355話 けっこうドジっ子っぽいお祖母様
少し長いです
そのままお祖母様の自己紹介というか説明を聞いていたけど、うん、相当すごい人ですね。
うちの家系なので当然そうだろうなぁとは思っていたけど、お祖母様はお母様よりもだいーぶ強いらしく、仮にわたしが挑んだとしても小指一本ですぐに撃退されちゃうくらいだとか。
さらに特殊な能力も持っているようで、その一つが未来の誘導。
さっきお祖母様を案内できる状態にしたのもその力だそうで、これこれこういう状態にしたいってのを範囲や時間が限定されるけど引き寄せちゃうちょっとヤバい能力。
そんなヤバい能力だけど実はお母様にも引き継がれていて、当然わたしも引き継がれてるとのこと。
訓練すれば使えるようにはなるようだけど、お母様ですらまだ完全に取得できてないそうなので、わたしが使えるようになるのは相当先になりそうだわ。まぁ使いたいって状況も特になさそうだけど。
「あとはそうじゃな、わしが普段暮らしている世界はこっちとは時間がすこーし違うの」
「違うって、すっごく速いとかなんですか?」
小説とか漫画によくある、その空間の1年は外だと1時間、もしくはその逆みたいなのを想像したけど、お祖母様が「やっぱそう思うんじゃなぁ」って顔したわ。どうやら違うみたい。
「それとは違っての。具体的に言うとじゃな、こっちだと1日は24時間、1ヵ月は30日、1年は48ヵ月じゃろ?」
「です。他の世界よりも1年がちょっと長いかなって世界ですね」
「じゃの。だが、わしが居る世界だと1日の長さが720時間。つまりこっちの1ヵ月分なのじゃよ」
……はい?
想像していた以上にトンデモナイこと言っている気がしちゃうんだけど。
「え、えーっと、それってこっちの時間と流れは同じだけど、1日がすっごく長いとかなんですか?」
「そういう事なんじゃよ。しかも昼夜が存在しない特殊な世界でのぉ」
「そのせいで母さんはこっちの時間を考えない行動をよくしてるのよねぇ」
「おっとサユリよ、そのジトーっとした目で見るのはやめようかの?」
お母様がすっごい呆れながらお祖母様を見てるけど、これは今日みたいな時間感覚が違う以外にもあったみたいね。
「それってどんなことですか?」
とうぜん気になったわたしは、二人に教えてもらおうとしちゃうわけで。
時間の感じ方が違う世界だと時差みたいなのはあるだろうけど、お母様の様子からお祖母様は相当なポカしてるっぽいから余計に気になっちゃう。
「実はね、お祖母ちゃんは何度もこっちに来ているのだけれど、ほぼ毎回ユキちゃんが寝ているときに来ていたのよ」
「わたしが寝ている時間にですか?」
ちょっと意外。
時間はさておき、てっきり時間感覚が違うから会いに来てくれてないと思ったけど、そうじゃなかったみたいね。
まぁお母様が、お祖母様がわたしに会わずにずっととか許さないだろうなぁ……とも思ったけど。
「そうなのよ。昼間に来てくれたらいいものを、向こうの時間で来るから」
「は、反省はしているんじゃよ? じゃが、その、な?」
「はいはい。今度からはこっちの時間が分かる時計を持ち歩くか、こっちで暮らしなさいよね」
お母様がジトーっとした目でお祖母様を見ながら言ってるけど、これは結構根に持ってますね。
「お、おぅ、結構怒っとるのぉ」
「あたりまえでしょ。そもそも母さんでしょ、実際に会うまでは自分の事は説明するなって言っていたのは」
「そうじゃったそうじゃった。いやぁすまんの」
「はいはい」
「いやいやサユリよ、今回はしーっかり反省したぞ? だからほら、機嫌直してくれんかのぉ」
お祖母様がお母様に手を合わせて謝ってるけど、なんていうか、お祖母様も娘に弱い系っぽいなぁ。お母様に強く言われて嫌われたら嫌だって感じが見えてるわ。
まぁそれならちゃんと反省というか、時間関係しっかりしてくださいとも思っちゃうけど、住んでる世界が違うとなかなかうまくいかないのかもしれないね。
そんな二人のやり取りを見ていたら、お祖母様が何やらニコニコしてわたしを見てきましたね。なんだろ?
