302話 もう帰りますよ?
少し長いです
思いっきり面倒な状況になったなぁ。
ん~む、いろいろ考えるのも面倒になってきたし、さっさと帰っちゃいましょー。
とはいえこの機械人形のせいですんなりとはいかないだろうから、権限も使っちゃいましょー。
「アリサ、ここの偉い人を一人か二人くらい連れて来てちょーだい」
「偉い人ですね。学科の先生はどうしますか?」
「そっちはいいかなぁ。見たところ、今は居ないっぽいし」
アリサにお願いしながら周りを再確認したけど、居ないんだもんなぁ。
学科の人がワタワタし、それを見た各生徒もザワザワし、おまけに機械人形2体がわたしの前で跪いてる状態なのに居ないんだもの、放任し過ぎの職務怠慢ですね!
「わかりました。少しお待ちくださいね」
「おねがいね~」
よっし、これであとは偉い人と交渉……に見せかけた場の制圧とでも言うべき権限使って、強制終了の全員解散にもっていくだけだね。
この機械人形が無ければ何もせず帰れたけど、これじゃぁどうしようもないからなぁ。
まぁ帰れるには帰れるけど、たぶん自動でついてくるのと、それに関する質問とか抗議とかの嵐が予想できるし。
「偉い人と戦うんだね!」
「戦わないから……。いったいメイは何を考えてるのかな?」
「それはもちろん、おねーちゃんと偉い人がもめだして、ついにキレた偉い人が人形を使っての一斉強襲しだして、それをバッタバッタと倒すおねーちゃんをあたしが見守る光景を考えてるよ!」
「だいーぶ具体的だよ!?」
「むふー!」
ずいぶんなこと考えてるけど、それは回避するからね?
なにより所属していない学科とはいえ、無駄な揉め事とか回避するからね?
「お嬢様、主任と副主任の2名をお連れしました」
「お連れって、なんか連行みたいになってるなぁ……」
少し待ってたらアリサが二人を連れてきたけど、ぐったりするどころか怯えてる感じで、何か脅迫したとしか思えません。
これはあれだなぁ、わたしの前で粗相をしないよう、軽く脅迫したんだろうなぁ。
「ユ、ユキ殿! 此度の騒動は、我々も」
「あー、そういう弁明みたいなの? 要らないから。それと、近寄ってこなくていいから」
「しかし!」
「いやホント要らないから」
わたし達のとこにくるなり、意を決した感じに主任と思われる男がズイッと寄ってきてなんか謝罪っぽいの始めようとするんだもん。まぁ予想できた光景ではあるけど、そういうのいらないのです。
それに今は交渉ではなく決定事項の通達って状況だからなぁ。アリサがその辺りは言ってそうだけど、それを無視してでもって感じなのかしら?
まぁそのアリサは、わたしがイラっとしそうになるのも察してそうで、物理に訴えて排除しようかって感じになってるけど。
「ぷぷー、おねーちゃんからの好感度減ってるねー」
「それは言わなくていいからね?」
「そうかな? こういうのはちゃんと言っておかないと!」
「興味が無い相手でも少し抑えようね?」
そしてメイは煽るというか貶すというか、結構な態度を出し始めてるなぁ。わたしも興味の無い対象に対しては適当だったり無視したりするけど、メイはそれ以上だわ。
まぁ今のはきっと、揉め事に派生させての戦闘開始! ってのを期待してる感情からだろうねぇ。期待し過ぎ感があるけど。
「えっと、とりあえずこっちの言いたいことは」
「ですが!」
「しっつこいなぁ……」
「黙らせますか?」
「うん、と言いたいとこだけど、抑えよーね?」
わたしが不満な感じになったからって、物理で黙らせようにとるのはだめです。
やれやれ、うちのアリサさんはちょっと過激です。まぁ専属メイドは主人の護衛でもあるから、ある意味間違ってはいないのかもだけど……。
その後も面倒というか、もめ気味にはなったけど、こっちの要望というか決定事項をどんどん飲ませていく。
ちょっと強引だけど、そういう事ができちゃう権限を学園側が付与したんだから、悪い事じゃない。なので恨まないよーにっと。
「つまり、本日は解散させ、ユキ殿達もお帰りになられる、という事ですか」
「んだね」
「そして今回暴走したヴァルキュリアも引き取る、と」
「原因は調べたいからねぇ」
主任の人が少し怯えながら応対してるけど、今回のこれって暴走になるのか。
まぁ命令を聞かず、第三者であるわたしに跪くという謎の行動ではあったけど、それが暴走になるとはねぇ。
「しかしベーシックタイプとはいえ、新型のヴァルキュリアを引き渡すのは……」
「ベーシック……基礎機体ってことか。ならそこまで問題ないでしょ? どうせ学科の人には販売してるんだろうし」
「確かにそうですが、所属していない者への販売は想定しておらず、いろいろと機密が」
「機密ねぇ……」
