312話 人はまばらまばら
みんなに偵察というか情報収集をお願いしたので、わたしとアリサは売店の売り子のごとくお客さん待ちっと。
とはいえ、そのお客さんがドカッと来るのは先なんだけど。
「そろそろ開始時刻になりますが、少しもめているようですね」
「そうなの?」
アリサが支給された会場の情報やら連絡やらを表示する魔道具を見ながらそんなこと言ってきたけど、相当ひどいのかな?
「持ち物検査をしてからの入場となるようですが、その検査に時間がかかっているようです。時間がかかるため、拒否しようとする方も出ているようですよ」
「なるほどねぇ。持ち物検査で時間がかかるって事は、やっぱこないだのせいかな」
「おそらくそうですねぇ。持ち物検査自体は過去も行っていたようですが、今回はより厳重になったようですし」
アリサが操作している魔道具を横から覗き込みながら情報を見てるけど、どうやら一人当たりの検査時間がすっごい長くなったみたいね。
それだけ厳重になったのは、こないだの人形暴走事件のせいと。まぁわたしというトンデモナイ存在が参加しているので、もしも何かあったらまずいので厳重になったってのもあるかもだけど……。
こないだの事件から、ガーディアンが関係する部品の使用どころか、持ち込みや所持に関しても禁止された。所持が許可されるのは、国の管理機関などから許可が下りた研究者などの一握りの人だけ。まぁわたしもちゃっかり許可貰ったけど。
この禁止は1国だけでなく、世界中での決まりごとになったという、だいぶすごい禁止令になったそうで。それだけガーディアンの存在が危ないって事でもあるけど。
そんなこともあってかガーディアンの部品、それこそネジ一本でも持っていないかの検査が必要になったってわけだね。
こないだの暴走事件はいろいろ重なってではあったけど、ガーディアンは部品だけでもヤバいという事実の認識にはなったからなぁ。
しかもこの会場、ガーディアンの素体にできそうな人形が盛りだくさんだから、ガーディアン関係は徹底的に排除しておきたいってのも当然だね。
「そういえば、今回展示されている機械人形も、何体かはガーディアンの部品を使っていたのでしたっけ」
「みたいだね。ガーディアンって存在はヤバいけど、部品としては有用な面も多かったから、部品問屋が仕入れちゃったり販売したりしてたみたいだからねぇ」
ガーディアン自体の取引は無くても、部品までは禁止できていなかったとかなんとか。ガーディアンの部品を使って別の部品に変えてるのもあったそうだしなぁ。
「参加辞退や展示変更した人の多くが、ガーディアンの部品を別の部品に置き換えるができなかったとかだったかな」
「それだけ高性能だったというわけですね」
「だね。同等性能にするのは部品を大きくする必要があるとか、材料費をもっと積まないとダメとかもあるしね」
「そこに対応できない方は」
「技術がないか時間がないか、もしくは資金面がきついかってなるだろうねぇ」
ネジみたいな交換がすぐできそうな物なら良いけど、主要部品を使ってたら大変だろうなぁ。
しかも出来上がってたのに再設計を強制されるとか、物作りの人は泣いちゃうね。
開始から少し経ったけど、来る人はホント少ないね。入場できてない人も結構いるみたいだけど。
そんな入場した少数の人だけど、わたしのところまで来てもすこし遠くから見る程度、中にまで入ってこないね。
でも興味はあるようで、過ぎ去ったと思ったらまた近くまで来てるとか、そんなことをする人がほとんど。それなら入ってきなさいよとはちょっと思っちゃうけど。
「ほんと予想通りだなぁ」
「これは……やはりお嬢さまに対して」
「畏怖とかそういうのを持ってるからだろうね。何かあったら自分たちが処罰されるんじゃ? みたいなの。両極端だなぁ」
こんな会場でなく、学園内でも似たような状態。
距離を置いてわたしとの関わりをなるべく避けようとする人と、逆にドンドン迫って仲を深めて自分、もしくは自国の発展につなげようとする人の2種類がほんと多い。
そのせいか、学園の生徒で仲の良い人ってほとんどいない。まぁアリサ達が居るので気にはしないけど、ちょっと残念なのは未だに思っちゃうわ。
