258話 ホント国が違うといろいろ違う
少し長いです
しばらく魔物を倒してたけど、狭間のダンジョンとほぼ同じで間違いないかな。
若干防御力が高い気がするけど、その分遅いので当てやすいっていう細かな違いはあるけど。
まぁどっちにせよわたしの敵じゃないわけで! 圧倒的な火力でバンバン倒しちゃうよー。
「いやはや、オレ達の常識におさまらない者が一人でも居ると、ここまで結果が違うんだなぁ」
『ですです。普通のハンターでしたら、ここまで稼げませんよ。あっ! マスター、見てください、また有りましたよ!』
「ありがとー。ん~、これも小さいなぁ」
ゴブリンを手早く解体していたルミィが魔石を発見したらしく、わたしに手渡ししてきたので受け取り、それをつまんでみたけど、ほんとーに小さい。5ミリも無いかな?
「そんなに小さいのか? オレとしては魔石自体珍しいものだから、小さくても凄いと思うんだが」
「珍しい……かぁ。わたしの方だと、魔石を持った魔物が当たり前の環境なの。そして魔石ももっと大きいの。え~っと、確かここに……」
ポーチに手を入れ、低級の魔物の魔石を何個か取り出す。
そして取り出した魔石を二人に見せたけど、うん、マジかぁって顔してるね。
「こっちの水色は普通のスライム、こっちの緑っぽいのはゴブリンね。少し黄色っぽいのはキラービーっていう少しデカい蜂のになるよ」
『どれもここで手に入った魔石よりも大きいですね。でもマスター、これが普通のという事は?』
「うん、上位の魔物になればそれなりに大きくなるよ。エンシェント級ならば1メートル越えもあったかな」
「1メートルって、凄いな……。なんていうか、同じ星じゃないみたいだなぁ」
『ですです。なんとなく異世界みたいな感じです』
二人がそんなこというけど、わたしもそれは同感なんだよね。
文化もそうだけど大気中に霊素が無いし、エルフやドワーフ、妖精族なんかも見てない。只人と獣人ばかりで、種族が偏ってるんだよなぁ。ほんと不思議です。
「にしても凄いな、魔道剣ってのは。魔力が無いオレが使えるだけでなく、物理が効き辛い相手にも有効とは」
「魔道具はそういう物だからね。便利なだけでなく、不足分を補ってくれる凄い道具なのです」
わたしが力を出したのでルミィも力を抑えるのを止めたのか、サクサク倒すくらいの力を発揮した。主人が力を出してないのに眷属が力を出したらダメ的なしきたりがあったみたいね。
そうなると問題はディラックだけど、悪い奴ではないし、この国に居る他の獣人とは違って普通な対応をしてくれるので、手持ちの剣型魔道具を貸したけど正解だったね。
ディラック自身の腕も悪くなかったので、武器に振り回されることも無く、問題も起こらず効率が爆上がりする結果に繋がったもの。
おまけでルミィの会話に対応できるよう、魔力による会話の対策が施された魔道具も貸したのでさらに効率アップできたしね。
「だが、ここまで便利なものだと、やっぱ高いんだろ?」
「でもないよ。その魔道剣の場合、こっちのお金で言うと10万カーネくらいかな?」
貸したのは金貨10枚の、銅級以上の冒険者が使う一般的な魔道具。
んで、この国の通貨はカーネという紙幣。たしか1カーネが銅貨1枚、銀貨1枚が100カーネ、金貨1枚が1万カーネの計算だから、あっているはず。
「この性能で10万は安いな。だけど、これって魔石を使っているんだろ? 維持費が凄いんじゃないのか?」
「ところがどっこい、維持費もすっごく安いの。それには1センチくらいの小さな魔石を使っているんだけど、こっちのお金で言うと100カーネくらいの安物なの」
「100カーネって、ずいぶん安いな。だがそうなると、すぐに使えなくなるんじゃないか?」
「でもないよ。その魔道剣なら魔石1個でゴブリン1万は切れるくらいもつの」
「1万って……おいおい、オレの知っている最高級の機械剣よりも長持ちするじゃないか……」
「それだけ魔道具の技術は洗練され、極められてるのです」
ドヤァ。数千から数万年の技術というのはほんと凄いのです。
なにより、魔道具発展の中核になっているのがお母様とママ様という、わたしの家族だからね。ほんと自慢の家族です!
