335話 九尾の狐と天使な悪魔はあっさりめ?
ん~、このまま戦っても良いけど、より安全な状況にしちゃいましょー。
「術装展開! 魔石に宿りし精霊よ、汝の力を我に示せ! 顕現せよ、精霊刀『月華』!」
念には念になっちゃうけど、月華を顕現させてっと。うん、いつも通り巨大な魔方陣形成とか光の玉出現とかで派手派手です。
ただ傭兵帝国の奴らが居るのに顕現させちゃったからなぁ。あとでお母様に相談し、何らかの対応してもらった方が良いかもしれないわね。
それはさておきっと
「それじゃわたしとお前、どっちが強いはハッキリさせましょうか」
「ずいぶんと余裕そうだが、まだ気が付いていないようだな!」
「ん? 気が付いていないって、何かな?」
「決まっている! ワタシとの力の差だぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう言いながらムンッて感じに力を込め、魔力と悪魔の力をドガーッと高めてきたわ。
なるほど、今だとそれなりに差がありそうね。
まぁ
「関係ないので、いくよー」
月華を構え、チリンって音がすると同時にタンッと地面を蹴って突撃!
「なにぃ!?」
わたしの速さに驚いたようで、武器を持っていない左側がだいぶ隙だらけ。
なので、正面からではなく左側に回りこむ様にし、そのまま一気に~
「斬っちゃう!」
斜め下から上に切り払うよう、月華を思いっきり振るう。
だけど
「残念だったなぁ!」
隙をバッチリついたけど向こうの方が反応速度も上だったようで、右手に持っていた剣を割り込ませて防御されたわ。
しかも剣の硬度も月華に耐えられるくらい高性能だったようで、ガッキーンって大きな音はしたけど折れることなく、ひびも一切ない状態で防御されちゃったわ。
「なるほどねぇ」
「確かに速さには驚いたが、ワタシとの差が埋まるほどではなかったな! 力も大したことない!」
「〝今〟だとこのくらいの差になるのかぁ」
反応速度だけでなく力も負けてるようで、あまり押し込めないわ。
となると
「1分、かな」
「ふっ、どうやら察したようだな!」
口に出すくらい何かを察したようで、かち合っているのをムンッて力を込めて振り払われたわ。
「1分でオマエの負けだぁぁぁぁぁ!!!」
「おっとっと?」
払われたら、そのまますぐに叫びながら滅多切りしてきたわ。あっぶないなぁ。
まぁ切っ先は見えているので、当たる直前に月華を使って受け流し!
だけど力だけでなく速さも差があるようで
「はっはっは! 奥の手を出したのかもしれないが、天使化したワタシとの差は埋まらなかったようだな!」
「ずいぶんと、上から目線ね。まぁ、ちょっと、かすっちゃう、けど」
少し押されながら月華で払っているけど完全には流せてないようで、着物の裾とかを少し掠っちゃってるわ。なかなか狙いが鋭く正確です。
という事は……なるほどなるほど。どうやらこいつ、ただ悪魔化して力だけドーンと上がったのではなく、技量面の修行か勉強もしたようね。でないともっと雑な滅多切りになっているはずだもの。
「どうしたどうしたどうしたぁぁぁ!!!」
「なんかお前、性格がおかしくなってないかな」
滅多切りを受け流しながら、ふとそんなことを思ってしまったわ。
なんていうか暴走や自棄になったというか、そういったおかしな状態みたいだもの。
「フッ、そのような事をぬかせるほど、余裕があるとは思えないがなぁ!」
「余裕、ねぇ……」
「一方的に押されているオマエに、ワタシは倒せん!」
「一方的に、ねぇ……」
状況把握も出来なくなってるのかしら?
だって
「もう掠ってないんだけど」
最初に回避してた時は掠っていたけど、今はぜーんぜん。月華で受け流すことをしないでも余裕でかわせます!
「な、なんだと!?」
「とゆーか言ったでしょ、1分って」
「1分でオマエの力が失われるという意味だろうがぁぁぁ!!!」
「うわぁ、暴走状態なのが言動もヤバいし、考えもおかしな方いってますね。まぁいわ、教えてあげる」
そう言った後、少し多めに後ろにヒョイッと回避して攻撃できる絶好の隙を作る。
あとは簡単、その隙をつくように~
「ぶっとばーす!」
しゅたっと距離を詰め、そのまま月華を横にして腹の部分をドカッと殴る!
