27話 今日からあなたも冒険者です
少し長いです。
季節はそろそろ夏かな、すこし暑くなってきた気がする。
そういえばこの世界って1年が48ヶ月もあるんだよね。おかげで春夏秋冬も1年で4回経験することになるけど。
そもそもこの世界には太陽が4個もある。
でも4個同時に現れるのではなく、12ヶ月ごとに太陽が順番に切り替わる摩訶不思議な状態。
1の太陽が出ているときは2~4の太陽は別次元にいて、それが12ヶ月経つと1の太陽が引っ込んで2の太陽が出てと、すごいファンタジーな現象。
でもそっか、前世だと季節が4回過ぎて1年だったから、今世の1年が前世の4年になるのね。
だけど成長は前世の4倍じゃないというのがまた不思議。4倍だったらわたしって16歳なんだけど、どう見ても4歳児の体型だし。
あと、1~12月までの季節を1の春とか1の夏、13~24月の季節を2の春とか2の夏って数えていくのはこの世界くらいな気がするなぁ。
1ヶ月は30日で曜日は無い、1週間は6日、1桁が1か7か0の日が休みってのも前世と違うね。
そういえば曜日として日曜とか月曜とか導入しようと必死な転生者もいるらしいけど、世界も歴史も違うからか広まらないんだよね。そもそも1週間を7日にする根拠が無理あるし。
まぁ春夏秋冬みたいになぜか定着している物もあるから、遠い未来で採用される可能性もあるのかな。
同じなのは1日が24時間で、1時間が60分、1分は60秒ってとこだけだね。
毎日恒例となったアリサの術装チェックをしたけど、模造品とはいえ術装としての完成度がだいぶ上がったね。
うん、これなら大丈夫かな。許可も貰ってるし、次のステップに入りましょー。
「さて、今日はひさびさに外出許可でたから、せっかくなのでギルド行ってからダンジョン行ってみよー」
「実戦でこれを試してみるってことですね」
そう言いながらアリサってば大太刀を軽く素振りして見せたね、やる気がみなぎってる感じだなぁ。手にした術装を訓練通りに使えるか、実戦で通用する内容になっているか、しっかり確認したいって気持ちすごいわかるわ。
わたしも月華が使えるようになった時、模擬戦だけじゃなくダンジョンに行って試し切りという名の乱獲をしたなぁ。やりすぎて怒られたけど……。
「アリサって冒険者ギルド来るのって初めてだっけ?」
ギルドの建物に向かっている最中、ふと気になった。そこそこ長い期間あのロリコン勇者は滞在してたし、その時に連れてこられた可能性もありそうだしね。
「初めてですね。なのでどんな所かワクワクしてます。ただ、あの、お嬢様、これ必要なのでしょうか?」
「えー? アリサはわたしと手を繋ぐの嫌?」
「いえ、決してそのようなことはないのですが……」
案内と言ったら手を繋いででしょう、という考えなので手を繋いで来たわけですが。メイドとしては主人がひっぱるのはちょっとってことかな? まぁ気にしないでさっさと行くよー。
歩くこと数分、ようやく見えた白くてでっかい建物。そこそこ遠いんだよねぇ。
「この大きな建物ですか?」
「そうだよー。これがこの都市ルアスの冒険者ギルド、この国では二番目に大きな支部です。一番は王都にある本部ね」
アリサと一緒に眺めてるけど、ほんとでかいよね。
広さもそうだけど高さもあり地上10階、地下も5階あるんだったかな。冒険者パーティが借りる部屋まであるからしょうがないけど。
「んじゃ入りましょー」
入口に立つと自動でドアが開くので中に入る。そう、これ自動ドアなんだよね。
転生者の人の知識を参考に作られた物だけど、ドアが動くんじゃなくてドアが人が通れるように変形するという代物。絶対そのまま作ってやるかという技術者のこだわりを感じるものです。
中は隣に酒場兼食事処が併設してるだけあって賑やか。カウンターの前にも長蛇の列、壁には連絡用の掲示板とクエストの張り紙でそこにも人が大勢。
興味を引くものがいっぱいあるからか、アリサはきょろきょろしてるね。
「アリサこっちこっち」
まずは最初に手続きしないといけないので、アリサの手を引いてさくっと列に並ぶ。他のカウンターでもいいけど、やっぱここじゃないとなぁ。
「お嬢様、見たところ子供の方も多くいるのですが」
おや、子供だけのパーティが複数あるのに気が付いたようね。たしかに場違い感はあるよね、わたしたちもだけど。
「えっとね、ギルドの登録には年齢制限がないんだ。だけど一定のランク以上にはなれない制限はあるの。ランクが上がるとそれだけ危険なクエストも受けれるようになるから子供はダメってやつだね」
「確かに子供だけで強力な魔物に挑むのは危険ですものね」
「そそ。逆に薬草採取とかは危険も少ないので低ランク向けになってて、子供はそういう安全なクエストを受けてるの。子供専用の小遣い稼ぎクエストって呼ばれるものもあるくらいで、子供がたくさんいるのはそういうことなんだ」
