254話 もしかしたら嫁会議?
閑話に近いですが少し長いです
それと今回はアリサの視点です
お嬢様がお一人で転移門をくぐられてから、まだ1日なのですよね。
そう、まだ1日だというのに、不安で押し潰されそうになります。やはり、私はお嬢様に依存しているみたいですね。
「大丈夫ですの? 手が止まってますわよ?」
「すみません、すぐに終わらせますので」
ほんとダメですね。魔道カメラの準備すらままならないなど、メイドとして情けない限りです。
「私も、手伝う、よ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、すぐに終わらせますので」
エレン様だけでなくミツキ様も心配されて、ほんと申し訳ないです。
ただ、お嬢様の事をどうしても考えてしまうので、つい手が止まってしまいます。
「今回はメイさんのお願いですから、残念ですけどノエルさんには頼めないですものね」
「えっと、ユキくんのお嫁さん限定、だっけ?」
「ですわ。ただ、どうしてこのような会を急に開こうと思われたのか、少し謎なのですけど」
エレン様が不思議そうな顔をされてますが、たしかにその通りです。
そもそものきっかけは、お嬢様が転移された1時間後にメイ様から『嫁会議をするよ!』と、連絡があった事。
おそらくお嬢様抜きでお話ししたいことがあるとは思われますが、どのような内容なのでしょうか。
「もしかして、私の、せい?」
「ミツキさんのせいという事は無いと思いますわ。もしもミツキさんが原因でしたら、ユキさんが紹介されたときにもっと酷い扱いをされた気がしますもの」
「エレン様の仰る通りですね。私なんて初対面の時、だいぶ敵対されてましたから」
「わたくしも同じ感じですわ。今の様に認めてくださるのに、たしかひと月くらい掛かりましたっけ」
それを聞いたミツキ様が少し驚かれた顔をしましたが、無理もないです。
お嬢様がミツキ様を紹介した際、割と普通というか、敵対心などはありませんでしたからね。ただ、それはメイ様がお嬢様に好かれたい一心で、少し感情を抑えられたように私には見えましたが……。
そもそもメイ様がお嬢様に対する感情は、私達の考えてる以上に強いのと、同時にご自身が一番好かれたいとも思っていますからね。
かといって我儘を言えばお嬢様から嫌われる、ならば気持ちを少し抑え私達に対しても友好的に接する、そんな感じが見受けられます。何より、友好的な関係をお嬢様が望まれてますしね。
少し時間がかかりましたが、一通りの設置は完了しました。
あとはメイ様からの連絡を待つだけ……来ましたね。魔道具が着信を知らしたので、手早く繋げます。
すると設置していたディスプレイにメイ様が映し出され……え?
『諸君、これから重大な会議を始める』
「えっと、メイさん? その格好なんですの?」
エレン様とミツキ様も少し驚かれたようですが、無理もないです。
なぜかメイ様は軍服の様な格好をし、伊達眼鏡までかけています。そして薄暗い会議室のような部屋でメイ様にだけ光が当たっている、何とも言えない状態です。
『会議と言ったらコレだよ!』
「そうなんですの? わたくしにはさっぱりですわぁ……」
「私もですね……」
お嬢様とメイ様の思考は、たまに私達ではついていけない領域なのが困ったものです……。
『まぁそんな事より、今日は重要な要件があるの!』
「重要とは? お嬢様が居ない間に話すべき内容、だとは思いましたが」
『そう! 今回の議題は単純明快、おねーちゃんの浮気性についてです!』
「浮気性? えっと、ユキくんって、そう、なの?」
「違うと思いますわ」
「確かにお嬢様は好意を持たれやすい体質ですが、浮気性かというと、違う気がしますね」
浮気性というのでしたら、それこそ男女問わずもっと手広くなってるはずですしね。
ただ、どうやらメイ様は少し違う考えのようで
『諸君らは甘い!』
そうビシッ! という効果音(どこから鳴らしたんですか?)とともに指をさされたのですが、なんて言いますかこういう所もお嬢様そっくりですねぇ。
「どういうことですの? わたくし、さっぱりですわ」
『単純よ! 今までおねーちゃんの周りには誰が居た?』
「誰って……あぁ、そういう事ですのね」
なるほど。
エレン様も気付いたようですが、今の言葉で分かりました。
「どういう、こと?」
「えっと、お嬢様には常に私がお仕えしているのですが、それがいわゆる抑止力になっている、そういう事ですよね?」
『そのとーり! 別にアリサだけじゃない、誰かが傍に居れば、おねーちゃんの意識はそっちに行くの。だけど、今はどうなってる?』
「一人……ですわね」
『つまり、抑止力が無いとゆーこと! それにミツキだけじゃなく全員気付いてないのかもしれないけど、おねーちゃんの魅力ってやばいんだよ?』
魅力がヤバい?