しばらく魔物を楽々狩っていたけど、流石に数が減ったのか気配もなくなったので、ちょっと休憩することに。
『マスター、この後はどうしますか?』
「ん~、先に進むことは出来るけど、少し休憩したら帰還かなぁ。つまり、今日のところは終わりってことね」
「へぇ、安全策を取るんだな。ここに来るまでに見せてもらったキミの力を考えると、容赦なく先に進むと思ってたぞ」
「あぁそれはね、わたしってギリギリになるのが嫌なの。何事も余裕のうちに終わらせたいんだ」
少し意外って顔をされたけど、これが本心だからねぇ。
何が起こるか分からないってのはほんとーに怖いので、いつでもどこでも余裕のうちにが良いのです。
それに、今回はアリサ達じゃない、ルミィとディラックという、お互いの力や行動、それに思考を把握しきれてない相手だもの。無茶してそれが仇となるとかは絶対にダメです。
「とゆーわけで、お茶にするよー」
「お茶って、そんなどうや……マジか」
『マスターのポーチ、ほんと色々入ってますね』
ポーチから敷物やお茶道具、お菓子なんかを取り出してたら、驚きのような呆れのような顔されちゃった。
これは容量の方でしょうか? それともお茶関連を持ち歩いてる方でしょうか? 少し気になります!
まぁいいや、ちゃっちゃと準備してっと。
念のため結界も張っておきますか。今のところ魔物の気配が無いとはいえ、急に現れる可能性もあるからね。
そのまま休憩しつつ雑談。だけど話題はわたしの住んでいる国関係が主になるのね。そんなに興味あるのかな?
「――という感じで、大体の物は魔道具で補ってるの」
『機械自体あまりないんですね。ちょっと不思議です』
「国によるけどね。わたしの生まれた国って魔道具の元締めというか、開発拠点みたいなとこだから」
「なるほどなぁ。しっかしそういうの聞くと、やっぱ羨ましいな」
「そうなの?」
あら、ディラックの言葉にルミィもコクコクと頷いてる。
もしかしたらこの国、機械式の道具だけだと不便な箇所がたくさんあるのかしら。
「便利なのもそうだが、魔法職でなくても魔法が使えるのはなぁ。憧れみたいなのはオレにもあるからさ」
「なるほどねぇ。ん~、それだったら移住しちゃえば?」
「移住なぁ。できたら良いんだが、オレの聞いた限り無理っぽくてな。金が足らなすぎる」
『私も聞いたことがあります。転移門の先に移住するためには、少なくても1億カーネは必要だって』
「1億って、ありえないわぁ……」
二人は冗談って顔じゃなかった分、逆にこっちが呆れちゃったよ。
1億カーネって白金貨1枚相当じゃん。いったいどこの豪邸基準になってるのやら。
「んと、わたしの実家がある街なんかは確かに土地がすっごい高いけど、他の街や他国だとそうでもないよ。安いとこだと、土地込みで4人くらい住める広さの一軒家で大金貨20枚、こっちだと2000万カーネくらいだよ」
「2000万って、そんなものなのか?」
「うん。むしろ家の質を落とすとか、貸家にしたらもっと安くなるよ」
「マジか……。聞いていた話と違うなぁ」
『私も、そこまで安いとは聞いたことが無かったです』
「そうなんだ? ん~、ルアス基準の値段というわけじゃないだろうから、これは別の意図があるってとこかなぁ」
ルアスで土地込みの一軒家を持つとしたら、たしかに白金貨1枚は必要というか、そこからスタートだからねぇ。
だけどルアス以外はそうでもないし、召喚された人みたいに最初の受け入れは自由に選べない取り決めも無いわけだから、移住が難しそうって思わせてるのはこの国自体。詳細は分からないけど、移住させたくないって考えは絶対にあるね。
『という事は、私がマスターについていっても?』
「問題ないというか、主従関係結んじゃったから、わたしの家に住んでもらうことになるかなぁ」
『そうなんですね。良かったぁ……』
あら、わたしがルミィを置いて帰るとでも思ってたのかしら? ホッとした感じだけど、そこまで薄情じゃないですよ?
