271話 流れ的に反省会
少し真面目っぽい話
あっさり勝てたので、明日はルミィとの決勝戦!
って思ってたんだけど……
『マスター、本当にごめんなさい……』
「えっと、別に怒っていないからね? そりゃちょっと残念って、ちょ、そんな泣きそうにならないでー」
「ユキくん、追い打ちはダメ、だよ?」
「追い打ちする気は無いから! 皆無だから!」
でもまぁ正直、この結果は予想していなかったわ。
ルミィはあの妙な仮面の奴との試合だったけど、わたしの予想ではルミィの圧勝で終わるはずだった。だけど実際の結果は異なり、ルミィが負けちゃったのがねぇ。
その事をルミィ自身がちょっと気にしすぎてるのか、宿に戻るなりちょっとした反省会っぽくなったのがなんとも。
机を挟んでミツキとルミィが座ってるけど、ルミィはちょっと俯き気味。それをミツキが支えるような形だね。
対するわたしはお母様に抱っこされ、シズクさんが用意してくれるお菓子を気の抜けた感じで食べているという、なんとも真逆な状態。
とゆーか勝負は水物、何が起こるか分からないってのが根本にあるので、わたしとしては予想外で残念ではあったけど、責める気もなく反省会もする気は無かった。だけど、ルミィが自らこの状況に持って行っちゃったのがねぇ。ちょっと真面目過ぎじゃないかな?
「ねぇユキちゃん、せっかくだから反省会してあげたらどうかしら?」
なでなでしながら、お母様がそんなことを言ってきたわ。
「んっと、それってした方が良いって事ですか?」
「そうねぇ。たぶんだけど、ルミィちゃんはなんで自分が負けたか、よくわかっていないのよね?」
『です……。最初は押していたはずなのですけど』
「確かにルミィは最初圧倒してたねぇ。後半は逆になってたけど」
前半はルミィの速さに全然追いつけなかったようで、相手は連続攻撃をただ防ぐだけだった。
だけど時間が経つにつれ、ただ防ぐだけでなく逸らしたり、反撃したりしていった。
そして最後の方では真逆、相手の連続攻撃に対してルミィがただ防ぐだけの状態になり、体力が尽きかけたところで場外に押し出された。
単純に考えれば攻撃を分析され対応されたって事なんだけど……。
「あの人、ルミィちゃんと同じ攻撃を、していた、かな?」
『です。真似できるような単純な動きではなかったはずなのに、どうしてなのか……』
「そこも引っかかってるって訳かぁ」
たしかに途中から「ルミィと同門なの?」って感じがするくらい、同じタイミング、同じ太刀筋、同じ回避方法と、本当にそっくりの動きしてたね。
それ故に、最後は当人同士の魔力や体力、それと武器の差が表れていたけど。
「そういえばもう片方の仮面の奴も、魔物みたいな動きしてたなぁ。ん~……ねーねーお母様」
「なぁに?」
「相手の能力を完全に模倣できる魔道具ってあるんですか?」
「あら、そう思ったのはどうしてかしら?」
「えっと、理由はあるにはあるんですけど、ほとんど勘です!」
ビシッと手を挙げてって、うん、勘なのにドヤってどうするんだろね。
まぁ魔物の動きを魔道具使って再現してそうとか、明らかに仮面が怪しいとかってのもあるにはあるけど、結局は勘なのだ。
「ふふっ、えぇ、そういった魔道具はあるわよ」
手を挙げたままお母様を見上げてたら、ニコニコしながら頭を撫でてくれる。はふぅ、やっぱ良いですねぇ。
「せっかくだからそうね、シズク」
「畏まりました。皆様、こちらをご覧ください」
シズクさんが腕輪型魔道具を操作して机の上に空間ディスプレイを起動したけど、はて?
