表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/362

31話 勇者がまたやってきたよ

少し長いです

「ようやく出てきたか。待ちかねたぞ」


 テントから出たら聞こえてきたのは男からのそんなセリフ。

 待っていた、ですか。その結果がこれですか。


「ねぇ、わたしのテントの周りを死体だらけにするとかどういう魂胆? しかもこの死体って傭兵帝国ってとこの先遣隊でしょ」

「もちろん俺様が殺った。こいつらは俺様にとっても敵だからな」


 敵、ねぇ。まぁいいけど。

 しかし、う~ん、なんかこいつの姿って既視感あるんだよなぁ、どこでだろ?


「お嬢様、彼は神聖王国の勇者様のようです。あの剣を見てください、柄頭にある装飾は神聖王国の教会のシンボルを模したものです。あの装飾がある装備をしているのは勇者様だけのはずです」

「へー、アリサ賢い! いい子いい子」


 アリサの頭をなでなで。照れながらもちゃんと撫でやすいように少し屈んでくれるところ、ちょっとうれしいです。

 しかしまーたこれ勇者との戦いなのかな。一匹見たら三十匹はいる感じにうじゃうじゃ出てくるなぁ。


「繰り返しになるけど、その神聖王国の人がわたしのテントの周りを死体の山にしたのはどういう意図なの?」

「そう怖い顔すんな、これはたまたまだ。だが、お前らに用があったのは確かだ。おいそこのメイド! お前、俺様の顔に見覚えないか? しっかり見てみろ」


 そう言ってこいつ、アリサの方をすごくいやらしい顔で見てるんですけど。お前のような奴、アリサが知るわけないでしょ。ひょっとして自意識高い系ってやつなのかな。

 って、あれ?


「う、うそ、そんな、まさか、あ、ああああ」

「どうしたの、顔が真っ青だよ」

「その表情、どうやら思い出したようだな。まぁ忘れることなんでできるわけねーよなぁ」

「おいゴ…、ごほん、あなた、いったい何者よ?」


 ゴミとか虫けらとか、そういう言葉はできるだけ使っちゃいけないって言われてたんだった。

 前回やらかしすぎたから気をつけなさいってお母様にも言われてるんだよねぇ。子供故にやりすぎるといろいろマズイって話だし、ほんと気を付けないと。


 しかしアリサがここまで怯えるって、ほんと何者?


「俺様の名前は勇者マッケルサ、お前らに倒された勇者サッケルタの兄だ」


 あーあの魔石ドロボーの兄弟か、どうりで既視感あると思ったわ。てことは復讐に来たのかな? 遠路はるばるこんなとこまで来るとか、暇なのかな。


 まぁいっか、とりあえず今はアリサを落ち着かせないと。ぎゅーっと抱きしめ。





「ふーん、で、あなたアリサに何かしたの? すごい怯えてるんだけど」

「昔のことを思い出させただけだ。殴るとそれはいい声を出してくれてなぁ、ほんと良かったぜ。殴りつける以外にも試し切りの的にしたこともあったが、その時も良い声で喚いてくれたんだぜ?」


 ……屑だな。生かす意味もないし、私がここで掃除し……ってダメダメ、まーた暴走しそうになっちゃった。おちつけーおちつけー。


「弱い子に暴力をふるうのが楽しいとか、ほんと救いようがないんだけど」

「当たり前の事だろ? 奴隷は物だ、人じゃないんだぞ? どう扱おうが持ち主である俺様の勝手、壊れたら買いなおすだけだ。物に対して欲情する変態もいるそうだが、あいにく俺様はそこまで腐っちゃいないがな」


 あくまでコイツとあの魔石ドロボーは暴力をふるう的として扱ってたわけね。

 従者や小間使い、身の回りの世話係などをさせるためではなく、的になるただの道具として。


「ほんと腐ってるわ。奴隷とか関係なく、命はそんな安い物じゃないよ」

「大層な事を言ってるが、お前だって似たような者だろ?」


 コイツとわたしが似ている? どういう意味なのかな。


「うちの王国東部での虐殺、それも男女問わず老人から赤子まで容赦のない皆殺し、その元凶がお前だってみんなわかってるんだぜ、狐のお嬢ちゃん。そんなことが平然とできるってーことは、軽く見てる証拠だろ?」


