34話 やっぱり戦うわけですかー
少し長いです(4000文字をちょっとだけ超えてます)
「なるほどな、これはなかなか良いな」
「うわぁ、なんかほんと気持ち悪いなぁ」
「顔に似合わずひどいことを言うな。そうだな、少し試すべきか」
カイルの魔力が高まっていくのがわかる。何かするって感じかな?
「これを見てどう思うか楽しみだな。連環魔陣展開! 刮目せよ、我が力の神髄を! 出でよ、霊剣『シルバームーン』!」
すると巨大な魔法陣が形成され、中央に銀色に輝く光の玉が姿を現す。
やがて光は収束していき、二本の銀色の剣へと変化する。あの形はサーベルだね。
しかし連環魔陣が使えるのかぁ。古くから伝わる魔法詠唱の高難度の奴だっけ、うちで使ってる術式と比べると魔力効率や展開速度が微妙だけど。
「これが俺の術装シルバームーンだ。狐族に古より伝わりし最強の術装と言った方がわかるか」
「え? 確か狐族のってムーンブレイドって名前で金色のバスターソードのはずだけど」
そう言うと凄いにんまりされました。あちゃー、これは間違いなく『その質問を待っていたんだ!』って感じの奴だね。相手の策に乗ってしまうとは、不覚。
「その通り。そしてこいつは元ムーンブレイドだ。だが俺の物となった時に進化が起きた。この姿は俺の為に術装自らが選び、変化した姿というわけだ」
おーすごい事が起きたんだぞって感じの表情ですね。自慢したくなるのもわかるよ。
しっかし術装自らね。何となくあの術装、わたしと戦うために変化したようにも見えるなぁ。今まで一本だったのが二本になるってことは、二本の武器を使う相手を想定してってことでしょ。
「えっと、それ出したってことはわたしと戦うってことかな?」
「そういうことだ。さぁユキ、君の術装を俺に見せてくれないか」
決め顔で言われたよ。って、うわぁなんだろ、すごい背中がゾワゾワってした。わたしってこういうタイプの男苦手なのかも。
こんなんだったら気を使わずに月華を顕現させたまま来て、速攻ぶちかましたほうが良かったわ。
「まぁしょうがない、術装展開! 魔石に宿りし精霊よ、汝の力を我に示せ! 顕現せよ、精霊刀『月華』!」
巨大な魔方陣の中から顕現した金色に輝く光の玉が収束し、月華がその姿を現わす。
自分でも思うけどやっぱ派手だなぁ、って、なんかすっごい目で見られてるんですけど、なんで?
「ふっ、そういうことか。やはりユキ、君とは長い付き合いになりそうだな」
「やめてください、鳥肌が立ちます、今もゾワゾワってなったし。てかなに一人で納得してるのよ」
「あぁすまんな。君の月華と俺のシルバームーン、そっくりだったんでな。今まで信じてはいなかったが、運命ってやつが本当にあるのかもな」
「ど、こ、が、そっくりですか。あなたの術装が二本ある、ただそれだけ。ほんとなんなのこの人」
しかもなんかさっきから凄いみられ……あっ!
「術式展開、清浄なる光!」
「む、気づいたのか」
清浄なる光、状態異常や精神異常の回復と耐性を上げる術。お母様の魔道具と併用すればほぼ完全耐性となる、ほんと頼りになる術です。
でもこれで分かった、さっきからゾワゾワしてたのは本能的な拒否感と、体がこいつの〝魔眼〟に対抗してたからだね。やれやれ。
「魔眼持ちだったとはね。オッドアイじゃないから油断してたわ」
「コンタクトレンズっていうのを目に入れてるからな。しかしたいしたものだ、俺の魅了で落ちなかったのは君が初めてかもしれないな」
「……魅了ですって? いやほんとやめて、そういうの。人に意識を操られて何かされるとか、ほんと嫌だから!」
あれでしょ、わたしに薄い本のようなことするんでしょ? 薄い本とか意味わかんないけど、とりあえずそう言っておけって気がした。言葉の意味をそのうち誰かに聞いてみようかな。
てかさっきからこいつ、だんだんと近づいてきてるし。もう攻撃してもいいかな、いいよね。
「さて、茶番は終わりにして、そろそろ始めようか。だがルールを決めたい」
急に紳士ぶってきたけど、わたしの中では完全に変態のレッテル貼ったから。
まぁルール決めるのには異存ないから、受けておこうか。
「言ってみて。わたしとしてはアリサに手を出さないって誓ってくれるなら何でもいいよ」
「そんなにあのメイドが心配なのか。まぁいいか、まずは魔法や術は使わずに術装の力のみで戦おう」
友達を心配するとかあたりまえじゃん。不思議そうな顔してるけど、そんなにおかしい事かなぁ。
しっかし術無しかぁ。選択肢減るのは痛いけど、相手も同じだから何とかなるかな。
わたしとしては術式バンバン使ったり、召喚大量の物量大作戦の方が好きなんだけど、まぁしょうがないね。
「いいよ。それだけ?」
「あとは致命傷を負う、もしくは降参したら負けだ。殺すまでする気は俺もない」
「要は力比べってことね、わかったわ」
「では、始めよう!」
ルールが決まったところで互いに魔力を高める。んー、わたしの方が少し低いかなぁ、魔石の修復があるからしょうがないけど。
でもここまで魔力が高いとは、ちょっと想定外かな。これは真面目に行かないと負けちゃうし、ちょっとがんばろー。
「いくぞ!」
正面からカイルが切り込んでくる。
くっ、速いわ。避けるのは厳しい、受け止めるしかない。
振り落とされる二刀にタイミングを合わせ、月華をぶつける。
「くぅ、速さもそうだけど、重い!」
「そう言いながら完全に耐えきるとは、さすがだな」
鍔迫り合いの状態になったけど、だめ、押し返せない。これは予想以上ね……。
しっかし、その嬉しそうな顔はほんと止めてください、ゾワゾワします。鍔迫り合いのせいで顔が近くなってるからさらに嫌!
