36話 厄介事は続くよどこまでも?
戦闘が終わったので月華と天衣は解除っと。アリサの方の結界ももういいかな?
一応カイルの凍結も治してあげますか。
「ふぃー、疲れた疲れた」
「お嬢さまぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「あーアリサ、こっちはだいじょ、むぎゅ」
「大丈夫でしたか? お怪我はありませんか?」
心配性だなぁ、結界解除したらすぐに抱き着いてくるとか。
全身ボロボロになるような戦いでもなかったし、さっき吹っ飛んだ時の傷も治ってるから安心してほしいなぁ。
「大丈夫だから少し落ち着こ? はい、しんこきゅー」
「ほんとに、ほんとーに大丈夫なんですか?」
「傷もないでしょ? ほら、腕だっていつも通りの白さでぷにぷに」
「う~ん、ちょっと失礼しますね。ふむ、確かに大丈夫そうですね」
……なんで袴をめくった!?
たしかにわたしの魔衣はミニスカートみたく丈が短いのでめくりやすいけど、だからってめくっていい物じゃないよ!
え? 吹っ飛んだ後に手足から思いっきり血を出しているのが見えたから、ですか。で、足に傷が無いのか確認したかった、ですか。
そういえば結構バッサリ切れてたよーな。圧縮された魔力の破片が貫通してたのかも?
「さてと、んじゃカイル、この勇者とかの報告お願いね」
「どういうことだ?」
何言ってんだこいつって顔してるね。でもお前の考えていたことなんてまるっとお見通しなのだ!
「この勇者を利用してわたしに接触したんでしょ? おおかた勇者を手助けするふりをして、術か魔法を使って勇者を探知機か何かにしたのはバレバレなんだから」
「言い逃れはできそうにないな。その通りだ、君と戦ってみたくてな」
「なぜそこまでしてお嬢様と戦いたかったのですか?」
戦闘狂だからって感じじゃなさそうだよね。何かもっと深い理由でもあったのか気になる。
「一つは俺と同じってのが気に食わなかったってのがある。少し前にうちの里にも情報が来てな。金色の狐、まぁサユリ殿のことだが、隠されていた娘が居たとな。そしてその娘は生まれながらに天魔狐であり、すでに術装も顕現させているってな。それを聞いて里の奴ら、偉い騒ぎになったもんだ」
凄い真剣な顔で語りだりてるね。話に嘘とかはなさそう。
情報が出回ったのはこないだの神聖王国がらみのせいだったかな。
今までわたしの存在ってうちの国以外だと公じゃなかったけど、騒ぎになったせいで隠蔽できなくなったとか。つまりそれまでは里の方でもわたしのことは知らなかったってことだね。
しっかし里でも騒ぎになるんだねぇ。相当珍しいんだね、わたしって。
「正直な、すげー腹が立った。俺は小さい頃から人一倍修行してようやく天魔になれたのに、お前は生まれながらだぞ。しかも術装まで持っているとかふざけんなって気分だった。だからか、試したくなったわけだ」
「生まれたときに得た力で満足している愚者か、その力に溺れず成長し続けている強者かってとこを見るためかな?」
「あぁ、その通りだ。結果としてとてつもない強者なのがわかったけどな」
そりゃ自分は努力してるのに、生まれがいいからそいつの方が強いって言われたら腹も立つだろうねぇ。ろくでもない貴族はたいていそんな感じだからよくわかる。
「この際ハッキリ言っちゃうと、もしもアリサに魔石をあげていない状態だったら、たぶん術装と魔衣無しでもあなたの全力と戦えたと思うよ。そしてわたしが勝ってた」
「さっきの戦い見れば納得だ。ったく、自惚れがあったのは俺の方だったわけだな。俺の想像すらできない修行もしてるんだろ? 大したもんだよ」
あら、さっぱりした顔で認めたね。
まぁ実際、わたしは今までずっとお母様やシズクさんといったとんでもない人たちに鍛えられてるからねぇ。
でも、もしカイルが同じ環境で修業したら、正直どうなるかわかんないなぁ。魔力以外はほぼ同等だったからね。
うん、わたしも慢心しないように修行とか引き続きがんばろっと。
「でも一つはってことはまだあるの? 思いつかないんだけど」
「もう一つはな、俺の妻として本当にふさわしいか一度見ておきたくてな」
「はい?」
「えっと、それはお嬢様と夫婦になるという意味での妻、ですか?」
ひいっ!?
な、なんかアリサが凄い剣幕で、さらに凄く冷たーい声で聞いてるよ! わたしもそれ怖いよ!
なのにこいつ、すごい平気な顔してるよ。どんだけ図太いんだ……。
「そういう意味でだ。金と銀が一つになる、これは里にとっても歓迎すべきことなわけだ。気乗りはしなかったんだが、実際見ると正しい選択だったと確信した」
やーめーてー、その熱い瞳ってやつで見ないでー。
そもそも過去にお母様が去ってる時点で、わたしは狐族の里に対して好印象とか全くないわけで。里のためとか言われても、それを受け入れる気なんてこれっぽちもないのです!
