285話 仲が悪いねぇ
少し長いです
さてと、念のためもうちょっと様子を見てから行動に移そうかな。
なんとなくこっちからガツガツ攻めず、どっしり構えてる方が魔王っぽい印象もあるし。
「未知の魔王ですが、先程と同じ作戦で行きます!」
「最初はアタシの出番ってわけね。覚悟しなさいよ魔王、アタシの究極テクニック、とくと味わいなさい! ジャミングウィークフィールド、発動!」
おや? こいつらって会話を長引かせて分析とかせず、すぐ戦闘に移るのね。眼鏡が目で合図でもしてたのか、わたしの正面に立つ形に陣形を変えたし。躊躇も戸惑いも無いとか、よっぽど自信があるのかねぇ。
んで眼鏡の指示の下、ケバが杖をこっちに向けると同時に究極テクニックとか言うのを発動したけど、なんだろ? ぶわーって感じに部屋を何かが包んだけど、よくわかんないわ。
でもまぁ前戦闘と同じ方法をとったみたいなのと、かく乱と弱体を意味する単語を使ってるって事は、ルミィのお父さん達が着けてる魔道具を無効化して弱点を露出させる術ってとこかな。だとすると、わたしには関係ない術だねぇ。
「続きます! 神が与えし聖なる鎖よ、我に仇なす魔を封じたまえ! 聖法ホーリーバインドチェーン!」
今度は絶壁か。杖を天に掲げるとキラッて一瞬杖が光り、それと同時に白い鎖みたいなのが地面から生えてきて、わたしの体を縛りだしたわ。どうやら光か聖属性でできた捕縛専用の術みたいね。
となると次は
「こっちも準備できたワン! セーフティ解除、くらえワン! 必殺、ミラージュシルバァァァァショォォォォット!」
「我が一族の秘奥義、うけてみろチュ! 輝け! セイントブラスターストレーチュゥゥゥゥゥゥ!」
「これが勇者と賢者、そして皆の願いを形にした力だ! 刮目せよ! 聖なる裁き、ブレイブホーリーフレェェェェイム!」
「「「いっけぇぇぇぇぇ!!!」」」
予想通りだけど眼鏡が補助し、残りの3人が同時に攻撃を放つのね。なんとなく大げさな台詞と語尾の関係で締まらんなぁとは思っちゃったけど。
攻撃自体はデブ犬が分身して銀製の弾かな? それを四方から10発撃ってきたのと、ハゲ鼠が腰を落とした正拳突きをして拳からでっかい魔力みたいな白い塊を放ち、金髪が剣を切り落として三日月形の衝撃波となった炎を発生させ、それぞれわたしに当ててくると。
なるほど、弱点を有効化したら行動阻害、そこに吸血鬼の弱点っぽい属性の総攻撃をするって作戦だね。まぁここまでしないと魔王を倒せなかったって事なんだろうなぁ。
とゆーかわたし、吸血鬼じゃないですよ? 狐族には弱点属性とかないですよ? 弱点がある種族の方が少ない気もするわ。
それにしても捕縛といい攻撃といい、わたしとの力の差がありすぎるなぁ。万が一の可能性も絶対にありえないくらい、わたしからするとヨワヨワな技や術。とうぜん簡単に回避も反撃もできるなぁ……意識しなくても相殺までできちゃうけど。
とはいえせっかくだし、向こうが魔王と勝手に勘違いしているのを利用してみよっかな。このままいけば、すべて架空の魔王のせいですってできそうだし。
「やったか?」
ドドドのドッカーンと直撃した後にボワーっと炎にわたしが包まれたからか、金髪がそんな事を口走ったわ。やれやれ、索敵能力まで低いみたいだねぇ。
まぁいいや、まずは視界の確保だよー。
パチンッと指を鳴らし、周囲に小さな竜巻を起こして全てを吹き飛ばしっと。ついでに攻撃のせいで髪や尻尾についた埃とかも吹き飛ばしっと。
「なぁ!?」
「無傷……ですか。しかも神の力を帯びた聖女の拘束まで破壊しているとか、ははっ、とんだバケモノですね」
「ちょ、ちょっと賢者! 膝をつかないで何か策を考えなさいよ!」
「そ、その通りです! 何か策はあるはずです!」
視界が開けて無傷のわたしを見たからか、金髪があんぐりし、眼鏡がガックリ膝をつき、ケバと絶壁が慌ててるわ。ハゲ鼠とデブ犬はぼーぜんって感じね。
んでは魔王っぽいのか分からないけど、ちょっと煽り気味に
「今のが〝全力での攻撃〟なんて言わないよね?」
「な、なめるな!」
「勢いだけはあるね。まぁ今の攻撃、悪くはなかったよ」
「!? ということは、ダメージがあったのですね!」
