表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/363

275話 脅す予定はなかったんですよ?

区切れなかったのでだいぶ長いです(5000文字越え)

 愚王は「魔王など恐れる必要はない!」とか「勇者と聖女の力があれば全ての魔王を討ちとれる!」など、こっちがドン引きする感じに叫んでるわ。

 でもドン引きしてるのは極少数、多くの奴らは次第に共感し、なんかもう狂信者の集会っぽくなってきた。なんとなく集団催眠に近い状況かしら?


 って、おや? 共感せずにドン引きしてる集団があったのでよく見たら、セイリアスからの冒険者達だわ。国旗をあしらったマント付けてるから分かりやすいね。

 大会の本選で見かけなかったから予選敗退してるのかと思ったけど、違うみたいね。もしかしたら別の街でも大会が開催され、そっちに出ていたのかしら?

 この辺りはサレストからの情報も乏しかったし、こっちに来て分かった事実も数多いから謎だね。まぁわたしと同じ感じにドン引きしてるのは高評価です。


 にしても


「いつまで続くのかなぁ、これ」

『どうなんですかねぇ。でも、なんとなく終わりに近づいてません?』

「たしかに。となると……うん、ようやく本題に入るみたい」

『各パーティの振り分けを発表するみたいですね』


 やっとこさ愚王の狂言が終わったようで、隣に居た大臣っぽいジジイがタブレットみたいなのを取り出し、いかにも「これから名前を呼んで行きますよ」って感じになったわ。

 ではではその発表の前にビシッと手を挙げてっと。


「発言の許可が欲しいです!」

「む? 確かお前は」

「王よ、あの者は首都大会で優勝したユキという人獣です」

「そうであったそうであった。してユキよ、何か言いたい事があるのか? 優勝者ゆえ、特別に聞いてやろうではないか」


 やれやれ、いかにもな感じの上から目線だわ。国王だから当然かもだけど。

 まぁいいや、いきなりな事でルミィも心配な顔になったし、喧嘩売らないように冷静に対応っと。


「えっと、パーティの編成に物申したい事があるけど、その前にこれを見てもらいたいです」


 ポーチから手紙を2通取り出し、一番近いとこに居た兵士に手渡す。

 そして兵士がジジイにその手紙を渡し、ジジイが少し確認してから愚王に手渡した。まぁ手紙を確認する際にジジイが少し驚いたから、愚王も驚く気がするわ。


「ふむ、質の良い高価な紙を使っておるのだな。して差出人は……なっ!? セイリアスの王子からだと!?」


 目を見開く感じに驚いてるねぇ。

 こういう状況もある程度予想できてたからね。今回はセイリアス経由で来ているのもあるから、念のためわたしを推薦する書状をサレストに書いてもらっておいたのだ。





 少し手紙を読んだ後、愚王がこっちを見てきたわ。相変わらず見下した感じだけど。


「つまり、お前はセイリアスからの使者という事か」

「それは違うかな? セイリアスの冒険者の代わりに参加しただけで、セイリアスの為ってわけじゃないわ。とゆーか、もう一通の手紙も早く読め!」

「王である余に向かって〝読め〟だと?」

「あっ、えーっと、読んでください?」

「お前がセイリアスとの交友が無い存在であれば、直ぐにでも打ち首にしたとこだぞ」


 この愚王、わたしに対して「フンッ」って感じの対応をした後、「寛大な対応をした俺様偉いよね」って感じの同意を求める視線を周りにしだしたわ。ほんと腐ってるなぁ。

 まぁ拒否反応から、敬う感じ皆無の対応したわたしの方が問題だけど……。


「大方セイリアスからの追加要ぼ……う!?」

「王よ、どうされたのですか!」

「こ、これを読め!」

「それでは失礼して……はぁ!?」


 おーっと、もう1通の手紙を読みだした愚王とジジイが驚くだけでなく震えだしましたよ。それもそのはず、もう1通はお母様からだからね。

 今朝行く前に渡されたけど、ちょっと小悪魔っぽい笑み浮かべてたから何となく内容は想像できてた。おそらくアレ、手紙という名の脅迫よね。

 きっとわたしに対する対応を事細かに指示するだけでなく、もしも破ったらレグラスだけでなく同盟国のアルネイアやセイリアス、それにダンジョンへの立ち入り禁止、さらにはこの国所属の冒険者を強制退去させるとかが書いてある気がするわ。


