354話 あっさり終わらない案内?
少し長いです
「――で、向こうの金物屋さんは他国からの注文もいっぱいある有名店です」
「ほうほう。それなりに古そうじゃの」
「たしかこの街ができたときからだったかな? 老舗中の老舗です」
案内する流れになったので、目的地に向かいながら観光案内的なのもしているけれど、なんというか、案内よりもわたしの方をじっと観察してる気がするのは気のせいかな?
今も金物屋さんの方を見たようだけど、かるーくチラッと見た程度。どうも見ている時間がわたしの方ばかりな状態。
まぁわたしって可愛いからね! 見たくなるのはしょうがないね、うん。
ただ、ちょーっと距離が近くなりそうなのは勘弁してもらいたいわ。だってあまりにも近くなると、アリサが嫉妬しちゃうもの。見ず知らずの人が寄るとかほんとーに嫌そうだしねぇ。
そんな案内みたいなことをしながら数分、目的の場所近くに到着。
トラブル発生とか一切なくすんなりだったけど、目的地がなぁ……。
「あの鳥居をくぐった先の階段を上った場所が目的地である神社です」
「うむうむ、ずいぶんと大きな神社じゃの」
「うちの国で一番大きいからね」
そう、案内するのが神社ではあったけど、それってわたしの実家なんだよなぁ。
いちおう案内無しでも大きいし目立つのもあってかすんなり到着するのだけれど、お仕事みたいな形で受けちゃったのでこうなったわけで。
まぁいいや、とりあえず完了させましょう。
案内を続け自動昇降機能がある動く階段の方に連れて行く。結構な段数があるのでこういったのはちゃんと配置されてるので、普通の人にはこっちをお勧めするのです。
わたしとかは幼少期から使っているからか慣れているので、動かない方の階段をタタタッと上ったり下りたりしちゃうけど。
「こうして見ると、段数がかなりあるのぅ」
「それはえーっと、たしか結界を張るための塔や観測用設備の関係で、周囲よりも高い場所にしなくちゃいけなかったからとかなんとか」
「ほほう? ずいぶんとまともな理由っぽいのぅ」
ん~? なんか怪しんでるというか、ちょっと妙な反応ね。わたしはそう聞いているから怪しむとかは一切無いのだけれど、ひょっとしたら変な噂とかが流れているのかもしれないな。
まぁ噂があろうとなかろうと、まともじゃない理由でお母様とお父様が高くしたとかは無いと思うんだけど。
そんなこんなで階段を無事に上がって到着っと。
いやはやトラブルとか声かけてくる人も居なくて随分とあっさりだったわ。トラブル満載な生活は嫌だけど、結構そういうのに当たる確率高いのに、ほんと今日はついてますね。
「ここが依頼のあった神社の正面入り口です。参拝するならばこのまままっすぐ行けば受け付けが右手側に見えるので、そこで手続きすれば大丈夫です」
「ほぅ、流れができてるわけじゃな」
「うちは誰でも簡単に参拝できるようにはしてますから。参拝以外も、その受付で相談すれば大体大丈夫かな」
あたりまえだけど儀式の依頼やら奉納やらと、そういったのは受付の人が全部対応するになってる。お母様に直接依頼とかは顔馴染の人以外は無理です。
もっとも、そういった人は中庭の方に転移門経由で直接来るのが多いけれど。
「あとは特になかったかな? 重要なのあったっけ?」
「特に無いと思いますよ。当家の歴史などはお嬢様でなく、本日の担当がしてくれますし」
「だよね」
アリサと少し確認したけど、終わりで大丈夫そうね。
観光案内のお仕事ってわたしがやるなんてほとんど無いから、どこまで説明したのか、なには説明しては駄目なのかの線引きがイマイチ。
これがエレン達みたいにわたしと仲が良い子相手なら楽なんだけど、難しいわ。
「それじゃここまで……おや?」
終わりですってしようとしたけど拝殿の方にお母様が居て、わたし達を呼ぶために手招きしてるわ。珍しいわね。
とゆーか、え? これって?
「この子も、ってこと?」
「みたいですねぇ……」
手招きに気が付いてすぐさま手を振り返したら、この子も呼んできなさいって指示をしてきたんだけど、どういう事ですか?