眼鏡がハッとした顔になったね。希望が見えた! って思ったのかな。
でもね
「残念だけど、ダメージは無いんだよねぇ。だ・け・ど、同じ攻撃を1億回くらいすればダメージになるかもね~」
「「「「「「1億回!?」」」」」」
「見事にハモったなぁ。まぁ1億回やっても、掠り傷未満なんだけどね~」
「か、掠り傷未満とか……」
「ありえません……」
「こんなバケモノ、どうしろって言うのさ!」
うんうん、だんだんと恐怖というか絶望というかの表情になってきたね。オマケに逆ギレっぽくもなってるけど。この反応からして、さっきの攻撃がこいつらの全力だったわけだね。
しっかしダメだなぁ。ちょっと魔王っぽく冷静沈着で冷酷っぽい感じにしたいのに、なんかお気楽な感じになっちゃうわ。
無意識だけどわたし、こいつらの事は敵という認識どころか存在自体を無視しだしてるね。そのせいで緊張感も何もない、素の状態になりやすくなっちゃってるんだろうなぁ。
「まぁ無理にキャラ作ってもしょうがないし、このままでいっかな」
「そ、そんな可愛い声して、騙されないチュ!」
「騙すって、そんな気は無いんだけど。可愛いのは事実ですが!」
ドヤァ。
ほんと戦いって感じでやってないな、わたし。おちょくり過ぎだなぁ、する気ないんだけど。やっぱり相手が雑魚過ぎると、どうしても気が抜けちゃうね。
とはいえ、長引かせる必要も全く無いので
「それじゃこっちからも反撃しちゃいましょー」
「や、ヤバいぞ!? おい賢者、どうにかしてくれ!」
「ははっ、無茶を言いますね……。攻撃が効かない相手、いえ魔王です。攻撃が効かないという事は、当然」
「分かってるが、それをどうにかするのが頭脳であるお前の仕事だろーが!」
おやおや、眼鏡は完全にポッキリ折れてるね。ずいぶんと脆いなぁ。今まで挫折とか苦渋とかの経験皆無な天才ちゃんだったのかしら?
そんな眼鏡に頼り切ってるこいつらもどうかと思うけど。誰かが折れても助け合うとか、個々の判断に移るとか、作戦を代わりに考えるってのは無いのかねぇ。
ん~、素の性格が出て今更感はあるけど、ここはやっぱり魔王っぽいヤバゲな攻撃のが良いよね。となると……アレ、やってみるかな。
まずは右手に光の精霊力を、左手に闇の精霊力を集めてっと。
「皆さん気をつけてください! 魔王が何かしています!」
「おい賢者! 急いで作戦を」
「ははっ、あの様な化け物を相手に、どうしろと言うのですか」
「いい加減にしなさいよバカ眼鏡!」
うへぇ、軽く仲間割れ状態になってるわ。こんなのでよく魔王退治できたなぁ。
まぁ眼鏡は完全に折れてるけど他はそうでもないようで、絶壁が注意を促しながら防御用のバリアかな? それを展開したね。
あれを破るとなると、少しは力込めないとダメかな? バリアともども消滅させるんだったら楽だけど、恐怖心とかを刷り込ませてギリギリ生き残れる状態にしないとダメなわけで。う~ん、力加減が難しいわ。
でもそうしないと「勇者が敵わないとんでもない魔王が他にも居た!? 絶対に勝てないようだし、もう手を出しません追及もしません!」って、この国の王とかに思わせる作戦ができそうにないしねぇ。
っと、そんなこと考えてないで調整調整……このくらいかな? 精霊力が半径10センチ程度の球状にそれぞれなったので、魔力を使って精霊力を抑え込む感じに形を整えてやってっと。
どうせなら刀状にした方が良いかなぁ、刀は大好きだし。
……うん、こんなとこね。白と黒の刀状の精霊力が出来上がりっと。なんとなく光と闇の武器を持ってる感じね。
だけど、ちょっと時間かかったなぁ。慣れて無いからか、精霊力を刀状にするのに5秒もかかっちゃった。まだまだ未熟だねぇ。
「ま、まさか、そんな!?」
「なんなんだよ賢者!? 今度は震えだすとか、お前いいかげんに」
「震えるのは当然でしょう! あの魔王が手にしている剣がどういう物か、知らないのですか!」
「だったら説明しろよ!」
「あれは伝説の聖剣エターナルホーリーソードと、魔剣インフィニティカオスブレードです!」
「マジかよ!? てか、なんで魔王が聖剣持ってるんだよ!」
「こっちが聞きたいくらいですよ!」
……はい?
