250話 違うところが多すぎてパンクしそう
少し長いです
ニワトリはひとまず置いといて、他に魔物がいないかサクッと探知……大丈夫かな?
念のためヒトガタを使って警戒しておこう。
んでは、二人に見えないようにこっそりとヒトガタを取り出し、バレないように展開っと。これで魔物が近寄ってきた場合、ヒトガタが自動で撃墜してくれるので安心です。
安全も確保できたので、今度は二人の治療をしておきますか。
とはいえ、治療に関しても術式や月華の使用は避けておこう。こっちだと禁忌って可能性もあるし、なにより手の内はなるべく晒さないようにしておきたいのだ。
「えっと、二人とも大丈夫?」
「オレは何とか」
「そっちも……大丈夫みたいね」
仮面の子もよろけながらだけど頷いたので、問題ないでしょう。
まぁ、さっきの攻撃ってそこまで強いものじゃないからね。吹っ飛ばすのに重点を置いていたのかも?
「んと、治療ですけど、ポーションで良いですか?」
「持っているのか? だとしたら、すまないが分けて貰いたい。さっきの攻撃で、オレの手持ちは全部砕けて」
そう言って腰を指さしたけど、へぇ、ベルトにポーションを差し込んでおくんだ。こっちのポーションの容器って試験管みたいな形だし、その方が便利って事なのかしら?
仮面の子の方を見ると、そっちも同じみたいね。割れた容器を見せてきたわ。
てかコレ、危険じゃないの?
ガラスじゃないとは思うけど、それでも不注意で割れたら体に刺さる感じなんだけど。
なんかいろいろとおかしいなぁ、こっちの冒険者。
「んじゃとりあえず、2本ずつ渡すね。1本は体に掛けて、もう1本はグイッと飲んじゃって」
普段持ち歩いてる液体型ポーションを二人に渡してっと。錠剤型とか飴玉型もあるけど、二人の使っているのは液体のポーションっぽいからね。ならば似たようなのにしておくのだ。
「悪いな。って、なんだこれ?」
「なんだって、何か変?」
「変っていうか、本当にこれってポーションなのか? 透明だし、ただの水なんじゃないか?」
はて? 妙なことを言ってくるね。
確かにポーションによっては青色だったり紫色だったり、いろんな色があるにはある。でもそれは後から意図的に色を付けた物なので、基本は無色透明なんだよね。
もしも最初から濃い色がついてる場合、それは精製の過程で不純物が混ざっている状態ってこと。ちゃんと精製できれば無色透明なのです。
ひょっとしたら、こっちだと精製技術がそこまで発展してないのかな? 無色透明なポーションが珍しいというより、知らないって感じの反応だし。
もしくは、高すぎて普通の冒険者には渡らず、王室や国軍しか使ってない可能性もあるかな。
「まぁ気にしないで、ちゃちゃっと使ってちょうだい」
「そうだな、それじゃ遠慮なく……な、なんなんだよこれ!?」
おっと、またしてもツッコミが入りましたよ? 仮面の子も声は出してないけど、同じ感想っぽいね。
「もしかして肌に合わなかったとか?」
「違う! な、なんで傷が綺麗に、しかもすぐに消えるんだよ!?」
「え? だって回復ポーションって傷を治すためでしょ? なら、おかしなとこ無いと思うんだけど」
「いやいやいや! ポーションは傷を治すんじゃない、傷が治るのを早くしてくれるだけだぞ!?」
「……マジ?」
つまり、こっちで使われている回復ポーションは、自己治癒能力の活性化を促す薬ってことですか。
でも、わたし達が使う回復ポーションはその名の通り、掛けるだけで傷が綺麗に消える特殊な水。たしか、回復魔法と同じ効果を持つ成分が溶け込んでいるからだっけ。
「あー、えっと、たぶんすっごいポーションなんだよ!」
「凄いって……まさか! こ、これがエリクサーなのか!?」
「ま、まぁそんな所にしといて……」
ただのポーションがエリクサー扱いとか、思いっきり苦笑いしちゃったよ。う~ん、これは思ってた以上に文化や技術、それに常識が違ってそうだわ。
参ったなぁ、ここまで違うところだらけだと、日常的に使う魔道具すら物珍しい状態になりそうだわ。
