288話 イチャイチャも大事
軽いイチャつきあります
う~ん、体がちょっと怠い。怠いのでベッドの中でモゾモゾ。
しっかし昨日は色々とありすぎたなぁ。まぁ解呪のためとはいえ、休みの日以外だけど家に帰る事になったのは良かった。実家大好き!
ただ、帰宅するのにうちの庭にある転移門を使っちゃうとはねぇ。レグラス側は無制限で使用できるけど、向こうの国での使用許可はとってあったのかしら? まぁ緊急対応のためやむなくとか言って、うまいこと御咎め無しの方にもっていってそうだけど。
モゾモゾしてると、ノックと共に誰かが部屋に入ってきたわ。この感じ、アリサかしら?
わたしの専属メイドだからか、昨日も居て当然って感じに出迎えてきたのにはちょっと驚いた。アルネイアに居たはずよね? ってツッコんでしまうくらいだわ。
「お嬢様、お体は大丈夫ですか?」
「ん~、もうちょっとモゾモゾしてたい」
「そのご様子、もう平気という事ですね。それじゃ起きちゃいましょう」
「うにゃぁ!?」
容赦なくお布団をがばーっと取られちゃったわ。
いやはやいやはや、アリサもシズクさんと同じ対応がドンドンできるようになってきたなぁ。ちょっと前までは少し躊躇してからお布団がばーしてたのに、凄い成長ぶりです。
「どうかしましたか?」
「んーん、シズクさんに似てきたなぁって思っただけだよ」
「今でもシズク様に教わる事が多いのですけどね」
「だろうねぇ。だってシズクさん、お母様の従者になってからほんと長いし、わたしだけでなくお兄様のお世話もしてたからねぇ」
もしもわたしに弟なり妹が出来たら、その人もシズクさんにお世話してもらうんだろうなぁ、とちょっと想像してしまったわ。
ただ、わたしに子供ができた場合はシズクさんでなく、アリサが主に対応することになるのだけど。それが専属メイドの役目でもあるからねぇ。
「んっと、今日はどういう感じなの?」
んーっと伸びながらアリサに予定を聞く。
こういう予定がどうのこうの、めっちゃお嬢様っぽい! 正真正銘かなり良いとこのお嬢様だけど、こういう所で再実感しちゃう。
「今日のご予定ですが、朝食後は次の祭事に向けての準備になります」
「次の祭事って……あぁアレかぁ」
本来は1年で4回行われる豊穣とか無病息災といったありがたーい儀式のはずが、わたしが生まれてからは意味合いがガラッと様変わりして、うちの知り合いどころか国中でわたしの成長をお祝いする感じになっちゃってるんだよぁ。ほんと、わたしの存在が大きすぎ!
とはいえ儀式なのは変わりないのできっちりやるけど、なんとなくわたしの発表会って感じが強いのはナントモカントモ。
「細かい打ち合わせは後日行いますので、今日は儀式に使う装束の確認だけになります。仕立て直しを考慮して、多少長めの時間を確保してますよ」
「なーるほど。でもさぁ、前回のそのままでも良いんじゃないの?」
「ダメです!」
「うひゃぁ!?」
ずいぶんと真剣顔してアリサが言い切ったけど、そんなになの?
「お嬢様の成長に合わせるには、調整がどうしても必要なんです」
「でもさぁ、わたしって身長、そこまで伸びてないよ? とゆーかほとんど変わってないし」
「変わっています! たとえミクロ単位の変化であろうと調整し、お嬢様にピッタリの大きさにしないとダメです!」
「そ、そうなのね……」
これってアリサだけの意見じゃなく、お母様やお父様、それどころか身内全員の意見なんだろうなぁ……。
ほんとぶっ飛んでるねぇ、イヤじゃないけど。
「午前は分かったけど、午後は何かあるの?」
「午後はサユリ様からお話しがあるそうです。サユリ様達は報告などの理由から朝早くに王都へ向かわれましたので、お話しはご帰宅されてからになります」
「報告って向こうの国というか世界の事かなぁ。というか、お母様からのお話しって真面目な内容?」
「そのようです。私も詳細は分からないのですが、今後に関わる事だとは教えてもらいました」
「今後ねぇ。ん~、ルミィ達の事かなぁ」
受け入れ先とか今後の立場とか、そういった細々とした内容かしら?
「そういえば、そのルミィ達はどんな状況?」
「えっと、皆様は健康診断の後、シズク様が主体となってこちら側の言語や文化、基本知識などを教わっている状態です。ただ、吸血鬼族の方々は戦闘による負傷から、現在は治療に専念されているとのことですよ」
「なーるほど。何か問題とかは起きなかったの?」
「そうですね……問題、というほどの事ではないのですが、屋敷の規模や設備の内容、あとは私達従者に驚かれているそうですよ」
「へ? メイドさんと執事さんに?」
「はい。どうやら皆様の想定外されていた力を、屋敷に勤める者の多くが持っていたようでして」
キョトンとしちゃったけど、驚くほどなのかな?
