356話 少しわかった家系図みたいなの
少し長いです
だんだんと興味なくなってきちゃったけど、一応聞いてみますか。
「えっと、その偵察をしている人ってどういう人なんですか?」
「そうねぇ……一言でいうなら普通の子ね」
「普通の子?」
思ってもいなかった一言なので、頭をこてんと傾けちゃったわ。頭の上にはてなマークも浮かんでそう。
「普通と言われると、確かに普通じゃのぉ」
「そうなんですか?」
「なのじゃよ。わしらの様な精霊との親和性が強いとか、特別な術装を継承しているとか、そういうのは無くての。普通に能力が高い子なのじゃよ」
「へー。って、特別な術装ってなんなんですか!?」
思い切り元気よく挙手しちゃうくらい、すっごく気になったんですけど!
あっ、お祖母様の今の発言は隠しておくようなことだったみたいね。お母様が「なんで明かしちゃうのよ……」って愚痴りながらお祖母様をジトーって見てるもの。
「本当に母さんは。えっとね、ユキちゃんの術装である月華は、私の持つ月花の娘であり、お祖母ちゃんのもつ桜月の孫娘って術装なのだけど」
「術装も血縁者みたいなものですよね」
見た目もそっくり、名前もそっくり、そして能力もそっくりな術装だからなぁ。
お祖母様の術装の名前が桜月って事は、わたし達の術装とメイ達の術装が合体した親の術装なわけですね。
「この術装は少し特殊なのよ。実は術装同士が繋がった状態でね、能力の追加や強化が連動しているのよ」
「連動ですか? それってつまり?」
「簡単に言ってしまうと、私が新しい機能を術装で開花させたら、ユキちゃんとお祖母ちゃん、そしてメイちゃんと姉さんの術装にも同じ能力が付与されちゃうのよ」
「え? ちょ?」
「おーおー、すっごく驚いておるのぅ」
「それはそうでしょ。本来術装は個人に宿る物なので外部からの改変は一切無いはずなのに、系譜に連なるだけで能力がどんどん追加されるとか、普通思ってもいないわよ」
お母様が呆れ顔でお祖母様に言ってるけど、ほんとそうなんです、普通思いませんよこんな事。
そりゃまぁお母様の使う術装を用いた技術とかも、教えてもらったらすんなり使えるので便利だなぁとは思ってはいたけど、連動しているとかとんでもないわ。
「なんか、結構ズルい術装って事です?」
「かもしれないわねぇ。もっとも、能力などが追加されてもすぐに使用できるという状態じゃなくて、使用するための土台ができているだけなのよ」
「土台だけなんです?」
「そうなのよ。なので、実際に使うためには術装の所持者であるユキちゃんがしっかり訓練して、その力が使えるように術装を制御しないといけないわけだけど」
おや? お母様がそこまで言って、少し苦笑いしだしましたよ。
「ユキちゃんの場合、訓練はほとんど必要ないのよねぇ」
「そうなのかえ? となると、まさかサユリと同じで」
「えぇ、大体の技術は一度しっかり見て、そしてしっかり覚えたら実際に行使するのを数回、というよりほとんど1回で完璧に習得できちゃうわ」
「それはすごいの! しかしそうなると、本当にサユリそっくりに生まれておるんじゃなぁ」
「本当にそうなのよねぇ。良い所も悪い所もだけど、ね」
ふ~む、お母様とお祖母様が頷き合いながらそんなこと言ってるけど、確かにそうだなぁとわたしも頷いちゃう。
なんだかんだでわたし、大抵のことはすぐにできちゃうようになる体質だからね。お母様もそうなのは知っているし、こういう所もそっくりで嬉しいなぁとも思ってるけど。
にしても、術装の能力うんぬんってそんなトンデモナイ仕様まであったのか。
でもまぁそれで色々と納得。わたしとお母さまだけでなく、メイも同じような力をふるうことができるのはそういう事だったわけですね。まぁ土台から使用可能状態にするという手順を踏まないと駄目なので、どっちかしか使えない能力ってのはまだあるとは思うけど。
てかちょっとまって? この連動って、どこまでが対象なんですか?
