367話 おいしいクッキー、ありますよ?
少し長いです
すーはーっと少し深呼吸し、覚悟をバシッと決める。決めなきゃいけない感じなので決める。
では、このドデカイクッキーの実食に入りましょう。
とはいえ、ほーんとにデカいので、このままガブッて噛みつくのは無理ね。家なら良いけど、こういろんな人がいる場所じゃちょっと問題ありです。
なので、少し左手の魔力を高めて、左手だけでヒョイッと持てるようにしてっと。デカいからちょっとだけ大変。
左手で持てる状態になったら今度は右手でクッキーを少し摘まみ、一口で行けるくらいの大きさで取る。
この流れはアリサも行ったけど、娘ちゃんはガブッと噛みつくみたいね。両手でバシッと掴んでるよ。
「それじゃまぁいっただきますっと」
パクッとクッキーを口に運び、もしゃもしゃと。
ふ~む、どうやら小麦を使っていないクッキーみたいね。くまモドキの骨を粉末にし、それを小麦代わりに使ってるって事かしら。
ただ小麦とは違うようで、さっくりしたクッキーとかしっとりしたクッキーって感じではなく、もさもさした感じのクッキーになってるわ。
しかも咀嚼するたびに口の中の水分がどんどんなくなるし、ちょっと硬めのお煎餅みたいな硬さもある。さらに噛んでいくと今度はゴムみたいな、こう、むにゅっとしてぐにゃっと反発感がある変な食感。
味は砂糖にどっぷり漬け込んだようなくどい甘さで、ちょっとわたし好みのクッキーじゃないです。
とはいえこれも展示品だからか、周りを見ると同じようなクッキーを食べ、絶賛みたいなことを話してる人も居るので、マズイなんて本音を言うのはちょっとむ
「まっずーい!」
「言っちゃう子がここに居たぁぁぁぁぁ!」
「……お嬢様、それを言っちゃうのも問題ですよ?」
「おっと」
娘ちゃんがバシッとマズいと言っちゃったので、わたしもついそれに乗っちゃったよ。
でもほんとこれ、マズいんです、わたしの知ってるクッキーじゃないです。
「食骨熊の骨は優れた栄養を含んでいるでござるが、食感は独特でござるからなぁ」
「独特ってゆーか、まだ食材として使っちゃダメな段階な気がするんですけど」
研究段階の食材ですって言ってくれた方が良いわよって状態です。
でもまぁ絶賛している人が居るって事は、おそらくわたしたちとは違う味覚、それか質の違う食材が多い国とか世界もあるって事なんだろなぁ。
とはいえ、口直しが必要です!
「アリサ」
「こちらですね。お二人もどうぞ」
アリサがポーチから袋に入ったお土産クッキーを取り出し、わたしとマサムネおじちゃんに娘ちゃんにも手渡す。うんうん、以心伝心って感じで何をわたしが欲しいのか察してくれる、ほんと良い子です。
「どうぶつちゃんくっきー!」
「ふむ、いつも貰っている物と似た様でござるが、少し違っている気もするでござるな」
「お、さすがマサムネおじちゃん、鋭い」
お土産クッキーとは、うちに来た人に渡したり販売したりしている、うちで作っているクッキー。
袋の中にはさくさくクッキーとしっとりクッキーの両方が入っており、味もバターやチョコや塩、果実を練りこんだものなどもあり豊富。
そして極めつけが、娘ちゃんが動物さんクッキーというように、かわいい動物の形をしたクッキーとなっている。老若男女誰でもかわいいって思えるクッキーです。
そんなお土産クッキーだけど、今回アリサが取り出したのは新製品。
従来の小麦をさらに改良し、よりおいしくなりましたっていう素晴らしいクッキーなのです。
「今渡したのは改良された小麦を使ったものです」
「なんと!? あの小麦をさらに改良でござるか!?」
「そう、あのクッキー専用に作られた超高級小麦をです」
そう言いながら、ポーチからすすっと小麦の帆を2個取り出す。
「左手に持っているのが今までのさくさくクッキー用小麦で、右手のはそれを改良したさくさくクッキー用小麦です」
「ほほう、麦の大きさは変わらぬでござるが、麦粒の個数は倍近いでござるな」
「うん。麦の味が上がっただけでなく収穫数も増えたすっごい麦です! って言えたら良かったんですけどねぇ」
言う事なしの完璧な小麦です、とはいかない物なのです。
「何か問題があったのでござるな?」
「お嬢様が持っている小麦ですが、残念ながら収穫量が増えた代わりに栽培方法がより難しくなってしまい、従来の小麦よりはるかに高い価格になっています」
「ほほう? しかし、高いと言っても」
「従来の5倍の価格になっています」
「な!?」
「この5倍というのは仲介業者などを一切挟まず、私どもから購入した場合の価格になっています」
アリサが価格一覧表を出して説明してくれたけど、ほんとすっごい値上がっちゃったからなぁ。
厳選された土地に適切な水温、さらには上質な魔素と霊素が必要などなど、ちょっとこれ条件絞りすぎじゃないっていう小麦。
まぁそうなるのも当然というか、この小麦はお母様が、わたしによりおいしいクッキーを作ってあげようっていう考えから、うちの農業部門へ依頼し作っちゃった小麦だもの。妥協とか一切考えてない、トンデモネー小麦です。
「いちおう評判が良ければ大量生産の予定もあるって言ってたけど、現状はうちに来た人に配る程度になってるみたいですよ」
「なるほど」
「じゃーじゃー、あそびにいたらいっぱいくれるんだね!」
おっと、娘ちゃんがニコニコしながらクッキー食べつつ、ドストレートな要望言ってきたよ。
といっても
「うん、娘ちゃんにいっぱいあげるくらいは大丈夫だよ」
「おー!」
「ただ、マサムネおじちゃんにいつも渡している量には届かないかなぁってくらいです」
「ほほう。しかし、いつもの量がそもそもとんでもないのでござるが?」
「そこは気にしなーい」
うん、おじちゃんみたいにうちと仲の良い人たちに渡してる量って、単純にその国の国民が毎日1袋食べても1年もつよねって量。とんでもなく大量なのは確かです。
ほーんと、うちって仲の良い人たち相手には結構甘いというか、愛情たっぷり物もたっぷりになっちゃうね。
「さてさて、そんなクッキー用の小麦だけど、実はもう1種類あるんです。アリサ」
「はい、こちらですね。お二人もどうぞ」
別のクッキーが入った袋をアリサに手渡してもらってるけど、うん、二人ともすぐに気付いたようね。
「どうぶつちゃんじゃない!?」
「よくある、丸みを帯びたクッキーでござるな」
そう、今度のクッキーは動物型とかでなく、いわゆる普通の形なクッキー。定番の形だねぇ。
それにしても娘ちゃんがすっごい驚いて……あーそうか、娘ちゃんが食べるクッキーってうちで作ってるクッキーばかりって以前聞いたから、おそらくクッキーは動物型ですって思いこんじゃってるんだろうなぁ。マサムネおじちゃん、その辺りの教育しっかりしないと駄目よ?