「指輪型魔道具の解析内容? でも見たことないし知らない物だなぁ。もしかしてすっごい昔の物なの?」
「その通りです。こちらは約5000年前に存在した〝ラーンの指輪〟という魔道具です」
「へぇ、5000年前のかぁ」
まじまじとディスプレイに映し出されてる内容を見てるけど、なんていうかちょっとヤバい代物みたいね。見た目はどこにでもありそうな宝石の付いた指輪なのに。
「こちらの魔道具は対象の体に触れることで、能力だけでなく癖や記憶まで完全に模倣できる、少し特殊な魔道具です」
「ちなみにこの魔道具はね、その時代に居た勇者の一人が転生ボーナスで〝相手の力を真似したい〟という願いをし、そこで生まれた〝ラーニングの指輪〟という勇者用魔道具が基礎になっているの」
「その能力を解析し、量産化した魔道具がこの〝ラーンの指輪〟となります。量産と言っても、元の魔道具と同等性能でしたが」
「ほへぇ、そんな魔道具があったんだぁ」
能力を模倣できるだけでもヤバいのに、〝量産なのに元の魔道具と同等性能〟ってのがヤバさを底上げしてるねぇ。
だってこれ、同じ能力を持った強い人を大量に作れるって物だもんね。
「でもこんなヤバイ魔道具、わたしが知らなかったのはなんでですか?」
「それはね、ユキちゃんが生まれるずーっと前に、お母さん達がすべて消し去ったからなの」
「サユリ様やタツミ様だけでなく、私達メイド部隊や王家の親衛隊も総動員で対応しましたからね」
「ん~? それって、ちょっとヤバい事件でも起きたって事なんですか?」
「そうよ~。答えを言ってしまうとね、量産していたのは今の傭兵帝国の元となった国なの。そしてレグラスだけでなく、多くの国を支配しようと動き出していた時期なの」
さすが傭兵帝国、その誕生まで問題あり過ぎとは。
とゆーことは、あの国がうちの国とかにちょっかい出しているのは、物資や技術が欲しいだけでなく昔からの因縁とかもありそうね。
「あの時に魔道具だけでなく、製作者から文献に至るまですべて消し去ったから、同じ物は現存しないはずなの」
「唯一残っているのは、私やサユリ様といったごく一部の者が所持する記録だけとなります」
「絶対に同じ物を作らせない為なんですねぇ」
たしかに能力だけでなく記憶まで完全に模倣できるとか、ヤバいことこの上ないしね。
そう言うものはこの世に存在しない方が良いです、マジに。
にしても模倣、ねぇ……。
「もしかして、あの仮面もですか?」
「そうみて間違いないのよねぇ。ラーンの指輪より劣化しているようだけど、能力を模倣する機能はあるみたい。ただ」
「どこで手に入れ、誰が作成したのか、私達も見当がつかないのです。仮に勇者が転生ボーナスで得た物だとしても、どうして魔道具に関する技術が未発達なこちら側で量産できているのか」
「謎ばかりって事かぁ」
うちの国とかなら複製は簡単に出来るとは思うけど、こっちじゃ無理なはずなんだよねぇ。
ん~む、ひょっとしたら傭兵帝国とか神聖王国とか、あのあたりが絡んでるのかねぇ。まぁその場合も、なんで手を組んだとか、どうしてこっち側で活動させてるのかっていう疑問というか不可解な部分が出てくるけど。
「謎過ぎるけど、ともかくあの仮面はヤバいって事ですね」
「そうなるわねぇ。だからユキちゃんも気をつけるのよ? 術技や術式は模倣出来ないとは思うけれど、模倣以外の能力が無いとも言い切れないからね」
「は~い」
うん、油断しすぎて色々模倣された未来が一瞬想像できたわ。
決勝戦も分析のために少し様子を見ようって気はあったけど、それは止めてサクッと終わらせるようにしよーっと。
「えっと、謎とかはいったん置いといて、つまりルミィは能力を模倣されて負けたって事ですか?」
「そういう事よ~。そこでルミィちゃん」
『は、はいっ!』
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ? ルミィちゃんは力を模倣してきた相手に対し、前半は押したけど後半は押されました。その理由は分かるかしら?」
『理由、ですか……。えーっと、私よりも相手選手の方が体力もあり、武器も強かったからでしょうか?』
ルミィが少し考えた後にそう答えたけど、たしかに間違ってはいないね。
だけどたぶん
「ん~、それだと40点かしら」
『違うのですか!?』
「違ってはいないのだけれど、そうねぇ、ユキちゃんならどう答えるかしら?」
そう言われて見上げると、お母様がさっきよりニコニコしてる。これは期待してるわけですね? なら応えないと!
「んと、基礎能力の差だけでなく、状況の変化に対応できる能力、あとは気合の差です!」
「ふふっ、正解よ」
「やったー」
正解だったので更に優しくなでなでもしてくれるとか、ほんと良いですねぇ。
『その、どういう事なんですか?』
「んとね、もしも全て模倣されたのなら模倣されない動き、つまり新しい技とか魔法をその場で編み出すとか、今の動きをより素早く洗練させるといった改良を戦闘中に思いつく必要があるの。同じ動きされたーどうしよー、で止まっちゃダメなんだ」
『そう言われると、私は疑問ばかりで変化を付けず、ただそのままで居た気がします……』
「そのあたりは経験がものを言う部分だからねぇ、今は出来なくてもしょうがないかな。まぁ手詰まりになる戦闘が多いと、自然と柔軟性というか応用力というか、そういうのがすぐに身に付くよー」
お母様やシズクさんとの模擬戦だけでなく、エレンやレイジ、それにアリサとノエル相手でも、同じ行動ばかりしてるとすぐに対策とられるからね。常に改良しないと、いくら力があってもダメダメになっちゃうのだ。
『それと気合ですか?』
「うん。なんていうかあの仮面、マジすぎたというか、すっごい意気込んでたからね。その効果が攻撃にも転嫁され、結果ルミィを上回る力を発揮した、という風にわたしは見たわ」
「精神論になってしまうのだけれど、気持ちは重要なのよ。とはいえ、ユキちゃんは気持ちを込め過ぎちゃう事が多いのだけれどねぇ」
「えー? そんな事ないです! ……とは言い切れないよーな気も」
確かになぁ、わたしって家族の恥にならないよーにとか友達のためーとか、真面目な戦闘時ってそういうのばっかな気がしてきたわ。まぁ結果に繋がるから問題ないけど!




