262話 予選の開始です・・・1
少し長いです
昨日はミツキがやってきて浮気チェックされたり、ルミィにヒトガタや精霊について説明したり、ちょっと慌ただしかったなぁ。
まぁ今日も今日とでちょっと慌ただしくなるわけだけど。
「ユキくん、本当に出る、の?」
「もっち!」
「だけど……」
『大丈夫ですよミツキさん。私も参加しますし、なによりマスターってすっごく強いですから』
ミツキが少し心配そうな顔しながらわたしの手を握ってるけど、そう、今日は例の選抜大会の予選開始日なんだよね。
朝食を済ませてから会場に来たけど、なかなか盛り上がってますねぇ。予選開始時間前なのに、入場券を貰う観客の列がながーくできてるくらいだよ。
そんな大会だけど、事前に他の冒険者とかを見てまわった感じ、よっぽどなことが無い限りは本選までは残れるはず。
本選まで残れば、後は上位目指して適当に勝ち抜くだけ。たとえ優勝できなくても、上位4名だったかな? そのあたりは討伐パーティに参加できるようだし。
「だってユキくん、昨日、少し無茶したから」
「あー、やっぱバレてたのね」
「うん。なんとなくだけど、この杖を持っていると、ユキくんの調子とかが分かる、の」
そう言ってミツキが術装である雪姫に視線を向けたけど、そんな機能あったのかしら? 同じような術装であるアリサの大太刀にはそういった機能は無いはずだし。まぁアリサは機能が無くても見抜いちゃう子だけど。
もしかして、まだ魔石が出来上がってないから常に持ち歩いてる状態が影響して、何らかの機能に目覚めたとか? 術装自体も成長する術具だから、わたしの知らない機能が追加されるのもありえなくはないし。
「んっと、たしかに万全ではないけど、別に弱体化してるってわけじゃないよ。ただ、わたしが得意な精霊関係は少し控えないと、ちょっとマズいなぁって状態なだけなの」
「まずいって?」
「まぁ隠してもしょうがないからぶっちゃけると、使いすぎると死にます。ただ、それは使いすぎた場合なだけだから、ちょっとくらいなら問題ないよ」
「でも、それだと……」
「もー、ほんと心配性だなぁ。ほんとーに大丈夫だから安心してねー」
正面からミツキに抱きついてぎゅーっと。うん、少し照れましたね?
それにしても、ほんとこういうとこも昔のままだなぁ。心配性というか、不安になりやすいというか。
『マスター、そろそろ』
「だね。となると……」
ミツキから離れ、さくっとポーチからヒトガタを取り出す。
あとは昨日と同じ、ヒトガタを展開して光学迷彩でミツキを警護させる。
ヒトガタの次は両手に精霊力を集めて、さくっと火と水の小精霊を顕現させる。うん、顕現したとたんこの子たちも抱きついてきましたね。
「ユキくん!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。あと8回か9回くらいは呼べるから!」
ミツキがすっごい慌ててるけど、まぁそうなりますよね。
さすがに10回はわたしの精霊力が持たないけど、9回くらいまでなら何とかなる。そしてこの大会は順調に行けば5日くらいで終わるみたいだから、その間は維持することができる!
「とゆーわけで、今日はあなた達がミツキを守ってね。特に今日からはミツキに言寄ってくる敵、というかこの国の勇者とかが増える可能性もあるから注意してね」
そう言うと、りょうかーいって言いながら手を挙げた後、この子達もわたしに口付けしてからミツキの両肩に移動して座ったわ。どうやら口付けは必須のようですね。
「じゃぁミツキ、何かあったらその子達とヒトガタを使って撃退してね」
「う、うん。でも、本当に気をつけて、ね」
「ほーい。んじゃルミィ、いっくよー」
『分かりました! それではミツキさん、また後程』
ミツキに手を振ってから、会場の選手控室に向かって歩き出す。
さてさて、どんな奴らが居るのかねぇ。
受付で登録などを済ませ、ルミィと一緒に控室に。
そのままぐるっと周囲を確認……う~ん、脅威になりそうなのは居ない感じかなぁ。能力を隠してる人も居るだろうから確実じゃないけど。
あとは予想通りではあるけど、男の獣寄り獣人と、男の只人の率が高めだね。とゆーか、わたしみたいな人寄りの獣人って皆無みたい。ほんと、この国って人寄りの獣人の立場が悪いというか、ヨワヨワなんだねぇ。
まぁいいや。
「これなら特に問題なく予選突破できそうかなぁ」
『問題は、私とマスターが同じ組になった場合ですね』
「あーそっか。最初は各組での総当たり戦だから、同じ組になっちゃうと」
『わたしかマスターのどちらかしか本選へ進めなくなりますね』
「しかも敗者復活戦も無いんだっけ? う~む、それはちょっと困る」
たしかにわたしかルミィのどちらか、というかまぁおそらくわたしになるけど、討伐パーティに参加できるのが一人だけになるのはなぁ。
何事も余裕を持ちたいわたしとしては、正直それは避けたい。
討伐パーティの参加がわたしだけだと、もしかしたらミツキを守り切ることができない場面が出てくるかもしれない。
だけどルミィも居た場合、分担することができるので、そういった場面を回避しやすくなる。
となれば二人とも勝ち抜けるようにするのが良いわけで。
「しかも本選に残っても、勝ち抜き戦の組み合わせが悪いと」
『二人揃っての討伐パーティへの参加は無理になっちゃいますね』
「運任せはヤダなぁ……」
『ですけど、こればかりはどうにもなりませんよ?』
「ん~……裏工作、するか」
『マスター!?』
ギョッとした感じにルミィが焦ったけど、まぁそういう反応になるのも当然だよね。公平とか正々堂々など、そういう捨てるみたいなものだし。
「あくまでも最終手段ね。最初の総当たり戦でわたしとルミィが別の組になれば、たぶんうまいこと最後まで行けるとは思うから」
『そうなんですか?』
「うん。わたしってね、運が良い時ってほんと運が良いの。誰かが裏操作してるんじゃない? ってくらいなんだよ」
『そこまでなんですか? ちょっと信じられないです』
「だろうねぇ。まぁわたしと付き合っていれば、そのうち嫌でもわかるよー」
ほんと、自分でもちょっと恐ろしいくらいにツイてるときはツイてるからねぇ。
もしもステータス表示があったら、運がとんでもない値になってそうなくらい、ほんとすごい確変しちゃうから。
まぁ運だけでなく、魅力もとんでもない値になってそうだけど……。
『本当にマスターの髪って綺麗ですねぇ』
ルミィがわたしの髪を触りながらそう言ってきたけど、たしかにね、自慢できる髪だからね!