「そういえばユキはわしが思ってた以上に能力の進化がスゴイの」
「そうなんですか?」
「そうなんじゃよ。サユリからみっちり聞いてはいたのじゃが、まさかわしの偽装もある程度見抜いていたとは」
「え? 見抜くって、さっきしていた偽装の姿をですか? う~ん?」
わたし、見抜いていませんよ?
頭の上にはてなマーク出ちゃうような顔しちゃってそうだけど、お祖母様だけでなくお母様も「確かに」って顔して頷いているんだけど。
「ユキちゃん、お祖母ちゃんの偽装姿を相手にしていた時、あまり警戒していなかったでしょ?」
「そう言われるとそうかも?」
見知らぬ人とか敵対しそうな人に対しては結構警戒し、口調や対応が事務的になっちゃう性格をしてるけど、お祖母様の時はそういうの無かったような?
「ユキちゃんはどこかで偽装というのを察知するだけでなく、この人はユキちゃんのお祖母ちゃんですって見抜いちゃっていたのよ」
「そういうことじゃな。いやぁ、わしの偽装はバレないナカナカの物なのじゃが、さすがわしの孫じゃな!」
ニコニコして頷いてるけど、そういう事なんですか。
う~む、わたし自身がよくわかっていない能力というか性能というか、まだまだいっぱいありそうだなぁと少し思っちゃったわ。
今回のお祖母様の偽装関係は悪いことじゃyないので良いんだけど、悪い要素になるのもありそうでちょっとだけ心配。
「これはあれかの、可愛さをとことん上げるだけでなく、他の力もトコトン上げる教育方針をとったのかの?」
「まさか、そんな事してないわよ。私達はユキちゃんをより一層可愛くなるよう育てているけれど、力関係はユキちゃんが望んだものを教えたり訓練したりしているだけよ」
「そうなのか。なるほど、メイとはその辺りも違うんじゃなぁ。メイは王女教育なんかも割とぎっちりの英才教育が入っておるからのぉ」
おっと、お祖母様が頷いてますけど、それってつまり
「お祖母様ってメイとは会っていたんですか?」
「あー、うむ、会っていたのじゃ。おっと、決してメイを優先したとか贔屓したわけではないぞ! メイが起きている時間にうまいこと会っていただけなんじゃよ」
「そーなんですね」
「そーなんじゃよそーなんじゃよ」
うん、お祖母様が少し焦った感じに即対応しちゃったあたり、たぶんわたしがショボーンとした顔をしちゃったんだろうなぁ。自覚してなくても結構顔に出ちゃうから。
「ほら、こうなるから会いに来る時間はしっかりしなさいよって言ったじゃない」
「うむ、すっごーくわかったのじゃ。いやぁ、実際に見ると猛烈に反省じゃのぉ」
「もっと早くに察してもらいたかったわ。まったく、ユキちゃんが生まれたときはあれだけ騒いでたくせに」
「そうなんですか?」
「えぇ、ユキちゃんは自意識がしっかりしていない時だから気付けなかっただろうけど、お祖母ちゃんもすごく喜んでくれてね、秘蔵のお酒を何本も空にしちゃうくらいお祭り騒ぎになっていたのよ」
「そうとうやったからのぉ。リョウの時もかなりじゃったが、ユキの時はさらにやってしまったからの。続いてメイの時にもやっちまったがの!」
「ほへー」
わかってはいたけど、わたし達の誕生は歓迎されていたみたいでよかったよかった。お祭り騒ぎになるくらいってのはちょっと凄いけど。
そんな話をしていたら、ふとお母様が少しまじめな顔になったわ。
「それで母さん、今日はユキちゃんに会いに来たのが本題ではないのよね?」
「ユキには申し訳ないじゃが、そうなんじゃよ」
「何か重要なことなんですか?」
わたし達が居る状態でもそんな藩士をしだすって事は、おそらくわたし達にも関係してきそうなことなんだろうけど、二人の表情見る限り簡単な話題じゃないっぽいんだよねぇ。
「そうじゃなぁ、重要と言えば重要なんじゃが、サユリが拒否したいってのも分かるんじゃよなぁ」
「お母様が拒否ですか?」
「うむ、うまいこと拒否しようとしてたのじゃな」
「拒否って……あぁ、あれの事ね。だけど、母さんが気にする事かしら?」
お母様が苦笑いしてるけど、これは嫌悪というか厄介で面倒なので避けたいとか、そういう感じが出てるかな。
「それはね、このあいだユキちゃんに教え事よ」
「教えてもらったことですか? ん~っと……あー、あの3つの厄介ごとですか?」
「えぇ、その中で一番厄介で面倒な、各種族を集めての現状把握の会合よ。合っているでしょ、母さん」
「うむ、正解じゃ」
「はぁ……正解してもらいたくなかったわ」
うわぁ、お母様がすっごい面倒だって顔しちゃってるわ。これはほんとーに面倒で拒否したかったって事ね。
「理由なんじゃが、ちーと厄介な種族が参加するようでの」
「あら、母さんが厄介な種族なんて言うの、初めてよね」
「かもしれんのぉ。最初は気にしなかったのじゃが、調べれば調べるほど厄介での。アレに調査依頼を出しているくらいじゃ」
「それはそうとうねぇ」
二人がちょっと深刻そうな顔してるけど、どういう事なんですかね? わたしが分かるような説明を!
