256話 いざ、別の国ダンジョンへ!
「これがダンジョンかぁ」
『ですです。マスターの住んでいた地域とは少し違うかもしれませんが、この国ではこの形で存在してます』
依頼を請けつつ早速ダンジョンに来たけど、たしかにちょっと変わってるね。
外壁は石……というかコンクリートかな? それでできたビルみたいな形。どうやら洞窟や遺跡みたいに、ビルがダンジョン化したっぽいね。
だからか、入り口はビル備え付けのガラス製自動ドアになってる。ファンタジー色皆無ですね!
「古代遺跡がダンジョン化するとかは知ってるけど、ビルマでダンジョン化するとはねぇ」
『確かこのダンジョンは、魔王がダンジョンコアを持ち込んで変化させたと聞いたことがあります』
「へ? 魔王って、ダンジョンコアを持ってるの? それはちょっと興味あるわ」
ダンジョンコアを使えば、好き場所に自分好みの人工ダンジョンを生成できるって事だからね。
なので、もしも魔王って奴はダンジョンコアを作り出せる存在だとしたら、敵対でなくぜひともお友達になりたいわ。作り出せなくてもダンジョンコアの在庫はあるはずだから、それを譲ってもらえる間柄になりたいし。だって、自分専用ダンジョンとか、夢あり過ぎだもん。
「しかし、本当にオレ達だけで行くのかい?」
「そうだけど、まずかった?」
「まずいというより、普通はやらないって感じかな」
装備の確認をしながら、ディラックが少し苦笑いしながらそんなことを言ってきたけど、そんなに珍しい組み合わせなのかしら?
そう、今回はわたしとルミィ、それにディラックの3人で潜る。本当はわたしとルミィの二人だけで潜りたかったけど、さすがに許可が下りなかったのがなぁ。
とはいえ、偶然近くに居たディラックを誘っての3人なら、ダンジョンに潜る許可が下りたわけで。まぁギリギリっぽかったけど、下りたという事実があればどうでも良いのです。
にしてもここまで下りなかったのは、やっぱりわたしが人寄りの獣人だからなのかねぇ。
「知っての通り、普通の攻撃はほとんど通じないから、普通はもっと大人数で潜るんだ。もしくは先輩のような」
「えっと、あのオッサンの話は止めよう? 話題に上がるだけでもムカムカする」
「相当嫌ってるんだな……」
少し呆れ顔してるけど、ほんとーにあのオッサンは嫌いなのです。
まぁディラックの言う事も分かる。依頼を請けるときに『少なくとも6級以上のハンターが同伴してくれたら安心なのですが』って心配、というか釘を刺されたからね。おそらく6級が脱下っ端の基準なんだろう。
だけどルミィとディラックは7級、わたしなんて9級だからねぇ。失敗する面子としか見えなかったんだろうね。
とゆーか、これもすべてニワトリ倒したのに級が1級しか上がらなかったせいですね。ばばーんと一気に上がってくれたらよかったのに、そういうの無いんだもん。
ただなぁ、普通なら2~3級は上がるってディラックが言ってたから、おそらく1級しか上がらなかった今回が異常ってことなんだろうなぁ。そんなに人寄りの獣人、信用無いんですかね?
「へぇ……外見通り、中もこんな感じなのかぁ」
準備も整ったので中に入ってきたけど、うん、思いっきり前世にあったようなビルの中だわ。
壁はタイルっぽい物が貼ってあるし、地面はポリ塩化ビニルのアレかな? 歩くとキュッキュ鳴っちゃう。間取りもどことなくショッピングモールっぽい感じがするわ。
そのままぐるっと周囲を確認……へぇ、それでも何人かいるみたいね。誰も挑めないような難易度ではないってことですね。
装備や戦い方はいまいち把握できないけど、なんとなく1体の魔物に対し数人がかりで攻撃してる感じ。ごり押しって事かな? 魔力っぽいのは感じないから、魔法や術を使って攻撃してるのもなさそう。
だとすると、どういう攻撃してるんだろ? ルミィに聞いた限り物理耐性がめっちゃ高いはずだから、普通の攻撃じゃ無理ありすぎる気がするんだけど。色々と気になるねぇ。
「そういえば、このダンジョンも階層によって魔物の強さって変わるの?」
「変わると聞いてるが、すまない、オレは1階でしか戦ったことが無いから詳細分からない」
「ルミィは……同じみたいね」
タブレットをこっちに見せて『私も1階でしか戦ったことが無いです』って見せてきたわ。
となると、今日のところは1階で慣らした方が二人の為って感じかなぁ。いきなり深い階層行っても、わたしは大丈夫でも二人が危ないとかで、逆に追い込まれる可能性もあるし。
しっかしこれ、ちょっと不便ね。
