346話 訓練を確認ですよっと
さてと、このままだと他の来場者に迷惑も掛かるのでここまでにしておきますか。
「それで部屋なんだけど」
「あっそうですね。こちらになります」
そう言われ、ナナから部屋の番号が表示されている鍵と一体化された魔道具を受取っと。
部屋の番号を口に出さないのはプライバシーとかの関係もあってだからねぇ。周囲の人が聞き耳を立て、同じ部屋に向かうってのを阻止するためって理由ではあるけど。
「ありがとー。それじゃナナとネネは後よろしくね」
「「いってらっしゃいませ、お嬢様!」」
「ほーい」
二人に手を振り、そのままアリサと一緒に通路の方へトコトコと。
案の定わたしが移動するやいなや、周囲の人がナナとネネにズイッと迫り、わたしがどの部屋に行くのかを聞き出そうとしているわ。なんとも予想通りの展開だねぇ。
もっとも、二人はたとえ脅されようが教えるようなメイドじゃないけれどもね。うちの従者、わたしに関係する各種ガードが徹底してますから。
「それで、変わった人とかいた?」
「そうですねぇ……」
隣でネネから情報端末を受け取っていたアリサが、ここ数日の来場者の情報をずらーっと見てるけど、表情を見る限り目立った人は居なさそうだね。
「毎日報告があるので確認済みではありますけど、今日の分もお嬢様が気にしそうな人は居ないようです」
「やっぱそうだよねぇ。こう、なんかすごい奴! ってのがぽこじゃが居たら困っちゃうでもあるけど」
「ですね。ただ、転移門を用いた移動が困難な状況なのもあってか、他国の方が多く利用していますね」
「あーそっか、他国へ行くだけでなくダンジョンへの転移門も使えないのが多い状況だっけ」
「そうなっていますねぇ。ダンジョンの多くは国外に存在しているので仕方がない事なのですけど」
アリサが今日の来場者の一覧をわたしに見せてくれながらそう言ってきたけど、ほんとそうね。
ダンジョンってのは各国に大小さまざま存在する。難易度も低く、ちょっとした運動場みたいな扱いになっているダンジョンも多かったかな。
難易度が低いという事は当然高いダンジョンも存在する。だけど、国内に危険なダンジョンがあったらまずいので、そういったダンジョンは封鎖なり消滅、もしくは国による徹底管理がされている。
なので、ちょっと難易度の高いダンジョンからは人が住んでいる国内ではなく、人が住んでいない離れ島とか未開拓の領域ばかりに存在する状態になっている。
そんなダンジョンだけど今は転移による侵攻とかの対策のため、転移門を使っての移動がだいぶ制限されてるため向かうことは困難になっているわけで。
となるとダンジョン目的だった人はフラストレーションとか色々あって、訓練施設にも手を出してくるってわけだねぇ。
「ダンジョンばかりで表に出てこなかった人が装備する未知の武具とか謎技術を使う人とか、いたら面白いのになぁ」
「そ、そうですねぇ……」
「ん~? なんか言いたい風なのは気のせいかな~」
「えーっと……」
アリサの表情が少し変わったの、見逃さなかったからね! わたし、好きな子に対しては些細なことでも逃しませんから!
