291話 朝から不意打ち?
第8章の開始です
う~ん……なんか苦しい。何かが乗っているというか押さえつけられてるというか。
しかもこの変な状態のせいで、もうちょっとのんびり寝てたいのに目が覚めてきちゃったよ。
しょうがない、まずは状況を確認するため、少しモゾッとしてから目を開け……は?
「メイ?」
「むふふー。おねーちゃん、おはよー」
「おはようって、いやいや、ちょっとこの状況はどういう事なの!?」
眼を開けたら、メイが思いっきり抱きつきながら、わたしの尻尾をモフモフしてる場面が飛び込んできたんですけど!?
「まずはどこからツッコむべきか」
「むふー、やっぱりおねーちゃんはふわふわで良い匂いで、最高だね!」
「その発言はかなりアウトだよ……」
この子、完全に発情してるよ。いやまぁわたし相手だとしょっちゅうしてる印象もあるけど。
「あっ、だいじょーぶだよ、エッチなことは〝まだ〟してないから! 狐耳をフニフニしたり尻尾をモフモフしたり、ほっぺをプニプニしてただけだから! なにより、エッチなことは起きている時にするから!」
「それもどうなのよ……」
「むふー」
なんというか、朝から大波乱な気がしてきたよ……。
「とりあえず、いつ来たの?」
「えっと、あたしの家とおねーちゃんの家に繋ぐ転移門の38号機が完成したので、その実験で朝一に来たよ!」
「38号って、ずいぶん改良してるね」
「安全第一だからね! ちなみに、今回のもまだ完成じゃないんだ」
「でも、こうやってメイが転移できてるよ?」
「んっとね、あたしやおねーちゃんが使う時の安全性は今回ので完成したんだ。37号機まではあたしならギリギリ大丈夫でも、おねーちゃんだと危ない可能性もあったんだ」
わたしの尻尾をモフモフしながらメイが教えてくれるけど、こういう所でもメイとの差が見えてくるなぁ。
防御力とかそういうの、未だにメイの方が圧倒的って事になるのがハッキリクッキリだわ。
「だけどね、今回の38号機でおねーちゃんも安全に転移できるようになったの。だから、おねーちゃんをあたしの国に招待できるようになったの!」
「そういえば行ったこと無かったねぇ」
転移門の安全性が確保できてなかったからか、試しに起動することすら許可されて無かったし。
「でも、おねーちゃんが来る場合、アリサも一緒でしょ?」
「専属メイドだからねぇ。それに身内の家に行くだけとはいえ、一応立場というか世間体もあってか、従者連れて行かないとダメだろうし」
「だよね。あたしもじーじかコレットを連れて行かないとダメだから」
メイの専属はあの二人の様で、必ずどちらかは一緒に来てる。
一国の姫という立場を考えたら少ない気もするけど、身内の家なので兵士は連れずに最小限ってとこかしら。
「話を戻すとね、今は誰でも安全に通れるように改良している段階なんだ。アリサの様な弱っちい人でも大丈夫なようにね!」
「言っていることは分かるけど、すこーし毒吐いてるねぇ」
「あたしだからね!」
ニコニコしながら言い切ってるなぁ。
まぁメイもアリサを嫌っているとかは無い。ただ、わたし以上に物事や事実をズバッと言っちゃう性格なだけなんだよねぇ。
とりあえず起きあがるため、一旦メイを剥がし……ダメだ、がっしり掴んでる。これ、完全に捕獲された感じ?
