244話 厄介すぎてウンザリ
「うーがー、ぜんぜん情報が無い!」
「ですわぁ。ここまで無いと、意図的に隠してるんじゃって思えますわぁ」
ミツキたちの歓迎会から一夜明けて、さっそく魔王とかあの勇者たちのこと調べだしたけど、ほんと情報が無い。
フローラさんに頼んでルアス以外の各ギルドの情報や、シズクさんに頼んで勇者の身辺とかを調べてもらったのに、コレだ! っていう情報が無い。
手詰まり過ぎて、わたし達はすっごい項垂れ状態。さすがにちょっと疲れてきたので、集めた資料とかを机の上にバサーっとぶちまけた状態のまま、紅茶とお菓子で休憩です。
とはいえ、休憩でも話題はやっぱり決まってるわけで。
「それにしても、シズク様ですら情報を得られないとなると、ちょっと異常ですね」
「そうなんだよねぇ。ただ、シズクさんの収集能力を超えた地域もあるにはあるんだよね」
「それってたしか、メイ様の居るような国ですよねー? 私も先輩も、シズク様から少しご説明頂いたですー」
シズクさんとその部下の人たちは、それこそレグラスと国交が無い国から隠里みたいな場所でも、ほんとお構いなしに情報を集めてきちゃう凄い人たち。
だけどメイたちの居る国、というか結界のせいで隔離された世界みたいな場所だけど、そこに関しては情報を集めようにも派遣できないし、シズクさん自身も向かうことができない。メイの国との転移門が完成すれば別だけど、現状は不可能。
なので、メイの国とは文通や通信でしか情報を得られないんだよね。
そして、今回の魔王とか勇者たちも同様に集められないって事なわけで……。
「この連合、ひょっとしたらメイさんの住んでいる国みたいな、別世界にある国かもしれないね」
「その可能性が高いかなぁ。ただそうなると、メイ達よりも先にこっちとの転移が自由にできるというのが引っかかるけど」
「確かメイさんの国も、レグラスと同じくらいの技術力でしたわよね? ですけど、いまだに試験段階で本格稼働はまだまだ先、と聞いていますわ」
「うん。ただまぁ安全性を犠牲にすれば、一応行き来は確立できてるらしいんだけど」
転移先がズレたり、時間がズレたり、体に変化が起きる可能性があるので、よっぽどでないと使用しないんだったかな。
それでもメイが使おうとして、メイがお父さんに思いっきり怒られたって愚痴ってきたこともあったなぁ。
だけど怒るのも当たり前。いくらメイでも、対策を何十にもしない限り危険な転移らしいからねぇ。それでも安全とは言い切れないようだし。
「ひょっとしたらこの勇者達も、そういう危険性を認識したうえで転移してきた可能性もあるなぁ」
「魔王を倒すためでしょうか?」
「相当意気込んでいましたからねー。そう言えばミツキさん達はどうしたんですかー?」
「ちょっと訓練させてるよ。さすがに弱すぎるので、基礎の基礎を叩き込んでる段階」
「それで今朝早く、ユキさんがゴーレムを生成されたのですわね」
「そゆこと。基礎がしっかりできていないと、強くなってもただのハリポテ状態だからね」
いろいろすっ飛ばしていきなり最強になるとかは無理なのです。
それに、マナミ達はちょっとズルしての進化状態なので、基礎をちゃんと作る必要がどうしてもあるのだ。
「しっかし参ったなぁ、情報が無いどころか、向こうに行く手段すらないとはなぁ」
「国交が無いせいですわね。しかも転移門の使用許可が下りるのは当分先とか、かなり頭が痛いですわね」
エレンもウンザリって感じに話してるけど、転移門が使えないとはほんと参ったわ。
転移門の安定性か、それとも技術的な課題があるのか、許可できる人数が年単位で決まってるようで。
そして今年分は既に締め切り、次に許可が下りるのは早くても来年の頭というのがねぇ。
ならば転移門を使わずに自分たちで飛んで行くってのも考えたけど、こっちはこっちで問題がある。
まず、転移門を使わずに飛んで行ったら、間違いなく不法入国で犯罪者になっちゃう。セイリアスの時みたいに、理由を付けて御咎め無しって方法も使えないしねぇ。
それ以前に、飛んで行ける場所に無さそうなんだよなぁ。たぶん世界が違うから、飛んで入るって事が不可能だと思うし。
「だけど、ミツキさんの分の使用許可は出ているんでしたっけ。おそらく、必ず聖女を連れて帰る気なんだろうね」
「そこまで聖女を求めるとか、ちょっと異常すぎですよー」
「確かにそうですね。なにより、ミツキ様以外の聖女の方には目もくれず、あくまでミツキ様に拘ってるのもおかしな感じです」
「しかもその理由は『お告げがあったから』とかでしたわね。でもそうなると、なんというか、流されてる感じが強いですわね」
エレンが少し呆れ気味になってるけど、たしかにそうだわ。
神って奴が言った事を鵜呑みにし、それをそのまま実行しようとするとか、正直ありえない。しかも知人とかでなく、実体のよくわからない存在の言葉だし。
「疑うことを知らない純粋な奴らなのか、それとも考えを放棄したバカなのか。まぁどっちにせよ、わたしはあいつらキライだけどね!」
「わたくしもですわぁ。ユキさんからミツキさんを奪おうとするなど、言語道断ですもの!」
アリサ達も激しく頷いてるし、やっぱそういう事だよね。
物扱いってわけじゃないけど、わたしから何かを奪おうとする奴らは完全に敵なのです!