「私達からすると、お嬢様の方が未知の技術や装備を開発、もしくは所持している印象があるのですよね」
「えー? うっそだぁ?」
「いえいえホントですって。だってイーコとネーコですら想像以上の結果だったですよね?」
「あー……」
わたしのほっぺをツンツンしながら言われちゃったけど、確かにそうね。
ちゃーんと許可を持った範囲に収めたつもりだったけど、そこに収めるために使った技術やら素材でちょっと言われたの思いだしちゃったわ。否定ではなく、またやっちゃったのねぇって感じだったけど。
ただ、限界駆動時の性能にも指摘があったのがナントモカントモ。
まぁこっちはわたしが思っていた以上に性能が出ていたってオチなので想定外、わたし悪くない! と、思いたいです。
話をしながら歩くこと数分、目的の訓練部屋に到着っと。
今回の目的、それは~
「ではでは、ミツキたちの訓練情報をバッチリ確認しましょー」
うちで訓練とかをしているミツキたちと、移動が困難になる前に来ていたショージ君たちとの模擬戦の様子を見にしたのだ。
ミツキたちだけなら母屋の訓練場でも良かったけど、今回はショージ君たちも居るからね。さすがにショージ君たちに関してはそこまで気を許していないので、離れの訓練場にどうしてもなってしまうわ。
そのショージ君たちはカイルに言われて、今回の移動が困難になる前にうちの国に転移していたんだよね。カイルの判断が速い結果だなぁ。
当のカイルはエレン同様、自国の偉い枠なので事前に国外に居るってのができなかったそうだけど。それにわたしみたいな特殊な権限はさすがに無いので、頻繁にくるってのは難しい状態みたいだけど。
「どうやらほぼ互角のようですね」
「あらま、それはちょっと想定外」
アリサが部屋の扉横にある魔道具から、管理者権限を使って室内で行われた攻防とかの情報をずらっと表示してくれたけど、確かに互角の戦いをしていたみたいだわ。
力を制限して五分にしているではなく、全力でいって五分になってるようね。
部屋の設定も有利不利に繋がるような設定はしておらず、ダメージに対する痛覚は通常、戦闘終了後にダメージなどによって起きた傷は全て再生、致死となる攻撃を受けたら即戦闘終了で回復するになってる。安心安全な訓練の定番セットですね。
「ん~む、この組み合わせだと互角にはならないと思うんだけどなぁ。どっちもわたしが見ているので実力も大体わかってるし」
「ですね。個々の戦闘力の差は当然ありますけど、一番は戦闘経験の差が大きく出ますし」
「なんだよねぇ。ミツキたちはこっちに来て日が浅いのもあるから、ガッツリとした戦闘ってほとんど無いもの」
ダンジョンでの戦闘経験は一応あるけど、対人での戦闘経験は少ないからなぁ。うちの従者さんとの模擬戦は多少やってはいるけど、ショージ君たちみたいな戦闘力が近い相手の模擬戦はほとんど無かったし。
「なのに互角って、どういう事なんだろ?」
「ですよね。手加減してるようではないですし……おや?」
表示していた履歴を閉じ魔道具で室内の現在の状況を表示したら、アリサが何かに気づいたようね。なんだろ?
「確か4対4の模擬戦でしたよね?」
「だね。ミツキたちもショージ君たちも4人パーティみたいなものだから、対等な模擬戦みたいなのができてちょうど良いねーって理由があってだけど」
「でも室内の戦闘、4対3になっていますよ?」
「うそん!?」
少し慌てて映像を確認……マジだ。
ミツキたちは4人全員いるけど、ショージ君たちは3人だわ。ショージ君のお仲間になっていた眼鏡くんが居ないのだけれど、どういう事かな?
とりあえず状況を確認するも兼ねて、中に入りっと。
そして入るなり
「わたしが来たよー」
と、戦闘中だろうがお構いなしな声を上げちゃう。真面目な状態があまり好きじゃないのもあるけど。
そんなわたしの言葉に即反応したようで
「あっ、ユキくん!」
そう声を上げ、ニコニコしながらミツキがこっちに来たけど……ちょっと?
「ちょっとミツキ!?」
「な、ちょ、まっ!?」
「も、もたねぇぇぇぇぇ!?」
「あ……ごめん、なさい」
うん、補助とか回復がミツキ頼みだったようで、マナミ、コータ、トースケの3人がショージ君たちの攻撃に一気に押され、そのまま戦闘終了になってしまったわ。
これは戦略のミスというか、臨機応変な対応できない欠点が出た感じだねぇ。
「いやぁ、あぶなかったな!」
「そういう割に随分と元気ハツラツな感じね」
「いやいや、マジで危なかったんだぜ? 俺達は3人だけど、コータ達は4人で、なおかつ連携もうまかったからな」
「ほほー、そんなに?」
汗をふきふきしているショージ君がそんなこと言ってるけど、どうなんですか?
