347話 いちおう考えてみましょーか
少し長いです
「それで、えっと勧誘の事なんだけど」
アリサの殺意とミツキの天然はさておき、ちょっと気になるので確認しておきましょう。
「勧誘に乗ったって事は、なんかすごい内容だったって事かな?」
「アレは……確かにすごかったです」
「ほほう? じゃぁ具体的にどうぞ!」
確かにすごいと言われたらなおさら聞かないとね。
わたしから乗り換えるくらいなんだし、よっぽどのなんでしょ? って思うから……って、いかんなぁ、嫉妬とかは一切ないけど乗り換えられたってのをちょっと気にしちゃってるわ。
「えーっと、その時は壇上に勧誘した人が居て――」
しばらくミスト君の説明を聞くことになったわね。
どうやら勧誘した人は30名くらい居た様で、それを1ヶ所の部屋に集めた。
部屋はちょっとした舞台会場となっており、部屋の奥の方には檀上があったそうで、そこに勧誘をしてきた男と神官みたいな男の二人が居たと。
「そういえば神官の人、ユキさんみたいな恰好をしていましたね」
「え? 男の人なのに?」
「えぇそうで……あっ! ち、違いますよ! ユキさんと同じ格好じゃないです!」
「そ、それならいいけど」
一瞬、男が巫女服着ている姿を想像しちゃったよ。しかもわたしの着ている、ちょっと丈が短くて少し色気がある巫女服を。
いやまぁ男の人でもね、着たいって人が居ても良いとは思うんだよ、個人の自由だし。
でも、わたしはちょっと見たくないので勘弁してください。
と、少し脱線もあったけど、どうやらその神官が勧誘した人に対し、何らかの儀式をしたようで。
「頭に手を触れたら一瞬光り、そしたら強くなりました、って状態だったんですよ」
「はいぃ?」
「お嬢様、その何とも嫌そうな顔はダメですよ?」
「いやだってさー、そんな絶対にありえないような詐欺みたいな方法で乗り換えたって事なんでしょ? ばっかじゃないのってどうして思っちゃうわ!」
アリサにちょっと注意されたけど、うん、相当イヤーな顔しちゃったみたいね。
それもそのはず、人に一瞬触れるだけで強くなるなんて方法、ありえないもの。
一時的に強くするって方法はあるけど、それを永続させるって方法は無い。もしあったらわたしも土下座してでも聞いてみたいくらいの技術だよ。
「それってさぁ、強化魔法や術をかけたので一時的に強くなったとかじゃ無いの?」
「僕も最初そう思ったんですけど、その勧誘した人がそういった強化の類を判定する魔道具を使い、強化の類がかかっていないのを証明しちゃったんですよ」
「……マジ?」
「本当なんです。しかも光った人は魔力の測定をしたら、触れる前の倍になっていたんですよ」
「触れただけで倍って、うへぇ」
「お嬢様?」
「あー……うん、気をつけます」
また嫌そうな顔しちゃったみたいね。でもね、ちゃーんと理由があるんですよ?
「んっと、ミスト君の話を聞く限り、大雑把に3つうちのどれかをしたなあって推測はできちゃったのよ」
「3つも、あるの?」
「あるのよ」
ミツキがわたしの頬を撫でながら聞いてきたので、こっちもスリスリしながら反応しちゃったわ。
わかってる、わかってるからマナミ、その「いちゃつくなら場所選びなさいよ」って視線はやめよーね?