 ニヤニヤした顔で言ってくる。これは状況証拠ってやつかな? 物的証拠も証言する人も居ないはずだし。

 そもそもあの子たちをわたしが召喚したとこは知られてない、いや、盗撮されていたか一時的に助けた奴らが全部ばらした可能性があるか。まぁどうでもいっか。


 本気で責めてるというより、おそらくわたしの精神を揺さぶろうとしてるんだろうね。汚い手というか、正しい攻め方というか。

 たしかに罪悪感ですっごいうなだれ、自己嫌悪で酷い状態にはなった。だけどそれはとっくに乗り越えてるから。


「で? とりあえずあなたはわたしたちの敵ってことでいいのかな?」

「ちっ、思ったより精神面がしっかりしてやがる、全く動じねーな」

「わたしが問題起こすと家族みんなに迷惑かけるからね。で、もう一度言うけどあなたは敵でいいんだよね?」


 奴を睨みながらそう答える。

 正直、アリサがこんなに怯えてるのでさっさとこいつ倒しちゃいたいけど、でもいいのかなぁ。こいつにもそうだけど、アリサってなんか勇者全体に怯えてる気がするんだよねぇ。


 見たところそこまでの脅威は感じない、アリサよりちょっと強いくらいかな。

 なら今後を見据えて、ちょっとだけ鬼になってみよう。


「敵で合っているぜ。お前のせいであの優しい弟が片腕を失ったんだぞ? それだけじゃない、常に苦しみ、うなされ、殺してくれというほど酷い状態でな。こんな仕打ちをした相手を兄としては黙って見過ごせないだろ?」


 そう言って剣先をこちらに向けて、相変わらずニヤニヤした顔で言ってくる。

 自分が負けないと思ってるんだろうねぇ。おそらく負けたことが今までないんだろうけど、世界って広いんだよ?


 あとはあの剣だけど、おそらく聖剣ってやつだね。こいつのもクリスタル製で赤みがかかってる、おそらく炎を纏うとかそんなとこね。


「あれが優しいねぇ、まぁいいわ。というわけでアリサ、あいつをやっつけて!」

「え? あの、お嬢様、私には無理です。だって、あの人は」

「大丈夫、見たところあいつはアリサよりもちょっとだけ強い程度、連続展開や術技使えば余裕で勝てるよ。それに危なくなったらわたしが助けるからだいじょーぶ。なのでさぁ行ってこーい」