わたし、アリサとミツキの術装作っちゃったんだけど、その二つも連動しているのかしら。
なんとなくだけど、こういう場合ってなぜか連動しちゃってる気がするなぁ。まぁ悪い事じゃないから良いんだけど、もしもわたし達がすっごい悪人だったら、術装作りまくって力底上げしまくりとかのすっごくヤバい展開もあったんだなぁとは思っちゃったわ。
そんな最初話していた内容と思いっきり違うことを話していたら
「失礼します。サユリ様、1名面会に来られていますが、どうされますか?」
と、今日の受付担当をしていたメイドさんが来客を教えに来てくれたわ。
「あら、予定にない人かしら?」
「無い方ですね。以前に来られた方でもないようです」
「それってつまり、知り合いでもないのにいきなりお母様に会おうという輩ですね?」
「そうなると思うのですが、どうにも向こうはそういう反応では無くて」
ふ~む、なんかメンドそうな人が来たって気がしてきたわ。
「なに、そう慌てることは無いぞい」
「あら母さん、何か知っているのかしら?」
「知っているも何も、あ奴が来ただけじゃろうて」
「そうなのかしら?」
「きっとじゃ、あ奴もわしと程では無いが見ず知らずの只人という完璧な変装しているので、どういう人物か分からなかったのじゃろう。そうじゃろ?」
お祖母様がドヤァって感じに言い切ってるけど……うん、メイドさん、ちょっとワタワタしてるね。お祖母様、これはやっちゃったんじゃないですかね~?
「その、尻尾が10本ある狐族の方だったのですけれど……」
「おっとぉ!?」
「はぁ……言ったでしょ母さん、ここに来る回数も時間も安定していないって。それじゃ母さん達のこと知らない子ばかりよ」
「そういう事かぁ!? うっかりしておったわ。やれやれ、これは結構反省じゃのぉ」
「私はこんな母さんでだいぶ呆れちゃうのだけれど……」
お母様がすっごく呆れた顔でお祖母様見てるけど、相当ですねぇ。
まぁ嫌いだからとかではなく、仲が良いから余計にそう感じてるんだろうけど。単純に昼間に何度も来れば良いだけなのにってほんと思ってそうだもの。
「シズク、悪いけど確認のためにも一緒に行って見てきてくれるかしら」
「畏まりました。彼だった場合、お連れしますね」
「お願いね」
ふむふむ、シズクさんに確認してもらい、さっき言ってた普通の人っぽい謎の人物かどうかの確認をしてもらうわけね。
とゆーか
「シズクさんは知っている人なの?」
「はい、私は何度かお会いしたことがありますよ。ただ、スミレ様同様にこちらに来られる回数がそれほど多くなく、また時間帯も夜中だった事が多いため、従者の多くは見識が無く情報共有もあまりしていない状態なのです」
「あー、それって実際に会ったことも無いし、あまり来ないから覚えて無くてもいいやって事ですね」
「バッサリ言ってしまうとそうなってます」
「だそうですよ、お祖母様」
「わーかっておるわかっておる、今度からはちゃーんと時間考えてちょくちょく来るようにするから、安心するのじゃ」
「は~い」
うん、お母様だけでなくわたしからも注意してねって感じが伝わったようなので、今度からは日中にちょくちょく来てくれるでしょう。
これがどーでもいい存在とかなら気にしないけど、お母様もお祖母様の事を嫌ってないし、わたしも嫌いって印象は無いので、ちょくちょく来てもらいたいものなのです。
シズクさんがメイドさんと一緒に確認しに行ったところで、すこーし気になってきた事を聞いておきましょう。
「それでえっと、その人って何者なんですか?」
「何者とな? サユリよ、その辺りの事は一切話していないんじゃな?」
「話していないわねぇ。実際に会うまではあまり話さないようにしていたのもあるのだけれど」
「なるほどのぅ。事前情報を与えて、偏見で固まった状態になるのを避けるためじゃな!」
「そこまで大それたことではないのだけれどねぇ」
ドヤるお祖母様に対し、苦笑いをしちゃってるお母様と。今日は何度も見てるなぁ、この構図。
「話に出ていたのは、ユキちゃんにとって遠い親戚にあたる子ね」
「遠い親戚ですか?」
「親戚だけれど遠いのよ。というのも、世代の差が違い過ぎてね。ユキちゃんは私の娘なのでお祖母ちゃんから数えると3世代目なのだけれど、その子は何百世代も経っている子なの」
「何百も!?」
「しかもね、その子の祖先は私の異母兄弟、つまりお祖母ちゃんの血統では無い子なのよ」
「うへぇ」
遠い親戚って聞いてなんなんだろとは思ったけど、そういう関係性なのかいな。確かに遠い親戚になってるだろうなぁ。
世代の差はおそらく、お祖母様とお母様と違い不老不死とか長寿ではない家系になっていたんだろうね。まぁ不老不死な家系だらけにはふつうならないし?
