289話 羊羹と家族会議?・・・1
「お母さま~、呼ばれたので来まし、あれ?」
午後、お母様が帰ってきたらしく和室に呼ばれたので、トコトコとやってきたんだけど。
「ちょうど良い時間ですね」
「お父様と」
「よっ」
「お兄様も!? えっと、なんで?」
「俺も分からないが、父上と母上に呼び出されてな」
室内には手前にお兄様が居て、奥にお母様とお父様が居るわ。なんか家族会議っぽい感じ?
とりあえず入り、お兄様の隣にちょこんと座る。
「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。二人を怒るとか、身の振り方を注意するとかじゃないからね」
「ですね。ただ、二人にとっては少し衝撃的な内容になってしまうかもしれませんね」
「「衝撃的?」」
お父様が少し苦笑いしながらお茶とお菓子を用意しつつそんなこと言ってるけど、何の事だろ? お兄様も知らないっぽいし。
「さてと、それじゃ二人とも、これを見てもらえるかしら」
そう言ってお母様が魔道具を起動し、色あせた写真みたいな画像を映したわ。古い魔道具で撮った物かな?
画像はわたしが知らない神社の様な建物の前で、着物を着た数人の男女が並んで映っている物だわ。
「お兄様はこの神社見たことあります?」
「いや無いな。似た様式の物は見た事あるが、同一の神社は無かったはずだ」
「ふふっ、さすがリョウ君ね。この神社はね、今は存在しない物なの」
「存在しない? えっと?」
「この神社はね、祀っているのはとある神様だったのだけれど、その神様が少し問題でね。人を不幸にする、いわゆる邪神の類だったの」
うへぇ、邪心を祀るとか、とんでもないとこもあったのね。信者を増やして世界征服とかしようとしていたのかしら?
「急に邪神と言っても想像つかないと思いますが、実は邪神というのは悪魔が進化した存在の事なのです」
「ちょ、ちょっと待ってください父上。悪魔が進化するとか、俺も聞いたことないですよ?」
「えぇ、そのはずです。なぜならば、悪魔が進化するには苦痛や怨嗟と言った負の感情に侵食されし他者の魔力を大量に取り込み、無垢な者の魔石を喰らう事で進化する、という奇怪な手順だからです」
「確かに異質で、あまり公にしたくない手順ですね。となると、この事は一部の者しか知らない秘匿情報となっていますか?」
「その通りです。この事はレグラスの研究者が数千年かけて解析した結果にもなっていますので、二人も他者に漏らさぬよう努めてくださいね」
「了解です」
「は~い。それにしても、なんともヤバい要素のてんこ盛りですね」
自身のヤバい魔力を強化する事で進化、とかならまだマシだったのに、進化するためには他者を巻き込む必要があるとか迷惑すぎです。
「さらに奇怪な事ですが、悪魔の進化は環境を構築すれば誰でもすぐにでき、悪魔以外が手を貸した場合でも進化できる、という事実もあります」
「どこまでも奇怪ですね……」
「ですね。そもそも人の進化には運要素もあるため、完全な制御は本来できせん。できるのは進化しやすい土台を作る事くらいです。ですが、条件を満たせば悪魔は確実に進化する事ができます。さらに、進化する日時まで制御可能です」
「そう言った環境を作った愚か者が昔は数多くいてね。その中でも一番大きな場所、悪魔の聖地とでも言うべきかしら? それがこの画像に映っている神社だったの。しかもね、信者だけでなく進化に必要となる魔力を生み出すためだけに、大量の生贄も収監されていたのよ」
「うわぁ、思いっきり悪の本拠地みたいになってたんですね」
「そうなの。だからね、私がずいぶん前にこの神社だけでなく、関連施設も含めて根こそぎ消滅させちゃったの」
おっとお母様、笑顔でサラッととんでもないこと言ってますよ?
〝潰した〟でなく〝消滅させた〟って、つまり一切合切の情報もすべて消し去ったって事だよね。ほんとすごいなぁ。
「サユリさんが跡形もなく全て消し去ったのが功を奏したのか、その後は類似する者は現れませんでした。ですが」
そう言ってお父様が映像の中の人を指さしたけど、あれ? こいつって
「昨日のオッサン?」
「そうよ~。この男も完全に消滅させたはずなのだけれど、残念な事に復活したみたいね。おそらく転生、もしくは転移の術を事前発動していたのかもしれないわ」
「この男は魔法や術式に関しては天才的な頭脳を持ち、同時に邪神の力を取り込んでいたのか、強大な魔力も得ていましたからね。さすがに転生などの復活ができる程の魔力を得てるとは、私も思っていませんでしたが」
「消すのではなく封印した方が良かったかもしれないわねぇ。ただ、封印は封印で、破られた可能性もあるのだけれど」
「うげぇ、めんどすぎます」
「確かに厄介だなぁ。それで、父上と母上はその事を伝え……だけではないようですね」
お兄様の言葉に、お母様がなんとなく嫌そうな顔をしたけど、そんなに言いたくない事なのかな?
「先延ばしをしてもしょうがないですし、二人にも教えましょう。実はこの男、私の兄です」
「「え?」」
「リョウ君とユキさんにとっては伯父になりますね」
「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」
いやいやまってまって超まって?
あのオッサンがお父様の兄とか、なんなんですかそれぇぇぇぇぇ!!!
わたしだけでなくお兄様もだいぶ驚いたので、しばしお茶とお菓子で心を落ち着かせ……はふぅ、羊羹が美味しいです。やはり甘いものは大正義!
「衝撃的って、こういう事ですか。でも確かに、言われてみると父上に似ていますね」
「縁は当の昔に断ち切っていますが、同じ両親のもとに生まれたという事実は覆せないですからね。おや? ユキさんは少し違う受け取り方をしていますね」
「そうなんです。この男のどこがお父様に似ているのか、さっぱり。似ているのは只人族で黒髪、後は目と鼻と口があるくらいかなぁ、としか」
お父様の顔とオッサンの画像を何度も見比べても、どうにも血が繋がっているように見えないんだよなぁ。赤の他人にしか見えません!
「母上、ユキのこれって」
「私の悪い部分がそっくり遺伝しちゃっているわねぇ」
「お母様の悪い部分?」
「そうよ~」
はて? 悪い部分ってどういう事なんだろ?
「ユキちゃんはね、私と同じで興味が無いとか嫌いな者に関しては、無意識に記憶する事を拒んでいるからなのよ」
「あー、ちょっと身に覚えがあります。もしかして、お父様とオッサンが似ていないって思うのも?」
「この男の事を記憶したくない、認識したくないって心のどこかで思っているのが原因ね。それにね、私も未だにこの男とタツミさんが兄弟とは思えないのよ。情報として理解はしていても、なぜか紐づかないって感じかしら」
「わたしもそんな感じです。でもそっかぁ、お母様と同じか~」
「あらあらニコニコしちゃって。私と一緒なのが嬉しかったのかしら?」
「です!」
やっぱね、良い部分も悪い部分も、お母様と同じというのはなんか嬉しいのです。
「本当にユキは母上の事が好きだなぁ」
「もちろんお父様とお兄様も大好きですよ?」
「打算抜きにそうハッキリ言われると、俺も照れるぞ?」
「だって事実ですから!」
ドヤァ。
いやまぁ何回も思っちゃうけど、今世のわたしって家族大好きすぎだね。とはいえ、悪い事じゃないから良いんだけどね!
軽いネタバレ
オッサンは一応身内ですが、和解ルートの予定は今のところないです