さてさて、オッサンが戻ってくるか怪しいけど、しばらく待つ事になりそうだし、せっかくなので色々と聞いてみよう。
ちゃちゃっと座れるように場所を整え、ついでにポーチから飲み物とお菓子を出してっと。ほんとは魔道具使って紅茶を淹れたいんだけど、まだ何が大丈夫で何がダメか分かんないからね。ここはポットに淹れてあるレモンティーにするのだ。
お茶とお菓子の効果からか、二人も少しほっとしたので質問の開始だよー。
まずは一番気になっているのが
「えっと、どうしてパーティなのに名前を明かさないの?」
どういうわけかこっちの冒険者さん、一緒に行動するパーティなのに自己紹介も特にしないんだよね。
そりゃ能力を他人には隠しておきたいってのは分かるけど、名前すら秘密って異常すぎ。
「あぁそれは、即席パーティは長くても2日程度な事が多いから、名前を覚える必要が無いんだ。長期間一緒に行動するなら問題は起きるけど、短期間なら知らなくても問題ないしな」
「ほへー。なんていうか、ずいぶん冷めたというか、業務的な関係なのね」
なんとなくだけど、前世でやったネットゲームにある即席パーティみたいな感じだなぁ。
クエストのためだけ組み、戦闘中も役職で呼ぶので名前は覚える必要がない。クリアしたら解散、即席なので再度組む可能性も低いなどなど。
だけど、わたし達の方はそういうのは無い。
そもそも依頼によっては命がけな事もあるので、自己紹介は当たり前だし、パーティも険悪にならないようにみんな気を遣うもの。
それが普通だと思ってたけど、違うとはねぇ。ほんと、同じ世界なんだけど異世界って感じだわ。
「そういえば、なんであのオッサンはわたしを目の敵のようにしてたの?」
「もしかして知らないのか? というかキミ、どこから来たんだい? なんとなくだけど、この国の生まれじゃなさそうなんだが」
「ん~、隠す必要もないからいっか。んと、わたしは――」
軽く自己紹介みたいな感じに話していきますか。
しばらく自己紹介の場になったわ。
たぶん、わたしが話したから、二人も軽く自己紹介するべきって流れになったからだね。まぁ仮面の子は書いた文字を通訳してもらってたけど。
少年の方はディラックという名前らしい。年齢は16歳だそうだけど、すでに結婚済みで子供までいるそうで。
仮面の子はルミィという名前。外見からは判断できなかったけど、名前からしてたぶん女の子ですね。フード付きのローブだと、体型が分からないからねぇ。年齢は14歳でわたしの2歳上、こっちは独身だそうな。
軽く出身地とか家族構成なんかも話したけど、ルミィはちょっと濁してた。見せてくる文字をディラックに訳して貰ってたけど、そのディラックも『ん? つまり明かしたくないって事か?』って、何度かボヤいてたし。
う~む、これは何かあるのかねぇ。まぁ今のところ、わたしが深入りして良い理由って無いから、特に追求しないけど。
「あとはあのオッサンは……どうでもいいか」
「相当嫌ってるなぁ。それにしても、本当に別の国があるんだなぁ」
「それって、こっちだとアスカロンって国しか無いの?」
「国と呼べるのはな。簡単に言えば、この大陸の領土全てがアスカロンの物なんだ」
なるほど、こっちは統一国家みたいなものなんだね。わたし達からすれば国に近い大きさでも、それはこっちだと街の一つって事か。
そのあたりの認識の違い、もしくは説明不足なのか、連合国だと思っていたのはただの街の集合体だったってオチなわけですね。
ひょっとしたら独立を視野に入れてるから、わたし達の方には連合国として見せている可能性もありそうだけど、それは国同士のことなのでどうでもいっか。一応お母様経由で各方面には情報提供をする予定だけど。
「オレとしては、キミが別の国から来た子供というのが驚きだな。まぁ納得する部分もあったけど」
「どういうこと?」
そう訊ねると、ちょっと複雑そうな顔をしますね。何か言い難い事でもあるのかな?
