272話 決勝戦よー・・・1
さてさて、ついにというか、ようやくというか決勝戦ですか。
今のところ強い奴が居なくてがっかり大会って印象だったけど、どうなるかなぁ。
にしても決勝戦だけあって、ちょっと観客がすごそうね。まだ舞台に続く廊下の中なのに、結構声が聞こえてくるわ。おそらく事前説明とかもしてるんだろうけど。
そんなことを思いながら舞台に到着っと。
うへぇ、観客席が人だらけの超ごった煮状態だわ。立ち見客まで結構いるし、相当だねぇ。
まぁ緊張とかは一切しないけど、ちょっと気持ち悪いわ。どうもこっちの人の声、大多数が慣れないというか嫌悪感がするというか、色々とダメだわ。
『大変お待たせしました! これより、決勝戦を開始します!』
司会の声が会場に響くと、同時に観客の声がさらにワーッとなって、うん、ちょっと吐きそう……。マズいなぁ、嫌って感情が強くなり過ぎたのか、体調不良になってきちゃったよ。
とはいえしょうがない、さっさと終わらせよう。
それでは舞台にのそのそと。うげぇ、舞台に上がったらさらに声が大きくなって、ほんとぐったりしてきたよ。聴覚を封じるハンデってわけじゃないけど、耳栓とか使っていいですかねぇ。
『改めて選手の紹介をします! まずはこの方! 華麗な剣捌きはまさに貴公子の鑑、多くの女性の心を鷲掴みにしてきたパックルト選手!』
『パックルト選手ですが、相手の動きを読み取ることができるのか、対戦相手と同じ技で勝ち抜いてきましたね。何らかのライセンスも取得しているようですが、仮面に隠された素顔同様、詳しい情報はわかっていません』
『私は美男子だと思います!』
『そ、そうですか……』
ふーん。わたしとしては紹介の後、観客席に向かって片手を上げてカッコつけるとか、なんかいけ好かない感じが強いけど。
しっかしルミィとの試合しかよく見なかったけど、他の試合でも相手の動きとかを模倣してたのか。模倣する対象数に制限は無いって事かしら?
となると、なるべく術技や術式は使わずにサクッと終わらせるべきね。術技や術式も絶対に模倣されないって保証はないし。まぁ模倣できたらちょっと凄いってのはあるけど。
『次は大会唯一の人獣の子供! その愛らしさで急激にファンを増やしているユキ選手!』
『ユキ選手に関しては、正直何がどうなっているのかさっぱりな事が多く、解説者泣かせな方です。ですが、全ての試合で圧倒的な力を発揮していることから、ライセンスとアーツを複数所持しているのは間違いないです』
『尻尾も急に増えましたしね。それになんと言いますか、同性の私でも惹かれる何かを感じます!』
『ひょっとしたら魅了系のアーツも取得済みなのかもしれません』
ほー、思ってたよりもまともな説明ね。ここだと人寄りの獣人に対する扱いって結構酷いから、もっと雑というか変な説明されると思ってたよ。
でもね、ファンを増やす発言はすっごいツッコミたいんですけど! ぜーったいにファンとは名ばかりの下心満載な男どもでしょ。そういうはごめんなさいだわ、マジ。
その後も司会と解説が色々言ってるけど、時間のようで審判が合図してきたわ。
んでは開始位置に移動してっと。
ふむふむ、仮面の奴は既に準備万端の様で、剣を鞘から抜いて構えだしたね。盾は持ってないのと構え方がルミィに似ているから、おそらくルミィの攻撃を模倣してくるんだろうね。
ん~、どうするかなぁ。どういう条件で模倣するのか分からないので、できるだけ触りたくない。
だけどルミィの行動を模倣するとなると、素早さを活かした連続攻撃になるはずなので、魔力弾を投げつけるような遠距離攻撃はイマイチ。
ならば範囲攻撃だけど、広範囲の術式でドカンはやめておきたい。わたしの術式真似されてドカンされるとかほんと勘弁よ。
だとすると……あれで行くか。
確かポーチの中に強化済みの刀が……あったあった。念のため4本出しておきますか。
『おや? ユキ選手が今大会初めて武器を持つようですが、あれは一体?』
『剣のようですが、細いですね。それに両腰に2本装備しての計4本ですか。いったいどのように使うのか、私も見当がつきません』
あーそういえば、今まで素手と術式で戦ってきたからそういう反応になるのか。取り出した時、会場も少しざわついたし。
ただなぁ、4本使って何かするように思われてるけど、違うんだよねぇ。
4本なのは、おそらく一回振ったらわたしの魔力で消滅しちゃうので、予備として少し多めに出しただけなんだもん。まぁアダマンタイトとオリハルコンを混ぜ込んだ刀を使い捨てにするとか、想像すること自体無理ではあるんだけど。
いよいよね、審判がわたし達を見てきたわ。
んでは右腰の刀を抜き、脇構えをしてっと。抜刀からの居合も考えたけど、おそらく「見えませんでした!」解説されちゃうからね。なので少し遅めの攻撃にするのです。
「両者、準備はよろしいですか?」
「うむ」
「ほーい」
「それでは……決勝戦、始め!」
審判の合図が終わるやいなや、仮面が予想通りの動きとでも言うべきか、わたしの右側に回り込んで斬りかかろうとしてきたわ。なるほど、動きだけでなく素早さ自体も模倣できるのか。
でも残念、相手がわたしだからね。
「ほいっと」
向きを少し変えて、そのまま左下から右上に切り上げ! って、あら?