成り行きで主従関係になったけど、ちゃんと責任はとります。それに必要な時だけこっちに来てみたいな、便利道具としての扱いも絶対にしません。
まぁ言い訳というか弁明、主にメイに対してだけど、その内容は考えておかないとなぁ……。
雑談しつつのんびりしてたら、ふっとディラックがこっちを見た後、何とも言えない顔をしてるんだけど。
「どうかしたの?」
「あ、あぁ、その、これは言って良いのかどうか……」
「遠慮しないで言う!」
「その、気を悪くしたら申し訳ないんだが、それって大丈夫なのか?」
「それ?」
「二人が、その、な?」
二人? わたしとルミィの事かしら?
隣に座っていたルミィを見たけど、うん、ルミィの方も何のことでしょう? って感じに見返してきたね。
「だいぶ、近いよな?」
「近いって……あぁ、たしかに」
言われてみるとルミィはわたしの真横、それこそ手が振れるくらいの場所に座ってたわけで。
どうやら無意識のうちに接近してた様子。これはわたしからかしら? まぁどっちからでもいいけど。
「確かに近いけど、何か問題あった?」
「あーやはり違うのか。そのな、この国だと同性同士での恋愛事は禁忌になってるんだ。恋愛だけじゃない、今のキミ等みたいに近すぎる状態も問題視されるんだ」
「そうなの? わたしの方だと特にそういうのって無いんだけど」
「なら問題ないな。まぁオレもバカバカしいって思うんだが、目くじら立てて言ってくる奴もこの国には居る。キミもそういうタイプなら問題になったかもだが、取り越し苦労だったな」
なるほどねぇ。
もしもわたしの方でも同性がダメってなってた場合、何かしら問題が起こるんじゃないかって心配してきたのね。気を遣わせちゃったわ。
とゆーか、あれ? わたしの方を気にするって、つまりルミィの方が寄ってきてたって事ですか。なるほどなるほど。
「ひょっとして、仮面を付けていたのもそのせいか? 言い方は悪いが、キミがその子を見る時の視線が、少しやらしいというか、下心あるような感じだったからな」
『え、えっと、はい……。その、おかしい事だと昔から言われていたのですが、どうにも私、好意を向ける相手が女性ばかりでして……。しかも顔に出やすいのもあって』
「ほほー。ん? つまり、わたしの魅力にメロメロって訳ですか!」
ドヤァ!
さすがわたし、魔性の女って感じに人を虜にしちゃうね! ……まぁ魔性とは絶対に言えないくらい、背が小さい子供なんだけど。
『そ、そうなります』
「なるほどねぇ。だけどそれ、この国だと」
「問題だな。禁忌って言った通り、犯した者はわりと重い懲罰が待っているんだ」
「重いって、どんな? 国外追放程度とかかな?」
「いや、更生施設とか言うのに送られて、しばらく隔離生活のまま奉仕活動とかをするらしい。オレも『重い懲罰だ』って人から聞いただけだから、詳細は不明なんだが」
「うへぇ、施設で隔離とか完全に病気や悪い物扱いって事じゃん。最悪ね」
同性ってだけでそういう扱いとか、ほんと度が過ぎてる感じだわ。
とゆーか、それだと性別が無い種族はどうするのよ。同性どころか性別不明同士なんですけど。ほんと、この国に対してダメダメって感じが増してきたわ。
『その、マスターは嫌じゃないのですか?』
「嫌って?」
ふと、ルミィが少し心配そうに聞いてきたけど、これまたどういう事かしら?
『異性の方ではなく、同性の方に興味を持たれるというのが……』
「あーそれね。ん~、そもそもだけど、今のわたしって恋愛対象が女の人になってるからねぇ。嫌とか以前に、普通過ぎるかな?」
『そうなのですか!?』
「ひゃっ!? え、えっと、そ、そうだけど?」
いきなりルミィに両肩をガシッと掴まれつつ、ジッと見られる格好になったんだけど。
しかも結構近くて、あの、その、えーっと。
「おほん!」
『あっ、す、すみません!?』
「二人の仲を裂く気は無いんだが、その、オレが居ないところで頼むな?」
ディラックのおかげか、ルミィが少し慌てて手を放したりしたけど、うん、たしかに今の感じはヤバかった。あれは完全に捕食する目だったよ……。
いやまぁ襲うならどんとこーいな部分もあるけど、場所は選んでくださいお願いします。
というか、ルミィって結構肉食系なのね。
いや、よく考えるとアリサ達もわたしに対しては肉食的というか積極的なような……。う~む、なんとなくわたしが攻めになること、無さそうな気がしてきたわ。