「でもでもお嬢様、どうして魔王退治とか請けちゃったんですかー? それこそ蹴っちゃえばいいのにって私は思ったんですけどー」
「僕もそれは思った。なんていうか、らしくないよね?」
「あぁその事ね。答えは単純なんだけどね」
ノエルとレイジだけでなく、アリサとエレンも少し気になってるみたいね。ちょっと不思議だったんですって顔してるもん。
でもまぁ確かに、力ずくとまではいかなくても、断る方法は幾らでもあったね。
なのに断らず、あろうことかわたしが代わりに魔王って奴を倒す流れにしたからねぇ。そりゃ不思議になるわけだよ。
「んとね、たぶんだけど、断っても第2第3の勇者がひっきりなしに勧誘してくると思うの。それこそ魔王って存在がいなくならない限りね」
「ありそうですわね。となると、毎回断るのが面倒になってきそうですわね」
「まぁ断るだけならいいんだけどね。下手すると実力行使、それこそ拉致するとかもあり得るからね。だったらそうなる前に、問題となってる原因自体を対処しちゃった方が良いよね、って感じなの」
「確かに、その方が確実ですわね、それに、あの勇者の方達より、わたくしやユキさんの方が圧倒的に強いはずですもの」
「だね。あいつらが倒せないような相手でも、わたし達ならあっさりいけるはずだから、退治できる可能性はこっちの方が高い。それに万が一だけど、ミツキをあいつ等のもとに派遣して、そこで危ない目に遭うとかは絶対にダメなの」
正直なとこ、魔王を倒す云々より、ミツキが危険な状態に陥る方が嫌だからね。
そうならない為なら、なんだってやっちゃうよー。
「だけど、この状況は予想外だったけどね……」
「向かう方法が無いのは、ホント予想外すぎですわねぇ……」
こんな状況、予想できないよ……。
項垂れていたら大使館の職員さんがやってきた。はて? 何かあったのかな?
いつものようにアリサが応対に行ったけど、ちょっと気になるわ。
「――なるほど、分かりました。ご連絡、ありがとうございます」
あら? なんかすんなり話が終わったね。ただの連絡だったのかな?
「えぇ、ただの連絡ですよ」
「むぅ、どうしてわたしの思ってること、バレバレになっちゃうんですかね」
「それはもう、お嬢様の専属メイドですので!」
「そんなドヤられても……。ほんと、何年経ってもこのメイドなら当然理論、わけわかんないわ……」
ほんとメイドって何なんですかね? あきらかーにお世話するだけの人じゃないよね?
「えっと、それでですが、来客だそうです」
「来客? 大使館にまで来るって事は貴族かな?」
「貴族、と言いますか、その、サレスト様です」
「へ? サレストが来たの?」
特に会う予定はなかったはずなんだけど、なんだろ?
魔王を倒す云々はサレスト、というかセイリアス側にも伝えたけど、それ関係かしら?
「どうしますか? 追い返すこともできますが」
「さすがに追い返すのはマズいかなぁ、立場的に。しょーがない、会いますか」
「分かりました、それでは客室の方へお連れいたしますので、お嬢様たちは先に移動しておいてください。ノエル、給仕はお願いしますよ」
「了解ですよー」
そう言ってアリサは出迎えに行ったけど、ホントどういう要件なんだろ、気になるなぁ。
どうか厄介事じゃありませんよーに。