ここまでするとか、う~ん……。
「もしかして、実験以外にも大きな理由がある?」
「おー、さすがおねーちゃん、あたしの事をよくわかってる」
「そりゃぁメイのお姉ちゃんやってますから、当然と言えば当然だよ」
「むふー」
わたしが察したからか、ずいぶんとニコニコしてるなぁ……尻尾をモフモフしたままだけど。
「実は、おねーちゃんを警告しに来ました!」
「はい? えっと、どういう事?」
「だっておねーちゃん、すぐに浮気しちゃうんだもん」
「へ? 浮気って、何?」
浮気ってどういうこと? そう言うなりメイが若干いじけてる感じではあるけど。
「ふーん、自覚してないんだ」
「ちょ、ちょっとメイ、急に殺気込めて睨まないでよ。あと、尻尾そんな強く握らないで? 少し痛いから」
「逃げない?」
「この状態でどうやって逃げるのよ……」
残念ながら、わたしじゃメイを振りほどくほどの力は無いのだ。まぁ力があっても逃げない気がするけど。
「やれやれ、浮気癖のあるおねーちゃんを持って、あたしは大変です」
「そこまで言うって事は、結構怒ってる?」
「プンプンだよ!」
そう言いながらわたしの尻尾をモフモフし続けてる、ほんと身に覚えが……あぁ。
「もしかして、ルミィ関連の事? だけど」
「そうだよ! 納得はしたけど、それでも言いたいの!」
そう言ってさらにモフモフとか、ちょっと激しすぎませんかね。
そのルミィとはこないだ魔道具経由で紹介済み、メイも敵対行動はしなかった。まぁ「やっぱり増えたぁぁぁぁ」と頭を抱えて唸ってたけど。
「おねーちゃんはね、自分が可愛いのをもっと自覚するべき」
「あー、こないだお兄様にも言われたわ……。でも、それって何か関係してる?」
「大いにしてるよ!」
あらま、ズバッと言い切られたよ。冗談で言ってるわけでもなさそう。
「おねーちゃんはね、敵対しない相手、特におねーちゃん自身が興味や好意を抱いた相手はすっごく優しくて甘くなるの」
「そうなのかなぁ? メイ達に対しては自覚してるけど、ちょっと興味がある程度の相手には」
「してないって言い切れる?」
「た、たぶん……」
メイがじーっと見てくるけど、正直断言できない。ちょくちょく同じようなこと言われてる気がするしなぁ。
「まったく。世界で一番可愛いおねーちゃんが優しくて甘い対応をしたら、みーんな落ちちゃうんだよ」
「えー? そんなことは」
「あるんだよ! 落ちたら最後、イチャイチャな展開になっちゃうんだよ!」
「な、なるほど……」
浮気癖ってつまりそういう事ね。
無自覚にわたしがそんな対応してると、相手からの好感度がぐいぐい上がって、傍から見ると付き合ってる、もしくは付き合う直前に見えるってわけか。
んで、その流れはメイとしては面白くないので警告、まぁ文句を言いに来たってわけね。
「なーのーでー、おねーちゃんをしばらく監視します!」
「へ? 警告でなくて監視?」
「そうだよ! 見知らぬ相手と良い雰囲気になったら……ぶち壊すよ!」
おやまぁ、ずいぶん意気込んだ感じですごいこと言ってるよ。これは徹底する気かしら。
「とゆーか監視って、帰らなくて大丈夫なの?」
「おにーちゃんは反対してたけど、パパとママの許可は取ったから大丈夫だよ! ずっとは無理だけど、日帰りはしなくてよくなったんだよ! ひと月くらいなら帰らないで居ることもできるんだよ!」
「へぇ、そうなんだ」
「む? あっさりな反応だけど、おねーちゃんは嬉しくないの?」
おっと、わたしがあっさり目な返事をしたせいで、少しぷくーっとしちゃったわ。
「ごめんごめん。嬉しいんだけど、こっちに居る間、メイの学業とかどうするのかなぁって」
「そこも大丈夫だよ! うちの国特有のはじーじとコレットに学んで、それ以外のお勉強はおねーちゃんと一緒にするの!」
「となると、一時留学生的な感じで、わたしと一緒に学園へ通うことになるの?」
「そうだよ!」
なるほどねぇ。言い切ってるあたり、手続きも既に完了してそうだなぁ。
「むふー、一緒に通えるから、これで合法的に学生服のおねーちゃんを堪能できるね!」
「あー、残念だけど、わたしの通ってる学園には指定の学生服とかはないんだ」
「えぇぇぇぇぇ!? あたし、すっごい期待してたのに……」
あらまぁすっごい落ち込んでるよ。そんなに見たかったのかな?
まぁわたしもセーラー服とかブレザーとかを着たメイ達を見たい衝動はあるにはあるんだけど、メイの落ち込み具合はそうとうだね。
「学生服とかはほら、いつもみたく時間あるときに着てあげるから」
「着替えたままデートもしてくれる?」
「するする」
「なら良し! むふー、おねーちゃんと学生服デート、楽しみ!」
おやおや、今度はすっごいニコニコしちゃって。学生服に相当な思い入れがあるってことだねぇ。
にしてもメイがしばらくこっちに居ることになるのかぁ……大丈夫かしら? わたしを敵視しているメイの兄が追いかけて来なければいいんだけど……。
メイは相変わらずお姉ちゃん大好きっ子




