301話 あーあ、動いちゃった
機械人形の起動で場がワタワタしてるけど、なんだかなぁ。
『駄目です! 起動はしていますが、制御を受け付けません!』
『補助端末はどうなっている!』
『弾かれています! え? ちょっと待ってください、これは……こちらの情報を解析している!?』
『な、なんだとぉ!?』
と、思いっきり拡声器の電源いれたままで状況を説明してるんだもん。ちょっとダサいですよ?
「まだかなー? まだかなー?」
「そしてメイはワクワクしっぱなしと……」
「えー? だってこれ、暴走して襲ってくるだよね? それ以外ないよね?」
「そんな期待のまなざしでわたしに訴えて来なくても……」
「むふー!」
ほんとーにメイは期待しまくってるなぁ、イベント発生的なのを。
「お嬢様、まずここは」
「あーそうかも」
「なになに?」
「えっと、このままだと本当に暴走して、わたしに挑んでくる状況もあり得るよね~ってことで、戦いやすいようにこの場に居る人を全員退去させようかって相談」
「強制退去の命令権限ですね。お嬢様がこの学園で暮らすために新規制定された権限の一つではありますけど」
「事前に聞いていた姉姫サマ専用ってやつですねー。ただ、思っていた以上に強力なので、少しドン引き感ありますね?」
「たしかに! まぁあたしとしては、おねーちゃんが強いのは良い事です!」
アリサの説明でコレットちゃんが少し苦笑いしてるなぁ。確かにちょっと強すぎる感があるからしょうがないけど。
ただ、メイのその反応はどうなのかな?
確かに顕現を使いまくれば場の支配だけでなく、わがままを思い切り通すことができなくもないけど、それは強さじゃないからね? とゆーか使わないからね?
さてさて、それじゃアリサに
『ま、まさか!?』
『どうした!』
『改修中のヴァルキュリアまで起動しています!』
『な、なんだとぉ!? しかし、あのヴァルキュリアは外装どころか、内部機構すら』
『ですが、起動しています!』
あー、うん、また何か起こったみたいね。にしてもあの主任っぽい人、なんだとぉ発言が癖になってそうだわ。
「ぷぷー、全部聞こえてて、恥ずかしー」
「ちょっとメイ、それをバッサリ言っちゃいけないよ? み~んなそう思ってるけど、向こうの立場とかを考慮して黙ってるんだから、ね?」
「えー? とゆーか、あの発言からして2体目も来るんだよね? つまりー、人形2体を圧倒するおねーちゃんが見れるってことだね!」
「いやいや、起動しただけだから。襲ってくるとかは無いから」
目をキラキラさせて、ほんと期待しすぎだよこの子。
まぁ起動した人形が制御不能で暴れるってのは定番ではあるんだけどさぁ……。
「そもそもだけど、起動後の命令をはじく緊急で問題ありな状態みたいだから、今は安全機能が働いて何も起こらない状態に遷移してるはずなんだよ」
「そうなの?」
「そうなの。さすがに起動失敗して暴走事故が多発したら、機械人形を取り扱う会社とかの信用問題だけでなく、国を交えた大ごとにもなりえるからね」
機械人形を使っている王族いれば貴族さんだっている。
そんな偉い人たちに使ってもらうためには機能や性能だけでなく、安全も当然考慮するからねぇ。
「ほんとーに起動直後に暴走させるなら、安全機能を破壊したり侵食したりする機能が必要だけど、それはさすがにしてないと思うよ」
「えー? それじゃあたしの希望がかなわないんだけどー?」
「その希望は諦めようね?」
「ぶー!」
まぁ侵入者が居たらメイの希望もあり得るけど、さすがに学園内の学科においてある機械人形を狙うというのはおかしいよね。
狙うなら機械人形の親工場とか、大きな機械人形改修業者とかになるよね。あとは機械人形の新技術とか改良に関して有名な学者宅とかかな?
「じゃぁじゃぁ、どうすれば襲ってくるの?」
「どんだけ期待してるのよ……。まぁ襲うかどうかはともかく、今は起動しての待機状態になっているだけだから、集合させるとか襲撃用の機能を動作させるとか、そういう手間が必要にはなるね」
「へー。じゃぁおねーちゃん」
「しないからね?」
「えー?」
暴れさせるように命令するとか、しませんよ? いくらメイが残念そうな顔しても、しませんよ?
