344話 裏技は使いませんよ?
少し長いです
さてさて、ルミィたちの授業というか訓練という歌詞をしばし見ていたけど、結構苦戦しちゃってるね。
やっぱり精霊力のない世界にいた人が、いきなり体内に存在する精霊力を感じて、出力して、集束させて、召喚用の魔法陣を描きましょうってのは大変かぁ。
出力できるかな? って人もまだ居ないみたいだし。
「マスター、これって本当にできるようになるのですか?」
「おっとルミィさん、だいぶ弱気になっちゃってるね」
他の人達もぐるっと見てからルミィの所に戻ったけど、ずいぶんと難しいって顔しちゃってるわ。出力しようと伸ばした手がプルプルと震えてたりもするし。
「体内の精霊力は分かったのですけど、それを出すってどうにも」
「えっと、すごく難しいこと考えないで、出力するには魔力と同じ感じに出してみようってやればできると思うよ」
「それが、精霊力でなく魔力の方が出ちゃうんですよ」
「あらら」
これは精霊力をこれから使おうって人によくあるアレだね、力の制御上手くいかなくて空回りしちゃう状態。
シズクさんが認識だけでなく出力や集束に関してもバッチリ説明してくれたので手順はばっちしだけど、それがすんなりできるかは別だからどうしてもねぇ。
「焦らなくても大丈夫だよ。精霊力の無い世界の人だと使えませんってのじゃないからね」
「そうなんですね。ちなみに、マスターは最初から簡単にできたんですか?」
ルミィが興味津々って顔になってるけど……う~ん、これ言っても大丈夫かな?
シズクさんの方をチラッと見……あ、大丈夫なのね。コクコクって頷いてくれたもの。まぁ極秘事項とかでないし、当然か。
「わたしの場合、手順を聞いて試してみよーってなった1回目でできちゃったね」
「お試しでできちゃったんです?」
「できちゃったのだ」
ドヤァ。
わたしの場合、手順教わっている時にお試しみたいな感覚で各精霊に合わせた精霊力を作りまーすってやったら簡単に作れちゃっただからなぁ。
しかも普通は繰り返し練習してってのが入るのに、お試しでやった1回目で成功とかほんとヤバいです。わたしってばそういう力を学ぶ関係の習得速度に成功率がとんでもないけど、ひょっとしたら誰かが運命とか含めて操作してるんじゃ? ってくらいなのがなんともね。
そのまま少し雑談交えながらも見ていたけど、ルミィも含めてみんなまだ出力できないみたいだね。わたし達もすんなりいけるとは思っていなかったので想定内だけど。
想定内と言えば幸いなことに、出力できないのでムキになるとかイライラしだすって状態になった人が1人も居ない状態なのもよかったわ。
「本当に難しいですね、これ。初めて魔法を使おうって練習していた時より上ですよ」
「精霊力に触れることが無かった世界からだとさらに難しくなるのかもね。でも精霊力自体はうちでの生活の効果か、体内に存在しだしてるからいずれできるようになるのは間違いないけど」
「環境の効果です?」
「そうなるねぇ。うちの大気には霊素だけでなく精霊力自体もハンパないくらい存在しているから、よっぽど精霊さんとの相性悪いとか嫌われてるって人以外は、体内に精霊力を宿すことが出来るっていう特殊環境だからね」
一般的な環境では大気中に精霊力が存在するってのは無いのだけれど、うちの場合は顕現や半顕現状態になった精霊も一緒に生活している状態なので、その精霊が生み出す精霊力が大気に混ざり豊富に存在している空間になっている。精霊を祭る神殿とか祠とか聖域みたいな状態だわね。
