290話 羊羹と家族会議?・・・2
真面目な感じだったのが何ともほんわかな感じになったので、気兼ねなく羊羹をパクり。はふぅ、ほんと美味しいわ。それに、このちょっと渋めの抹茶との相性が素晴らしい。
「ところで、この伯父」
「リョウ君、伯父でなくて赤の他人となる男、もしくは敵よ」
「え、えっと?」
「敵よ」
「わ、分かりました」
おっと、お兄様がオッサンの事を伯父って言おうとしたら、お母様が少し強めに完全否定してきたよ。オッサンの事が大っ嫌いなんだねぇ。まぁわたしも伯父呼びは絶対無いなぁと思ってるけど。
「それでこの男ですが、どうするのですか?」
「そうねぇ、居場所を探知するための新型術式を開発して、私が滅ぼしに行くのが一番かしら」
「お母様がやっちゃうんですか?」
「それが一番確実で安全でもあるのよ。周囲に影響がない状況が確保できれば、私であれば今度こそ完全に消滅させることは出来るはずだから」
「ですね。あの男は私の兄という立場もあってか、現在も私に近い知識と能力を持っていると考えられます。この世界での経験値は異なりますが、基礎はほぼ同じですから。ですので、返り討ちに合わない者で討伐を考えますと、サユリさんが一番の適任者になります」
お父様が苦々しい感じで言ってるけど、それ以上にお母様が嫌すぎる顔をしてるわ。お母様ってほんとあのオッサンの事が嫌いなんだねぇ。
「父上に近い……もしかして、あの転移門も?」
「間違いなくあの男が関わっていますね」
「どうりで……」
はて? お父様とお兄様が頷きあってるけど、何?
「どういう事なんですか?」
「えっとだな、ユキも覚えていないか? 昔、ダンジョン前にレグラスやアルネイアなどが関与していない転移門が作られた事を」
「そういえばあったよーな?」
「あの門だが、父上に匹敵する知識と技術が無ければ製造が難しい物という結論が出ていたんだ。そのため、将来の危険性を考慮して関与した者を探っていたんだが」
「見つからなかったんですね?」
「そういう事だ。だが、この男ならば」
「作る事ができます。私も復活しているとは思わなかったので、該当する候補からは外していましたよ。ですが、復活していたのであればほぼ確定になります。それだけあの男は危険、という事にもなりますが」
うへぇ、お父様達が緊張感もって説明してるけど、相当ヤバいって感じだわ。
でも納得。そこまでヤバい敵であれば、お母様が対処しちゃおうって感じにもなるわけだね。
「問題は、アレの標的が私とタツミさんだけでなく、リョウ君とユキちゃんにもなりそうなのよねぇ」
「そうなのですか? まぁユキが狙われるのは当然だとは思いますが」
「ちょっとお兄様、それってどういう事ですか?」
少しプンプン。わたし、そこまで新たな敵をぽこじゃが作る行動してませんよ? たぶん。
「ユキはな、母上とそっくりすぎるんだよ。つまり、母上を狙っている者にとってはユキも当然対象となるわけでな」
「狙うって」
「言ってしまえば下心だ。事実、母上とユキに接触しようとする奴は、敵対よりも下心を持った奴が多いからなぁ。まぁそれだけお前は可愛いって事にもなるから、自慢して良いんだぞ」
そう言って頭をポンポンしてくれるけど、なんかはぐらされた気がします!
「アレの場合は洗脳して自分の戦力にするとか、素材感覚で狙っている可能性が高いのだけれど、リョウ君が言うように他の者がユキちゃんを狙うのは下心ばかりなのよねぇ。しかもユキちゃんに釣り合わない愚者ばかりで、ホント困るわ」
「確かに、私も気が気ではないのですよね」
「そんなに!?」
「お前は自分の破壊力を再認識した方が良いかもなぁ。たまに、母上よりも強烈になってるぞ?」
「うそん」
三人が頷いてるって事は、マジですか。
昔、メイがチラッと言ってたから少し気になってはいたけど、本当にわたしはそっち方面の能力が飛びぬけてるってことなのかね。う~ん、このままで良いのかしら?