「まず1つめだけど、何らかの存在を体内に憑依させたって方法、つまり神卸とかっていう方法ね」
「神卸とか、なんか日本の昔話みたいだな」
「まぁそうだねぇ、トースケたちはこっちよりも地球の印象がまだ強いから、そう考えちゃうよね」
うんうんって頷きながらチラッと見る限り、トースケだけでなくコータとマナミも同じ反応だわ。ミツキはわたしを抱っこしてるのでわからないけど。
ショージ君はこっちに居る期間が長いのでそういった反応もなく、アンジーさんとミスト君は当然ね。
そしてアリサは
「こちらをどうぞ」
「ありがとー」
気にせずいつもどーりにわたしのお世話をし、新しいお菓子を手渡してくれるわ。
今度はチョコたっぷりのエクレアだね! さすがにアリサが持ってくれている状態のままかぶりつくってのは、どう考えてもマナミに痛い目で見られるので受け取ります。
受け取ったらあむあむと。
「っと、その神卸だけど、こっちの大陸でよくあるのは精霊さんを憑依させるって方法なんだ。他の大陸だと精霊さん以外もあるようだけど」
「精霊以外って、悪魔とか?」
「それはまた別だね。まぁコータが言ってくれたので先に言っちゃうと、2つめが悪魔の力を付与するって方法。半悪魔化とでも言うかな? そんな状態にしちゃうんだよ」
「悪魔って、厄介そうな」
「そうだねぇ。ただ、この2つめはまずないと思ってるんだ。とゆーのも、悪魔の力使うなら学園側で大騒ぎになっているからだね」
学園だって結構いろいろと防衛策とか安全策はとっているのです。
その中でもすっごくヤバい存在である悪魔自身とか、悪魔の力とかを発見したらすっごく大騒ぎになる。それこそうちにも連絡が行って、わたしの保護を優先する動きがぜーったいにあるくらい。
だけどそれらが一切ないという事は、悪魔関連というのはまず無いわけで。
「正直なとこ、悪魔関連はもうお腹いっぱいなのでしばらく遠慮したいしぃ」
『確かに!』
全員一致の反応、当然ですね。
悪魔のヤバさは日を追うごとに各方面に伝わり、今じゃ悪魔がヤバくないって思う人が皆無なんじゃってくらいだもの。
紅茶をコクコクと飲み、少し一息ついてっと。
「話を戻すと、神卸ってのは割と使える術者が多い技術なんだ。ただ、今回の勧誘が神卸できる対象に絞ったってなると、まーた厄介なんだけど」
「厄介って言いますと?」
「えっと、さっきも言ったとおり神卸で憑依させるのは精霊さんが主なんだけど、精霊さんだった場合はわたしに連絡が来ているの」
「それって、ユキさんが精霊と仲が良いからですか?」
「そそ。何かあったらすぐ教えに来てくれるくらいだから、神卸みたいなことがあったらぜーったいに教えてくれるはずなんだ」
「それは……凄いですね」
アンジーさんが敬服って感じだけど、そうでもないんだよ?
ただ単純に、わたしと精霊さんはすっごく仲が良く、切っても切れない関係になっているってだけなんだよねぇ。わたしと精霊さんは一生の付き合いになるのは絶対なのです。
「となると精霊さん以外になるわけだけど、精霊さん以外だと何が憑依できるのかは見当つかないんだわ」
「ウチらは当然知らないけど、ユキでも知らないって存在だってこと?」
「そゆこと。他の大陸の事まではさーっぱりよ。多少情報は入ってるけど、広すぎるからねぇ」
ほんと広すぎるのよ、この星は。あとでその辺りの説明しておこうかしら。
「そんな謎の神卸に続いて3つめもあるんだけど、これが一番厄介かなぁ」
うんうん、みんな「それも厄介なのかよ」っていう顔してるわ。
でもしょうがないのです。厄介なことは、厄介なこと連鎖みたいにけっこう続いちゃうから。
「3つめは……勇者にしちゃうって方法なんだ」
『勇者にしちゃう!?』
「おーおー、いい反応ですね! って、かるーく言ってはみたけど、まぁ驚いちゃうのも確かね」
「そりゃなぁ。俺も学園とかでも教わったけど、勇者って転生したときに付与されるのだよな? 同系列に賢者や聖女もあるが」
「うん、ショージ君のその知識はあってるからだいじょーぶよ」
手でパチパチと拍手しちゃったりもするくらい、その知識はあっています。
「なので、強引だけど一瞬転生させてから勇者に変えようって方法なのよ! 通称、なりたい自分に今こそなれる! なろうぜ勇者! 世界が君を待っている大作戦! だったかな~」
『……はい?』
「あらあら、みんな同じ反応で、ちょっと楽しいねぇ」
「ユキくん、おふざけ状態?」
「おふざけじゃないよー。ただ、真面目状態だと肩がこるので少しかるーくして話したくなっちゃうだけだよ」
真面目な会話よりもね、こう、楽しい会話の方が好きだからね。時と場合によりけりはあるけど、今みたいな時は軽めでもだいじょーぶと判断!