「つ、つまりお前、いや貴女は、ここに書かれているレグラスの」

「まぁお姫様的な存在? 王女はお姉様だけどね! なので……わかるよね?」

「わ、わかっておる! だからそう睨むでない!」


 流れでなんとなく睨んでみたけど、こりゃぁ相当だわ。お母様、いったいどこまで脅す内容を書いたんですか? 完全にやり過ぎてる感がするわ。





「して、貴女の要望を言ってはくれぬか?」


 なんというか、さっきまでの上から目線が真逆だねぇ。そのせいか、他の偉そうな人が不安がってるけど。

 ジジイが説明しまわってるから騒動にはなってないけど、若干居心地悪いね。


「んと、わたしがお願いしたい事ってすごく単純なんだ」

「まさか報奨金を上げろというのか!? それとも地位や名誉か!? いくら脅されようとも王権は譲らんぞ!」

「要らないからそんなの……」


 お金には困ってないから要らないし、この国での地位や名誉なんてもっと要らない。

 とりあえずミツキの方を見て手招き。うん、ニコニコしながらすぐに駆け寄ってき……むぎゅ。


「えっとミツキさん? いきなり抱きつくのはどうなのかな?」

「だめ?」

「ダメじゃないけど、ちょっと恥ずかしい」


 さすがに抱きつかれながら、ちょっとうるんだ瞳で言われたら拒否するとか無理です。そうでなくてもダメと言えない気がするけど。

 だけどこの国、同性ってのは禁忌だったはずだから大丈夫なのかなぁ。まぁ脅し効果でそれどころじゃ無い気もするけど。


 しっかし傍に居た勇者連中が止めようとしたけど、すべて無視して飛びついてきたとはなぁ。

 もしかして、あの連中の傍に居るだけでもストレスだったのかな。ナンパされるような状態とかは想像できちゃうし。


 とりあえずこのままだといちゃつきだしちゃうので、話を進めましょう。

 少し頭を切り替えてっと。


「んっと、その魔王討伐ってのはわたしも一応参加する。だけど、わたしのパーティにはミツキとルミィを入れる事、それだけだよ」

「貴女は余の聖女を独占する気か!?」

「なんか勘違いしてるけど、ミツキはお前のものじゃないし。それに、そっちのお爺さんは知ってるでしょ? ミツキはこの国の住民ではなく、レグラスの住民だって事を。それだけでなくレグラス、というかわたしの庇護下にあるっていう事も当然知ってるよね?」

「爺よ、そうなのか?」

「申し上げにくいのですが王よ、その方の言う通りでございます。ですので」

「余の民として扱えぬ、というわけか……。クソッ、これでは強制権どころか、勇者との婚姻に関する正当性の主張もできないではないか!」


 愚王がそんな事をブツブツ言いだしたけど、やっぱり勇者と聖女をくっつけて、国の象徴にでもしようと企んでたわけか。

 あさましいというかなんというか、ホント嫌いですこの国。





 さてさて、このままだと一方的に悪人なので、ちょっとは譲歩しましょう。

 もともとミツキとルミィはわたしのなので譲歩する必要は無い気もするけど、ただ敵を作るだけってのもなんかダメだしね。


「えーっと、わたしのお願いを認めるなら、それ以外はそっちの意向に沿ってあげるよ」

「どういう事か?」

「簡単に言うと、どの魔王を討伐するとか、ミツキとルミィ以外に誰をつけるとか、そういうのはそっちの好きにしていいよって事」

「つまり、貴女の要望はその二人を自身が保護できる権利をよこせ、という事か?」

「まーそんなとこ。だから変な気は起こさないでね? わたしって自分の大事な人に何かされると、理性吹っ飛んで何するか分からないから」

「わ、分かった! 分かったから睨まないでくれ!」


 おっといかんいかん、少し殺気を込めたまま睨んじゃったわ。

 だけどわたしも成長したね! 一応殺気を加減できたんだもん。昔だったら加減せず、本当に殺せるくらいの殺気を出しちゃってたよ。


「王よ、ここは受け入れるしか……」

「やむを得ぬか……。だが爺よ、民に対しては」

「心得ております。此度は要望をのんだのではなく〝王が提案した〟と発表させていただきます。ですので王よ、この後は」

「分かっておる。だが爺よ、もしも民の間で不穏な噂が流れた際は」

「その際はお任せください。根元から処理しておきます」


 愚王とジジイが内緒話してたけど、バッチリ聞こえてますよ?