「そうだね、たしかにボク達の方が少しうまく動けていたかな」
「まぁミツキありきだったけどな!」
「ほんとそうよ。ウチら3人、残念なことに回復とか補助からっきしだけど、ミツキはその辺りがすごかったからね」
「そう、かな?」
ふくふむ、コータたちはミツキ主体の作戦でずっといってたわけね。そして、その作戦がうまいことハマっていたと。
そんな環境を作ったミツキは、いつの間にやらわたしを抱っこして頭を撫でて来てるんですけどね。訓練とかどうでもいいですてくらい行動が洗練されてるわ。
「まぁ細かい確認は後にするとして、ショージ君たちって4人じゃないのはなんで?」
「あーそれなぁ……」
「なんか随分と言いにくそうな顔してるけど?」
「いやぁ……その、なぁ?」
苦々しい顔しながら助けを求めるように、アリサから飲み物受け取って休憩しだしたアンジーさんとミスト君を見たけど、そんなに言いにくいの?
「えっと、実はヨシュアさんが脱退したんです」
「はい? 脱退って、なんで?」
一瞬「ヨシュアって誰?」って言いそうになったけど、あの眼鏡くんの名前って事だね。どーにも覚えて無かったわ。
「私はよく知らないのですけど」
「ショージさんと姉さんは理由を知らなくて、僕が多少知っているくらいですね」
「なにそれ? なんか変な方向行ってる気がするんだけど」
ミスト君だけが知ってるって、なんなんですかね? しかもミスト君だけって時点でなんとなーく重要なのか重要じゃないのか、ちょっと判断難しくなっちゃうよ。
……うん、アリサほどではないけど、わたしもミスト君に対して未だにすこーし悪い感情もっているわね。
「その、説明は難しいのですけど、先日勧誘があったんです」
「ほほー? でも勧誘だけならそんなに難しくは無いと思うんだけど」
「普通の勧誘ならそうなのですけど、勧誘があったのは僕とヨシュア君だけで、ショージさんと姉さんにはなかったんです」
「相手を絞っているのかぁ」
気になる人を仲間に入れようって事でそういうのがあるのはわかるけど、なんでこの二人なんですかね?
正直なとこ、将来性を考えたらショージ君を勧誘すると思うんだけど。
「それで、勧誘に行ったら興味沸いてってこと?」
「結論だけ言ってしまえばそうです。僕はヨシュア君が一人では行きにくいと言って付き合いだったのですけど」
「はい? それってつまり、勧誘受ける気満々でアレは行ったってこと?」
「そ、そうなります!」
あら、急にミスト君がびくっとし……あぁそうか。
「アリサ、ミスト君に対してじゃ無いのはわかるけど、その殺気は抑えよーね?」
「お嬢様、これは殺気ではありません」
「え?」
「殺意です」
「ちょっと!?」
ニコニコしながらサラッとすごいこと言ってるよこの子!? 殺気じゃなく殺意とか言っちゃったよ!?
でもまぁアリサだからなぁ。
きっと、わたしが関わっているのにそれを無視して別の勧誘にホイホイ行くとか、万死にあたいするとかそんな感情出ちゃってるわけだね。
「ねぇユキくん」
「な~に?」
「アリサちゃんって凄いね」
「……ミツキ、そこはすごいで褒めちゃいけないよ」
「そう、かな?」
「そうだよ!?」
こっちはこっちで天然入ってます!?
いやまぁミツキの方もわかるんだよ。
わたし優先のアリサにすっごく共感しちゃってるんだろうけど、殺意はダメだからね? 敵確定じゃないんだから、過激すぎはダメだからね?
少しとばっちりを受けた感じなミスト君




