28話 冒険者ギルドのお約束?
少し長いです
アリサのギルド登録も無事済んだし、次は実際にクエスト受注かな。
「というわけでアリサ、そこの壁に貼ってある依頼書から好きなのとってきて。わたしがいるから受注条件が金級以上のもの以外ならどれでもいいよ」
「わかりました、ちょっとみてきますね」
そう言ってアリサは依頼書の方に。楽しみだったのかな、足取り軽いね。
「さて、今のうちにフローラさん、パーティ申請用紙ちょーだいな」
「はいどうぞ。アリサさんとのパーティ申請ですね」
「そういうことー。リーダーはわたしにしておくね」
パーティにしておくと、リーダーのランクまでの依頼なら低ランクのメンバーも受けられるようになるのと、メンバーはリーダーの許可が無ければ他のパーティに随伴できなくなる。
必ずリーダーを通す必要があるから、騙してクエストに連れ出してそのまま強引に加入とかを防ぐことができる。アリサはわたしが守るのです!
「お嬢様、この依頼とかどうでしょうか」
パーティ申請書を書き終えたあたりで、アリサが一枚の依頼書持ってきたわ。どれどれ。
「ダンジョンにいる魔物の魔石回収ね。魔物の種類は問わず個数だけだから、うん、いいと思うよ。というわけでフローラさん、これお願いねー」
「よかったです。フローラ様、よろしくお願いしますね」
「畏まりました。ではお二人のギルドカードをお預かりしますね」
ギルドカードを渡すと魔道具にセットしてボタンをポチポチしているね。なんかこういう機械っていじってみたいなぁ、無駄に連打してみたい。
「はい、これで受注完了です。期限は10日となっていますので気を付けてください。期限を超えますとクエストが無効となり報酬はお渡しできません。それとクエストに何度も失敗されますとランクが1段階下がり、あまりに酷いと除名となるのでお気を付けください」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」
「それじゃ行ってみ……あっ」
ダンジョンに向かおうとした矢先、体格は良いが目つきが鋭い二人の男がこっちに来る。ギルドのお約束っていうんだっけこういうの。
案の定、わたしたちの目と鼻の先まで来たけど、でもなぁ……。
「お嬢様は私の後ろに! あなたたちは何なのですか! それ以上近寄ったら容赦しません!」
「おー根性のある嬢ちゃんじゃねーか。でもな、まずは相手の強さをちゃんと見てから啖呵を切るべきだぜ」
こっちに来た男に対してアリサはすぐにわたしの前に立つと、そのまま二人を威嚇するように睨んでるね。
それに対しこの男は余裕なのか、ニヤニヤ顔だね。確かにぱっと見、アリサって戦闘とは無縁の綺麗な女の子だからなぁ。敵にならないって思わるのはしょうがないかな。
しっかしギルドだからお約束とかあるんじゃないかなーって少しは思ってたけど、ほんとに始まっちゃったよ。
「まだガキだが可愛い顔してるじゃないか。どうだ? 冒険者なんかやめて俺の女にならないか?」
「誰があなたみたいな男に!」
おっとそのニヤケ面で今度はアリサをナンパですか。それはわたしが許さないよー、アリサの旦那さんは最低でも天魔に進化している人じゃないと。
対するアリサは、あー、本気で睨んでるね。しかも術札出しちゃって、これは完全に先制攻撃する準備だわ。
うーん、そろそろ止めないとまずい感じ。
「おいタイタ、そのくらいにしておけ。その顔だから余計にシャレになってねーぞ」
「てめ、俺が落とし物を拾ったら逆に疑われ、さらに子供を攫う変態と間違われ、とどめに牢屋にぶちこまれそうになった男の顔だって言いやがったな」
「いや言ってねーよ、というかそれ俺も初耳だぞ……。あー嬢ちゃんすまん、こいつも悪気はなかったんだ」
