281話 救出どうしよっか
少し長いです
天光の魔王こと、ルミィのお父さんが倒されてヤバイ状態みたいだけど、う~ん……。
「ねーねーお母様」
「えぇ、ユキちゃんの言いたいことは分かるわ。でもまずは聞いてみないとね」
「は~い」
『どういう事?』
わたしとお母様の反応が気になったのか、ルミィのお母さんがメイドさんからの報告を切り上げて訊ねてきたわ。
「確認だけど、ミルゥちゃんは助けに行けないのかしら?」
『無理ね。少し説明した気もするけど、妾はこの城に住む者を守るためにバリアを常に貼っているわ。そしてこのバリアは妾しか発動できない物なのよ』
『お母さんのバリアは強力ですけど、お母さんの周囲にしか展開できないのです。遠隔で発動もできないのと、私とかでは発動できない物なので』
「身動きできないわけね。そうなると、少し困ったわねぇ」
『それはつまり、身勝手なのは分かっているけど、あのバカを助けるのを手伝ってもらうのは無理なのかしら?』
「手伝いたいのだけれどねぇ」
お母様が苦笑いしちゃってるけど、たしかに無理なんだよなぁ。ルミィが関係しているから、お母様としては手を貸したいところなんだろうけど。
「私の立場が少し複雑なのよ。私が間接的でなく直に力を使うにはそれ相応の理由が無いと、ただの侵略行為になってしまうわ。間接的でも限度があるのだけれど」
『それって、国が関係するからかしら?』
「そうなのよ。レグラスを統治しているのは国王であるレオパルド君だけど、実際は私も含めた数人の共同統治みたいな認識になっているわ」
『つまり行動を起こしたら、それは国の意思、もしくは意向になるわけね』
「そういうことよ。唯一例外なのは私の夫と子供、特にユキちゃん自身が関係する状況ね。ユキちゃんの身が危ない場合は、国のしがらみを無視した行動は一応出来るわ。ただ、申し訳ないのだけれどルミィちゃんや、その家族となると少し難しいのよ」
そうなんだよなぁ、お母様達って強すぎるから、制約がどうしてもあるんだよねぇ。
とはいえ、実際は抑止というよりも情に訴えるって方だよね。むやみに力を振るったら他の人を巻き込んで悲惨な結果になるけど良いの? みたいな感じだわ。まぁそれが結構効果的でもあるんだけど。
やろうとすればお母様一人でも世界制覇できるけど、そういう事をしないのは世界制覇に興味が無いのもそうだけど、レグラスの民とかに迷惑がかかるから止めているって事だからねぇ。
「でもそうね、私は無理だけど、ユキちゃんならギリギリ行けるかしら?」
「ほぇ?」
お母様が少し考えた後にそんな事を言ってきたけど、そうなの?
「ユキちゃんの制約は私ほどでは無いから、お嫁さんの家族を救いに行くという建前にすればたぶん大丈夫よ」
「でもお母様、今回ってわたし、この国の依頼で魔王討伐に来ちゃってるんですけど」
「あらまぁ、そうなのね」
お母様がちょっと困ったような顔しちゃったわ。
さすがにわたしの請けた依頼内容とかの詳細までは知らなかったのね。あらかじめ言っておくんだったかな?
「えっとそうなんです。ここでルミィのお父さんを助けに行く場合、向こうの勇者パーティと戦う事になっちゃうのが」
「問題になるわねぇ。この国としては魔王討伐が正義なのだから、討伐に貢献した者と争うのは国の思惑と相反するだけでなく、レグラスからの妨害や侵略と受け取られる危険性があるわねぇ」
今更だけど、依頼を請けたのはちょっと失敗したなぁ。
事前に魔王がルミィの両親だと分かっていれば、討伐には参加しないで解決する方法を探った気がするわ。討伐参加なしでミツキの問題を解決できた可能性も、ひょっとしたらあったかもしれないし。まぁ今更だからしょうがないけど。
「でもそうね、方法が無い訳でも無いかしら」
「そうなんですか? ん~、わたしが行動できる方法、ほうほう……」
「ふふっ、何も〝いつものやり方〟だけではないのよ」
「“いつものやり方〟だけじゃない? ん~?」
わたしの場合、とりあえず突っ込んでいって邪魔な敵をすべて倒すっていう力技が多いけど、それ以外って事かな?
ん~、いつもと違うって言うと……あれかなぁ。
「えっと、知らぬ存ぜぬで通すのが前提ですけど、変装して救出しに行く方法ですか?」
「そうよ~。とはいえ強引な方法ではあるから、ユキちゃんのお母さんとしては良くても、レグラスのサユリとしてはダメよと言う方法になってしまうのよねぇ」
「そしてその方法を実行した場合、お嬢様の罪をサユリ様が裁き、罰を与えるような状況になってしまいますね。それでも、おやりになりますか?」
「無理! ぜーったいに無理!」
お母様が苦笑いした後、シズクさんが新しいお菓子を用意しながらそんなことを言ってきたけど、無理です、ほんと無理です。
怒られるのが嫌なのもあるけど、お母様に迷惑をかける行動は絶対にしたくない。しかも分かっていて迷惑をかけるとか、やった後に後悔でわたしが落ち込みまくりそうだわ。
これだ! っていう作戦が思い浮かばないまま少し時間が経ったけど、ほんとどうしたものか。
「あの」
「どうしたのミツキ?」
何か閃いたのか、ミツキが手を小さく上げたけど、なんだろ?