「くっくっく、やはりこうなったわけじゃな」
「えーっと?」
「なに気にすることは無い、さっさと行くぞい」
「ちょ、ちょっと!?」
ニヤリとするなり女の子がズイズイ向かっていくんですけど、どうなっているんですかこれ!?
お母様の知り合いとかなら案内も要らなかったはずなんだけど、どういう事?
「とりあえず向かいましょうか」
「だね。わけわかんなくなってきたけど!」
「ですよねぇ……。それにしても結果的に私達を騙す、というより観察していた気がうっすらしてきてますけど」
「そうそれ! なーんかその場その場の行き当たりばったり感はあるけど、そうなっちゃいましたって感じがね」
敵対心とかは一切無かったけど、興味とかは結構見えてたからなぁ。
そして今、お母様が警戒や排除でなく呼んじゃうって指示をだしてきたので、謎が一個増えましたって感じになっちゃったわ。
そんなごちゃごちゃ状態のままトコトコと進み、お母様の前に到着っと。
到着するなり
「察知されるとは、少々驚いたぞい」
「ハァ……私が察知できないとか、ありえないでしょうが」
「そうかの? 今回はしっかり対策したんじゃが」
「ほんと、ずいぶんと対策してるわね。それでもうちの境内に入ったらバレバレになるわ」
「ほぅ、何かあったのかは今度聞くが、ずいぶんと対策をしたのじゃなぁ」
と、ピリピリはしてないけど、お母様が若干呆れながら対応しちゃってる状態なんですけど、どういう事なんですかね?
「ほら、ユキちゃんとアリサちゃんが困っているじゃない」
「くっくっく、それも楽しいじゃろ?」
「はぁ、これだから」
うん、すっごい呆れてます。まるでダメダメな子を注意してもずっとダメダメだったみたいな感じに。
「少し込み入った話になるから、移動しましょうか」
「うむ、案内頼むぞ」
「……まったくこの人は」
うはぁ、お母様がすっごい呆れるのに対し、女の子はすっごい堂々としていて、なんかトンデモナイ状態です。
とりあえず少し重要っぽい話になるようで母屋にある客間の方に移動。知らない人には聞かせられませんって事だね。ただ移動中も、お母様と女の子は少し言い合いだしたけど。喧嘩じゃないのでたぶん大丈夫かな。
そんな言い合いがありながらも客間についたので、色々聞いていきましょうか。
「それでお母様、つまりどういう事なんですか?」
「実はね、このおバカな人は私の母さん、つまり、ユキちゃんのお祖母ちゃんなのよ」
「……はい?」
「そう、お祖母ちゃんなのじゃよ!」
お母様が少し呆れながら説明するやいなや、ビシッと女の子も言い切ったけど、どういう事ですか?
だって見た目、あきらかーにわたしと同じか小さいくらいだし、わたしとお母様に似てない髪色や顔つきだし、狐族ですらないんだけど。
「ほら母さん、その偽装解除しなさいよ。ユキちゃんがさらに困っちゃってるわ」
「おっと、そうじゃったそうじゃった」
女の子がそう言うなりパチンと指を鳴らすと、全身が眩しいくらいの光に包まれた。ふ~む、どういう術式なのかさっぱり分からなかったわ。相当な技術力ですね。
そんな光がすぐに消えると、中から……え? マジ?