金髪と眼鏡が喧嘩口調で言いあってるけど、聖剣と魔剣って何よ? しかもその謎名称は何なの?
そもそもわたしが作ったコレ、特に名称無いですよ? どうしても付けるなら「精霊力を混ぜて刀状に圧縮した簡易術式」なんだけどなぁ。ファイアランスとかウォーターランスとか言う魔法を、すぐに発射せず維持してるような術なんだけど。
「どうすればいいワン!?」
「防御を! ありったけの防御をしてください! それしか道はありません!」
「防御って、魔剣を耐える事って出来るのかよ!?」
「そんなのわかるわけないでしょう!」
どんどん醜い争いになってるなぁ。
デブ犬のしどろもどろに対し、焦り気味で絶壁が答えてるけど、もうちょっと冷静になれないのかねぇ。しかも金髪と眼鏡は絶賛喧嘩口調のままだし。とゆーか喧嘩してる状態のままとか、ダメなのが余計ダメになりますよ?
ま、わたしには関係ないので
「それじゃいっきま~す。えいっ!」
左手を振り下ろし、闇の精霊力を解き放ち!
振り下ろした瞬間、巨大な波となった闇の精霊力が奴らを飲み込む。飲み込んだ瞬間、パッリーンという音と共に絶壁のバリアも破壊、脆いなぁ。
『!?!?』
飲み込まれた勇者パーティは、全員うめき声みたいなのをあげてるわ。気を失っていないとか、ちょっと手加減しすぎたかな?
だ・け・ど、まだ終わりじゃない! 闇の精霊力は渦を巻くように変化し、奴らをぐるぐるかき混ぜる。洗濯機の中みたいにぐるんぐるんなってる。
しばらくかき混ぜたら、今度は四方八方に吹き飛ばし! さっきのが洗濯だとすれば、今度は脱水ね。
ドバーンと全員吹き飛ばしたあたりで渦は消滅、左手にあった刀状の精霊力もボロボロと崩れて消えたわ。
さてさて、奴らはどうなったかな?
サクッと周囲を確認……ふむふむ、手加減はちゃんとできたようで死んではいない。絶壁とケバとデブ犬は伏せった状態、眼鏡は仰向けでピクピク震え、ハゲ鼠は逆さまの状態でだらーんとしてるわ。
「ば、バケモノが!」
「へぇ、気を失っていないとか、腐っても勇者って事ね」
金髪は膝をついてはいるけど、剣を杖にして立ち上がろうともしてる。気を失わないようにする特殊能力でも持ってたのかしら? それとも手加減しすぎたのかな?
まぁどっちでも良いか。だって
「2発目もあるからねぇ」
「クソッタレがぁぁぁぁぁ!!!」
雄叫び上げながら金髪が無理やり立ち上がり、こっちに向かってきたけど、残念でしたっと。
容赦なく今度は右手を振り下ろし、光の精霊を解き放ちっと。接近許すとか、そんな甘い事はしません!
今度は光の精霊力が波となり、金髪を飲み込む。これで終わりになるはずだけど、う~ん……
「これでは計画の修正が必要だな」
声がしたすぐ後、ヒュンッっていう音と共に光の波がバッサリ斬られ、わたしの攻撃を打ち消してきたわ。消えたあたりで金髪もぽでっと床に落ちてきた。
やれやれ
「ただのジジイじゃなかったわけね」
「ほぅ、気付いていたとでもいうのか」
「気付くというよりお約束、かなぁ」
高度な認識阻害の術を使っていたようで、空間がブレてジジイが姿を現してきた。最初に居たあのジジイで間違いないね。
ただ、手加減していたとはいえ、わたしの攻撃を打ち消したのと察知できない術を使っていたとか、そこそこヤバい強さを持ってるかもしれないわ。
あとは格好が初見の状態から変わってるね。着物に薙刀という、こっち側だとまず見ない格好。独自文化か、それとも他から来たのか気になる。
にしても、これってあれよね。「お荷物と思っていた奴が、実はとんでもない強いやつでした!」って言うのだよね。それが少年少女でなくジジイというのはちょっと意外ではあるかもだけど。
まぁかわいい子じゃないって事は、わたしも躊躇なく攻撃できるって事でもあるんですけどね!
やっぱりジジイは強キャラ風