「あぁ、ごめんなさいね。ユキちゃんにも分かるように説明すると、お祖母ちゃんが厄介と思う存在は、私やユキちゃんにとっても相当厄介な存在って事なの。それこそお遊びで処理できない存在の可能性が高いのよ」
「世界の命運をかけた! とかにはならないとは思うんじゃが、放置していたらわしらへの悪影響も大きくなる、と言ったところじゃな」
「うへぇ、なんかすっごいヤバそうですね」
「すっごいヤバいのじゃよ。サユリから教わっているとは思うのじゃが、この世界にはいくつもの結界があり、独立した世界が複数交わっているのは知っているじゃろ?」
「教わってます! それをお祖母様が管理とかしてるのも知ってます!」
手を挙げて元気よく答えます!
全部の世界が合体せず、いくつかの世界は結界で隔離しているのには理由があって、魔素や霊素や時間の流れとか、いきなり合体すると他の世界との関係でおかしくなる世界は、合体しても問題無いよう馴染ませるために一定期間結界で隔離してるとかなんとか。すごい現象だねぇ。
「その結界にある世界の一つがの、どうにも無理やり結界を解除でもしたのか急に現れおってのぉ。この世界への融合自体は問題無かったのじゃが、住んでいる者たちがそれなりに強いため、完全放置もできないのじゃよ」
「ほえー。となると、強くなければ放置しちゃっても良かったんですか?」
「バッサリ言うとそうなんじゃよ。弱ければ現在の世界への影響はそこまで無いのじゃが、強いということは侵略とか支配とか、そういう考えに陥る可能性もあるわけでのぉ」
お祖母様だけでなくお母様もすっごく厄介そうな顔してるけど、確かにそうね。
元の世界がどういう世界かにはよるだろうけど、自分達よりも弱い者が多い国が幾つもあって、その国々は力は無いけど資源やら技術やらが豊富だったら、いっそ交渉とかせず奪っちゃおうって悪い考えになる可能性がけっこうある。今回はそういうことを危惧してるわけだね。
「そういった危惧がある国の者が今回新規参加するようでの。となればわしらも参加し、そ奴らをじかに見てどうすべきか判断するべき、と考えたわけじゃ」
「良い人なら国全体で付き合いましょう、悪い人なら他国にも危険ですって教えるためにですか?」
「そういうわけじゃ」
なるほどなるほど。結構真面目な理由とかがあったわけなんだねぇ。
とはいえ、お母様が参加したくなかった感じからして、あまり面白い会議じゃないんだろうけど。
「細かい話は事前調査の内容を見ながらにしたいんじゃが、おっそいのぉ」
「誰か呼んだんですか?」
「うむ。すこーし偵察してこいと言ったんじゃよ」
「あぁ、あの子に依頼したわけね」
ほほう? お母様も知っている人を、お祖母様が使って事前調査させてるわけね。どんな人か気になるなぁ。
「それにのぉ、どの程度の強さになったかサユリにも見せたかったしの~」
「見せるって、私は興味ないわよ?」
「ふっふっふ、どの考えをドカンと打ち破ってくれるわ!」
「なんでそこで威張るのよ母さん……」
おっとぉ、お母様けっこう呆れすぎですよ?
う~ん、これはあまり期待できない人物かしら。となると……いかんな、わたしもどうでもいいやって思えてきちゃったわ。こういう所も親子でそっくりです。
祖母狐よりも母狐の方がしっかりしている一家