ルミィは今日も仮面をつけているけど、封印関係は解除した模造品の仮面。魅了や眷属化については、案の定わたしが持っている魔道具で対処できたから、仮面はもう要らない。
だけど、周囲は仮面をつけている姿しか知らないから、余計な詮索とかを回避する意味も込めて仮面は装着。可愛いのに、素顔を封印とかちょっと残念です。
魔力による会話については、ちゃんとした魔道具を用意しないとダメなので他の人へは筆談のまま。わたしに対しては魔力による会話しちゃってるから良いんだけど、ディラックを混ぜ話をする場合も筆談になるわけで。
魔道具が用意できたらよかったんだけど、無理だったからねぇ。受ける側の魔道具は持っているけど、送る側の魔道具ってわたしも持ってないからなぁ。手持ちの素材を使って新規に作ろうにも素材が圧倒的に足りない。ダンジョンで使える素材が採取できればいいんだけど、高望みし過ぎかしら。
「ちなみに、1階の敵ってどんな奴なの?」
「そうだなぁ、話すより、実際に見た方が分かりやすいかもしれないな。1体だけならオレと、この子の二人でもなんとかなるはずだ」
「おや? それって、わたしは見てるだけってこと?」
「だって、なぁ。コカトリスをあっさりと倒したのはすごいが、ここの敵にも通用するかっていうと……」
ディラックが少し難しい顔してるけど、どういう事だろ?
わたしの攻撃は基本的に魔力か精霊力を上乗せした状態で行ってるけど、ディラックはその辺りを認識できないって事だね。ひょっとして、魔力自体扱えないのかしら?
だとすると、あのニワトリは刀の性能で倒したとかって考えてるのかしら。そう考えると、この対応はちょっと納得です。
「どうしたんだい? 何か納得って感じに頷いているが」
「あっ、気にしないでだいじょーぶです。ちなみに、どうやって倒すの?」
「そこはライセンスによって得た技を使うんだ」
そう言いながら、ディラックが剣を構え、息を整えだすと
「おや? 剣がうっすら光ってる?」
「うむ。これがライセンスによって得た技の前段階で〝チャージ〟と言う。そしてチャージが完了すれば技、通称〝アーツ〟が使えるようになる」
「へぇ~、ちょっと変わってるなぁ」
まじまじと剣を覗き込むけど、うん、魔力による光じゃないみたい。精霊力でもないし、なんだろ? ひょっとしてこれが闘気、もしくはオーラって奴なのかな? 昔どっかの本に載ってた気がするけど、実際に見るのは初めて。
ただ、状態に関しては魔力付与と同じ感じっぽいね。剣の表面を包むような感じで、何らかの力がどんどん積み重なっているのが分かるわ。
となると、アーツはこの光を一気に放つ、もしくは付与したままぶち当てる物になるのかな。
「知っているとは思うが、ここのモンスターは物理耐性が非常に高い。なので、本来は職業が魔法士などのメンバーを入れ、その者にテクニック、まぁ魔法だな、それを使って削るんだ。だが、魔法が使える者はごく僅か、しかも只人族だけなんだ」
「うげ、それってマジ?」
「大マジだ」
嘘ついてる顔じゃないし、これはマジかぁ……。となると、獣人なわたしが術式を発動させたら、色々とめんどくさい事になるかもしれないって事だよね。
むぅ、こんなとこでも制限ありって事ですか。めんどくさい事になって帰れなくなると嫌だし、こっちでは術式は止めて術技、もしくは魔力乗せの打撃に限定しておきましょうか。
「でだ、ここのモンスターにはテクニックが一番なのは当然だが、アーツもテクニックほどじゃないが通用する事が分かっているんだ」
「あー、それで何人も必要って事なのね」
「そういう事さ。テクニック1発で沈む敵であっても、アーツだと10回以上叩き込む必要がある。単純にだが、魔法士1人の効率を出そうとした場合、ライセンス持ちが10人必要って感じだな」
「うへぇ、非効率すぎるわソレ」
大ボス相手ならまだしも、普通の魔物相手でもソレってことでしょ。効率悪すぎるよほんと。他のダンジョンに行きたくなるのも当然ですね。
「説明はこんなところで良いか。それじゃ先に進むとしようか」
「んだね。さてさて、どんな感じなのかな~」
「ずいぶん余裕そうだが……。まぁいいか」
そう言ってディラックが懐から懐中時計の様なものを取り出し、先導する形になった。
ほほー、あれで敵の位置とかを把握するんですね。魔力を消費している感じがしないから、純粋な機械式の道具っぽいわ。
う~ん、どういう仕組みなのか非常に気になります! 売っていたらわたしも買おうかなぁ……分解するために!