「でしょでしょー。なんたって、お母様譲りだからね」
『もしかして、この光っているのも遺伝なんですか?』
「そだよー。まぁ髪以外の外見もそうだし、各種能力とかもお母様の要素を色濃く受け継いでるの。ある意味、お母様を小さくした状態がわたしみたいなものね」
ただ待って居るのも暇なので、わたしの事で説明していなかったことを教えてたけど、なんとなくイチャイチャな感じになったね。
髪を触ってくるのって愛情表現みたいな意味もあるから、イチャイチャになりやすいのも当然かしら?
そんな事をしながら参加者を見てるけど、ほんと多いなぁ。
すでに呼ばれて会場に出向いた参加者も大勢いたのに、まだまだ居るよ。
「そういえば、最初って何組に分かれるんだっけ?」
『えーっと、たしか32組に分かれての総当たり戦、明日は4組一纏めの勝ち抜き戦を8回行うはずです』
「とゆーことは、本選は8人による勝ち抜き戦ってわけね」
『ですです。ただ、最初の総当たり戦が1組何人になるかは分かっていないです』
「そこは総参加者数によって変わってくるからねぇ。さすがに三桁にはなってないとは思うけど」
とはいえ待機部屋もいくつかあるようだし、ひょっとしたら1組に数百人もありえるかな。
「まぁ数が多いだけなら問題は…うひゃぁ!?」
『マスター!?』
急にビクッとしちゃったから、ルミィが少し驚いちゃったよ。とゆーか周りの人までジッと見てきた、ちょっと恥ずかしいです。
「もう、こんなに振動するとか聞いてないんですけど!」
『あぁ、呼ばれたんですね』
ルミィが納得してわたしが着けている腕輪をみたけど、うん、こんなに振動するとは思わなかった。
受付で「順番が来たら知らせてくれるので、手足や首に身に着けておいてください」って言われた物だけど、思ってた以上の振動だったわ。少しプルッて感じに震えるのを予想してたのに、ブルブルブルって強い振動なんだもん。さすがに驚くよ。
「ルミィの方はまだっぽい?」
『ですね。でもでも、これでマスターと争う可能性が減りましたね!』
「だねぇ。さすがわたし、ツイてる! さってと、それじゃ行ってくるねー」
『お気をつけて!』
「ほーい」
ルミィに手を振ってから会場にっと。
会場には部屋から一本の廊下で繋がってるみたいだけど、結構広い廊下だね。おかげで他の人に押されてとかもなく、のんびりいけるわ。
ふむふむ、どうやらわたしを含めてこの部屋は10人呼ばれたみたいね。前に歩いてる厳つい連中が9人、わたしの後ろは0人だからだけど。
そのまま歩くこと30秒くらいで会場に到着って、うわっ、ちょっとまぶしい。廊下が若干暗かったからか、くらっと来たよ。
目をこすこすしながら周りを確認。ふ~む、結構広い会場だったようで、廊下の出口らしき物が11個あるわ。1個は会場から外に出るための物だと思うから、10人10部屋の計100人対戦になるのかしら。てか100人って多いなぁ。
会場の中心にはいかにもって感じの白い舞台があるけど、少しぼこぼこしてるね。予選だから完全修復しないって事かしら?
舞台と観客席の間は10メートルくらい離れてるかな? そして観客席は階段状になっており、人が大勢座ってると。こっちもいったい何人見に来てるんだか。
え~っとミツキは……あー居た居た。これまたいかにもって感じの偉い人たちの席にミツキも居たわ。
軽く手を振って……うん、気付いたね。ただ同時に、結構不安そうな顔してるなぁ。強いのは分かってるとは思うけど、多人数だと危ないんじゃ? って考えてそうね。
これはアレだね、圧倒的な力を見せて、わたしがとんでもない化け物級だっての、ミツキにもちゃんと見てもらわないとダメですね!