う~む、解散の方は何とかなったけど、やたらと人形の引き渡しを渋ってるなぁ。
機密言ってるけど、この2体は基礎となる機能だけの機体なので、この学科の秘蔵ってわけじゃない。特定の顧客向けに改修した機体なら機密だらけだろうけど。
そもそも今は学科内の話だけど、この機械人形は外部販売もする機体のようだから、外に絶対に出しちゃいけない仕様にはなってないはずなんだよなぁ。
「ん~、たしかこの機械人形って、1体につき大金貨10枚だっけ?」
「ベーシックタイプであれば」
「となると……こんだけ出せばいいか」
「なぁっ!?」
ポーチからサクッと白金貨20枚を出し、机の上に置く。うん、相当驚いてるね。
「1体白金貨10枚、2体なので20枚で買うわ。それなら文句ないでしょ?」
「し、しかし……」
「もちろん今回の事象についての調査結果はそっちにも流すよ。ただ」
「ただ?」
「わたし経由でなく、うちの国経由になるかもね~」
「国けいゆぅ!?」
「ずいぶん驚いてるなぁ」
大声で叫ぶだけでなく、なんか震えだしてるけど、そんなになるとはねぇ。
とゆーか、普通に考えればすぐわかると思うんだけどなぁ。
わたしという存在がレグラスでどう扱われてるか。そしてそのわたしが同盟国であるアルネイアの学園で、なんとも厄介そうな事件に巻き込まれる、ってなったら、国が動くのも当たり前だと思うんだけど。
これはアレかなぁ、いろいろあり過ぎて正常な思考ができない状態ってことなのかねぇ。ただの馬鹿ってことは無いハズ。
二人が相談しだしたので、それが終わるまでしばし待つ、髪を指でくるくるしながら待つ。うん、髪に痛みとかは無いね! あたりまえだけど。
「ご提案について、わかりました。ですが」
「ん? 神妙な顔つきになったけど、何かあるの?」
提案じゃなく強制なんだけどなぁとは言いたいけど、そこはがまん。だからアリサ、そう睨んで脅しちゃだめだよ?
「先ほども触れましたが、このヴァルキュリアは新型です」
「えらいソコにこだわってるなぁ。それで?」
「近く、ヴァルキュリアやヴァルキュリオを使用した大会の開催があります」
「ん~っと、定期的に開催されてる機械人形の武闘大会的なのあったけど、それのことかな?」
この学科が主導になって開催する人形対戦! って感じではあったけど、あまり興味がわかないので参加してないんだよなぁ、あの大会。
これはきっと、わたしが機械人形を使っていないのもあるけど、この学科に対する心証があまり良くないのが一番の理由かしら?
「その大会に、此度の新型ヴァルキュリアとヴァルキュリオが参戦します」
「あー、なんか読めてきた。つまり、その大会にわたしも出ろってこと?」
「その通りです! 学園どころか多方面で有名なユキ殿に参戦していただければ、我々としても大いに助かります」
「助かるって……実際は客寄せじゃん」
この新型を色んな方面に宣伝したいので、そのための集客に力を貸せってことなんだよなぁ、これ。
「参戦いただけるのでしたら、2体のヴァルキュリアをお渡しするだけでなくカスタマイズも対応しますが、いかがですか?」
「ん~、権限使って強制的に持ってくこともできるけど、そこまで鬼にはなりたくないしなぁ」
別に思い入れとか一切ない学科だけど、何でもかんでも力使って強引に済ませるってのはやりたくないんだよなぁ。
ちょっと甘々な思考とも思えるけど、無駄に敵作るよりかはとも考えられるわ。
「であれば!」
「しょうがない、客寄せ参戦はするよ」
「おぉ! ありがとうございます!」
「今度は暑苦しいなぁ……」
周辺温度が2度くらい上がりそうな反応とか、相当この新型に自信があって、いろんなとこに広めたいってことなんだろうね。
そういう情熱、わからんでもないかな?
「ただ、そっちが改良するとかは要らないわ。このままの状態で良い」
「よいのですか? 我々の学科であれば、ユキ殿の望む装備や姿にする事も容易く」
「そういうのは自分でやるから」
「ほぅ、ご自分で、と。なるほど、それはとても興味深いですな」
「うへぇ、今度は怪しい眼差しとか、変態だわコイツ」
ニヤァって感じで、ほんと気味悪いです! 我慢しきれずに口走っちゃうくらいです!
「まぁいいや、手続きとか会の終了とか、始めてちょうだい」
やれやれ、これでさっさと帰れるね。
「えー? 帰るのー?」
「ちょっとメイ、そのいかにも何か起こるの待てますって感じのぶーたれはどうなのよ」
「だって、もーちょっと待てばおねーちゃんの戦闘が!」
「それは全力で回避するからね!」
「ぶー!」
本当にこの子は……。
わたし、戦闘狂でもトラブル発生機でもないんだからね? そういうのを想定した期待は勘弁よ、ほんとーに。
イベント大好き妹ちゃん
ただし姉は疲れる




