283話 準備するだけでも違いが見える?
少し長いです(今回も分割するところが微妙だったので…)
お母様特製の回復薬のおかげで、わたしの精霊力も問題ない状態になったわ。これなら精霊神衣も顕現できるね。
「さてと、ミツキちゃんとルミィちゃんにはユキちゃんを手伝ってもらいたいのだけれど」
「が、がんばります!」
『私もです!』
「良い返事ねぇ。それじゃやり方だけれど――」
そう言ってお母様が二人に対し、どういったことをしてもらうかの説明をしだしたわ。内容に興味があるからか、ルミィのお母さんも聞いてるね。
でもわたし達でかぁ、う~ん……。
「ねーねーシズクさん、お母様のあの様子だと」
「そうですね、きっとお嬢様お一人でも術式は発動できる状態に改良されたと思いますので、手伝いとは別の理由からですね」
「やっぱそう思うよねぇ」
あのお母様がわたしに対し、二人の手伝いが必要なくらいギリギリな術式を使わせるとは絶対に思えないんだよね。そりゃ修行とかでギリギリな術式を使うはあるけど、今回は違うわけだし。
こういう場合、ギリギリではなく余裕を持って発動できる状態にするのが正しい。それを無視するとか、お母様がやるとは絶対に考えられないわけで。
「おそらくですが、お嬢様の現時点での実力を、二人に正しく認識させるためではないかと」
「わたしの実力?」
「そうです。二人はいわば異世界人ですので、力の尺度とでも言いましょうか、基準が私達と異なっていると思われます」
「あぁそれはあるかも。特にミツキは地球人だし」
「ですね。そして今回は見るだけではなく、魔力と精霊力を繋げた方法を用いると思われます。繋げる方法でしたら、お嬢様の力をその身で感じる事ができますので、より正しい判断ができる状態に繋がる、というお考えをサユリ様は持っているのかと」
シズクさんが少し真面目な顔をして考察してくれたけど、やっぱそうだろうなぁ。
ミツキはまだ基礎訓練中だから、わたしとの全力の模擬戦とかをしてないので、どのくらい強いのかよく知らない。
ルミィはこっちに来てからなので、魔力と精霊力をかなり抑えた状態でのわたししか知らない。
そういうのもあってか、わたしの実力ってどうにも判断できてなさそうなのはあるんだよね。まぁルミィの方は、わたしが規格外のバケモノなのはだんだんと察してきたようだけど。
「お嬢様の実力を判断できないのは恥、というわけではありませんが、このままですと」
「余計なトラブルを招く可能性もあるって事だよねぇ」
「その通りです。お嬢様であれば安全に対処できる攻撃であっても、実力が分からない状態ではお嬢様を庇おうと割り込んで悪化、もしくは危険的な状況に陥る、というのはありえます。サユリ様としては、そういった状況はできるだけ回避しておきたい、と」
「だよねぇ。ほんとお母様らしいなぁ」
結局のとこ、わたしが傷つく可能性を少しでも減らしたいっていう想いからなんだよねぇ。
わたしってバケモノではあるから、正直一人きりの方が安全って状況は数多い。誰かを庇うとか周囲に配慮なんて無くしちゃえば、わたしと同格とかお母様達と同じくらいの人が相手でない限り、危険という事はまず無い訳で。まぁ同格であるエレンやレイジが居ればもっと安全というのはあるけど。
とはいえ、一人なら安全だからボッチでいますみたいなのはお母様も望まないので、わたしの実力をちゃんと知ってもらい、手助けが必要な時には力を借りる事ができるようにしてるけど、余計な事はしないよう周囲に認識させている。アリサやノエルとやる定期的な全力模擬戦もその一つみたいなのだったかな?