「召喚はダメ、かな?」
「あー召喚術を使うって事ね。う~ん……」
殴りこみにいかず、こっちに召喚するという方法は確かにアリ。実現できるならミツキを褒めちぎりたいところだけど、むぅ。
「召喚術って、そこまで万能な術じゃないんだ。例えばドラゴンを召喚する場合、事前に対象となるドラゴンと顔合わせしておくとか、契約を結んでおくとか、ちょっとした準備が必要なの」
「そう、なんだ。でもユキくん、私達、は?」
「んと、ミツキ達の召喚は俗にいう勇者召喚ってやつで、わたし達の使う召喚術とは別物なの。勇者召喚は特定の誰かを召喚するではなく、条件に一致した誰かを召喚するって方法なんだ」
事前の承諾がないどころか特定の誰かを召喚するものでもないとか、ほんとたちが悪いわ。
「だから召喚でも……お母様?」
ミツキと話していたら、お母様が何か思いついたような顔したけど、閃いたのかな?
「召喚……そうね、その手があるわね」
「えっと?」
「ふふっ、分からないって顔してるわね。そうねぇ、実際に見た方が早いかしら」
そう言ってお母様が胸元から術札をスッと取り出し、術式をサクッと書き込んで発動直前の仮展開状態にしたけど、ずいぶんとおっきい術式だなぁ。式が部屋いっぱいに広がってるよ。
「ん~、わたしが見なことが無い術式だわ」
「あらあら、本当にそうかしら?」
「う~ん?」
お母様がちょっと期待するような顔してるけど、はてさてどういう事だろ?
ここまでおっきい術式って見たことないんだけどなぁ。でも何となく召喚の術式が組み込ま……れ?
「もしかして、召喚の術式と勇者召喚の陣、それと転移門に使っている術式を混ぜてます?」
「そうよ~。ちゃんと解読できたわね~」
「むふぅ」
お母様の期待通りだったのか、なでなでされてしまったわ。
まぁ分からなくてもなでなではしてもらえるけど、褒めてもらう時のなでなでの方が良いしね。
「でもお母様、こんな術式、どうして作ったんですか? 最適化が不十分どころか、発動するためにはトンデモナイ魔力が必要な欠陥品って感じなんですけど」
「これはね、ユキちゃんにあげた魔道具の機能を模索したときに作った術式なの」
「魔道具の? って事はこれ、緊急時転移してくれる術式の前身って事ですか?」
「そうなのよ。ユキちゃんも知っての通り、今の魔道具は大気中にある少量の魔素だけで緊急転移は出来るのだけれど、この国みたいな別世界ともいえる場所からだと転移できない欠点があるの。だけどこの術式にはその欠点が無いの」
そう言ってお母様が術式をより解析しやすい状態に変異させたけど、なるほど、主となるのは勇者召喚の陣で転移とかは補助に使ってるのね。
たしかに勇者召喚の陣であれば、異世界だろうととこでも呼び寄せることができるね。転移門だと出入り口を構築しないとダメ。しかもそれが異世界に近い場所だと調整が大変で、稼働させるための燃料も相当必要になるんだったかな。
「勇者召喚の陣と違うのは、召喚する対象を細かく指定できるのと、転生にはならずに効果としては転移に近い状態になる事ね。なので、見ず知らずの者を召喚するとか、召喚したら能力が増えるという事も無いの」
「召喚術でも無いから、術者の魔力が切れたら送還も無いんですね」
「そうなの。でもね、この術式は一見便利そうではあるのだけれど、術を起動させるために消費するのが魔力だけでなく精霊力も必要なのと、どちらも自然界にある魔素や霊素じゃ補えないくらい燃費が悪い所なのよ」
「たしかに、これはちょっと起動できる人がほとんどいなさそうです」
だんだん分かってきたけど、これってわたしの魔力と精霊力注ぎ込んでも起動しないどころか、お母様でもギリギリなんじゃ? ってくらい燃費が悪い。これじゃ魔道具化して緊急転移用にするとかは無理だねぇ。
「だけど、私とユキちゃんの二人ならできるかもしれないわね」
「え? お母様とシズクさんじゃなくて?」
「ふふっ、不思議って顔してるわねぇ。確かに魔力と精霊力はシズクの方が高いのだけど、私とユキちゃんの魔力と精霊力は、ほぼ同じ力なの」
「そういえばそっくりなんでしたっけ? お兄様は似ているけど結構違うのに、わたしとお母様はホントそっくりって」
そっくりすぎて、精霊達が「どっちの精霊力か分かんない!」って最初会った時に言われたのをうっすら思い出したわ。
ただ、お兄様とお父様がそっくりという事もなく、お兄様とお母様も似てはいるけど若干違うのに、わたしとお母様がそっくりすぎるのはちょっと謎だけど。悪い事じゃないから良いけど、いつか解明したい謎の一つだわ。
「ほぼ同じ魔力と精霊は」
「えっと、力を合わせやすいのと、加算でなく乗算することもできるんでしたっけ?」
「その通りよ~。なので、私とユキちゃんがこの術式を使えば、たぶんみんなを召喚できるわ」
ドヤァって感じにお母様が宣言したけど、マジですか?
使ったことが無い術式なのに、おそらく練習無しの一発勝負どころか、お母様と色々合わせないと失敗しちゃうという、かなーりハードルが高い方法なんですけど。
だけど、お母様だけでなくシズクさんも期待してる目だなぁ。わたしなら絶対にできるって信じてる感じだねぇ。
だとしたら気を引き締めて、思いっきりがんばってみますか!
バトル展開にはならないです・・・たぶん




