280話 新住居のご提案、かな?
少し長いです
ルミィ達が少し呆然としてるけど、どうしたものかなぁ。
って考えてたら、お母様がまとめてくれるみたいね。わたしの頭を撫でながらニコニコしてるわ。
「そんなに難しく考える必要は無いわよ?」
『難しくって、妾からすると衝撃的な事なんだけど』
「そうかしら? 私からすると凄く単純で、当然って気がするわ」
『つまり、この子が眷属化した理由に心当たりがあるって事かしら?』
「そうよ~。というか、二人は難しく考え過ぎよ。確かにユキちゃんは私の力も濃く受け継いでいるから、ルミィちゃんの眷属化能力を跳ね返すのも造作なかったかもしれないわ」
『妾としては跳ね返せること自体、異常ではあるんだけど……』
「そこは基礎能力の差と、魔道具による防御の相乗効果ね。でも、一番はルミィちゃん自身」
『私ですか?』
急に指摘されたからか、ルミィが少しキョトンとしたね。
だけどルミィ自身が関係してるって、う~ん……なんか分かってきたよーな。
「答えはね、ルミィちゃんがユキちゃんに一目惚れしたからよ!」
『!?』
『なるほどね……確かにそれだと色々と納得いくわ』
あらまぁ、お母様がドストレートに言っちゃったせいか、ルミィがちょっと慌てだしたわ。だけどルミィのお母さんは納得したようで。
『一目惚れとしたという事は、警戒も抵抗もせず、全て受け入れるような状態に遷移しやすい、という事。更に、好かれたいという意思も合わされば』
「眷属化能力が跳ね返ってきたら即眷属化、というのもありえるでしょ?」
『その通りね。この子だって跳ね返された程度じゃ眷属化しない程度の力は持っているけれど、自ら受け入れ易くしていたら当然の結果ね』
なるほどねぇ。
眷属化に関してはまだ謎な部分があるけれど、好いた相手に対しては弱くなると眷属化の手順が省かれたり、難易度が一気に下がったりするってわけね。なかなか面白いなぁ。
話がひと段落したので、用意してもらったお菓子をパクパク。
ふ~む、美味しいけど初めて食べるお菓子だなぁ。見た目はモナカだけど表面は少し硬めのせんべい風で、中は生チョコみたいな半生で甘い物体。ちょっとレシピを貰って色々と試してみたい感じの物だね。
そんなわたしと違い、お母様とルミィのお母さんが少し真面目な話をしだしたね。
とはいえ、主に話し合ってるのはレグラスのどこに住むかって内容だけど。ルミィの家族、というかこの城に居る人全員を移民させるのはほぼ決定っと。
「――つまり、自然が豊かなところが良いのね」
『そうなるわ。そちらの国でも同じか分からないのだけれど、妾達は自然から力を取り込む必要があるから、自然が少ないと弱体化するのよ』
「自然から……魔素の吸収かしら? だとすれば、うちの国ならどこでも大丈夫ね。だけれど、自然が多い方が落ち着くというのはありそうね」
『まぁ無理にとは言わないわ。そもそもだけど、妾の庇護している者達も含めた全員だと、結構無理することになるんでしょ?』
「そうねぇ、すこーし大変なのは事実ね。ただ」
お母様が言葉をいったん止めて、わたしの方を見ながらなでなでしてくれるけど、これはやっぱアレかな?