そして今回、その認識を二人にもやってもらう、みたいなものね。
別に今じゃなくても……とはちょっと思っちゃうけど、お母様としては1分1秒でも早く解消に向けて行動したい問題なんだろうなぁ。う~ん、やっぱ過保護ですね! 全然嫌じゃないけど。
お母様の説明が終わったようで、手招きしてるわ。
さてさて、召喚のお時間ですね。
「それじゃユキちゃん、まずは精霊神衣を顕現してくれるかしら」
「は~い。ではではっと」
ポーチから術札を取り出してサクッと術式展開っと。
う~ん、やっぱ精霊神衣を顕現させる時って派手だなぁ。詠唱と同時に魔法陣が展開したり光に包まれたりと、敵の目の前でやると超目立っちゃうね。まぁ術式には強固な結界も含まれてるから、顕現中に攻撃されても無傷だからいいんだけど。
「よっし、こっちでもバッチリです」
「そうねぇ。ただ、大気中の霊素が無い分、顕現できる時間は短くなっているかしら?」
「みたいです。いつもの半分くらいのような」
「あらあら、そこまで短くなっちゃったのね。召喚中は大丈夫だと思うけれど、万が一の時は強制解除するわね」
「は~い」
お母様がちょっと心配そうな顔してるけど、さすがに体内の精霊力枯渇するまでとか、精霊化しちゃうまで顕現させるは無いでしょう……たぶん。
にしても、もしかしてミツキの前で精霊神衣を着るのって初めてだったのかしら? それとも見慣れてないだけかな? ぽーって感じに見惚れてますね、少し照れる。まぁ見た目は少し派手目な巫女服だからね、見惚れるのは分かるよ。
ただ、ルミィ達はどうも違うようね。なんていうか、謎! って顔してる。
『えっと、マスターのそれって?』
『魔力が上がったのは分かるのだけれど、それ以外の力のようなものも感じるわ』
「あら、そうなるのね。なるほど、霊素や精霊の無い世界の人にとって精霊力は未知の力になるから、精霊神衣による強化状態も正しく感知できないというわけね」
お母様がルミィ達を見て推論をたてたけど、なるほどねぇ。
術装の補助が必要とはいえ小精霊の顕現もできるミツキは、超巨大に膨れ上がった精霊力に圧倒されたのか、顕現完了と同時に尻もちついちゃったから、精霊力をちゃんと理解していれば違う結果になりそう。まぁミツキも恐怖心とかは無いようだけど。
『妾達の知らない力がどういう力なのか気になるところだけど、まずは具体的にどのくらい強くなったのか、教えてくれるかしら?』
「そうねぇ、さっきまでのユキちゃんの魔力と精霊力を1としたら、魔力は100、精霊力は10000くらいかしら」
『は? 魔力が100倍というありえない状態で、謎の力も10000倍? 嘘でしょ……』
「実際はもっと高いわよ。あくまで今の状態、つまり全力を出さずに精霊神衣を纏っただけの状態でそのくらい。それだけ私達にとって精霊神衣というのは奥の手であり、全力以上の力を発揮する形態みたいなものなのよ」
『まだ上がるってこと? とんでもない、の一言ね……。正直さっきの状態から魔力が100倍とか、妾でも相手するのは少し厄介で大変になるのに』
『ねぇお母さん、なんとなく私達の世界って、すごく狭い世界だった気がするんだけど……』
『それは妾も感じてきたわ……』
二人が唖然というかポカーンというか、そんな顔してるけど、やっぱそうなるのねぇ。
でもまぁしょうがないのです。天衣と精霊神衣は別格というか、ちょっとヤバすぎるのです。しかも成長すればさらに上昇率上がるから、今は1万でもそのうち2万になったり10万になったりと、どんどん上がっちゃうのです。……うん、冷静に考えると上昇率もヤバすぎだわ。
「さてと、ユキちゃんに使ってもらう術式だけど」
そう言ってお母様が術札を胸元からスッと取り出したけど、相変わらずエロカッコいいなぁ、それ。わたしも、もうちょっと大きくなったらやってみたいわ。
そんな術札に、サクッと術式を新たに書き込んだね。もう改良終わってるとか、やっぱりお母様はわたしよりもすっごい人だなぁと再認識。
「ふふっ、ユキちゃんもいずれ、このくらいの早さで再構築ができるようになるわよ」
「う~ん、そう言われると、もうちょっといろいろとがんばろうと思っちゃいます!」
「ほんとがんばり屋さんねぇ」
そう言いながら近くに来て、頭をなでなでしてくれるわ。はふぅ、やっぱなでなでは良いですねぇ。
『ちょ、ちょっと待って』
「あら? どうかしたのかしら?」
『さっき見せてもらった術式? というのをもう改良したというの? しかもどこかに写すでもなく』
「そうよ~。このくらいなら、ユキちゃんも頭の中で再構築できるわよね~」
「できま~す。ちょっと時間かかっちゃうけど」
『……小さな子までできるとか、ほんとにあなた達、何者なの?』
ルミィのお母さんがもう何度目だよって感じに呆れてるけど、そんなにかな? まぁ小さいって言われるのはしょうがないけど……。
「あらあら。ねぇシズク、もしかして」
「そうですね……術式や魔法、こちらではテクニックでしたか、その辺りの知識や発展度が、私共からだいぶ遅れているのが原因かと」
「そうなるわねぇ。そのような環境にあってミルゥちゃんの魔王としての巨大な力、興味深いわねぇ」
『妾が研究対象になっている!?』
「そ、そんなことないわよ~」
少し焦るルミィのお母さんに対し、お母様が少し苦笑いしてそっぽ向いたけど、これはそういう事だよね? でも、すっごくわかります!