「じゃじゃーんとな。これがわしの真の姿じゃ」
「だそうだけど、ユキちゃ~ん、大丈夫かしら?」
「あ、えっと、骨格とか全部買える偽装ってあり得るんですか? いやまぁ目の前で起こっちゃってますけど」
「ふっふっふ、骨格まで偽装できるのも、わしの力がすごいからなんじゃよ」
「冗談みたいに言っているけれど、本当にそうなのよ」
「そ、そーなんですね……」
ちょっとポカーンとしちゃったけど、普通の只人族風な女の子だった外見が、お母様よりも少しだけ大きい感じの狐族の姿に大変身しちゃうんだもの。
外見は大きくなっても若々しい感じで、20代前半くらいにしか見えない。髪と目の色もわたし達と同じになり、尻尾も9尾ある狐族の状態に。顔つきも家族ですってのが分かる感じですね。
しかも魔力と精霊力の感じまでガラッと変わり、これで家族じゃなければどういうことですかってくらい似た感じになっていて、ほんとーにトンデモナイ偽装なんですが。
「その、つまり、わたしのお祖母様って事で良いんですか?」
「うむ! なんならスミレちゃん呼びでも良いぞ。スミレというのはわしの名前じゃな」
「そんなこと言っているけど、お祖母ちゃん呼びで大丈夫よ。母さんもそんな無茶振りするのはやめなさいよ」
「無茶かのぅ? わしもまだまだイケイケバンバンなんじゃから、そのくらいフレンドリーでも良いと思うんじゃが」
「イケイケバンバンって、母さん、さすがに歳を考えてもらいたいわ……」
お母様が呆気にとられまくってる!?
どうやらわたしのお祖母様は結構性格が軽い感じみたいね。偽装でノジャロリになっていたのも性格が軽めだからかしら?
「あの、歳って事はお祖母様って」
「気になるじゃろ気になるじゃろ」
「結構気になってきちゃいます」
「だんだんとユキちゃん、母さんに乗せられてきてるわねぇ」
「悪い事ではないじゃろ? それで歳じゃが、途中で数えるのやめておってのぅ」
お祖母様が苦笑いしてそんなこと言ってきたけど、あーこれってつまりあれですね。
「数が多すぎると大変だからですか?」
「その通りじゃ。さすがに億を超えたあたりでもう限界じゃったわ」
「億!?」
またトンデモナイ数が出てきたんですが!?
つまりだけど、最低でも1億歳はいってるって事なんでしょ? すごすぎるわ……。
「実年齢はすごいのだけれど、精神年齢はだいぶ低いのよねぇ」
「おっとサユリよ、すごい事を言ってくれるの?」
「事実だから。むしろ、もっとしっかりしてくれないと、私の方が困るのだけれど。今日だって事前にちゃんと連絡してくれれば、ユキちゃんが巻き込まれてドタバタする事だってなかったのに」
「そこはまぁ、ほれ、気にしすぎるのも問題じゃからかな!」
ハッハッハとお祖母様が笑っているけど、対するお母様がすっごい呆れた顔してますねぇ。
う~む、お母様が結構しっかりした人なのは、お祖母様の面倒を見ていたからとかもありそうだなぁ。私がしっかりしないと! みたいな精神が出ちゃったとかで。
「じゃがサユリよ、おぬしも結構抜けとるぞ?」
「あら? それは無いと思うのだけれど、何かあったの?」
「だってじゃな、こないだ貰った金貨、即使えんかったぞ」
「こないだの金貨? どういう事かしら?」
お母様が謎って感じ出しちゃってるけど、ほんとどういう事なんですかね? お祖母様が嘘言ってるような顔はしてないのだけれど。
「こないだくれたこの金貨じゃよ。覚えておるじゃろ?」
そう言いながらお祖母様が亜空間を開き、金貨を1枚お母様に手渡したわ。
って、亜空間を詠唱も術札も無しに開閉できるんですか……。当然そうだとは思ったけど、術者としてもかなーり高いですね。
「ちょっと母さん、これ、1000年くらい前にこちら側の活動資金として渡したものじゃない」
「1000年……そうじゃったかの~?」
「それに私、これは直接使用しないで換金してから使ってねと言ったはずよね?」
「あー、そういえば言われたのぉ……」
「すっかり忘れていたわね……。そもそもだけど1000年は最近じゃないわよ? 1000年は相当昔よ?」
「ま、まぁそうかもしれんの!」
「はぁ……。ユキちゃん、これがあなたのお祖母ちゃんよ……」
「なんかすっごく理解できました!」
うん、お母様がすっごい呆れていたのと、お祖母様が苦笑いしたのちにケロッとしていたので、大体わかっちゃったよ。
どうやらわたしのお祖母様、かなーり大雑把で時間間隔が特殊みたいですね。
嫌な感じとか悪い感じは一切無いのだけれど、ちょーっと慣れが必要そうだなぁ。
年寄っぽくないお祖母ちゃん