「わたしが関係してるからですか?」
「そうよ~。ルミィちゃんはユキちゃんのお嫁さんだから、当然ルミィちゃんの家族も私達の家族になるし、眷属の人やその家族も身内同然になるわ。だとすれば、無理でもなんとか通すのが筋になるわよね」
『無理でも通すって、大ごとになるんじゃないの?』
「否定はできないわねぇ。私達の住んでいる国は経済面や武力、それに技術などが圧倒的な事もあり、他国からは〝少し自重して〟とは言われているのよ」
『自重、ね。だけど妾達を受け入れたら』
「自重なんて言葉が完全に吹き飛んじゃうわねぇ」
お母様が少し苦笑いしながらそんなこと言ってるけど、たしかにそうだよなぁ。
ルミィ達は、わたし達が知らないような技術も持っている。なので受け入れるという事は、それだけレグラスの技術等がさらに上がっちゃうわけで。
となると、たぶん同盟国以外、特に神聖王国と傭兵帝国からは、ねちっこくて恨みったらしい感じで遺憾の意を表明してきそうだわ。
「だけどね、それだけ私達は家族や身内を大事にし、一番に考えているの。多少の障害くらいじゃ揺るがない所もあるかしら」
『なんというか、徹底してるわね』
「そうねぇ。後はやっぱり、ユキちゃんの為かしら。親としては、娘が一番望む結果にしたいって考えちゃうものなのよ」
『それは分かるわね。と言っても、妾は上手く行かずに家出されたけどね。どこで間違ったのかしらねぇ』
『お母さん!?』
『妾を心配させた仕返しみたいな物よ。別に根に持ってるとかは無いから、不安な顔しなくていいわ』
ほほー。
今の様子からして、ルミィもお母さんに嫌われたくないって気持ちはかなり強いみたいね。ルミィのお母さんが悪戯っ子っぽく言った内容に、ルミィが結構動揺してたわ。家出した罪悪感もあるのかもねぇ。
まぁ二人の間に険悪な感じは一切無いから大丈夫そうね。
その後も細かい話し合いになったけど、とくに問題なさそう。
「というわけで、別荘の一つを譲るわ」
『別荘という事は、大人数では住めないのかしら?』
「そうねぇ、うちの屋敷と同じくらいだから、多くても1000人までかしら」
『は?』
「もっと大きい所もあるのだけれど、自然が豊富だとあそこが一番なのよねぇ」
「あー、おっきいって言うと離れ島のですね。遊園地も併設しているから、あの別荘も大好きです」
「ふふっ、そうねぇ、お母さんもあの別荘大好きよ。あの別荘なら10万人くらいは住めるのだけれど、ユキちゃんが言ったように観光施設と併設なのよねぇ。遊び場が近いのは良くても、きっと落ち着かないと思うわ」
「休暇に行くってよりも、遊びに行くって別荘ですもんね」
お母様になでなでされながらそんなことを言ってたけど、うん、ルミィとルミィのお母さんがちょっと唖然としてるね。よく見るとミツキもかな?
『ちょっと整理したいのだけれど、譲ってもらう別荘は家なのよね?』
「家になってるわねぇ」
『家なのに1000人住めるって言うの?』
「住めるようにしてあるわ。あぁ大丈夫よ、大広間一つに住んでもらうとかではなく、個室も1000部屋くらいは作ってあるから」
「わたしの部屋ほど広くはないけど、確か個室も10人くらいなら入れる広さでしたっけ?」
「確かその位だったかしら? 改築したのは去年だから、家具も古くは無いとは思うのだけれど」
『『……』』
おっと? ルミィとルミィのお母さんが揃って天を仰いでるわ。親子だねぇ。
だけどこれは、う~ん
「ねーねーお母様、やっぱり1000人用だと“小さすぎた〟んじゃないですか? 部屋に詰め込んでも1万人が限界ですし」
「ユキちゃんもそう思ったかしら。そうよねぇ、うちの屋敷みたいに仕えている者とその家族、それと修行に来ている者を合わせても400人に行くかどうかの規模と、一国とも言ってもいいミルゥちゃんのお城を同じに考えたらダメよねぇ」
『……い』
「「はい?」」
『屋敷で1000人とか多いわ! 妾の城に住む者など全員余裕で入れるわ!』
「そ、そうなのね」
うん、ルミィのお母さんが立ち上がってグワッて感じに叫んできたから、少しビクッとなっちゃったよ。お母様もたじろいじゃったわ。
だけど、どうやら人数的には余裕みたいだね。数万人いるかなぁって思ってたけど、大丈夫そう。
『ねぇお母さん、1000人住める家、作れる?』
『無理よ……。この城ですら地下を上手く使って、何とか300人住める状態にできたのが限界よ』
「「あっ!?」」
『今度は何よ……』
二人の話から、わたしとお母様はハッとして見合っちゃったわ。二人揃って完全に忘れていたね。
ちなみにシズクさんは……あーシズクさんも忘れてたみたいね。給仕する手が一瞬止まったの、わたしは見逃さなかったわ!