 返事を聞く前に、術式で軽く浮かせて奴の前にアリサを配置っと。

 倒せば勇者なんてざーこざーこってわかるはずだからね。さぁがんばるんだよアリサ。





「お前から来るのか。ふむ、物に対して手を出す気は無かったんだが、これはなかなかだな。このままでは惜しい、もう一度手に入れるべきか」

「ひっ、こ、来ないでください! そ、それ以上来たら、攻撃します!」

「おぉ、いいぞいいぞ、その恐怖に満ちた顔だ。それほど時は経っていないのにすごく懐かしい感じだ。さぁ、再び俺様を楽しませてくれよ?」

「い、いやぁ、こないで」


 あちゃー、思った以上にダメだった。恐怖に震えて今にも座り込んじゃいそう。


 でもなーんか引っかかるんだよねぇ。ただ怖いとかじゃなくて、絶対に勝てない理由があるみたいな? 怖い思いさせてることに心が痛むけど、ぎりぎりまで粘ってみるかなぁ。

 ほんとはアリサがさくっと攻撃すれば簡単に克服できる気がするんだけど。


「さぁ聖剣クリスタルオブフレイムよ、神に授けられし聖なる炎を纏いたまえ」


 あーやっぱり炎を纏うのね。

 天に掲げるポーズをしていると刃の部分のクリスタルが輝き、そして炎を発すると。


 んー、あれは魔石を組み込んだ古い武器だね。なんでそんな武器が聖剣ってなってるだろ。


「さぁ行くぞ! 必殺! フレイムゥゥゥゥゥゥストラァァァァァァイク!!!」


 兄弟そろって似たような叫び方だね、流行ってるのかな? わたしからすると炎を纏ったただの切り落としなんだけどなぁ。

 って、アリサ構えも出来てないし、ほんと予想より酷かったわ。


「アリサーしっかりー。はい大太刀を構えましょー、上段から来るよー」

「は、はい」

「そのような薄い剣で俺様の必殺の一撃に耐えられると、なにぃぃぃぃぃぃっ!?」


 うん、余裕で受け止めたね。

 ガッキーンっていうすごい音したけど、互いに刃こぼれもないようね。でもほら、余裕で受け止めれたからこれできっとアリサも……だめか。


「うぅ、こ、来ないでください、お願いします」

「なかなかやるな! だが、これならどうだ! フレイムゥゥゥゥゥゥゥ」

「アリサー、今度は横から来るよー、はい構えて構えてー」

「スラァァァァァァァァァッシュ!」

「ひぃっ」


 またガッキーンって音。


 怖がってるけどわたしの言ったことにはちゃんと反応できるあたり、完全に折れてるわけじゃないってことだね。

 でも克服させるにはどうすればいいんだろ。





「くそっ、まさか俺様の二段必殺技が防がれるとは思わなかったぞ。もしや貴様のその剣も聖剣か!」

「ち、ちがいます! 聖剣、なんかじゃ」

「まぁいい、お前をモノにすればわかること。俺様は弟のように甘くはない、一気に終わらせるとしよう」


 そう言うと何やら詠唱状態に入った、何をする気だろ? 魔力も高まってるし、う~ん、攻撃させた方がいいのか難しいな。


「目覚めたまえ、我に与えられし神の祝福よ! 発動、神威身強!!!」


 すると奴の体が光り、筋肉が増えたのか少しマッチョになった。あれは身体強化系の魔法か何かってことかな?

 神の祝福っていうから恐らく転生ボーナス、術名を分析すると〝神の威厳により身体を強化する術〟って意味がなんかアレだね。変な造語でもあるし。


「あ、あああ」

「俺様がこれを発動したからには、お前に勝ち目は一切無いぞ。さぁどうする」

「でも、私は、お嬢様の、だから」

「ちっ、まだ絶望しないのか。だがお前はもう終わりなんだよ! よーく思い出せ、暗く冷たいあの地下室で毎日毎日お前がされたことをなぁ!」

「い、いや、やめて」


 心が折れかかってるのか、完全に怯えちゃってるわ。う~ん……。


「そうだその顔だ! さぁ泣き喚いてくれ! フレイムゥゥゥゥゥゥストラァァァァァァイク!!」


 奴の剣がアリサに迫ってるけど……限界だね。


「術式展開、破邪の結界!」

「な、貴様!」


 これ以上やってもアリサの心が傷つくだけなので、結界張って割り込ませてもらいました。

 しっかし案の定、こいつの攻撃たいしたことないわ。強化状態でもこの程度ならアリサも倒せるはずなんだけど、うまくいかないね。


 それはさておきっと。


「ねぇアリサ、大丈夫?」

「お、お嬢様、私、その」

「ちょっと鬼教官したけど、まだ早かったみたいでごめんね。一発でも当てれば吹っ切れると思ったんだけどなぁ」

「ごめんなさい、でも、無理なんです」


 すごい泣きそうな顔をしてるなぁ、トラウマが相当きついのかな?


「どうして? 昔のこと思い出すから?」

「それもあります。でも、無理なんです。だってあの人は勇者なんです、祝福だって持っているんです。敵うわけ、ないんです……」


 涙を流し出したのでそっと抱きしめる。

 ギリギリまで頑張ってたみたいだけど、やっぱり限界だったみたいだね。


 しっかしそういうことかぁ。

 トラウマだけじゃない、勇者の祝福持ちには絶対敵わないっていう刷り込みのような物があるのね。


 ん~、それならそれで手はあるかな。


「ねぇアリサ、わたしも転生してるのは知ってるよね?」

「はい」

「でもわたしって転生ボーナス、その祝福ってやつ貰ってないんだよ」

「え? でも」


 うん、アリサがちょっと驚いた顔してる。

 どうやらわたしが思った通り、アリサは『転生ボーナスがある人は強い』っていう変な思い込みをしてるみたいね。実際はそんなことないんだけど、これは生まれた環境のせいかな。


「定番のアイテムボックスすら貰ってないんだよ~。でもさ、そういう力がなくても別に平気だし強いでしょ? そもそもお母様なんて転生者じゃないし、お父様は転生ボーナス使って勇者であることを解除させた強者だよ?」

「たし、かに」

「それに」


 そっとアリサの胸に手を当てる。


「ここには私の与えた魔石があります。これは他の勇者にはない、あなただけの特別なものです」

「で、でも」

「それでも心配なら、転生や勇者になることは無理ですけど」


 アリサの額にそっと口づけをする。


「神ではない、狐の祝福をあなたに与えます。その祝福を持ってもう一度立ち上がってください。そして見せてください、私が与えたものがあなたの中で輝いていることを」

「おじょうさま……」

念のための補足:

えっちいことはされていません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 狐の祝福、私もほしいよー!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