 なんていうか、ホント小さいなぁ。国民が戸惑わない為って言うのは皆無で、あくまで自分の為って感じ。そこまでして立場を維持したいんですかねぇ。





「貴女の要望は分かった。それを踏まえた上、討伐について話そうではないか!」


 二人の内緒話が終わったあたりで、また見栄を張りだしたね。ホント小さい愚王だなぁと何度も思っちゃう。


「爺よ、任せたぞ」

「畏まりました。では〝雪風の魔王〟の討伐編成、及び注意点ですが――」


 ジジイがタブレットを操作しながら読み上げていくけど、もう再編成できたのかしら? だとしたら割と優秀ね。

 にしても、読み上げる人数がかなり多い。少数精鋭でなく、大所帯パーティで挑むのねぇ。


「ねぇルミィ、今呼ばれてる人数が必要なくらい、魔王って強いの?」

『強いと言えば強いですね。ただ、先程魔王は支配領域があると言ったの、覚えていますよね』

「うん。その領域の雰囲気とか見た目が魔王の呼称になってるのもバッチリと」


 こっちの魔王とかってあまり興味ないけど、さすがにすぐ忘れるほど無関心でも無いからねぇ。無関心だとほんと―にすぐ忘れちゃうけど……。


『ではマスター、支配領域に居る魔王はどのような所に住んでいると思いすか?』

「ん~、王って言うんだから、やっぱお城とか?」

『はい、城に住んでいる魔王がほとんどです。そしてその城、魔王城とでも言いましょうか、そこはダンジョン化しているのがほとんどなのです。なぜダンジョン化しているのかは不明ですけど』

「とゆーことは、討伐っていうけど、実際はダンジョン攻略って事なのかな?」

『ですです』

「だから大勢、なの?」

『そうなのです! ダンジョンも大規模なものがほとんどですので、数十から数百人単位での編成が必要となります。となると費用も相当になりますので、こちらから魔王に攻め入る事自体、あまりない状態になります』

「なるほどねぇ。ダンジョン化してたら易々と攻め入ることができないのは納得だわ。それに、そもそもの力関係というか、強い人も不足してそうだし」

「もしかして、今回は違う、の?」

『違うと思います。勇者パーティが複数存在するのもそうですけど、ミツキさんの様な聖女、もしくは聖者の方が複数いるのもありますから』


 ルミィの説明でなんとなーく読めてきたなぁ。妙に意気込んだ決起集会みたいな感じなのは、勇者だけでなく聖女や聖者も複数存在するからって事か。今回の人員なら絶対に勝てる! みたいな。

 とはいえ、ジジイに呼ばれたこの国の冒険者や勇者とかは、死地に赴くような何とも言えない雰囲気を醸し出してる。どうやら各魔王のダンジョンは相当ヤバいみたいね。

 対照的に、愚王やその周囲はすごく楽観的だけど。自分たちは安全だからですかねぇ。





「そして最後に一番の強敵である〝宵闇の魔王〟の討伐編成ですが、こちらをユキ殿、貴女達に任せたい」

「ん? それって、一番ヤバい魔王にわたし達を突っ込むってこと?」

「そ、その通りです!」

「別に脅したんでなく、ただ確認しただけなんだけど……」


 このジジイ、相当おっかなびっくりになってるな。お母様、一体どれだけの脅し文句書いたんですか?


「も、もちろん貴女達だけではありません! 我が国最強の勇者に最高の賢者、大会の上位者も加えますので、なにとぞ!」

「いやだから脅してないって……。とゆーか、わたし達三人だけでもよかったくらいなんだけどなぁ」

「そこを何とか! 必ずお役に立ちますので!」

「あー、なんか付けなきゃいけない理由がそっちにもあるわけね。まぁいいよ、わたしの邪魔をしないなら」

「あ、ありがとうございます!」


 えらい必死だったけど、お母様の脅しからじゃないな。むしろお母様なら余計な荷物増やさないように、わたし達三人だけで行かせるようにって書きそうだもの。


「編成内容はそっちの好きにしていいから、出発時刻や集合場所が決まったら、わたしが泊まっているホテルに伝言出しておいて。今日はもう帰るから」

「ま、待ってくれないか! 会はまだ始まったばかり、余としてはレグラスの姫である貴女に」


 もう帰るって言いだしたら、愚王がすごい顔して止めに来たわ。脅し効果か、それともなんか欲深い理由でもあるのかねぇ。

 だけど


「早く帰って来なさいってお母様に言われてるので! んじゃ二人とも、帰るよー」

「いい、の?」

『王様とか、ずいぶんと慌ててますけど……』

「気にしなーい。さっさと帰っておやつタイムよー」


 二人の手を引っ張り、出口に向かってずいずいと。

 一応参加するという妥協は出したんだからもういいでしょ。愚王の態度とかもそうだけど、ミツキに対する視線が本当に嫌だからね。下心ありすぎで見るとか、わたしが許しません!

 だからほら、さっさと帰るよー。

補足みたいな物

 そもそもレグラスとの国交は無く、転移門関係も無許可設置

 冒険者も不法滞在に近い状態なので、愚王からすると指摘されたら反論できない状況となります

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