300話 メイの思惑通り?
真打登場って感じに、2体の機械人形が運ばれてきたわ。既存の機械人形との動作比較をするみたいね。
「アレってこっちだと有名な人形なの?」
「有名だねぇ。家事から戦闘まで、部品を交換すればすぐに対応できるっていう、使い手の希望に沿いやすい汎用性人形だよ」
「へー。でもおねーちゃん、あまり興味ないって感じだね。いじったり改造したいって雰囲気がないもん」
「まぁねぇ。あーいった機械人形を見ても、うちの従者との比較がよぎっちゃうからか、魔道具の方が好きなので魅力が沸かないのか、自己認識していない要素でもあるのか、なんかそんな感じがあって何かしたいって気分にはならないんだよねぇ」
機械は嫌いじゃないけど、どうもこの機械人形は好きになれない。人に似すぎてる感じもあるからかな?
「見たところ向かって右側が既存の人形で、その隣に居るのが今回の人形みたいだね」
「ほー。でも、うーん? どっかで見たことある!」
「あーそれはあるかも。あの人形、魔物であるヴァルキリーの外見を模してるからだね。名称も女形がヴァルキュリアで、男型がヴァルキュリオってなってたかな」
いかにも転生者が付けましたって名称はともかく、メイが気付くくらい魔物に似せてるんだよなぁ。
まぁヴァルキリーは魔物の定番で、俗にいう戦乙女の格好に近いわけで。目元は兜で隠れているけど手足などの外装が無い部分は只人同様の肌を持っているので、怖いとか異質って印象を持つ人が少ない魔物だし。
そんなヴァルキリー風の機械人形だけど、旧型は青基調の鎧に対し、新型は赤基調の外装になってる。違うのはその位で、外見はほぼ同じかな?
独自装備とか出したらいいのに、ってちょっと考えちゃうけど、見覚えがある感じの方が親しみがわきやすいとか安心感を得やすいとかってのがあるので、そっちを優先してるって感じかしら。
「ヴァルキリーかぁ。じゃぁアレって強いの?」
「ん~、強いと言えば強い、かなぁ。戦闘用に強化された人形だとエルダー級のヴァルキリーと同等になるから、そこらの魔物には負けない強さはもっているかな」
「エルダーなの? エルダーってエンシェントの下だよね? じゃぁ弱いじゃん!」
「いやまぁわたしたち基準だと弱いけど、普通の人からすると強いんだからね?」
わたし達の場合、現存する一般的な魔物の最上位と言われるエンシェント級ですら雑魚としか思えないので、その下のエルダーだともっと雑魚に考えちゃうのはしょうがない。こういうのも強すぎる側特有の考えだなぁ。
とはいえ、普通の人だとエンシェント級はもちろんのこと、エルダーやエンペラーなんかの魔物ですら強いって領域なわけで。そう考えると、ソコソコ強い人形と考えられるね。
「ふーん。そいえばー、こっちでも機械人形には自意識ってないの?」
「無いねぇ。人工知能を載せることは出来るけど、人と同じような感情とか意識を持たすのは禁止されてるからね」
「それって人権とかから?」
「だね。機械の体を持つ種族はいるけど、人形に意識を芽生えさせて人として扱うのは問題あり過ぎてなってるね」
いろんな種族が存在するこの世界、機械の体を持つ種族だって当然存在する。
だけど人為的に意識を持たせ、技術者の思い通りの機械生命体を生み出すのは禁止、というよりも禁忌になってる。当たり前の事だね。
ただなぁ、ダメなのが分かっているのにやっちゃうバカも居るのがナントモカントモなんだよなぁ。まぁ実際にやった人はことごとく逮捕、というか処分されてるようだけど……。
『それでは皆様、ご覧ください! 我々が開発した新世代のヴァルキュリアを!』
既存の機械人形を動かして動作の説明などを一通りした後、司会の人がドバーンって感じに言い出したけど、なんというかずいぶんと勿体付けてるわ。
説明といい前置きといい、ちょっとやり過ぎ感もあるし。これで失敗したらどうするのかね?