「ともあれ、このままだと危ないのよねぇ」
「二人に付与する結界を強化すれば守ることは出来ますが、それだけでは不十分ですからね」
「俺の方は王城勤めなので、いざという時はレグラスの親衛隊の手を借りる事もできますが、ユキの方は周囲にそこまでの戦力が無いのと弱体化もしているので、なおさら危ないですね」
「そうなのよ。それにアレは悪魔の力を得ているのもあって、ユキちゃんに対しての危険度がさらに上がっている状態でもあるわ。はぁ、こんな事ならあの時、強引にでもユキちゃんの留学を取りやめるべきだったわ」
お母様がぼやいてるけど、たしかにわたしが実家住まいのままであればどうとでもなったんだよね。
「いっそ休学、もしくは退学してもらおうかしら」
「お母様!?」
「ふふっ、冗談よ。でも、そのくらい私達は心配しちゃうのよ」
「な~るほど」
冗談って言ってたけど、あまり冗談に聞こえなかったのはそのせいね。やれやれ、厄介な敵が現れたものです。
「となると、少し早いけど次の段階に移るべきかしらねぇ」
「次の段階?」
お母様がニコニコしながら膝をポンポンと叩いてるので、立ち上がってお母様の元に行き、お母様の膝の上にちょこんと座る。
するとお母様が、そのままなでなでしてくれる。はふぅ、やっぱ良いですねぇ。
「今のユキちゃんはね、精霊力か魔力かの、どちらか一方に振れやすいの」
「そうなんですか? でもわたし、両方混ぜた攻撃とかもしてますよ?」
「それだけだと不十分なの。とくに対悪魔の場合、私やユキちゃんは致命傷になりやすいのよ」
「言われてみると確かに」
悪魔が精霊への特効を持っているのか、どうにも厳しい事が多いんだよねぇ。
魔力で対抗することはできるけど、今のわたしって魔力の大部分を魔石修復に充ててるし。
「どちらかに振り切れていても、魔石の修復を早めるとか尻尾を強制的に増やすという方法を取れば、ユキちゃんの基礎力の底上げになるからなんとかなるのだけれど、それは取りたくないのよねぇ」
「なにか問題があるんですか? とゆーか、すぐにできそうに言われたのがちょっと驚きなんですけど」
「実はね、両方とも特殊な術式を使えばすぐにできるのよ。ただ、どちらもユキちゃんの成長が止まるという副作用と、自然に任せた状態よりも弱体化するという欠点が出ちゃうの。なによりユキちゃんには無理なく自然に成長してもらいたいと私達は考えてるから、取りたくないのよ。なので」
「なので?」
「ユキちゃんには天衣とも精霊神衣とも違う、魔力と精霊力が完全に融合した新たな力を会得してもらいます」
ババーンとお母様が言うけど、どういう事? 聞いたことないよ、それ。
「それって、天衣や精霊神衣とは違うんですか?」
「似て非なる衣、って感じかしら」
「似て非なる……う~ん、謎!」
「ふふっ、いずれ分かるようになるから、今は知識として覚えておくだけでいいわよ。あとはそうね、天衣と精霊神衣は特化型で、今度の汎用型といった感じかしら」
「とゆーことは、単純な魔力や精霊力の強化なら天衣や精霊神衣の方が強いって事ですか?」
「そうよ~」
そういって頭をなでなでしてもらえたけど、なるほど納得。
「でもね、強さはそこまででもないのだけれど、悪魔に対する弱点が払しょくできる効果を得る事ができるの。なので、アレが悪魔を引き連れて襲ってきても時間稼ぎができるようになるわ」
「ほへ~、なんかすっごい」
あのオッサンがヤバいのは確かだけど、時間稼ぎ自体は今でもできるんだよね。ただ、悪魔の力全開とか、悪魔自体が大量だときつすぎるというのがあったけど。
今度の衣はそこを解消してくれる力って事だね。天衣が使えれば何とかなったと思うけど、それができない今は必須になりそう。
「ユキちゃんが撃退できるのが一番だけど、それはまだ難しいからね。なので時間を稼ぎ、その隙にお母さん達を呼ぶの」
「私かサユリさんのどちらかが転移門を使い、救助できる時間を稼ぐだけではありますが、今のユキさんでは時間稼ぎも少し厳しいですからね」
「それに、時間稼ぎに失敗してユキが連れ攫われるって状況も考えられるしなぁ」
「むぅ、なんかわたしってすごいダメダメ感が」
「ユキちゃんはダメダメじゃないから、気にしたらダメよ。今回はユキちゃんが相手をするには少し早い敵が現れた、それだけだからね」
「は~い」
つまり、オッサンが来た時は時間稼ぎに徹して、お母様達に助けてもらうって事かぁ。
モヤモヤもちょっとしちゃうけど、しょうがないね。いつかはサクッと倒せるようになりたいなぁ。
方向性が決まったところでお茶の再開。
お母様が羊羹を口に運んでくれるので、遠慮なくあむあむ。はふぅ、やっぱ甘いものは最高です。
っと、糖分補給できたところで、さっきの話で少し気になる事が出てきたわ。
「ねーねーお母様、その天衣や精霊神衣とは似てるけど違う衣って、お父様とお兄様もできるんですか?」
「実はね、これは私とユキちゃんだけのとっておきになるの。タツミさんとリョウ君でも使えないとっておき。ユキちゃんなら絶対に使えるようになるから、がんばるのよ~」
「え、えっと、は~い?」
お母様がなでなでしてくれてるけど、結構とんでもないこと言われたよーな。同じ血を持つお兄様が出来ないとか、いったいどんな条件があるのかしら?
「ヤバいな、俺の妹がさらに可愛く強くなるのか」
「さすが私達の娘ですね」
「ほんとにね~。ユキちゃんの将来は明るいわ!」
「急に家族バカ状態になってる!?」
完全に甘やかしモードになってるよ! さっきまでの深刻っぽい雰囲気が完全に消えてるよ!
でもまぁわたしも、深刻とか難しい感じよりもこっちの方がずっと良いけどね。
だらだら続いた7章はこれでいったん終わりです。
ルミィやオッサン関連はもうちょっと続く予定ですが、次章以降に持ち越し。