「子供は子供用のクエストを受けるってことなんですね」
まぁわたしたちも子供なんだけど、子供という割には戦闘力高めだからねぇ。薬草採取してる暇があったらダンジョン行ってくださいって本気で言われそうなくらいだし。
アリサに少し説明していると順番が回ってきた。
「こんにちはフローラさん」
「こんにちはユキさん、今日はどうされますか?」
にこやかに答えるフローラさん。エルフなのもあってすごく綺麗なおねーさん。
そういえばフローラさん狙いの冒険者(男女問わず)も結構いるくらい超人気者なんだよねぇ。
美人で性格も良くてスタイルも良い、そして仕事も親切丁寧で的確だから当然だよね。まぁ欠点が無いわけじゃないけど……。
「えっとね、今日はこの子のギルド登録をお願いしに来たの」
そう言ってアリサを引きよせる。エルフ見るの初めてっぽいね、珍しそうな顔してるよ。確かにエルフもこの世界では希少種だからねぇ。
「はじめまして、私はフローラと言います」
「は、はじめまして。私はアリサと言い、こちらのユキ様の専属メイドをしております」
「あら、ユキさんの専属メイドが決まったとサユリ様から聞きましたが、あなただったのですね。なるほどなるほど」
アリサを見て納得顔してますね。フローラさんもお母様と仲いいから、色々と聞いてそうだなぁ。
「それではアリサさん、こちらの用紙に名前などを書いていただけますか?」
「わかりました」
登録用紙に名前などを書いているアリサを見てふと思ったこと、もう読み書きできるのね。神聖王国とは文字が違うから、前渡した変換表無いと難しいかなって思ってたけど全然平気ね。
というかわたしよりも字が綺麗、これが専属メイドの力ですか。
「あの、ここの保護者欄というのは?」
「13歳未満は保護者の方が必要なのです。これは万が一があった場合、即連絡するためでもありますね」
「保護者の欄はお母様の名前書いておいてね。お父様だと留守する時が結構あるからちょっとダメかなと。住所はうちの住所そのままね」
「は、はい」
本当は保護者や住所の確認とかもいるけど、わたしたちだからその必要はない。身元がこれでもかってくらいハッキリしてるからねぇ。
「できました」
「確認しますね。名前はアリサさんで年齢は7歳、保護者はサユリ様っと、はい大丈夫です、問題ありません」
書類を確認したフローラさんが引き出しから一枚のカードを出し、そこに術式を書いていく。何回見ても飽きることがない、とても洗練されてる術式だねぇ。
「ではこちらのカードに魔力を流してください、少量で構いませんよ。そうすることで所有者が登録されますので」
そう言ってフローラさんがアリサにカードを手渡したけど、うん、顔に気持ちが出ちゃってるね。でも分かるよその気持ち、ちょっとワクワクしちゃうよね。
「えっと、こうでしょうか?」
アリサが魔力を流すとカードが光り、そして文字が浮かび上がる。毎回思うけど、こういうのはやっぱりファンタジーな世界っぽくていいねいいね。
「ではカードの記載内容を説明しますね。表示されるのは名前と年齢、それと現在のギルドランクと称号になります。称号は特定の条件を満たしたときにギルドから発行されます」
「わかりました」
「次にギルドランクですが、低い方から 石級、鉄級、銅級、銀級、金級、白銀級、白金級 となります。ただし13歳未満の方は鉄級までです」
そういえばこれもどこかの転生者がA級だのS級だのって広めようとしてるんだっけ。
〝クエスト〟とか〝イメージ〟とか、一部の単語が広まってるから通用するって考えてるのかな。まぁ前世だと定番だった記憶もあるから分からないでもないけど、英字文化が無いこの世界じゃ難しいだろうねぇ。
でもメートル法は浸透してるんだよね。
世界共通の単位が無かった時代、一人の転生者が異世界の知識をもって広めたとかなんとか。
単位にメートル法、温度は摂氏、おまけで春夏秋冬の区分を定着させた人物だっけ。結構とんでもないことしてるね。
「ちなみに石級は初心者、鉄級で一般、銅級で熟練者って感じなんだよー」
「そうですね。金級まで行けば英雄扱いになります。それより上の方は本当に少ないので伝説扱いですね」
アリサにフローラさんと一緒に軽く説明っと。あまり称号のほう突っ込まれるとわたしが危ないのでちゃっちゃと終わらせましょう。いろいろと聞かれそうなの持っているからなぁ……。
「なるほど、ちなみにお嬢様は今どのランクなのでしょうか?」
「あー、えっと、まぁ、そこそこ?」
なぜ鉄級じゃないとバレた!? 称号もやばいけどそっちもやばかった! これは黙秘権を行使しないと怒られる可能性が!