止めようかなぁって考えたら、向こうが先に動いたわ。
でも相変わらずコントになるなぁ、しかも真面目な顔してコントするというのがまたなんとも。
さて、アリサは状況がわからないって顔したままだし説明しましょうか。
「えっとね、この二人は悪い人じゃないよ、ぱっと見すごい怖いけど」
「いやユキちゃん、さすがの俺たちも堂々と言われるとへこむぜ?」
「うっそだぁ。それでまぁこの後にいろいろコントが始まるんだけど」
「いやコントじゃないんだぜ? ほんとだぜ?」
身振り手振りでそんなことないよアピールされてもねぇ。
目つきは鋭い、筋骨隆々で派手な防具、刺々しいアクセサリをじゃらじゃらつけてるからなぁ。初対面の第一印象は絶対〝怖い〟か〝怪しい〟になるのは宿命だと思うんだ、うん。
というか、いっつもわたしにズバッと言われてもへこんでないくせに。
まぁいいや、アリサがオロオロする前にさっさと答え教えてあげましょう。
「ようは子供が危ないことしないか心配してるってだけなのよ。討伐系は低ランクのクエストでも危ないからね。ただまぁこの人相だから怪しいし、さらにお察しな頭だから、主題に入るまでにこのコント状態だからすっごい長いんだ。途中で怖くなった子供が逃げだすこともあるよ」
「は、はぁ」
「いやだからなユキちゃん、目の前で堂々と言われると俺たちもへこむぜ? 泣くぜ? それに馬鹿なのはタイタだけだぜ?」
アリサが唖然としてるね。そりゃそうだよねぇ、下心じゃなくて親切心で声かけてきたんだから。
「まぁそういうわけだ、怖がらせて悪かったな嬢ちゃん。俺はタイタって言う」
「そんで相棒の俺はニックっていうんだ。ちなみに相棒も俺も銀級だ」
二人が真面目な顔して自己紹介しだけど、アリサは信じられない異常なものを見た顔になってるね、わたしも初めそうだったよ。でも実力者で模範的な冒険者でもあるんだよね、こんな見た目だけど。
てかこの二人の名前、いつも思うけどくっつけるとすごいまずい気がする。前世の何かがそう叫んでいるの。
「えっと、私はアリサと言います。こちらのユキ様の専属メイドをしております」
「へー専属メイドか。なるほどな」
「タイタ、間違っても変な気おこすなよ? 専属ってことはユキちゃんのお気に入りってことだぞ? 馬鹿な事したら後がこえーよ」
「おいそこの二人、人を化け物みたいに、あ、わたしって結構化け物だった、てへ」
可愛く笑ってごまかし。ふふふ、アリサもフローラさんもタイタさんもニックさんも悶えてる。わたしの破壊力は圧倒的ですね! いいのかは置いといて。
「ちなみにね、さっきアリサをナンパするみたいに話しかけるの、普段はわたし相手にちょくちょく言ってくるやつなんだよ」
「ちょ、ユキちゃん、それ今言ったら」
「へぇ……、お嬢様にそんな事を……」
「で、その度にいじって振るのがいつもの流れって、あら?」
話途中で気が付いたので見てみると、二人がお手本ともいえる綺麗な土下座をし、それをアリサがすっごい睨んでる。あー、この状況を作ったのわたしだね、やっちゃった。アリサってわたしの事になると時たま過激になるからなぁ。
とりあえずまぁ、うん、そのまま土下座しておいた方がいいと思うわ。
「で、二人が来たってことは何かあったの?」
さらに脱線して二人のコントが再開したら先に進まないので、さくっと本題を聞き出そう。
まさか、実はアリサをナンパしたかっただけって事はな……いやありえるなぁ、タイタさんって美人にすごい弱いし。
「あぁそれは俺から説明するわ、タイタが言うとまたコントになる。えっとだな、今日ここにいるってことはダンジョンに行くんだよな?」