「そのクッキーは食べたらわかると思うけど、いつものクッキー用小麦より少し下の小麦を使ってるんです」
「したという事は、量産用という事でござるか?」
「そーですそーです。今まではうちの国だけで作っていたんですけど、それに近い品種を他国で栽培したのがこの小麦です」
ばばーんとポーチから別の小麦を取り出す。
大きさや形とかはうちの国で作っているクッキー用小麦そのままだけど、付与されている魔素や霊素の量がどうしても違う小麦なのです。
「価格ですが、従来のくきー用小麦の5割、つまり半額程度となっています」
「半額でござるか!? なんというか、凄まじい値下げでござるが……」
「はい、価格が下がった理由は当然いくつかございまして、一番は味の差が非常にあったためとなります」
またまたアリサが価格に関する説明が載った情報をババーンと出してくれたけど、ほんとそうなんだよなぁ。
わたしがいつも食べているクッキーの小麦と比べると、甘味と食感がどうしても劣っちゃう小麦。しかも、そこは栽培方法の関係でどうにもならない部分というのがねぇ。
「どうぶつちゃんじゃないけどけっこーおいしいよ」
と、黙々と娘ちゃんが食べてるけど、うん、表情で分かります。
「いつものと比べると~?」
「いつものどうぶつちゃんのがおいしいでっす!」
「だよねぇ。でもまぁマズくは無いどころかだいぶおいしい小麦ではあるので、今回販売しようってなったんです」
「なるほど。確かにこの味が出せる小麦が従来の半額程度となると、今まで購入をためらっていた国や世界も手を出してくるでござるな」
「そーゆーことです」
この小麦はあくまで新規開拓用なんだよねぇ。
あとはうちの国の技術が独占だなんだとうっさく言ってくる国があるようなので、そこをうまく丸め込むためとかなんとか。
そんな事をしていたら、何人かがテクテクと寄ってきたわ。
これは~
「突然で申し訳ない。少しうかがっても良いでしょうか」
「どーぞー」
「我々も先ほどの会話を聞いていたのですが、その小麦はどの程度特殊なのか説明をできればしていただきたく」
「なーるほど。それじゃ説明していきましょー」
うんうん、割と想像でき、そして予想していた展開です。
そう、今回のこれはお母様からの任務で、わたしたちの世界に興味を持ってもらおう大作戦の一つなのです! マサムネおじちゃんと娘ちゃんを少し利用するような流れになっちゃたのは想定外だけど、まぁ良いでしょう。
それはともかくこの量産型クッキー、こういった宣伝するためにあえて持たされたものだしねぇ。だとしたらこのクッキーも、本来の宣伝用に使ってもらうことに意義を感じるハズです。
とゆーわけで、クッキーを配布しつつ軽く説明を開始。
いつもならアリサに説明をお願いするところだけど、今回の会合は異世界同士の偉い人みたいなので、この場に居る人達も当然そういう人たちばかり。
となるとアリサという従者にお願いするのは不敬に当たっちゃうこともあるので、ここはわたしが頑張るのです。
ただ、ちょーっと頑張りすぎた様で、思ってた以上に人が寄ってきてるー!
知らない人だけでなく、うちと仲が良い人もちらほら来てくれだしたのは良いんだけど、うん、ちょっと大事になりすぎてる感じになってきちゃったんですけど! ひとひとひとの嵐!
「あらあらまぁまぁ、すごい事になっているわねぇ」
「お母様!? たすけて!」
「ふふっ、しょうがない子ねぇ」
お母様たちも用事が終わったようで来てくれたけど、人が多すぎて声かけてもらうまで気付けなかったわ。
わたしだけでなくアリサもてんてこまいだし、マサムネおじちゃんと娘ちゃんなど、仲の良い人に頼むもいかないので、お母様に即助けてもらおうになっちゃったよ。
商売人みたく人が多くてもテキパキやるとか、わたしにはむーりーってのがよーくわかりました……。
食への追及はとんでもない狐一家




