している。複雑だけど1時間くらいで仕上げることはできそうね。
いやぁやることいーっぱいだね。でもアリサのためにがんばろー。