「甘い!」
「へぇ、今の躱すことができるんだ」
確かに手加減はしていたけど、そこそこ速かったのに躱されちゃった。切り上げる瞬間、左側にはねて回避するとはねぇ。どうやらわたしの動きも見えてるみたい。
そして案の定、切り上げ終わった刀は塵の様に消滅しちゃったわ。手を抜いても消滅するとか、わたしの魔力って異常すぎませんかね。
『パックルト選手、ユキ選手の攻撃を華麗に避けたぁぁぁ!』
『パックルト選手の攻撃に対し、ユキ選手はカウンターを狙ったようですが、パックルト選手の方が一枚上手でしたね。しかし、ユキ選手の剣が消滅したのは……』
『何かしたのでしょうか?』
『そうは見えなかったです。ユキ選手には解説する側の身にもなっていただきたいです……』
ごめんね解説の人。
でもね、力を抑えたので刀がポッキリ折れるくらいで済むかな? って予想してたのに、それでも相変わらず消滅したのは予想外なんですよ?
にしても
「なんで攻撃してこないの?」
「なに単純なこと。ワガハイの方が貴女よりも圧倒的に強い事実を知らしめるためだ」
「はぁ?」
「とぼけているようだが無駄だ。貴女もわかっているだろう、ワガハイとの力の差が!」
なんか意気込んでそんなこと言ってきたけど、なんだかなぁ。わたしってそんな弱そうに見えるのかなぁ。
「だから、早く抜くがいい」
「完全に上から目線だなぁ。そういう態度してると、痛い目見るよ?」
「痛い目とは、なかなか面白い事を言ってくれる。せっかくだから教えてやろう」
「あっ、そういうの要らないです」
コイツと会話していても楽しくないからね、話は適当に切り上げよ。
んでは今度は左腰の刀を抜いてっと。
って、抜き終わった瞬間に向かってきたわ。上から目線で抜けとか言ってたくせに、抜いたとたん何も言わずに襲ってくるとか、よくわかんないやつ。
「一気に終わらせてやろう! コピースキル発動! ドッペルソード、レベル10!」
『なんという事でしょう! パックルト選手が10人に増えたぁぁぁ!!』
『スキルと言っていましたね。おそらくソードライセンス内のアーツの一種だとは思いますが、私も初めて見ました』
なるほど、模倣した力を発動したようで一瞬体が光り、10人に分裂したわ。ドッペル、つまり分身って事か。10人って事はおそらくレベルが人数になってるんだろうね。
そして一気にわたしを囲むように移動し、それぞれが交差するように斬りかかってきた。
まぁ余裕で回避できるけどね、ひょいひょいっと。
10秒くらいかな? 回避し続けてるけど、うざいだけだなぁ。
まぁ回避しまくりという見せ場も作れたし、そろそろ終わらせますか。時間をかけるのは危険だし。
「いつまで
「避け続けて」
「いられるかな!」
「しょっぼい。分身の意味、無いですよ?」
斬撃が速くなったとかも無いので適度に避けながら少し煽り、それに反論して言葉を発しようとする個体を探し……発見!
見つけたら上から下への切り落としっと! あら?
「むぅ、避けられたわ」
『ユキ選手が隙を見て渾身の一撃を放つが、パックルト選手はそれを避けたぁぁぁ!』
『分身の中から本体を狙ったユキ選手の技術も凄いですが、あの反撃を躱したパックルト選手の技術も凄いものです』
ほんとギリギリのところで躱されちゃったわ。
むぅ、力を抑えてると、どうにもわたしの反応が遅くなっちゃうなぁ。もうちょっと力入れようかしら?
「どうやって位置を探ったのだ! ワガハイのドッペルソードは完璧だったはず!」
「だって、ねぇ……」
本体しか喋ることができないって、かなり致命的だと思うんですけど。
見ていた感じ、コイツの分身は体を幾つか作って、そこに本体の魂みたいなのが憑依して入れ替わることができる技。基礎はゴーレム制御に近いものかな? となると臨機応変な対応ができず、同じ攻撃を繰り返すだけの欠陥技になるか。
それだけでも欠陥なのに、さらに会話できるのは憑依中の1体だけとか、ダメダメすぎです。
まぁ会話の欠陥は気付いてたようで、仮面を使って口元を隠したたけど、それで対策済みとか無いわぁ。
だっていくら隠していようとも、口を開いたときに起こる空気の振動を察知すれば余裕で分かっちゃうもん! そのくらい、みんなよゆーでできちゃいます! ……できるよね?
次回、サクッと反撃のターン




