265話 予選の開始です・・・4
少し長いです
さてさて、まずは周りを確認っと。
ん~、現状は脅威になりそうな人って皆無かしら? 力を抑えてる人が解放して10倍くらいの力になるとか、待機部屋に超凄い人が居たら少し変わるけど。
でもまぁこの程度なら……あれ?
「ねぇルミィ、わたし達から見て左奥、少し影ができてるところにいる二人って、ルミィの知り合いか何か?」
『あの二人ですか? ん~、私も見たことが無い人ですね』
「そっかぁ。んじゃなんで〝仮面〟つけてるんだろ」
ルミィが持っていたのに似ている仮面をつけた奴が二人いたからね。親戚とかお友達なら挨拶とかした方が良いかな? ってちょっと考えたけど、知らない人なのね。
まぁそうなると、なんで似た仮面つけてるのっていう疑問がわいてくるんだけど。
それと、あの仮面は力を抑えるためなのか、はたまた別の機能があるのか、不明点が色々出てくるなぁ。実力も分からないし、少し気をつけた方が良いね。
しばし予選試合を見てるけど、初日突破しただけはあるね。雑魚中の雑魚って感じじゃない、そこそこの強さは最低限持った人ばかりだわ。ただ、獣寄りの獣人ばかりなのはどうなのかしら?
「むぅ、ちょっと見飽きてきた」
『同じような戦いばかりですもんねぇ。機械式の武器を持った獣人の方が、力で殴り合う光景ばかりですし』
「技術も何も無いからねぇ。まぁ技術持っている只人族もビミョーだったけど……」
目の前で犬族の獣人と只人族が試合してるけど、ほんと微妙。
犬族はおっきな棍棒みたいな機械式の鈍器を振り回すだけ、只人族は機械式の長剣を持って小回りしながら切り込んでるけど、どっちも技術がなさすぎる。
ディラックが見せていた闘気みたいなのは発動してるけど、それだけなんだよね。
「遠距離での攻防とかが無く、けーきょく筋肉勝負になっちゃうとか、ほんとつまんなーい」
『マスターから見ちゃうとそうですよね。でもでも、これがこの国の現状なんです。それだけテクニック、えっと魔法でしたっけ? それを使える人が少ないんです』
「なるほどねぇ。でもなぁ、集めた力を飛ばしたり盾にしたりって、魔法が使えない人でも練習次第でできるはずなんだけど、そういう事をする人が少ないってのはなぁ」
魔力を全身に這わせるのと同じ仕組みっぽいから、斬撃を飛ばしたりなんて朝飯前なはずなのに。
これはアレかなぁ、ライセンスとかいう仕組みのせいで、技を自分で開発しないで先輩なり師匠から教わるだけって状態なんだろうなぁ。教わるまでは使えません、使ってはダメです、みたいな。
「まぁいっか。そもそもわたし、この国に属してな、うにゃぁ!?」
『マスター……』
「ちょ、そんな微笑ましい感じで見ないで! ちょっと驚いただけなんだから!」
どうにもこの順番を知らせる振動が慣れなくて、ビクッとしちゃうわ。前世はこんなことなかったはずだから、これは今世になってからだろうなぁ。マイッタネ。
しかもビクッとなってるの、なんかわたしだけっぽいからちょっと恥ずかしい。
「と、ともかく! わたしの番みたいだから、行ってくるね」
『お気をつけてマスター』
「ほーい」
さてさて、どんな奴が相手になるのかしら。
舞台に立ったあたりで、わたしが参加する組の選手紹介が会場に流れだしたけど、なんていうか恥ずかしい二つ名がついた紹介してるなぁ。
何たらの貴公子とか、空前絶後のうんたらとか、聞いてるこっちが少し恥ずかしくなるようなのだし。
ただまぁ案の定
『そして最後の一人が……は? ちょっと、これ本当ですか? 人獣の子供ですよ? っと、失礼しました』
『ふむ、私も長い事大会を見てきましたが、人獣、しかも子供が勝ち上がるのは初めて見ますな』
『八百長でもしたのでしょうか?』
『もしくは、相当運が良かったのかもしれませんな』
と、実況と解説の二人がいろいろ言ってるわけで。まぁ人寄りの獣人に対する扱いから、こういうのはちょっと予想出来てたんだけど。とゆーか昨日の試合、見て無いんかい! 大丈夫なの? この司会と解説者で。
おまけに会場もブーイングとまではいかないけれど、さっさとかえれー的なヤジがちらほら聞こえるね。こっちも昨日の試合見てない奴が多いんだなぁ……まぁこっちも予想してたけど。
「運が無かったな嬢ちゃん。奇跡的に勝ち上がってこれたようだが、相手がオレ様じゃなぁ」
「確かに、このまま開始すると大怪我になりますね。棄権しますか?」