「ただ、誰か一人でも説明を受ける状態になってしまえば、続々と入ってきそうですね」
「かもねぇ。まぁその最初の一人ってのがなかなか度胸のいることだとは思うけど」
周囲の目もある中で。わたしというトンデモ存在の傍に行って話しかけるとか、相当だよね。
「このままだと案外、誰も来ないで終わってくれるかなぁ」
「さすがにそれは無いと思いますけど、しばらくはなさそうですね」
「まぁ準備した身としては、ちょっと残念かなぁとも思っちゃうけど」
そこまで乗り気じゃなかったけど、一応展示関係はバッチリやったからね。ちょっとした説明用の冊子も作っちゃったくらいだもの。
だからか、ちょっと見てもらいなぁと思うのもちらほら。
「でもなぁ、来ないなら来ないで、もっと遠くに居ればいいのに」
「そうなのですか?」
「おっとアリサさんや、わからないって顔してますね」
「急にドヤられた顔してますけど、さすがにわかりませんよ?」
うん、ほんとーにわかんないって顔してるね。
どうやらアリサもまだまだって事だね! まぁ、わたしの考えがトンデモナイだけかもしれないけど。
「だってね、よーくかんがえたら」
「考えたら?」
「人目が気になって、アリサとイチャイチャできないんだよ?」
「え、えーっと?」
「どうせならイチャイチャしてたいじゃん?」
「そ、それは、まぁ、そうですけど……。その、何て言いますか」
おっと、少し戸惑ってますね?
だけどね、わたしだからね。優先したいのは好きな子との触れ合いなのです!
時と場所は選ぶけど、こういう「ちょっとできそうなのになぁ」って状態だと、ついそんな考えも出ちゃうのです。
「でもなぁ、きっとそんな考えしてるときって、何か起こるんだろうなぁとも思ってるんだよね」
「あ~、それはありえますね。お嬢様の場合、何かを阻む存在が現れやすいというか」
「そうなんだよねぇ。たぶん今回も」
ってことをアリサと話してたら……うん、視界に入ってきたわ。
しかも周囲の目とか気にせず、さっくり中にも入ってきた。やれやれ、ついに出てきたお客様第一号って事ですか。
「よっ」
「予想はしてたけど、ほんと真っ先にくるのね」
「そりゃそうだろ? だってユキがこんな催しに参加するとか、まず無いだろ?」
「まぁそう言われるとそうだけどさぁ」
「なら気になって真っ先に来てしまうのも当然だよな!」
そう笑いながら堂々としている銀色の尻尾を持つ男。そう、絶対にくるだろうなぁと思っていたカイルが来たわけで。
付き添いというか、従者的な立ち位置のルーヴィちゃんも一緒ではあるけど、カイルがおっきな声でこんなことを話すからか、ちょっと恥ずかしそうにしてるね。
「あなたも大変ですね……」
「いえ、そんなことは無いですよ。少し師匠が暴走気味にはなってますけど」
「そうなのですか? 私からすると、駄狐に振り回されて大変だろうな、としか」
「おっとメイド、相変わらず言ってくれるな」
「えぇ、それはもちろん。駄狐に対して、何か配慮するという必要はありませんから」
うん、これも予想通り。
アリサがルーヴィちゃんにそれとなく気を掛けるけど、カイルとの仲は相変わらずなので、こういったバチバチ状態になっちゃう。何年たっても変わらないなぁ、この光景。
「とりあえずだ、この2体がユキが作ったヴァルキュリアなのか? なんていうか、ヴァルキュリアって言っていいのかわからない性能持ってそうだが」
バチバチはいったん休憩で、カイルが2体の人形をしげしげとみてる。
どうやら普通の人形じゃないっての、一発で見抜いたみたいね。
「まぁねぇ。と言っても、ヴァルキュリアじゃないんだ」
「そうなのか? まぁ外見は小さいが、戦闘もできるんだろ?」
「それはもっち! それじゃそうね、かる~く説明とかしますか」
最初に説明するお客はカイルとルーヴィちゃんになるかなぁって予想はしてたけど、本当にそうなるとは。
でもまぁその方が気楽だし、いっかな。
だけど……とりあえずアリサさんや、カイルを威嚇し続けるのは止めよーね?
いつもの光景ではあるけど、進まなくなっちゃうからね?
割と人目があってもいちゃついてる気もしますが・・・そういう娘です