うちの広さとか設備の多さとか、あとは進んだ技術なんかには驚くだろうなぁって予想はしてたけど、人に対してもかぁ。
まぁうちの人達って、そんじょそこらの冒険者や兵士よりも強いから当然かもねぇ。ネネとナナみたいな、現在見習いメイドの子達はそうでもないけど。
「うちの人達基準で一般人の力を想定するようになったら問題だけど、その辺りはシズクさんが補正してくれるかな」
「ですね。それとシズク様からの伝言となりますが、ルミィ様ご自身が強く望まれた場合、ルミィ様には当家の従者教育を施すそうです」
「それって、わたしの専属メイドにするため? だけど、う~ん……」
「ルミィ様のお立場は複雑なようですしね。そのため〝強く望まれた場合〟という条件を付けるそうですよ」
「なるほどねぇ。ルミィも専属メイドかぁ」
「お聞きしたのですが、お嬢様とルミィ様には、何か特別な繋がりがあるとかで……」
おっとアリサさん、そのジト目は何かな? これは怒りとか呆れじゃない……嫉妬かな?
そっかぁ、アリサが嫉妬したのかぁ。
「ふふっ」
「急にニコニコして、どうしたんですか?」
「んとね、アリサもわたしを独占したいんだなぁって言うのが見えてきて、可愛いなぁって」
「ど、独占って、いえ、その、私は」
「照れちゃって、ほんと可愛いやつめ」
顔を赤くしながらワタワタしてるとか、いいですねぇ。
普段は立場もあってか、エレン達よりも一歩引いた感じの対応をしてるけど、二人だけの時はアリサの素みたいなのが見えるのがほんと良いです。
「そんな可愛いアリサに言っておくと、たぶんルミィは専属メイドにならないよ」
「そうなのですか?」
「うん。確かにルミィはわたしの眷属になっちゃったけど、仕えるというより友達とか恋人とか、そっち方面の意識が強いからねぇ」
本来はおそらく「部下にしたい!」って思いで眷属にするとか、「主の剣となり盾となりたい!」みたいな奉仕に近い感情を伝えて、互いに上下関係を築くって手順が必要な気がするけど、わたしとルミィにはそれが無かったからなぁ。
「それにだけど、たぶんお母様はルミィ達一家を新しい貴族にするんじゃないかな? そうなった場合、ルミィもこの国のお嬢様になるわけで」
「その可能性はありそうですね。確か、こちら側には無い技術や知識などを持っているのですよね」
「そそ。そう言った〝力〟があるならば、地位を持たせた方が問題は起きにくい、って事だよ」
新たな技術をうちと王家がすぐに囲い込んじゃった場合、他国が煩く言ってくる可能性もあるからなぁ。
だけどレグラス国内とはいえ新興貴族としての立ち位置であれば、他国の人も援助なり協力関係、依頼なんかもしやすくなるわけで。そういった配慮は大事です。
予定の確認が終わったあたりで、アリサがふと何かを思い出したようね。ハッとした顔になったわ。
「ところでお嬢様、お風呂はどうしますか?」
「どうするって? 朝は入らないという選択肢はわたしには無いよ!」
「いえ、そうでなくて、その」
「あーそゆことね。はいっ!」
手を伸ばして、さぁ抱っこしてちょうだいアリサさん!
まぁ小さい頃と違って、術装を使った日でも動けないって事もなくなってはきてるけど、低血圧というか低魔力というか、朝が弱いのは変わらないんだよねぇ。
そのため、成長しようが最初から最後までお世話してもらうのが当たり前になっちゃってるわけで。なにより、わたし自身もやってもらいたい衝動が出ちゃってるわけで。
う~む、自覚できちゃうくらい甘えん坊のダメな子に育ってるなぁ、治す気ないけど!
「やっぱり、こうなるわけですね。分かってはいましたけど」
「そりゃね、わたしだからね!」
「そういえば、呪いの方は解呪したので問題ないと聞いてますが、病気などの治療もされたのですか?」
「ん~、霊素が無い特殊な環境だったけど、変な病気にかかったとかは無かったよ。ただ、知っての通り呪いの影響で、体がずっと怠だるなの」
アリサが優しく抱っこしながら聞いてきたけど、ほんと怠さだけだなぁ。
後遺症もなく呪いは完全に解呪できたけど、そこからずっと怠だる。こればかりはお母様でもどうにもならなかったみたいね。
う~ん、やっぱり日常が帰ってきたって感じだなぁ。アリサがわたしをお姫様抱っこしてお風呂に運ぶとか、まさにいつもの朝!
まぁ今日はちょっと怠いので、いつもみたいに不意打ちで顔をスリスリするのは止めて……やっぱやろうかな?
「お嬢様?」
「もしかして、バレた?」
「バレバレですよ。まったく、お嬢様は私を照れさせたり悶えさせたりしようとして、ほんと困ったお方です」
「え~? 良いじゃん良いじゃん、イチャイチャするくらい。好きな子同士がイチャイチャするのは当然なんだよ?」
「そ、そうハッキリ言われますと」
「ふふっ、照れちゃって可愛い」
わたしは知っている、ちょっとだけアリサは押しに弱いという事を!
まぁ弱いのはアリサだけじゃないけどねぇ。
オッサン関係は次回に持ち越し