「えっとお母様、あの別荘には地下室がありません!」
「そうよ、その通りよ! まずいわね、これじゃ倉庫に修行場、実験や研究用の施設が足りないわ」
「お父様に言って、急いで作ってもらわないと!」
「そうね、タツミさんなら3日で何とか作ってくれるわ」
『『3日!?』』
おや? 今度は二人がハッとしたというか、ちょっと驚いてるんだけど。
「えぇ、申し訳ないのだけれど3日もかかってしまうの。私とシズクも居れば1日で何とかなるのだけれど……」
「去年の改築時に作るの忘れてましたもんね」
「そうなのよねぇ。あの時は時間が無くて、滝や川、林や森、それと露天風呂を作ったところで止めちゃったのよねぇ」
『川とか森って……』
『ねぇお母さん、もしかしたら私達、想像を絶する規格外で、なおかつ常識の範囲に収まることが絶対にない人達と仲良くすることになったのかも』
『そんな気がしてきたわ……』
おっと、また二人して天を仰いでますよ?
でもまぁ、うん、ミツキの呆然って感じの表情も見たらなんとなく理解したわ。わたしやお母様にとっての普通って、やっぱ異常みたいだねぇ。気にはしてないけど、ほんと実感するわ。
『なんか、一生分驚いた気がするわ』
『私も』
二人とも落ち着いたと思ったら、揃ってそんなことを言うとか相当だったのかな?
「あら、それはごめんなさいね」
『構わないわ。それで、妾達の移動についてだけど』
次は移動手段についてお話しよーって思ってたら、ドアをドンドンって感じに少し焦りながら叩く音がしたわ。
『誰かしら? ずいぶん焦っているようだけど』
『少々お待ちください』
メイドさんの一人がドアの方に行き、叩いてきた人から用件を聞いてるけど、なんかただ事じゃないっぽいなぁ。
しかも話を聞いたとたん、メイドさんも少し青くなって、ドアを叩いていた人と一緒に急いで戻ってきたわ。
『主様、大変です!』
『ずいぶん焦っていたけど、どうしたのかしら?』
『そ、その、天光の魔王様が敗北、天光の城も陥落間近とのことです!』
天光の魔王? なんか聞いたよーな……あぁ、今回討伐対象になっていた魔王の一人か。
そして、やっぱり相当な大物だったわけね。メイドさんの一言で、ルミィ達が驚いてるわ。
『それは本当の事なの?』
『間違いありません! 先ほど広域放送を使い、討伐にあたっていた勇者が宣言しています! 敗北した天光の魔王様は捕虜となっていますが、このままではきっと』
『……マズいわね』
『お、お母さん……』
『そう、ね。えーっと、身内の恥を晒すような事だけど、少し説明するわね』
そう言って、ルミィのお母さんがかなーり真面目な顔して立ち上がったけど、なんなんだろ? ルミィは慌てるというか顔が青くなったままだし。
『天光の魔王は妾の夫、つまりこの子の父親なのよ』
「……はい?」
「え、えっと、つまりルミィちゃん、は?」
「魔王同士の娘、という事になるのかしらねぇ」
『そうなるわ。そしてあのバカは敗れ今にも処刑される、そんな状況らしいわ』
うへぇ、色々とめんどそうな感じになってきたよ。
しっかし天光の魔王っての、相当強いんじゃなかったかな? それを討伐とか、向こうの勇者パーティの力、一体どうなっているの?
シリアスっぽくなりそうな感じもありますが、シリアスにはならないです