おっと、対戦相手のゴリラ獣人が煽ってくるだけでなく、審判まで棄権を勧めてきたよ。しかも二人とも、すっごい嫌味な感じの笑みで。
こんなんじゃ公平な判定なんて皆無だろうから、誰の目から見ても分かる圧倒的な勝ち方しないとダメかぁ。
「無視してんじゃねーよ!」
「へ? 反応しないとダメでした?」
「大人をなめんじゃねーぞ!」
「いや、急にキレられても」
勝手に喋って勝手にキレるとか、ほんと面倒だわ。
なにより事あるごとに筋肉ピクピクさせていて、ちょっと気持ち悪い。こういう奴って嫌だわぁ。
「棄権しておけばよかったものを。しょうがないですね、それでは試合、開始してください」
「観念しろよガキ!」
審判はやれやれって感じに開始を促し、ゴリラは……うへぇ、機械式の斧を二つ掲げて「ウホォォォォォォ」って叫んだわ。獣人というより、だんだんと動物のゴリラに見えてきたよ。
しっかしこいつも技術とかが無い感じだなぁ。闘気っぽいのを体にまとってるけど、それだけくさいわ。しかもドッスンドッスンって感じに迫って来るとか、動きもかなーり遅い。
まぁいいや、それじゃサクッと終わらせますか。
かるーく手に魔力込めて~、迫ってくるゴリラのお腹目掛けて~
「ほいっと」
ぴょんと地面を蹴って接近し、どてっぱらに掌打!
「ながっ!?」
うん、絶妙の威力調整だわ。吹っ飛ばすことなく、ゴリラがお腹を抑えながら後ずさりした後、膝から崩れ落ちる感じにドサッと倒れた。これはアレだね、昨日の地獄絵図の経験がいかせたね!
そしてゴリラが倒れた瞬間、会場も含めて一気にシーンとなったわ。う~ん、ちょっと目立ったのかしら?
『い、今のは何でしょうか!?』
『一瞬で距離を詰め、腹部殴打したように見えましたが……。しかし人獣の、しかも子供がその様な事を出来るはずが……』
司会と解説の人も困惑してるなぁ、こっちの人寄りの獣人が弱すぎるせいだと思うけど。
「んで、終わったから次の舞台に行っていいんですよね?」
「あ、はい、どうぞ?」
審判もあんぐりって感じだし、ちょっと居心地悪いわ。
まぁいいや、次の舞台で向こうの勝者が来るのをだら~っと待ちますか、だら~っと。
舞台の上にレジャーシートを敷いてだら~っと座ってたら、ワーッという歓声がしだした。どうやら向こうの試合も終わったみたいね。
さてさて、どんな奴が相手なのかなぁ。さっきのゴリラより強いとやりがいがあるんだけど。
『それでは予選5組、最終戦を開始します! 両者、舞台に上がり準備をしてください!』
へぇ、ほんと直ぐに連戦なんだ。
歓声が上がってから3分くらいかな? さっさと舞台に上がれと司会が言ってくるとか、なかなかハードですね。
わたしは待ってる時間がかなりあったけど、向こうは終わって小休憩もできない状態で試合になるわけだし。となると、さぞお疲れ……あら?
「やれやれ、今度の相手は子供か。これでは観客に対し、ワタシの華麗な銃捌きが披露できる時間が短くなってしまうな」
そうぼやきながら舞台に来る鳥頭の獣人、鷲族かしら?
どうやら武器は機械式の銃を両手に持つようね。弾を込めながら向かってきたわ。それと体力が減ってる様子が無いから、おそらく反動が少ない物で一方的に攻め続けたってとこかな。試合見て無かったから推論だけど……。
『さてこの対戦、どうなると思われますか?』
『そうですね……先ほどの試合から、やはりワーシオ選手が圧倒するのではと見ています。いくら速く動けるとしても、銃弾の嵐はどうにもならないでしょう』
『確かに、ワーシオ選手は〝神速の貴公子〟の異名が物語るように、目にもとまらぬ速さで連射し、相手を動かすことなく圧倒する武人ですからね』
ふーん。
司会と解説の人が試合予想とか能力とかの説明をしてるけど、特別気になる内容って無いねぇ。とゆーか銃使いって武人になるの? なんとなく違う印象。
あとは名前からして、やっぱり鷲族なんだね。一人称はワタシだけど。
『そして私の見たところ、ユキ選手は先ほどの試合で全力を出し切った状態。おそらく先ほどの試合で見せたような速さでは動けないはずです』
『確かに、試合終了後からずっと座ったままでしたね』
『あの小さな体です、相当無理をしたのでしょう』
『となると試合の方は』
『すぐに決着となりそうですね。ワーシオ選手は魅せる為に長引かせようとしそうですが、おそらくユキ選手の体力が持たないでしょう』
おいおい、本当に解説者なのかいな。それらしいこと言ってるけど、事実は違ってますよ?