「たぶん先輩もそうだが、ハンターオフィス、つまりキミの言う所の冒険者ギルドな。そこで、結構嫌な扱いされなかったかい?」
「そういえば扱いが適当というか、丁寧の欠片も無かったかな」
最初の受付の人は最悪に近かったけど、その次の男の人は普通だったなぁ。
「やはりなぁ。君には少し言い難いんだが、獣人の扱いが両極端なんだ。というより、呼称も実は別なんだよ」
「へ? 呼称が別って、同じ獣人なのに?」
「うむ。オレ達のような姿をした者は獣人と呼ばれ、割と高い地位を得ている。これは人族などよりも身体能力が高いからだな」
「わたし達の方でも獣寄りの獣人は身体能力高めだね。まぁ地位に関しては個人個人なので、種族とかほとんど関係ないけど。とゆーか、それってつまり」
「そう、キミのような姿をしたものは〝獣人〟でなく〝人獣〟と呼ばれるんだ。その、言い難いんだが『獣人は獣の力を持った人』を指すんだが、『人獣は人が獣になり損ねた者』という意味合いが強くてな……」
なーるほど、ひじょーに納得。
そう言えば受付のおねーさんも獣寄りだったから、おそらくわたしの事を見下してたんだろうね。
「オレもキミを最初見た時はそう言う偏見を少し持っていたからな。今はコカトリスあっさり倒したことで、その意識は皆無だが。だから悪い事は言わない、元の国に帰った方が良いぞ。この国だと良い思いどころか、嫌な思いばかりになるはずだ」
そう真剣な顔でディラックが言うのと同時に、ルミィもコクコクと頷く。
どうやらこっちだと、この偏見は相当根深いみたいですね。
だけど
「気を掛けてくれるのはありがたいけど、それでもわたしはやる事があるから、ちょーっとだけがんばるのだ!」
「やる事って?」
「魔王って奴を倒す許可を貰うこと!」
「魔王って、マジか……。だが、どうしてなんだい?」
「答えは単純、友達の為です!」
正直言えばこんな面倒というか、わたしの様な獣人に対する扱いが酷い国には長居したくない。
だけど、ここでわたしが何もせずに帰ったら、ミツキがどうなるか分かったもんじゃない。それこそ聖女として、この国で崇拝されるような立場へと強制的に上げられるなる可能性だってある。
そんなのはまっぴらごめんです!
だったら嫌でも、ちょっとがんばるのだ! わたし、好きな子の為なら割と頑張れる性格なので!
う~む、なんとなく空気が重くなった感じなので、ガラッと気分を変えたいなぁ。
帰るための足であるオッサンがいつ戻るか分からない現状、できるだけ仲良い状態にしておきたいのだ。ギスギスとか精神面が疲れちゃうし。
となれば~
「んっと、あのニワトリさんって、討伐証明の場所さえあればどう扱っても良いんですよね?」
「あ、あぁ、そうだけど、何かする気かい?」
「えっと、せっかくなので食べようかなーって。もちろん二人にもご馳走するよ!」
と言うと、うん、ポカーンとしちゃったわ。
どうやらニワトリ、もといコカトリスを食べるっての、考えになかったみたい。
「た、食べるって、売らないでか!?」
「ん~、わたし、こう見えてもお金は結構持ってるので、売る必要ないんだよね。何より、おいしそうな食材が目の前にあるので、我慢できないのです!」
そう、ちょっと真面目な話をしていながらも、わたしの頭の8割は『このニワトリをどう料理しよう?』という考えしかなかったのだ! ……うん、我ながら食い意地張りすぎてるわ。
「とゆーわけで、ニワトリのフルコース作っちゃうよー」
それでは見せてもらいましょうか、こっちのニワトリの実力を!
やっぱり食べることを優先したい性格