確かにお嬢様はとても可愛らしい方ですが、ヤバいというほどでは……いえ、結構ヤバいと言えばヤバいですね。しかも意図的に周囲を悶えさす様な仕草をされますし……。
『それにどういうわけか、おねーちゃんのママは魅力とか好感度が上がりやすいよう、おねーちゃんを成長させてるみたいだし』
「確かに、以前サユリ様とシズク様からお嬢様の教育などを引き継いだ際、勉学や体力よりも見た目や性格の方を重点的に育てるようにとご指示がありました」
『やっぱりね! だっておねーちゃん、あたしと同じかそれ以上の存在なのに、すっごい弱いままなんだもん。いくら魔石が不完全な状態でも、あたしからするとありえないくらい弱い。だけど、魅力とかは弱体化することは無いので……わかるでしょ?』
「なるほど……。つまり、魅力がヤバいユキさんが見知らぬ土地に行くとなると」
「ナンパされ、る?」
「ですが、お嬢様はあぁ見えてかなりの人見知りなので、おそらく逃げようとします。ですが、もし……」
『そう! もしも優しくしてくれる人が現れたらどうなる! しかも一人で心細いとか、嫌なことがいっぱいあったとかだったら、間違いなくその相手に対しての好感度が上がる。そして好感度が上がると、狐族の特徴で好ましい相手への魅了が発動する。しかも魅力がヤバいおねーちゃんがそれだよ』
メイ様がバンバンと机を叩きながら話されてますが、たしかにこれはマズそうですね。
吊り橋効果とは違うとは思いますが、お嬢様が簡単になびく可能性があり、なおかつ抑える者が居ない状況……メイ様が心配されるのも当然ですね。
「ですけど、心細いはまだしも嫌な事とか、ありえますの?」
『それがあるんだ! そもそもだけど、おねーちゃんが行った国、どうやら元はあたし達の世界の一部だったみたいなの。それが何千年か前に突如消えた……というより滅んだ国なの』
「滅んだ、の? えっと、よく知らない、けど、この世界っていくつにも分かれてる、の?」
『分かれてるの! 幾つかの世界がくっついて一つの惑星になったけど、それぞれの世界は未だ結界によって隔たれてるの。詳細はおねーちゃんか、おねーちゃんのパパかママに聞くと良いよ!』
一つの惑星に幾つもの世界が融合、確かに想像できない事ですからね。ミツキ様も実感がないままのようですし。
「この世界って、不思議、だね」
「わたくしからすると、ミツキさん達が居た世界の方が不思議ですわ」
「そう、なの?」
「だって、只人族以外の種族が居ないのですわよ? そして魔法も術も、さらに精霊や魔物も存在しないなど、想像できませんわぁ」
『世界は色々って事だね! で、コレット達に過去の資料とかを片っ端から調べてもらった内容だけど、どうやらおねーちゃんが行った場所って厄介でヤバいの』
少し、というよりもかなり真面目な雰囲気にメイ様がなりました。ほんと、こういう所もお嬢様とそっくりですね。
『厄介なのはエレメント、そっちだと精霊だっけ? その精霊がすべて存在しなくなって荒廃した国だって事なの。つまり、大気中の霊素が皆無なの』
「霊素が無いという事は、精霊の召喚どころか精霊術も厳しいという事ですの?」
『使えなくはないけど、厳しいのは事実だよ。使う場合、おねーちゃん自身の力、つまり精霊力を消費する。だけど、霊素が無いので補給ができないの。精霊力は魔力と違い、誰かに分けて貰うか、大気中の霊素を吸収するしか補給できないからね』
メイ様が心苦しいような顔をされながら話されましたが、確かにそうですね。いくら半精霊でご自身の精霊力が豊富なお嬢様でも、補給ができなければいずれ枯渇してしまいます。枯渇した場合、半精霊のお体に何が起こるか……想像したくありません。
なにより精霊関係が封じられるとなると、お嬢様はますます孤独になってしまいますね……。精霊の方々を召喚することができないという事ですから。
「ユキくんが危険、なの?」
『危険かと言えば危険じゃないと思う。1000年以上前の資料だけど、おねーちゃんの敵になりそうな魔物は皆無っぽい記載だったから』
「ユキさんが叶わない魔物とか、ほんと想像できませんわ」
『あたしのおねーちゃんだからね! だから厄介であってヤバイではないの』
「つまり?」
『おねーちゃんが浮気しちゃう!』
バンッと大きく机を叩かれましたが、なるほど、そこに戻るわけですね。
『なによりなぁ、調べた感じ、すっごいヤバい種族が居るんだよなぁ』
「どういう種族なんですの?」
『んーと、まず最初に、おねーちゃんみたいな獣人ってその国だと最下層、つまり劣等種扱いなの。いくら最高に可愛いおねーちゃんでも、人権までは覆せないからね』
「獣人全て、なの?」