「でもね、難しいとはいえ僅かでも精霊力が出力できれば、周囲に居る精霊さんがより興味持ってくれるので関係の構築もドンドンできていって、すぐに精霊術や精霊魔法を使えるくらいにはなれるはずなんだ」
「僅かでも良いんです?」
「うん、あくまで認識してもらうためのきっかけ用だからね。シズクさんが説明してくれたけど、精霊術や精霊魔法を使うには精霊さんとの協力が必要なんだけど、その協力のためには精霊さんに自分をちゃんと認識してもらい、仲良くなる必要が絶対にあるんだ」
と、少し真面目っぽくいてはいるけど、実はちょっと嘘も入ってるんだよなぁ、これ。
うちの教えでは間違っていない事だけど、世の中には違う考えも居るわけで。精霊との友誼はそこまで必要ないって考えをする術者も多く、その考えでも精霊術や精霊魔法は使えるようになる。
ただ、精霊との仲が悪ければ悪いほど精霊側の不快感や心労とかがドンドンたまり、精霊力の消費量もガッツリ増え、威力や速度に範囲なんかもガクンと落ちちゃう。仲が悪い方法をあえてとる理由って一つもないのです。
そんな嘘というか事実もあるけど、それをルミィたちに教える必要はないわけで。やっぱね、仲良くない方法をとってもらいたくないもの。
まぁ教えてもその方法をとるとはあまり考えられないけど、知らない方が良い事の一つかなとはどうしても思っちゃうわ。
「それって、私達の存在を精霊は認識していないんですか?」
「んーん、認識はしているんだけど、個人ではなく〝人という物体〟という認識に近い状態なんだ」
「物体って、なんかすごい言い方ですね」
「まぁねぇ。でも精霊さんからするとそんな感じになっちゃうんだ。だけど精霊さんと仲良くなるためにがんばってますって姿が見えると精霊さんも個人として認識し、一気に仲良くなってくれるんだ。しかも精霊力を使うための勉強で、最初に使えるようにがんばるのが精霊召喚なのもまた大きいの」
ぐっと拳を上げちゃうくらい、割と重要なことです、これ。
仲良くなりたい子と話すためにがんばってますってのは大きいからね。そういう子に対しては精霊も好意を持ってくれるし。
まぁわたしみたいに、召喚する前から好意があったようで、なおかつ全員を一気に召喚しちゃうとんでもないことしちゃったからか、初めて話す段階からすっごく仲良くなってたとかもあるけど。
「なるほどー」
「まぁ焦らなくても大丈夫だからゆっくりに、だね。今できなくても大丈夫、わたしとお母様が全員、今回は居ないルミィのお母さん達も含めて全員ね。その全員が精霊力を完全に使えるようになるまでは授業を見る予定だから」
「それって、マスターとマスターの母上様が居るとやっぱり違うんですか?」
「だいーぶ違うねぇ。簡単に言っちゃうと、すべての精霊さんの本体が興味を持って来てくれるので、精霊さんからの警戒がほぼゼロになるんだ。なので、精霊召喚にもすぐ応じやすくなってくれるの」
「なんか裏技っぽいですね!」
「かなーりね。さすがに精霊さんの本体の召喚は無理だろうけど、本体が興味持ってくれたら分体の召喚にはあっさり応じてくれるようになるわけ」
そう言いながら周囲を見ると、お母様の傍にいる精霊神以外の小精霊と大精霊の全員が半顕現状態で見に来てるからね。
みんなの周りを飛んだり傍に寄ったり覗き込んだりと、それなりに興味を持ってくれてるのも分かるわ。まぁ半顕現状態が目視できるくらい精霊との親和性が取れる子が居たらびっくりするような状態だけど。
なにより、みんなを見るだけでなくわたしに抱きつくなどして、ちょっとイチャイチャもしちゃってるからね! 精霊との触れ合い、大好きです!