「おねーちゃん! これはアレだよね! 暴走するやつだよね!」
「いやいやメイさんや、そんなキラキラした目で物騒なこと言うもんじゃないよ?」
「えー? だってこの流れは明らかじゃーん」
「まぁそうなんだけど、その、メイが言うと冗談でなくマジに起こりそうだから」
予知できる子が言うもんじゃありませんって何度も思っちゃうわ。
『ヴァルキュリア、起動!』
司会が片腕をバーンと伸ばして宣言したけど、なんていうか、ほんと定番の流れになってるなぁ。
メイのせいじゃないけど、これはもう暴走する流れとしか思えないわ。
「わくわく!」
「そのわくわくは絶対に違う方だよね?」
「そんなことないよ! あたしとおねーちゃん、どっちに挑んでくるかなって興味だけだよ!」
「いやいや、そっちに辿り着くのが違うわけでね?」
戦闘狂ってわけじゃないけど、どうにもメイはトラブルとかを楽しみたがってるとこがあるなぁ。好奇心がスゴイというかなんというか……。
「あれ?」
「ちょっとメイさんや、その事件を呼び寄せるような発言はどうなのかな?」
「でもおねーちゃん、あの人形、動かないみたいだよ?」
「ふぇ? 暴走とかでなく、起動しないって方?」
やれやれって感じになってたので見て無かったけど、どうやら想定外の事態は起こったようね。起こらない方が良かったけど。
司会が慌てるだけでなく、学科の人たちが人形に近寄って調べたり機械を繋いだりしたりと、思いっきりワタワタしてるわ。なんで起動しないのかって調べてるんだろうね。
「だけど、う~ん……待機状態には移行してるっぽいなぁ」
「そうなの? とゆーことはー」
「そこから急に暴走とかにはならないからね? というかならないで!」
「えー? だってここはさー」
「えー、じゃないよ、えーじゃ……」
ほんとーにこの子、暴走期待し過ぎてるわ。
しかもわたしだけでなくアリサも少し引いてるし、コレットちゃんまでメイをジトーって見てるよ。これはアレだね、メイの暴走は想像以上ってことだね。
「んっと、あの機械人形の胸部に宝石があるでしょ」
「あるね! あたしとしては、もっときれいな宝石が良いと思うけど」
「それはわたしも同感。んでまぁその宝石だけど、人形の状態が把握できるようになる部品なの。黒い状態は停止、黄色い状態は待機、青い状態は起動ってなってるんだ。あとまぁ赤い状態だと機能不全とか、予期せぬ事態発生中になるけど」
「今は黄色いから待機ってことなんだね」
「そゆこと。待機状態になれば所持者、もしくは管理者が口頭で指示すればそのように動くんだけど、動かないみたいだねぇ」
何人かが声を掛けたり、外部機器を使って強制動作させようとしたりてるけど、うんともすんともが続いてるわ。
だけどどういう事だろ? 故障状態に移行とかではなく待機状態のまま、ってのは気になるわ。
そのまま数分経つけど、いまだに動かない。これはもう完全に失敗だね。
「さてと、どうしよっか」
「えー? 暴走またないのー?」
「またないし、暴走しないから。それに、これ以上待っていても何も起こらないだろうから、他の学科見るとかにしようかなって考えてるんだけど」
「そっかー。んー……」
メイがわたしの尻尾をモフモフしながら考えだしたけど、よっぽど暴走期待してたのかねぇ。そうでなければサクッと返答するはずだし。
でもね? 何も起こらない時は起きないんです! 常に問題が舞い込んでくるとかは無いんです!
「なにか暴走させる手は……」
「なに怖いこと言ってるのよ……」
「だってー。そいえばー、管理者とかが命令しない場合、あの人形ってどうなるの?」
「その場合はずっと待機状態だね。勝手に停止するとかもないよ」
「他の人が命令しても動かないの?」
「動かないねぇ。なので、わたしが〝起動しろ〟って言っても、何も起こらないよ?」
「ぶー!」
膨れたけど、そういうことまで考えていたのかいな。
やれやれ、いくらわたしの魅力が高いからって、意思の無い機械人形まで魅了するとかは
『な、なんだ!? 急に起動したぞ!?』
『どうなっているんだ!?』
……ヤメテ? そういうのはほんとヤメテ?
「むふー!」
「いやいやメイさんや、何喜んでるのかな?」
「だって、おねーちゃんの命令で動いたもんね? これはもう、ね?」
「いやいや、まって? これで喜べるとかは無いからね?」
ほんとーに喜べないんですけど?
管理者権限の無いわたしが管理者になってるとか意味不明だし、ぼそっと言っただけで反応しちゃうとかもわけわかんないし。なんかすっごい問題が起きた感じなんですけど?
なんかもい、これなら暴走してくれた方が良かったかもしれないわ……。
ほとんどトラブルメーカーになっている狐娘たち