「とゆーことは、お祖母様以外のもお嫁さんが居たって事なんですよね?」
「そうじゃよー。わしが一番若くて可愛かったけどの!」
「強さもじゃなかったかしら? あとは不老不死になったのも母さんだけよね」
「じゃったなぁ。わしの特別感はすごかったが、旦那も他の嫁同士とも仲は良かったぞい。血まみれのドロドロとかは皆無じゃ!」
「おぉー、それはよかったです!」
身内での争いとかは無かったようで一安心だよ。
それと、お祖母様が一番すごい人だったのは納得だね。だってお母様がすごい人なんだから、その母親であるお祖母様が普通な人とかぜーったいにありえないものね。
「力の差があっても、親同士に子同士の仲中はそう悪くは無かったわ。だけどその力の差、というより不老不死の方かしら? その辺りの関係で徐々に疎遠になっていってね」
「それって世代が変わっていったら関係まで薄くなっていったみたいなのですか?」
「そういう事よ。まぁ私の方も興味がどんどん薄れていったのもあって、今はもう親戚とも思えないのだけれど」
「世代が進みすぎると血も薄くなるみたいなものじゃからのぉ。母親違いだけでなく世代も違えばより一層じゃなぁ」
「なーるほど。う~ん、わたしも親戚って思えない気がしてきちゃいました」
うんうんって頷きながらズバッとそんなこと言っちゃったら、お母様とお祖母様は「そうよねぇ」って感じに苦笑いしながらも肯定してくれたわ。
だってねぇ、世代がぜーんぜん違うのと、お祖母様の血統じゃないってなると、わたしからすると完全な他人としか思えないわけで。お祖父樣の血統は入ってるんだろうけど、わたしはお母様ソックリなこともあるので、気にするのはどうしてもお祖母様の方ななわけで。
「ところで、ぜーんぜん話に上がってこないお祖父様ってどんな人なんですか?」
ぜーんぜん気にもしてなかったけど、そういえば聞いてなかったなぁと今頃思いだしたわけで。
「そうじゃなぁ……異世界から来た普通の只人じゃった、かのぉ」
「異世界人のよくある超凄い人でなく、普通の人なんですか?」
「普通じゃったのぉ」
お祖母様がそう話してるけど、残念って気落ちは無かったみたいね。ただ懐かしいって顔をしているだけだもの。
だけれど、わたしからするとちょーっとだけすごい人の方が良かったなぁとは思っちゃったりはするわ。特別感はだいじ!
「魔力も精霊力も特に高くなかったわねぇ。その代わり、頭はすごく良かったけれど」
「指揮官さんとかみたいな感じですか?」
「そんな感じじゃな。あーあとはあれじゃ、魅力関係がわしに匹敵するくらい高かった! そして、その魅力にわしもコロッといったのじゃ!」
「馬鹿みたいなこと言ってるけど、本当にそうなのよ。そして、そんな二人が居たからなのよ、私やユキちゃんの魅力も相当高いのは」
「あー……すっごいなっとくです」
魅力が高い人同士がくっついたら、そりゃぁ子供にも高いのが継承されますよね。
う~む、魅力の高さの秘訣がこんなことで解明されるとは。まぁみんな思いつきそうな家系だった気もして、なんかちょっとフクザツです。
特殊な狐娘には普通の祖父に普通の親戚がオマケでついてきます