「そうだよー。折角だから遺跡のダンジョンに行こうかなーって」
タイタさんが『そんなことねーよ』ってアピールしてるけど気にしない。ここで触れたらまたコントになってしまう。
ダンジョンは複数あり、森のダンジョン、砂漠のダンジョン、山のダンジョンとかいろんなものがある。
遺跡のダンジョンもその一つで、どこかの遺跡みたいな感じなのが特徴的。迷宮っぽい箇所もあったりするので、探検するのも楽しいんだよね。
「遺跡なら大丈夫か。いやな、10日前に他国の奴らが常設型の転移門を設置したらしいんだ」
ほほう、他国が転移門をですか。これは気になりますね。
「ダンジョンは世界で共有している物だから転移門の設置自体は不思議じゃない。だがこの国と北の王国以外は常設型の維持が難しく設置するのは無理、ってのが今までの常識だったわけでな」
転移門の設置はそれなりの技術が必要だからね。しかもただ設置するだけでなく、維持するのが大変なんだよね。
「とゆーことはその国の人が常設型の転移門を維持できる道具か何かを作った、もしくは転移門自体を改良したのかな。でもそれだけならそこまで心配しないんでしょ?」
ダンジョンに他の国がようやく転移門を設置しただけなら問題にはならないはずなんだよね。他の国だって自前の転移門でダンジョン行きたいはずだし。
お、言い当てられたって顔したね。なんとなくわたしの勝ちって感じ!
「そうなんだよ、問題は来る奴らなんだ。どうも傭兵帝国の奴らが組織立って乗り込んでいるらしい」
傭兵帝国、その名はメルセン。傭兵だった男が建てた別の大陸にある国で、現在も傭兵が多く野蛮な人ばかりなのが特徴。
そしてうちの国と完全に敵対している敵国、開戦はしていないけどいつ戦争になってもおかしくないって聞いたこともある。
もともと傭兵帝国は侵略を生業とするところもあってか、うちの国の豊富な資源と高度な技術に目をつけ、侵略してすべて奪おうとしている。
だけどうちの国に張られている強固な防御結界を突破できないようで、何千年も攻めこめない状態が続いているとか。
そんな敵さんが組織立ってですか……。ニックさんが険しい表情で説明するのも無理ないかな、お金のためなら何でもするような奴らだし、
「なんかすっごいヤバそうな気がしてきたよ」
「傭兵帝国の奴ら、いまだに人身売買とか平気でするからな。遺跡の方には転移門がまだなかったはずだが、念のため注意してくれ。もしもダンジョン内で遭遇したら容赦はいらねぇ、発見したら即殺してくれ。捕えて情報収集なんて甘いことは一切考えなくていいって通達がでているからな」
「慈悲もいらないってことだね。了解したよー、情報ありがと」
遭遇したら敵さんも間違いなく命を奪いに来るか、拉致しようとしてくるからねぇ。こういう情報はほんと感謝だね、行く前に聞けて良かったわ。
ギルドでの準備も終わったので、フローラさん、タイタさん、ニックさんの三人に手を振ってからギルドを後にする。
「それじゃアリサ、転移門のある広場へ向かいましょー」
「わかりました。それにしてもギルドっていろいろな方が所属しているのですね。見ているだけでも面白かったです」
初めてのギルドはなかなか良かったようだね。ニコニコ顔なのでわたしもうれしいわ。
アリサと手を繋いで広場まで来たけど、混んでるかな? 行列までできてるわ。
「はい順番に並んでくださ~い、割り込みは禁止で~す。それと現在のダンジョンについてですが~――」
誘導しているのはギルドの職員だね。でもなんか普段と違って注意を促してるし、結構ピリピリしてる。傭兵帝国のせいかな?
う~ん、早くダンジョン行きたいけど、どうなるかなぁ。
人は見かけで判断してはいけない典型的な世界