「そもそもだけど、わたしが命令しても動かないから」
「でも起動したよね?」
「ぐ、偶然じゃないかなぁ……」
「偶然は無いと思うよ! 必然なんだよ!」
「必然って、それはまたなんか違うと思うんだけど」
もしもわたしが機械人形の専門技師とか研究者だったら何かしていたとか、特殊な能力を持っていたって可能性もあるにはあるけど、違うからなぁ。
いや、だとしても必然は無いよね……。どんな能力があろうとも、わたしはトラブル招き娘じゃないですし?
「ためそーよー?」
「試さないから。猫なで声で言われても試さないから」
「かわいいあたしのお願いでも?」
「それでも試さないからね?」
悪い事じゃなければなんでも叶えそうなわたしだけど、こういう事はちゃーんと拒否するから。言いなり娘にはなりません!
「とりえあえず、権限使う前に向こうとお話かなぁ。いきなり宣言するのもちょっとあれだし」
「ですね。通さずとも懲罰になる事はありませんが、通しておいた方がお嬢様の印象がさらに良くなりますしね」
「え? そうなの?」
「そうなのです」
「断言された!? たったそれだけで上がるわたしの存在って……」
もともと印象は良いようだけど、そんな些細の事でもバッチリ上がるとか、どこかの宗教何ですかねぇ……。
「ま、まぁいいや。それじゃあの集団のところに行きますかねぇ」
「呼びつけるとかはしないんですか? うちの姫サマなら十中八九〝話をするからこっちに来い!〟になるのに」
「えー? あたしはそんなことしないよ? ちゃんと〝話があるからこっちに来い、そして土下座していろ〟ってするよ!」
「ちょっとメイ……」
「むふー!」
「いや、そんなドヤる発言じゃないから……」
これは王族という立場の問題もあるかもしれないけど、興味の無い相手には凄い対応してる影響だろうなぁ。土下座はどうかと思うけど。
まぁわたしも相手が敵だったら似た発言すると思うので、メイが少し強い発言する気持ちもわかっちゃうけど。
学科の人がワタワタしたままで全然収拾しないし、そろそろ動きますか。
「しっかし、せめて命令で〝待機状態を解除し、集合せよ〟とかってできないのかねぇ。割と邪魔だよ、この人形」
「そうですね。それではお嬢さ……おや?」
「きちゃったね!」
「ほんとうにきちゃったよ……」
アリサが気付くと同時くらいに、機械人形が待機状態から行動開始状態にでもなり、そのままわたしの前に歩いてきて跪いちゃったよ……。
しかもなぁ……
『駄目です、止まりません!』
『ど、どうなっているのだぁぁぁぁぁぁ!!!』
ばごーんって音でどこかの壁が破壊された後、ガシャガシャと機械特有の音を立てながら機械人形、改修中ってやつだね、それもやってきたわ。外装が無い機械の骨格状態なので中身丸見え、片腕も無いみたいね。
そんな骨格状態の人形もわたしの前に来て、そのまま隣の機械人形同様に跪いたわ。
これはもう、はぁ……
「……命令権、わたしが持ってるみたいね」
「さすがおねーちゃんだね!」
「いやいや、これにさすがもないと思うんだけど。ほんとーに偶然なんだけど」
「またまたー」
「いやいや、ほんとーに身に覚えがない事なんだよ」
機械人形の製造会社取締役なので特別な顔認証とか音声認証があるとか、制御可能な装置を持っているとかは本当に無いんだけど。
あとはこの学科に所属していて、夜な夜な改造したお気に入りの人形という特別な関係があるとか、そういう物語的なのもないんですけど?
「とりあえず、私は向こうの方達を止めてきますね」
「あぁ……お願いね。なんか口パクパクしてるし」
「魚みたいだね!」
「いや、それもバッサリ言わなくていいから……」
本当にメイはバッサリ言っちゃうなぁ。そのせいか、お披露目が想定通りにできずボロボロになっている学科の人たち、名声とか名誉みたいのまでズタズタになってる感あるわ。
しっかしこれ、ほんとどうなるの?
機械人形を強制制御できる特殊能力があるので、今後の発展も兼ねてこの学科に所属しましょー、になったら嫌なんだけど。
もしそうなったら……別の強制力がある権限、発動しちゃおっかなぁ。