さらに全員を見ていたけど、うん、今回は出力できるって段階までは誰もいってないね。
あとは内包する精霊力も見ていたけど、とびぬけて精霊との相性が良いって子も残念ながらいないわ。あくまで今の段階ではだけど、いきなり精霊の本体を顕現できるって子は居ないなぁ。
まぁいきなり本体できたのって、お母様が言うにはわたしやお母様くらいだそうだけど。
そういえば
「ねーねーシズクさん、裏技は使う?」
「裏技ですか……。それは最終手段としてならば、ですね」
ちょっと悩みながらもシズクさんがそう答えたけど、やはり気になったようで。
「マスター、その裏技って?」
「えっと簡単に言っちゃうと、精霊力の扱いに目覚めそうな人の精霊力をグイッと引き出しちゃう方法があるんだ」
「それて凄く便利そうです!」
「まぁねぇ。ただ」
チラッと今度はアリサの方を見ると、うん、ハッとして顔を少し赤めてからブンブンって首を思いっきり振ったわ。
う~ん、昔アリサも精霊力の勉強の一つとして学んだけど、それを思い出しちゃったわけですね。アリサに説明してもらうのはやめましょう、お願いする予定も無かったけど。
「ちょっとね、その、えっちぃんだ」
「えっちぃ?」
「えーっと、シズクさん」
「そうですね、お嬢様が説明されるより私の方が良いかもですね」
「な、なんか深刻な感じですよマスター!?」
「ま、まぁ、深刻、かなぁ」
シズクさんもちょっとフクザツって顔をしてるからだろうけど。まぁアレの説明だからなぁ……。
「最初に申し上げますが、皆様にそれをする予定はありません」
「やらない方が良いからねぇ、アレは」
「精霊力をすぐに使えるようになりますが、アレは危険ですからねぇ……」
「シズク様。それでもやるとなった場合、私はお嬢様が他の人とやるのは反対しますよ?」
「おっとアリサさん、それはわたしがやることになるからの嫉妬だね?」
念のためにアリサがそんな事を言うとか、相当だね。まぁ気持ちは分かるけど。
「え、えーと、マスター?」
「あーごめんごめん、ちょっと脱線しかけたわ」
どうしてもね、内容を知っているわたし達からするとね、濁したくなっちゃうのです。
「では気を取り直して……その方法ですが、精霊力の高い者が低い者に触れ、高い者側から特殊な精霊力を流し込み出力するための道を作る、という方法になります」
「そういう方法もあるんですね。でも、それがマスターの言う〝えっちぃ〟とは?」
「それはですね、簡単に言ってしまうと受ける側が発情してしまうのです」
「発情って、あの?」
「えぇ、あの発情です。人によっては流し込む際の刺激などが相当強くなってしまい、抑えきれない状態になる事がありまして……」
……うん、シズクさんの一言でみんなポカーンとしちゃったわ。
えっちぃ行為じゃないのだけれど、抑えきれないくらいの症状が出る人も居るとか、相当ヤバい方法だよね。考えた人誰だよってマジで言いたくなる方法。
「残念ながらその反動を消す事は一部の特殊な方を除いて存在しません。そのため、裏技と言いますか緊急時にどうしても必要な場合、という禁断の方法になっています」
「禁断の……まさか、マスターもそれやったんですか!?」
「あ、やっぱりそこ気になるのね」
ルミィが結構真剣な目で見てきたけど、まぁそうなるよねぇ。
「えっと、やり方を教わるためにお母様にやってもらった事はあるけど、相手がお母様なのとわたしだからね。発情とかそういうの一切なく、綺麗な精霊力だなぁ程度の感触で済んだんだ。だけど」
「だけど?」
「アリサにも一応覚えてもらおうってんで、わたしからアリサにやったけど、その、ねぇ」
「お嬢様、それ以上は言わないでください! 思いだすだけでも恥ずかしいです!」
「だそうですよ。たしかにあの時のアリサの状態は」
「シズク様まで!?」
あらあら、アリサがちょっとワタワタしちゃったわ。
まぁあの時、だいーぶ悶えてたからねぇ……。わたしもそうなるとは知らなかったから、かなりポカーンとした記憶あるわ。
お母様としては、わたしの魔石を分けたアリサならそういった反応は無いんじゃって考えていたけど、結局は出ちゃったという。特殊条件があろうとも発生するとか恐ろしい技術ですね!
「となりますので、どうしてもという希望者以外にする予定は無いですよ。反動を知っているぶん、この方法は私達も避けたいと考えてしまいますし」
「わ、わかりました」
「でも、もしルミィがその方法を覚えたいってなら、わたしが送るよ~」
「それはそれで興味ありますけど、遠慮しておきますね、今は」
ルミィがちょっと顔を赤めながらそんな答えを言ったけど、どうなるかしら?
いやまぁやる予定は無いのだけれど、お母様がなぁ、アリサの時と同じで眷属になったルミィなら違うんじゃ? とか思ってそうな気もうっすらちらほら。
お母様、こういうわたしと仲の良い子の関係が深まりそうな事象もある実験は大好きな人だもの。
メイドちゃんはちょっとエッチになっちゃっただけです




