304話 もしかして、回避できていない?
メイの家庭環境というか兄妹仲の現状とかを聞きながら、ちゃっちゃと測定用の魔道具を人形に配置っと。これで詳細情報とかが取れるかな?
それにしても
「なんとなくだけど、メイの兄妹仲をわたしが悪くした気がするなぁ」
「そうかな? あたしはそう思わないよー」
ちょっと気になったことを口走ったけど、メイは全然気にしてないようね。わたしの尻尾モフモフするのを優先し過ぎてるのは何とも言えないけど。
「でもさぁ、最初に会った時よりもギスギスって言うかな? なんとなく距離置きたいって感じだよね?」
「んー、たしなにそうかも。おねーちゃんに会ってから、おにーちゃんが変というか強引になったのは事実だし?」
「相当入れ込んでいたか、未来設計していたってことなのかねぇ。それがわたしという存在のせいで崩れたので暴走気味に、とか」
「かも? 小さい男だからしょうがないよね!」
「お、おぅ、すごいバッサリと」
さらっと小さいとか言うあたり、兄妹仲が相当悪くなってるんじゃと思っちゃうわ。
「でもさー、おねーちゃんもそうだと思うけど、前世のしがらみって適当にならない?」
「しがらみねぇ。ん~、特にそういうのは無かったと思うけど、前世の事を結構忘れるというか、実感無くなってるのはあるかなぁ」
魔道具の起動や設定しながら前世の事を考えたけど、ほんと薄くなってるわ。
まぁ転生してから今年で11年目、地球時間だとその4倍くらいなので、前世関連が適当になるのは当たり前だろうけど。大事なのは今世です!
「なんとなくだけど、前世の記憶とか感情が本に書いてあって、それを第三者であるわたしが必要な時に読む、そんな感じに近いかなぁ」
「あたしもそんな感じかな。なんていうか、実体験してきたって感情がどんどん薄くなって、それに伴う約束とかもどうでもよくなっちゃうんだよねぇ」
「前世は前世、今世は今世だからねぇ。まぁそんなわたしが相手なのに、ミツキはすごいとは思うけど」
「たしかに! ミツキは延長みたいなものだけど、おねーちゃんは別人みたいな存在だもんね」
ほんと、姿どころか年齢性別種族すら変わったのに、よくだよあの子は。
まぁ前世割り切ってるはずのわたしでも、ミツキ相手には延長っぽい感じにはなっちゃったようなものだけど。
「とゆーか、そんなこと言うってことは、メイとアレにも大事な約束みたいなのあったの?」
「あったよ! むかーし言ったかもだけど、おにーちゃんと結婚するとかって約束はしてたんだ。たーだー」
「ただ?」
「あたしはおねーちゃんの方が好きなので、そんな約束はどうでもいいになったのと、そもそもそんな約束してたかなぁって思うの」
尻尾モフモフしながらそんなこと言いだしてるけど、えっと、なんか真面目過ぎる状態になってないかな? こういう展開は想定していませんよ?
まぁ適当なこと言って茶化してぶった切るはしないけど。
「ひょっとしたら、おにーちゃんが何らかの方法で、あたしにそう思わせてただけなんじゃないかなぁって」
「あー、たしかメイって、あれが使った魔法だか術によって転生したんだっけ?」
「細かいところは違うかもだけど、大体そんな感じだよ。だから、転生の際に、おにーちゃんが思う未来図のために感情とか記憶をすり込もうとしたんじゃないかなぁって」
「うへぇ、それやってたら思いっきり変態というか、すっごくヤバい奴じゃん」
「だよね! うん、やっぱおにーちゃんはダメだね!」
ニコニコしながらバシッと言い切ったけど、なんともかんともだなぁ。
アレとの関係をわたしは良くしようとは一切思っていないけど、親戚という感情皆無の完全な敵という感情ばかりになりそうだわ。
なんとも言えない話をしつつ、魔道具の起動などはテキパキと。
うん、これで大体の設置とかは終わりかな? 人形の全身にいくつもの魔道具乗せたのもあってか、何ともSFチックな感じだわ。
「さってと、あとは……おや? エレンからの緊急連絡だわ」
身につけている魔道具がエレンからの緊急連絡を着信したけど、なんだろ?