「だが、いつまでもつかな!」
そう言うと魔力をさらに高めたのか、押しが強くなってくる。このままじゃマズイ。
だったら一瞬力を緩めて隙を作る。あとは低姿勢のまま一気に背後に回り込み、薙ぎ払う!
「なっ!?」
「ぐっ、今の速かった。だが見失うほどではない!」
背中に剣を回してガードするなんて、まいったわね。完璧なタイミングだったのに、それを防がれるなんて。
「速さならば俺も自身がある!」
「正直言って厳しいけど、でもアリサが見てるんだ、絶対に負けない!」
互いにスピードを生かして何度も切りあい、そして防ぎあったけど、決定打は一発もなし。
それどころか完全に防ぎきってるので体へのダメージは無し。だけど精神的にはきついわ。
「ここまでやるとは、楽しいな!」
「この戦闘狂の変態が! わたしは楽しくない!」
切りあいながらも嬉しそうな声上げてきて、ほんと嫌。しかもこっちはすっごい嫌味を言ってるのに、全然聞いてないし! そのせいで余計に疲れる。
「はぁっ、はぁっ、ふぅ。さすがにこれは予想外だぞ」
「それ、は、わたしもだけど。戦いながらどんどん喜ぶ変態のくせに」
何度も切りあったせいで、さすがに息が切れたわ。うちの人たち以外でこうなるとか、予想外すぎるよ。
「では切り札を使わせてもらう!」
「切り札って、また御大層な」
「シルバームーン、Typeサラマンダー!」
「うそ、まさか!?」
シルバームーンの刀身が赤く光り、そして周囲に火の粉を散らすようになる。
どうやらシルバームーンは月華と同じ能力を秘めているみたいね。しかも対象は違うけど朱雀の状態とほとんど同じですか。
それに顕現とか召喚ではなく〝たいぷ〟って単語言っているあたり、転生者からの知識を得て何かしらの改良もしてそうね。
「これが俺の切り札、シルバームーンの真の力っていうところだ」
「その力は想定外だったわ……。でも、それだったら! 月華、朱雀!」
「なっ!? 俺のシルバームーンとそこまで同じなのか。面白いな、どちらが上かますますハッキリさせたくなった!」
「あなたと同じとかぜーったいに嫌です。行くよっ!」
一気に接近し右の月華を振り下ろす。カイルはそれに合わせて左の剣で受け止める。互いの術装がぶつかり合うが破損はない、嫌だけどほんと互角みたい。
お返しとばかりカイルが反撃してくる。右の剣を使ってわたしの左側に対し薙ぎ払いを仕掛けてるけど、予測通りだから避けることはできる。
でもここは意地、月華で受け止めてあげる! 左の月華をすぐさま逆手で持ち、そのまま奴の剣に合わせて切り上げる!
「くくっ、術装の機能を活かしても互角のようだな。想像以上でうれしいぞ!」
「わたしはぜんっぜんうれしくない!」
この戦闘狂め、さっきよりもニヤニヤ嬉しそうな顔してほんと嫌。
でも奴が言うのは事実だね。術装は同じような性能で身に着けた技能もほぼ同じ、違いは魔力量の差と体格か。
魔力差はカバーできるけど体格の差はやっぱり厳しいなぁ。向こうはだいたい170センチくらい、こっちは100センチあるかどうか。ほぼ互角な相手だとこの差は大きい。
それに体格差補うため余計に動いているから、その分こっちの魔力消費が大きいわね。
「ならばシルバームーン、Typeノーム!」
「やっぱり他の属性もあるわけね」
「その通りだ! そして耐えられるものなら耐えてみろ! シルバームーン、Codeアースクエイク、イグニッション!!」
岩をまき散らしながらカイルの剣が迫ってくる。ここまで同じ芸当ができるとは思わなかったわ、さすがは狐族に代々伝わる術装ね。
でも
「受けて立つ! 月華、蒼龍! 月華、神嵐開放!!」
暴風をまとった月華と岩石をまとったシルバームーンがかち合う。技術もない正面からのぶつけ合い、威力は互角、だったら気合の勝負よ!
シルバームーンが振動を強めてくれば、こちらは月華の風を強め、大気を震わせて振動を抑え込む!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
互いに一歩も引かない。むしろ引いた方が負けになる。ありったけの魔力を流し込み、そのまま押し込む!
「くっ、まずい!」
「あ、確かにヤバい、かも」
ぶつけた互いの魔力が反発し、空間が歪んでいる。このままじゃ反発した魔力の反作用で巨大な爆発が起きる!
急いで回避は無理、このまま耐えるしかない!
もつかもたないか、わたしもわかんない。でもやるしかないってあーもうっ!
まさかここまで同格とは思わなかったわ。
次回もバトルっぽいものになります。