決して実験動物扱いはしないけど、研究者魂的なのはね、やっぱ出ちゃうんですよ。こういうとこもソックリ親子だなぁ、わたしとお母様って。
さてさて、まずはお母様から貰った術札を確認……なるほど、こういう術式ね。さっき見せてくれたのよりもだいぶ簡略化してあるわ。式自体も結構短くなってるね。
後はミツキとルミィに対し、わたしの魔力と精霊力を少し流し込み、二人を経由してから起動するための式も入ってるね。あくまで経由だから二人の負担は無いけど、これならわたしの魔力と精霊力が巨大で強力なのをわかる、かな?
それ以外は……うん、細かい所も見たけど、これならわたし一人でも安全に起動できるね。
「ふふっ、やっぱり私のユキちゃんはすごい子ね。一度見れば内容をちゃんと理解し、覚える事ができちゃうんだから」
『は? ちょっと待ってくれるかしら、それってさっき見せてもらった呪文の様なものを、少し見ただけで覚えたというの?』
「そうよね~?」
「そうで~す。展開後だと2回くらい見ないと確実じゃないけど、展開前なら1回でバッチリです!」
『はぁ……』
『お母さん、大丈夫?』
『大丈夫よ。だた、驚くような呆れるようなを繰り返したせいで、ちょっと疲れただけだから……』
おやまぁ、どうやらわたしの存在って魔王も呆れる存在って事ですね。さすがお母様の娘です!
『貴女の娘、考えてる事が顔に出過ぎるわね。でも、まぁ』
「ふふっ、そこも可愛いでしょ。それじゃ次に、ミツキちゃんとルミィちゃんは、これを持ってくれるかしら」
そう言ってお母様が亜空間から水晶型の魔道具を2個取り出し、二人に手渡したわ。
あれは……なるほどね。
「えっと、これ、は?」
「これはね、さっき説明したお手伝いに使う道具よ。ミルゥちゃんが持って来てくれた魔道具を解析し、紐付く先の相手を明確にして、それをユキちゃんに情報として送る魔道具になっているの。ちなみに送る仕組みは、ユキちゃんから魔力と精霊力を受け取り、そこに情報を付与して返すって仕様になっているわ」
『あ、あのっ、そんな事ができるのですか?』
「できちゃうのよ~。とはいえ数が数だから、ユキちゃんが術式とあわせて使うより二人が使った方が成功率が上がり、負担も減るのよ」
『そ、そうなんですね……』
うん、ルミィとルミィのお母さんが、ホントあぜんぼーぜんしまくってるけど、そうなるだろうなぁ。
あの魔道具って、鉱石だろうが魔道具だろうが指定した範囲の物を完全に分析し、その情報を指定した相手、もしくは出力専用の魔道具に転送する物だからなぁ。ほんと何でもありだわ、うちの魔道具って。
「使い方も説明するから、二人とも少し来てくれるかしら。ユキちゃん、二人の準備ができたら合図するから、その後に術式を起動するのよ~」
「は~い、まってま~す」
さてさて、いよいよ召喚での救出だね。
初めての方法だけど気合を入れ過ぎたら失敗しそうな気がするし、ほどほどの感じでがんばろーっと。
次回、ようやく召喚します