あ、そんなジト目やめて。悪いことしてないよ? 本当だよ? だからわたしのほっぺムニムニしないでー。
「本当に仲がよろしいのですね。あのユキさんが歳の近い子とこうしているのは初めて見ました」
「フローラしゃん、あみゃり、いわにゃいでー」
お願いだからアリサ、ちょっと照れながらムニムニしないでー。
「むぅひどい目にあった。えっと、わたしはまぁあれよ、ちょっと頑張ったせいで銀級です」
「はい?」
「べ、別に悪いことしてないよ! ちょっとスタンピードを10回ほど一人で解決してたら強制的に上げられただけだよ!」
必死に弁解、だって本当のことだしー。だからそう呆れた顔しない。
「本当ですよ。ダンジョンの周囲は不安定でして、スタンピードが発生しやすい地域となっています」
そうなんだよね、ダンジョン周りって魔素がすごく豊富なせいか、魔物が現れやすい。
もちろんギルドだけでなく各国が協力して魔物が溢れかえらないように対処してるけど、追いつかなかったり逃すことだってある。それがスタンピード発生へとつながっていく。
スタンピードを発見した場合、冒険者は冒険者ギルドに、冒険者以外は国に即急に報告する必要がある。
報告を受けたら、冒険者ギルドはギルド全体での緊急クエストを発生させ、有能な冒険者招集し現場へ派遣する。国は軍や騎士団を派遣してそれぞれ対処する。
まぁそれが普通なんだけど……。
「ですがユキさんが発生元の近くにいるときは報告せずに一人で殲滅しちゃうんです。しかも緊急クエストを発生させるよりも素早くですよ」
「時間がもったいないからねー。さすがに一人で無理な場合は報告しに戻ってるけど、たいていは何とかなっちゃうからね」
「お嬢様、今度からはお一人で行くのはやめてくださいね、絶対ですよ」
心配な顔して、しょうがないなぁ。まぁ今後、わたしがソロで動くこと自体少なくなりそうだけどねぇ。
「というかー、フローラさんじゃん、わたしのランク勝手に上げてるの」
「あれほどの成果を上げておいて鉄級のままは無理ですよ。本当は金級に上げたかったのですが」
「えー、ひどい、職権乱用だ! ちょっと聞いてよアリサ、このフローラさんは王都のギルドマスターなのに、おいしいケーキ屋さんがあるってだけでこっちに逃げている人なんだよ!」
わたしの中でのフローラさんのトップシークレットをアリサにばらしたわ。年齢無視したランク上げと、見せたらまずい称号をいくつも発行された者の、ちょっとした恨み返しです!
お、案の定慌てだしたねフローラさん。
「ユキさん、それは違います! ケーキもありますがアイスもあります! ほかにも――」
そっちの訂正かい……。そう、このエルフさんはギルドで一番偉い人。でも甘い物に負けた凄いポンコツなんだよねぇ。
あーアリサが唖然としてる。まぁそうなるよねー
1話3000文字前後で行く予定だったのですが、思いついたネタを盛り込んだら4000文字超えなことがほんと多いので、次話以降は大雑把ですが下記のルールで運用していこうと思ってます。
2000~4000文字未満 : 特に記載なし
4000~6000文字未満 : 前書きに『少し長い』と記載
6000文字を超える話 : 話を分割
無くても良いのかもしれませんが、3000文字くらいだと思ってたのが4000文字超えてもまだ終わらないってなるとだれそうな気がしますし。