それになぁ、特にやる事ないから座ってただけなんだよなぁ。まぁ試合を見ずに空をポケーっと見てたけど、疲れた感は一切出してなかったのに。これも偏見のせいなのかねぇ。
「両者、準備は良いですね? では試合、開始してください!」
「すまないな、子供相手に大人げないが、全力で行かせてもらうよ」
合図とともに、鷲男が銃をこっちに向けてドドンッドドンッて感じに何度も撃って来たけど、どのあたりが神速なのかしら? そこまで速い連射とは思えないんだけどなぁ。
まぁいいや、ちょっと軸をずらして回避っと。弾道が直線的だったから、弾丸は掠る事なく後ろの方にビューンと飛んで行ったね。
「思ったよりも素早いな。だが、これならどうかな!」
ニヤケながらさらにドドンドドンって感じに連射してきたけど、やっぱりそこまで速くないなぁ。とはいえギリギリでかわすのも危険なので、今度は多めに距離をとるように横にひらっと回避!
しっかし曲がったり追尾したりする弾丸じゃないとか、なめてるんですかね? 避けるのは簡単だし、やろうと思えば弾丸を摘まむこともできるよ。
「な、なかなかやるじゃないか」
「なんか余裕みたいな口調してるけど、顔、ひきつってますよ?」
「だ、だまれ!」
あらまぁ図星だったのか、ちょっと顔を赤くしながらドドドドドドって感じに連射してきたわ。だけどあいかわらず直線的だし、連射速度もそこまでじゃない。
ん~、弾丸を撃つ以外の機能はないようだし、もう終わらせますかね。ビームを撃つとか近接形態に変形する機能とかがあれば、今後似た様な武器を持った相手に対する予習を兼ねて見てみたかったんだけど。
さてさて、ポーチからスカーフ取り出して~、ふわっと広げたら弾丸を包み込んで~、そのまま軌道を変えるように向きを変えて跳ね返しっと。
「なっ!? ちょ!? まっ!?」
「ほらほら、ちゃんと見ないと当たっちゃって、全弾命中かいな……」
わたしからすればすっごい遅い弾丸でも、コイツからすると速かったようね。
撃たれた速度のまま跳ね返したら、回避することなくドドドドドって感じに命中していったわ。その結果、ハチの巣って程じゃないけどなかなか酷い光景に。
おっかしいなぁ、わたし、こういう血だらけになる試合って望んでないんだけど。
『え、えっと何が起こったのでしょうか!?』
『わ、わかりません。ここは再生動画を見てみましょう』
えー? 解説の人まで今の動作見えなかったの? 1秒くらいかかってるから、そこまで速くなかったと思うんだけど。
てか再生動画って会場にも流されるのね。四方におっきなディスプレイで試合映してるなぁって思ってたけど、そういう事にも使うのか。
『これは……どういう事なのでしょうか?』
『は、速すぎる……。それに布切れで弾丸を包み、そのまま跳ね返すなど、どう考えてもあり得ない……』
『あのー、解説を』
『少し黙っていてください! 私も初めて見る光景なのです!』
『す、すみません!?』
あらまぁ、解説の人がテンパってるみたいだよ。それに会場の方もザワザワって感じに、何とも言えない空気になってるなぁ。この鷲男が倒されたのがよっぽどショックだったのかな。もしかして有名人だったのかしら?
それと「動いてるのに、なんで見えないんだよ!」とか「もっと下から撮影したのは無いのか?」っていう、試合内容じゃない方を気にしている人もそこそこ居るんだけど。こんな時でもソレって、ほんと男って……。
しっかし術式使わなくても結構な反応になりますねぇ。
う~ん、これはお母様と相談して、術式も含めた各種能力をどの程隠すか決めたほうが良さそうだなぁ。この国お抱えとかになるフラグとか、ぜーったいに困るもん。
強敵は居ないのであっさり