「簡単に言うと、特殊な術式を使って一瞬生命活動を止め、蘇生を転生したと偽装して神のなんちゃらを受けるって方法なのよ」
「死んで蘇生って、ファンタジーだなぁ」
「まぁねぇ。もちろんその方法には欠点もいくつかあるので、今では使っちゃダメな技術の一つなんだけど、それをやった可能性が出てきたなぁ、と」
「それってつまり、強くなったのは勇者となったからって事かな? たしかにボクらもこちらに呼ばれた時に勇者や賢者などの特殊なのになったからか、それなりに最初から強かったけど」
「そーゆーこと。可能性としてはこの3つめが一番あるかなぁって思ってるわ」
そう、この3つめは使っちゃいけない方法なんだけど、それを阻止する方法って無いのよね。そして使っても探知できず、後から追求とかできないわけで。
勇者とかになったのは再転生したからではなく、後天的に神が与えたってケースなんだって言われたらどうにもならないわけだし。厄介な手順があったものだわ。
「まぁまとめちゃうと、わたし達がどうするも無いので、そういった勧誘には気をつけましょうになるだけかなぁ」
「念のため、学園には報告されますか?」
「その方が良いかもねぇ。と言っても、学園側もどうにもできないけど」
「ですね。お嬢様が関わっていた場合は違うのですけど、今回は別件ですし」
「なんだよねぇ。わたしが少し関わっていた人が勧誘に乗りました、だけだからなぁ」
「愚かな存在ですしねぇ」
「あ、うん、そうね……」
アリサってば相当ですね、まーた殺意が若干あふれてますよ?
「そういえばミスト君、よく勧誘に乗らなかったね。さっきまで否定が主になるような説明しちゃってたけど、短時間で強くなるってのは結構魅力的に映ったと思うんだけど」
「確かに良いなぁとは思ったんですけど、その」
「その?」
「ユキさんとカイルさんに教わっていることが無駄じゃ無いのが分かっていたので、それを無駄にして別の方法に頼るのは嫌だなぁって」
「それってつまり、今までの努力は大事です、もっと頑張りますってこと?」
「で、ですね!」
「ほほー。うん、その心がけはえらい、えらいよ~」
パチパチと手を叩いて拍手。とりあえず褒めようとかではなく、そういった今までの努力は大事だって思う姿勢、わたしは大好きです。
なのでアリサ、すこーしはミスト君への対応、ゆるくしよーね? 何かするは無いのだけれど敵視率が若干高い時があって、わたしが少し気になっちゃうもの。
「善処は一応しますね?」
「いつも思うんだけど、やっぱり心読んでるんでしょ!?」
「いえいえそんなまさか、ですよ~」
「あやしぃー」
ニコニコしてるけど、ほんとーにこの子、わたしの心読んでる気がするわ!
いやまぁ読まれてたとしても困ることは無いんだけど、ちょっと恥ずかしんですよ? それに、ほら、もしもアリサに対してえっちぃ事を考える年頃になったら……ねぇ?
「大丈夫です、全て受け止めますから」
「やっぱり読んでるよ!?」
おそるべし、わたしのアリサ。
狐娘の事なら大体わかっちゃうメイドちゃん




