268話 本戦ですかー・・・2
合計3日らしく、昨日が初戦、今日は準決勝、明日が決勝になるようで。引き延ばし感がありますねぇ。
そんな初戦だったけど、予想通りでわたしもルミィもあっさり。というか、他の勝ち上がった選手も割とあっさりだったなぁ。
そんなことを考えていたら会場に到着。昨日よりも観客が多いかな?
っと、そういえば
「昨日ルミィが戦った仮面の奴、何者だったんだろうね?」
『少し動きが変でしたね。なんていうか、魔物の動きに近い感じがしました』
「そこなんだよねぇ」
ルミィの初戦は仮面をつけた奴だったので少し警戒してたけど、内容自体はすごくあっさり。ルミィの素早さについていけなかったようで連撃に耐えきれず、すぐ戦闘不能になったからなぁ。
ただ、オーガとかトロールみたいな、ちょっと力がある魔物みたいな動きをしてたのが気になったわけで。
「でも魔物から進化した存在じゃなかったぽいし、よくわかんないなぁ」
『でもでも、獣人ではない感じでしたよ。それと魔力を少しだけ使っていた感じもしました』
ルミィが腕を組みながら、少し昨日の戦いを思い出したようだけど、なるほどね。
「となるとあれかな、仮面の方に魔物の力が封じ込められていて、それを魔力を使って解放したってとこかしら」
『そんな事ってできるんですか? 聞いたことないのですけど』
「できるよー。こっちにあるか分からないけど、神降ろしとか憑依って言われるのに近い現象を再現するアイテムがあるの」
なにかの力を借りて、自身を強化するってのはよくあるからなぁ。やり過ぎると乗っ取られるという、結構致命的な問題はあるんだけど。
「しっかし、ルミィは連続で仮面の奴と戦うのね」
『ですです』
そう言いながら会場を見渡すと、また少し影になるような所に仮面の男が立っているのと、観客に対して手を振っている竜族が確認できる。勝ち抜きの結果から仮面はルミィと、竜族はわたしとの試合だったね。
そしてこの二人の戦いは昨日見てたけど、正直参考にならなかったなぁ。
仮面の奴は長剣2本で相手を軽くさばいて終わり、竜族の奴はサーベルに近い形状の剣で相手を吹っ飛ばして追わりだったもの。
手の内だけでなく魔力の有無すらわかんなかったから、正確な能力は未知数だわ。
「たぶん大丈夫だとは思うけど、注意した方が良いかもねぇ」
『ですね。それになんとなくですけど、こっちを睨んでる感じがしますし』
「そうなんだよねぇ。ん~、何か喧嘩売るようなことしたかなぁ? 記憶に全くないんだけど」
殺気とはいかないまでも、なーんかこっちを意識してる感じがするんだよなぁ。
下心満載で見られるのも嫌だけど、こういうのもなんか嫌です!
『それでは準決勝、第1試合を開始します!』
ルミィと話し込んでいたら、いよいよ開始みたいね。
「んじゃいきますかー」
『マスター、油断しないでくださいね?』
「ほーい」
少し不安そうな声で注意してきたけど、そこまで心配しなくても大丈夫だよー。
確かにこの竜族、ちょっとは強い気はする。だけど、わたしほどじゃないと思うんだ。
だって同じ竜族であるエレンと比較しちゃうと、存在感というか圧力というか、そういうのが全然なんだもん。
ルミィに手を振りながら、舞台の上にひょいっと上がる。するとなんだろ、昨日とは違う声が聞こえてくるなぁ。
昨日は「ひっこめー」とか「かえれー」みたいなヤジが本当に多かったんだけど、どうも下心満載のイヤらしい感じの声が今日は多い気が……。
これはアレかなぁ、尻尾の偽装を解除したせいで〝わたし〟という存在がハッキリくっきり認知できた影響かねぇ。だってわたし、すっごく可愛いから!
わたしに少し遅れて対戦相手の竜族がどっこいしょって感じに上がってきたけど、うん、正面から見るとこいつもでっかい。3メートルくらいあるかしら?
顔はドラゴン系の魔物そっくりで角まで生えてる。皮膚も緑色をした竜の鱗で覆われてるし、手足には鋭い爪まである。尻尾と羽まで完備してるねぇ。だからか、ちょっと爬虫類臭までしてくるわ……。この臭い、ちょっと苦手です。
『それでは改めて選手の紹介をします!』
ほー、やっぱ準決勝になるとそういうのもやるのね。司会の声が会場に流れると同時に、ワーッて歓声が。
『まずはこの方! みなさんご存じ竜の申し子、ドラドーラ選手!』
司会の紹介とともに、さらにウォーって感じの歓声が。知名度が高くて人気なトカゲってことなのかねぇ。
とゆーかなに? こいつもそういう名前なの? ドラゴンだからドラって、適当すぎるというかセンス無いというか。ひょっとしたら代々受け継がれし名前とかなのかしら? でなければディラックも外見から連想する名前でないとおかしいしねぇ。
『初戦ではその圧倒的な力を見せ、相手選手を寄せ付けることなく圧勝! まさに竜の加護を持つ勇者!』
『彼は獣人とは比較にならないほどの力を秘めていますからね。なにより注目すべきは彼だけが持つ秘宝、竜宝四装ですね』
『今大会ではドラゴンサーベルのみ使用してますが、この試合でも同様になるのでしょうか?』
『かもしれません。私としては四装を臨機応変に使い分ける姿を見たいところですが』
ほー、へー、はーん。
勇者とかちょっとイヤーな説明も入ってたけど、なんかすごい装備を4個持ってるのはわかった。術装に近い物かしら?