『人寄りの獣人だけみたい。なんでそうなったのかは調べる気もないし知りたくも無いから分かんないけど、少なくともおねーちゃんの扱いが悪い場面が多いのは確か』
「それはマズイ……って、ちょっとアリサさん!? どこに行く気ですの!?」
「いえ、なんとなく転移門が使いたくなったので」
「ユキさんを追いかける気なのはバレバレですわ! まぁ気持ちは分かりますけど、だけど大事になるのでダメですわ!」
残念、エレン様に阻まれてしまいました。
ですが、お嬢様をそんな危険な場所に、しかもお一人でなどと……。
『先走りはダメだなー。まぁ、あたしも行けるなら速攻向かう気だったんだけどね! それはともかく、そんな状況で厄介な種族って言うのは、おねーちゃんみたいな魅了は無いけど、気に入った相手を眷属化できちゃう種族が居るの』
「眷属化? えっと、それって吸血鬼、みたいなの?」
「そういえば、吸血鬼は地球にもおとぎ話の中には存在するのでしたっけ。しかも、わたくし達の世界と同等の性質なのが興味深い感じに」
『まさにソレ! と言っても血を吸わずとも、魔力の波長が合えば眷属化できる力を持つ種族なの。ただ、自分よりも強い相手を眷属化するのは無理で、仕掛けたら逆に眷属になっちゃうの』
「あ……何となく読めました」
私だけでなく、エレン様とミツキ様もハッとされましたね。
『そう、おねーちゃんがその種族に会ったら、間違いなく眷属化する流れが起きると思うの。しかも、きーっと女の子なんだよ! かわいくて、スタイルも良い美少女に決まってるんだよ!』
「そんなこと、あるわけない……とは言い切れませんわね」
エレン様が私達を見まわした後、深いため息とともに頷いてますが、確かにそうですね……。ノエルもですが、どういうわけかお嬢様と仲が良い者は漏れなくそうなってますし。
「それはともかく、その眷属化には問題などは無いのですか? 眷属化するとお嬢様の命に関わる、とか」
『ん~、問題ではないけど、主人と配下という立場が強くなるのはあるみたい。あとは、主人が死ぬと配下も一緒に死ぬけど、配下が死んでも主人は死なない、くらい』
「なら問題は無さそうですわね?」
『無いどころか大いにある!』
またもやバンッと大きく机を叩かれましたね。どうやらメイ様にとって、看過できないことがあるようです。
『だって、おねーちゃんの相手が増えるって事は、おねーちゃんを独占できる時間がさらに短くなっちゃうじゃん!』
「「「そうだった!!!」」」
確かに、言われると非常に納得してしまいます。たまには独り占めしたくなるのはしょうがないのです。
『しかもだよ、もしも眷属化したから責任をーみたいな感じで、おねーちゃんがそいつを優先したら……』
「さすがにそれは……」
「無い?」
「とは言い切れませんわね……」
お嬢様はお優しいのもありますが、責任感もありますからね。なので、そのような状態になった場合、可能性としてはあるわけでして。
はぁ~っと、思わず全員でため息をついてしまったくらい、想像しやすい状況です。
『だからミツキ、キミに重大任務を与える!』
「わ、私?」
『うむ。向こうに行ったら、速攻でおねーちゃんを落とせ!』
「お、落とす!?」
あら、メイ様の一言で、ずいぶんとミツキ様が慌ててしまいました。まぁ私も言われたら、たぶん同じ反応になるかもしれませんが……。
『別にエッチしろってわけじゃないよ! 単純に、いつも以上にべったりしていちゃつけばいいの! そうすれば、もしも眷属化していた場合でも、意識はミツキの方に向くはず!』
「あっ、そういう事ですのね。この場合、ユキさんが責任第一で、眷属化してしまった方へ入れ込み過ぎなければ良いというわけですわね」
『そーゆーこと。本来ならばあたし達の誰かが抑止力としているので、誰かを依怙贔屓しようなんてことはしない。だけど抑止力が居ない今、入れ込み過ぎたら……って事なの!』
メイ様がバンバンと何度も叩きながら訴えられてますが、確かにそうですね。
誰が上とかせず、全員一律でというのがお嬢様ですからね。とはいえ魔石の関係からか、私への特別感は別にありますけど。
「わ、わかった。私、頑張る、ね」
『たのんだ! じゃ、暗い話は終わったので、次はおねーちゃんの前世とかをきこーか。おねーちゃん、あまり話してくれないから気になるんだもん』
「わたくしも気になりますわ」
「じゃ、じゃぁ、少しだけ、ね?」
そう言って、今度はミツキ様の話を伺う場に。
問題が解決というか、めどが立ったからでしょうか、だいぶ気楽な状態になりましたね。一安心、といったところでしょうか。
それにしても、前世のお嬢様の話ですか。どうやら夜はまだまだ長そうですね。




