293話 視線はやっぱり多いのです
視線が気になりつつも何とか教室に到着。ふぃ~、なかなかしんどかったわ。
「ふ~ん、ゴミばかりじゃ無いみたいだね」
「ん? それって教室に入らなくても、中の人の強さが分かったって事?」
「そうだよー。あたしの探知能力をなめたらだめだよ!」
「なめたりはしないけど、そういう能力までわたしよりも優れてるんだなぁ」
「むふー」
おやまぁ、メイが少しドヤッちゃったよ。
でもまぁ分からないでもない。一応この教室、外からは内部が分かりにくい仕掛けが機能しているから、大まかな人数はわかるけど能力まではわからない、そんな特殊な部屋になっている。わたしですらボンヤリとしかわからない。
だけど、メイはボンヤリではなくハッキリとわかっちゃったようで。なんていうか、わたしのほうが勝っている部分ってあるのかな? って本気で考えちゃうわ。まぁ無くても悲観するとかは無いんだけど。
そんな余計なことを考えながら、部屋に入る。
う~ん、予想はしていたけど入った瞬間、視線が一斉にこっちに着たわ。やっぱりメイも居るのが相当目立ってるんだなぁ、普段以上だよ。
「……おねーちゃん」
「だめだよ?」
「ぶー」
これも予想通りだけど、メイが一気に戦闘状態というか殺意マシマシになったというか、周囲の者を排除しようって感じになっちゃったわ。
「だってコイツら、明らかにおねーちゃんを下心満載で見てるんだよ?」
「ん~、今のはわたしじゃなくメイの方だと思うよ」
「ですわね。普段も確かにユキさんを目で追う方は多いですけれど、今日は入学初日くらいの勢いですもの」
「ほんとーに? 二人であたしを騙してない?」
「そんなことは」
「ないですわ」
「ふ~ん。じゃぁそういう事にしておくね」
わたしとエレンの説明で一応納得したのか、メイが渋々だけど殺意とかをひっこめたわ。素直ですねぇ。
これがもしも納得できないって状態のままだったら……想像したくないね。
面倒なことが起らぬよう、そそくさと席に座る。場所はいつも通りの後方窓側、景色が良くて素晴らしい。
「それにしても、あたしが思っていたよりもクラスに人が居るんだね」
「そうだねぇ。編入生や留学生も多いから、わたしが来た当初より増えてるかな。当然その人の従者とかもいるわけだし」
「ふーん」
「あら、メイさんは不満のようですわね。ひょっとして、ユキさんに言寄る人が多そうで嫌とかですの?」
「そうだよ! 本来なら教室内に居るほとんどの奴を消したいくらいなんだよ!」
「相変わらず過激だなぁ……」
エレンの指摘にメイがバンバンと机を叩きながらそんなこと言っちゃうんだもの。しかも冗談じゃないっぽいのがナントモカントモ。
「姫サマ~、あまりそういう事は言わない方がいいですよ」
「えー? だってー」
「そういうこと言っていると、姉姫サマに嫌われちゃいますよ?」
「そうなの?」
おっと、不安げな表情でメイがこっち見ながら聞いてきたよ。さっきの勢いはどこへやらとか、やりますねコレットちゃん。
ではではバシッと
「嫌いにはならないけど、ちょっと嫌ってのはあるかなぁ」
うん、バシッと言えずにやんわりとになってしまったわ。ほんとわたしって好意のある相手には甘くなりすぎるなぁ。
「それはどうして?」
「ん~、一番の理由は家族や国に迷惑がかかるから、かなぁ。わたし自身が不利になるとか被害に遭うとかは何とでもなるけど、迷惑かけるのはちょっとね」
「そうなんだ。じゃぁやめておくね! そんな聞き分けの良いあたしを、おねーちゃんは~」
「はいはい、全部言わなくてもわかってるから」
「むふー」
そう言いながらメイの頭をなでなで。撫でられているメイは満足げな顔してますね。さすがわたし、なでなでの上手さも相当なものです。
「でもあれですよー、お嬢様が実際に被害に遭う状況になったら、レグラスの偉い方達とかがでてきちゃいますよー?」
「あー、それはそうかもしれないわ。ほんと過保護だからなぁ、うちの人たち」
「それにですけどー、私達メイドはお嬢様第一の教育を受けているので、偉い方の前に私達、というより先輩が早々に暴れちゃいますよー?」
「ちょっとノエル? それはどういう事ですか? それではまるで、私が盲目的かつ猪突猛進みたいじゃないですか」
「え? その通り……あっ、何でもないでーす」
ノエルさんや、アリサの威圧に負けて引っこめるの早すぎよ。まぁこうなるのが予想できてても言っちゃうのがノエルなんだけど。
でもまぁノエルが言ってたこと、実はわたしもそう思っちゃってるんだよなぁ。嫌とかは無いけど。
「お嬢様?」
「なんでもないよー」
「そういう事にしておきましょう」
いかんいかん、どうやら顔に出ていたわ。間にエレンが挟まっての横並びで座ってるのに、ほんとよく見てるなぁ。
でもこれじゃぁ悪いこと考えられないね! って、うん、またじーっと見られちゃうのでこれ以上はやめておこう。
雑談を少ししていたら、マクレン先生がやってきたわ。
「おねーちゃん! ピカピカだよ!」
「ちょっとメイ、その発言はいろいろと問題があるからやめよーね? あと、一応謝っておこうね」
「は~い」
まぁマクレン先生の場合、印象を与える目的もあるらしく、あえてピカピカにしてるから言っても怒られたりはしないんだけど、そうじゃない人に対して言ったら問題あるからねぇ。
だけど、メイはその辺り結構言っちゃう性格だからなぁ。あらかじめ注意しておかないと大変……って、なんとなくこの思考、お姉ちゃんっぽいね!
「ほう、お前がユキの妹みたいな娘か」
「そうだよ! あっ、えっと、ピカピカ言ってごめんなさい」
「おう。まぁオレは意図的にこうしてるから気にしないが、そうじゃない人もいるからな、気を付けるんだぞ。まぁあれだな、気になっている者も多いだろうから、嬢ちゃんは自己紹介してくれるか」
そう言って先生が手招きをしている。どうやら教壇の方に立って挨拶をしてくれって感じみたいね。
「おねーちゃん」
「あー嫌なら断ってもいいよ。別にこれ、強制じゃないから」
「ですわね。編入された方の中には断った方もいましたので、大丈夫ですわ」
「そうなんだ。でも、う~ん」
わたしとエレンが軽く説明したけど、メイが腕を組んで少し唸ってる。てっきり即断ると思ったのに、何かあるのかな?
「自己紹介って、何を言ってもいいの?」
「大丈夫じゃないかな。わたし達から見て前方3列目に座ってる金髪男さんなんて、自慢話を30分くらいしてたから」
「ありましたわねぇ、そんな事も。たしかあの時、ユキさんは途中で寝ませんでした?」
「そう言うエレンも寝てたよーな?」
「かもしれませんわ!」
あの金髪さんはどこかの貴族らしいけど、全然興味なかったからね。興味が無い相手の話は聞いてると、なぜか眠くなっちゃうからね。興味のない話よりも睡眠が大事です!
とはいえ普通は無礼な行為になるので寝たらダメだけど。
「そっかー。それじゃちょっと行ってくるね! コレット!」
「もちろんボクもお供しますよ!」
そう言って二人が立ち上がり、教壇のほうに向かったわ。若干気合い入れてるよ-な?
だからかな、なんか嫌な予感が。変なこと言わなきゃいいんだけど、ちょっと心配だなぁ……。
マクレン先生はカッコイイ禿げです