でもなんで〝竜宝〟なのに武器名が〝ドラゴン〟なんですかね? そこは〝竜剣〟とか〝竜刀〟じゃないのかなぁ。どうもこっちの人の名付け方、よくわかんないです。
『続きまして、初参加ながらここまで勝ち上がってきた人獣の子供、ユキ選手!』
そう紹介されると、うん、また入り混じった歓声だわ。
わたしの様な人寄りの獣人に対する見下し感から出るヤジと、下心満載な声と、あとはざわざわって感じの様子見というか混乱してるのだね。
『正直、ユキ選手に関しては謎が多く、人獣にあるまじき力を秘めていること以外は未知数です』
『私も長く解説を務めていますが、人獣の方でこれほどの力を持った方は見たことがありません』
『しかも年端もいかない少女なのと、見たことのない衣装、そして急に増えた尻尾と、実力以外にも数多くの謎を秘めています』
『前例が全く無い方ですからね。姿形に実力と、どこまでが本当でどこからが虚偽なのか』
おーおー、なんか不思議生物みたいな説明されてる気がするよ? まぁこっちの人からするとそんだけ異常なんだろうけど。
『しかしユキ選手ですが、その……』
『あなたも気付かれましたか。獣人の方はまた違うかもしれませんが、私達のような人族からすると』
『可愛い、の一言ですね。しかしどうしてなのでしょうか? 昨日の一戦を見るまでは、失礼ですが普通の獣人程度の認識だったのですが』
『分かりません……。あるとすれば、尻尾の増加が関係していると思われますが』
解説の人、たぶん正解!
尻尾を隠してないから、わたしという存在がハッキリくっきりした影響っぽいからね。まぁ隠さなければ、わたしレベルでもこっちの人からすると普通みたいな印象になるのかしらね。
『さてこの一戦、どうなると思われますか?』
『常識的に考えればドラドーラ選手の圧勝、と答えたいところですが』
『ユキ選手の実力が未知数のため判断できない、という事でしょうか』
『その通りです。そして私の勘ですが、おそらくユキ選手はテクニックが使用できます』
『本当ですか!? ですが……いえ、ひょっとしたら』
『はい。本来テクニックは獣人や人獣の方は使用できません。ですがユキ選手の場合、その体格からは不可能としか思えないほどの力を発揮しています。となると、おそらくですが自己強化型のテクニックを使用しているのではないかと』
解説の人、それも正解!
そもそもわたしって魔力と精霊力使って体を動かしてるから、常時身体強化入ってるようなものだからね。説明放棄したいとか言ってたのに、ちゃんと分析してますねぇ。
まぁ今の説明聞いて、会場がさらにざわざわしたけど。信じられないって声と、納得したーって声の半々かしら?
「貴女はテクニックが使えるのでドラ?」
「えーっと、まぁ使えるけど。てかドラ?」
対戦相手が確認の為か聞いてきたけど、語尾に〝ドラ〟が付くの? 猫族の語尾に〝にゃぁ〟を付けるみたいなアレ?
なんだろ、ムキムキなトカゲが語尾に〝ドラ〟を付けても可愛くないというか、ちょっと間抜けにしか見えないわ。見た目って重要ですね!
「なるほど……。ふ、ふふっ」
「その顔でにやけられると、ちょっと不気味なんですけど!」
「これは失礼ドラ。いやなに、ワレも竜族でありながら魔法剣士ゆえ、少し親近感を持ったドラ」
「はぁ、親近感ですか」
ごめんなさい、わたしは全然です。
わたし達の方だと、種族関係なく魔法や術って使えるからねぇ。傭兵帝国みたいに魔力が皆無な存在だと厳しいけど、それ以外の人ならどうにでもできるし。
なにより、可愛い女の子じゃないと親近感はわかないのです!
しかし魔法剣士ですか。筋力任せのゴリ押しとは違う攻撃をしてきそうね。
それに竜宝四装とかいう装備もあるし、ちょーっとだけ注意した方が良いかな。月華を使うほどじゃないとは思うけど、術式使わないとダメな可能性がある。
でもまぁエレンみたいな強者感は皆無のままだし、わたしの圧勝になりそーね。
語尾がついても男なので萌えは無し