とりあえず起動し、空間に画面を表示っと。
「どうしたの?」
『あぁ、よかったですわ。ユキさん達はもう帰られてましたのね』
「馬車へ乗り込む少し前に連絡したからね。エレンは見たところ、まだ学園?」
映像にはエレン達が学園の馬車乗り場へ向かっているところが見えてるわ。これからエレンの実家に帰るってとこだね。
『ですわ。少し遅くなってしまったのですけど』
「なんか慌ただしい感じだねぇ」
「人もいっぱーい!」
メイが言うように、映像には乗り場へ向かう人が大量って言っていいくらい映ってる。
たしかに帰宅時間は混むけど、なんかそれよりも多いんだよなぁ。しかも焦ってるのか、速足だったり駆けていく人も結構映ってるし。
『細かい内容はあとになりますけど、先ほど事件がありましたの』
「事件?」
「犯罪だね!」
「いやいや、そんなことはないでしょ」
『犯罪……とは違うかもですけど、少し危ない状況にはなっていましたわ』
エレンが真面目な感じで話してるから、どこかの生徒が馬鹿をしてボヤ騒ぎを~とかの軽いものじゃなさそうね。
『つい先ほどですけど、機甲科で整備中だった新型の機械人形が暴走し、学園の一部が戦場となってましたの』
「……はい?」
戦場って、いやいやまてまて。学園なのに戦場って、おかしくない?
「いろいろ聞きたいけど、そもそも機械人形って安全装置が何重にも設けてあったはずだよね?」
『ですわね。でも、それがすべて無効化されたのか、機能しなかったそうですの。しかも外部からの緊急停止も無効化されたそうですわ』
「うわぁ、それはちょっとヤバ過ぎ」
暴走とか意図しない殺傷とかが起きないように、機械人形の安全性は相当高かったはず。
なのに、それが無効化され緊急停止とかもできない状況とか、想像つかない状況ね。まぁわたしの目の前にも、わたしの命令しか聞かなくなった機械人形があるけど……。
とんでもない状況だなぁって思ったら、メイがうんうんと頷いてるわね。
「やっぱりおきたかー。もうちょっと粘ればよかったなー」
「メイ?」
「ほんと、おねーちゃんはあたしの予知を回避しちゃう凄い人だよね!」
「いやいやまてまて超まって? まさかメイが期待してたのって」
「もちろんこの騒動だよ!」
ドヤァって感じに言い切ってるけど、いやいや本当にまって? 事前に阻止しようと思ったかもしれないので、先に説明してもらいたかったんですけど。
まぁメイの場合、わたし以上に知らない他者への興味ってないから、その辺りの考えが抜けたんだろうけど。
「メイに文句言いたいような気はするけど、えーっと、それで事件というか暴走は終わったの?」
『えぇ、終わったのですけど、少し複雑なのですわ』
「複雑って?」
『新しく来られた方が居ましたわよね?』
「あぁ、メイと同じ世界の」
「あたし、あいつらきらーい」
『わたくしもあまり好きではないですわ! それでえっと、あの方たちですけど、どうやら機械人形を用意したようで、それを用いて解決しましたそうですの』
バシッと嫌われてたなぁアイツラってのは置いといて、自前の人形を使って暴走中の人形を倒して解決したってことか。
だけど、う~ん……。
「な~んか自作自演っぽく思えてきたなぁ」
『ユキさんもそう思いますのね。わたくしも嘘くさいというか、暴走した機械人形を倒せる場所に居るだけでなく、倒すための道具まで既に用意しているのが、どうにも用意周到に思えてなりませんわ』
「だよねぇ。物語が出来過ぎてる感じ、かなぁ」
妙に繋がりすぎるんだよなぁ。
暴走したのは新しい機械人形のようだけど、たしかその機械人形にはメイたちの世界にある技術を盛り込んでる。
技術の向上とかって考えでは良いことだろうけど、それが見事に暴走ってのはなぁ。しかもアイツラが解決できる状況で暴走しましたとか、仕込みがあったんじゃ? としか思えないわ。
「やっぱりアレだね、こっちに来た瞬間に排除しておくべきだったね!」
「排除って、急に過激だよ!?」
「むふー!」
「いやいや褒めて無いから……」
メイは相当アイツラが嫌いなようで、何とも物騒なことを言い出してるわ。
ただね、エレンさんや、貴女まで思いっきり頷いて肯定するのはどうかと思うよ? 気持ちは分かるけど。
しっかしなんというか、ほんと複雑で面倒な感じになってきたなぁ。
とりあえず目の前にある命令を聞くようになった機械人形から情報を色々と吸い出し、今回の暴走の原因になる要素がないかもふか~く調べるってとこだね。
やれやれ、複雑で面倒で、そして厄介な状態になってきちゃったわ。