「ぐぼぁ!?」
思いっきり入ったようで苦痛を浮かべながらお腹を押さえ、後ろによろよろと下がっていったわ。あっさりだねぇ。
あっ! いっけない、殴るんでなく切ればよかったわ。そうすれば終わっていたのに。
「教えてあげるなんて言ったせいで、体がそっち方面に動いちゃったなぁ。しっぱいしっぱい」
「な、なにが、おこって」
「おっ、足がガクガクしてるけど倒れてないね。耐久面も結構あるってことかぁ」
この天使とか言った形態だと、普通の悪魔状態よりも全能力高くなってるって事なんだろうなぁ。
う~む、ちょっとした調査実験のおかげで新発見が! みたいになってきたわ。悪魔関連なので嬉しくないし楽しくもないんだけど。
「1分って言ったのは、1分でオマエの能力を超えちゃうねって事よ!」
ドヤァ!
うん、何を言ってるんだ!? っていう顔してますね、わかります。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な! オマエとの差は確かにあった! なのに1分でだと!」
「そう、1分かかっちゃったんだよねぇ」
「ふ、ふざけるな!」
納得できないって感じね。すっごい怒った顔してるもの。
「別にふざけてないわ。つい教えるなんて言っちゃったから教えるけど、わたしってまだまだ成長途中でね、この状態でもいきなり全力って出せないのよ」
成長もだけど残念ながら魔石もまだ完治してないし、尻尾だって5本だからねぇ。
「なので、この状態に体が馴染むのに時間がかかるわけ」
「まさか、オマエ!?」
「そっ、1分もあれば簡単に上回っちゃうくらい馴染むわけ。1分しか能力使えないとかじゃないのよね~」
「ふざけるなよ! そんなチート、オマエなんかが持っているのはおかしいだろ!」
「おかしいって言われましても?」
ちょっと凄い両親のもとに生まれたけど、わたしはいたって普通です。
神とかいう存在には会ってないし、転生者ボーナスとか一切ないもんねぇ。
「そうそう、わたしみたいな時間経過で力が増す能力持ちが相手なら、その上昇の限界となる時間まで耐え、解除しなければいけないとか上がるのが止まらずに自己崩壊するまで時間経過を待つってのはあると思うけど、それも無駄だから」
「お、オマエは何を言って」
「確かに時間経過で能力上がるけど、その最大値って1年かかるくらいすーっごく先なわけ。あっ、1年ってこの世界の1年よ? お前さんの居た地球時間だと4年になるかな?」
「な、なんだよそれ! 化け物か!?」
「あら、それは正しいわ」
くるくるっと月華を回し、再度構えなおしてっと。
「だってわたし、化け物みたいな力を持った存在だからね!」
タンッと駆けだし、一気に接近して背後に回り込み。
あとは月華を交差するように構えて~
「術技、烈空!」
ズババンッと背中から生えている羽を真空の刃で切り裂き!
防御魔法か何かもあったようだけど、そんなのお構いなしに切り裂き! さすがわたし、あっさりです。
「むがぁぁぁ!?」
「へぇ、魔力か何かでできた羽だったみたいね。切ったら消えちゃったわ」
バッサリ切ったのでそのままボトッて落ちるかな? と思ったけどそうならず、少しフワッて浮いた後にピカッと少し光ったら粒子化していって消えちゃったわ。
ちょっと残念かなぁ。分析すれば天使化って何なのよの答えがすんなり出てきそうだったのに。
「で、まだやる気かな?」
「くそぉ、ワタシは、ワタシはぁ」
「う~ん、なんかこっちが悪魔というか悪者っぽくなっちゃったような」
両手を地面についてガックリしてるのを、余裕な態度で見下ろしているって状態だからなぁ。
でもしょうがないんです。1分経過の時点で余裕だったけど、そこからさらに時間は経過していたので、戦力差が圧倒的すぎるになっちゃうんだよねぇ。これじゃ戦闘に一切ならない、ただのいじめみたいな状態になっちゃうわ。
それだけ魔晶精霊衣はすごいって事でもあるけど!
しょっちゅうイベント戦闘になってしまう狐娘さん