「と、というか、わたしまだ4歳だし! 歳の差考えるとやめた方がいいよ、うん」
「言ってなかったか? 俺は今8歳だぞ」
「なん、だって……!?」
思わず地面に両手を着いてうなだれてしまった。
だって身長とか170くらいでしょ? 顔つきといい、どう見ても18とかでしょ? 8歳とマジでありえん。
それに
「じー」
「あの、お嬢様、私も驚いています。って、ちょっと、そこは」
アリサのひとつ上でこの差はおかしい。確かにこの世界の人って成長早いけど、でもアリサとの差を考えるとやっぱりおかしい。
そりゃアリサもこの辺りとか出るとこが出てきて成長を感じるけど、まだまだ少女ってレベルだよ。ほんとありえない。
「歳の差はそこまでないのか、ぐぬぬぬぬ」
「そう難しい顔するなよ。そもそも俺たち長命種には歳の差も何もないだろ?」
そういえばそうだった。千年万年あたりまえだから、わたしとカイルの歳の差なんて誤差の範疇なんだよね。
あれ? てことは本当に問題なし?
里の問題はこの際忘れると、見た目は割とイケメン、家柄もいい、欠点は若干の戦闘狂なとこくらいの優良物件ってやつですか。なんかまずい予感。
「改めて言おう、ユキ、俺の女にならないか?」
「ひゃっ」
急に手を握られてびっくりなんですけど。しかも近寄ってきてきゃー
「まずはこいび、ひでぶっ」
「お嬢様に近寄らないでください駄狐。まったく、今度そのような真似をしたらその耳と尻尾をむしり取ります」
は? いや、いまのなに?
わたしが知覚できるよりも速くアリサが大太刀の峰でカイルを薙ぎ払ったようなんだけど、いつ出した? いつ近寄った?
今のは明らかにわたしよりも速く、そして威力もおそらく……。
しかも薙ぎ払うとすぐにハンカチでわたしの手を拭きだすとか、怖いほど徹底してるね……。
「あ、えっと、カイルあとは任せるね。さ、アリサ帰ろ?」
「そうですね、帰りましょうか」
これ以上ここに居るのはまずそうだね、うん。
色々あったせいで今日はとことん疲れたし、これは帰ったらまず糖分補給しないとなー。
「せ、せめて、治療してから、帰ってく、れ」
あれから10日くらい経ったけど、拉致されるとか勇者が出てくるとか、そういうのが無いってホントすばらしい。今日も平和、お庭でのんびりお茶タイム。うん、お嬢様っぽいね!
そういえば、あの勇者は案の定、わたしへの恨みで襲ってきたってことが確定、今は牢屋の中だっけ。
ダンジョンはうちの国の物じゃないけど、わたしたちが襲われたので外交問題になったとか。
だけど神聖王国側は知らぬ存ぜぬで通してるようで、すんなり解決とは程遠い状態。
傭兵帝国の奴らは生き残りが居たみたいだけど、尋問のあと即処刑されたって教えてもらったなぁ。
こっちの罪状はわたしたちを襲おうとした罪、未遂であっても死刑になるのね……。ただ転移門についての情報は得られなかったらしく、謎が謎のまま残ったのが厄介だね。
あとカイルが……
「な、だから俺が勝ったらデートしようぜ?」
「何度言えばわかるのですか駄狐。そんな勝負は認めませんし、そもそもお嬢様に敵うわけないので早々にお引き取りください」
「やってみないとわかんないだろ?」
妻にってのは本気だったようで、あれからも何度かうちに来て求婚したりしてるのがね。
なんでお母様が止めないのかなーって思ってたら、シルバーホーンをこっちで解析していいから、っていう条件出してきたのでしぶしぶ承諾したとか。
お母様としても、なんでシルバーホーンがここまでわたしの月華と同じ特性なのか気になっていたらしく、見事にそこを突かれちゃったと。なかなかの策士ね……。
まぁアリサとシズクさんを付けて、絶対にカイルと二人っきりにはさせない条件はあるみたいだけど……はぁ。
「シズクさん、紅茶のおかわりちょーだい」
「畏まりました。お砂糖はどうされますか?」
「多めで、ミルクもたっぷりのすごい甘いのにして。なんか精神的に疲れるの」
「お察しします。ほらアリサ、このままだとあなたのお嬢様が寂しがって拗ねちゃいますよ」
カイルが来るといつもアリサと口喧嘩してる感じだし、なんかアリサを盗られたような気分。
はぁ、いつまでこの二人の争いは続くのやら……。
これで第1章は終わり、次回から第2章となります。
2章も好き勝手書いていきますが、引き続きお読みいただけたら幸いです。




