24話 新しい日常のはじまりはじまり~
う~ん、眠い。朝だけど起きれない。
どうやら昨日アリサを助けてからずっと寝てたみたい。痛みはもうないけど眠い、今日は一日中お布団に潜ってたい気分。頭までお布団かぶってちょっとモゾモゾ、はふぅ、ではでは二度寝を……。
「お嬢様~、朝ですよ~」
う~ん誰かが起こしに来た。誰だろ? この感じはシズクさんじゃないなぁ。
「今日もいい天気ですよ、さぁ起きましょう」
「きゃう」
頭まですっぽりかぶってたお布団がはぎとられました。いったい誰、あれ?
「アリサ? えっと、なんで?」
アリサが起こしに来るとかどういうこと? いやうちのメイドに(昨日から勝手に)したけど。でも朝起こしに来るのってシズクさんじゃ?
「はいアリサです。昨日付でお嬢様の専属メイドとなりました。これからもよろしくお願いしますね」
にっこり笑顔のアリサ。へー専属ね、お母様もなかなか思い切ってるなぁ。わたしの専属ってことはシズクさんみたいなスーパーメイドにしようってことでしょ? 期待されてるねー。
「お布団取られちゃったし、それじゃぁ起きようかなぁ、はいっ!」
両手を広げてさぁどうぞ! あれ? アリサ何それって顔してる。シズクさん、あまり説明しなかったのかな。
「あの、お嬢様、その仕草はいったい」
「抱っこ!」
「え?」
「だから抱っこ、起きるんでしょ?」
ジト目だけど決してわざとじゃないよ? ん~理由言うべきか。
「えっとね、冗談抜きに立てないの。だから抱っこして?」
「な、な、な、なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「急に大声出さないで、ちょっと頭に響くから……」
そんな絶望したような顔もしないでよ。
「ま、まさか私に魔石を分けたせいで」
「あーそれもちょっと影響あるけど違うよ。術装使った影響だよこれ」
「どういう、ことですか?」
「術装にまだ体が耐えれないだけなんだ。昔は全く動けなかったけど、今は使った後に力が出ず立てない程度。そのうちこれも無くなるんじゃないかな」
魔力を限界近く引き出すから、その反動で魔力枯渇になっちゃうんだよね。子供の体にはまだ早すぎるのだ!
まぁわたしの膨大な魔力があっても枯渇する月華がヤバすぎるだけで、普通の術装はここまで消費しないみたいだけど。何でもかんでも規格外ってほんと大変ね。
「でもでも、術装関係なく朝はいつも抱っこされてるよ!」
「いつもというとシズク様にですか?」
「そそ。朝は低血圧ならぬ低魔力のせいで、結構ふらふらするんだよね~。治ったらいいけど、どうなるかな」
そういえば前世でもわたしって低血圧だったような。こういうのは前世から引き継がなくていいです。
「だから、はい、抱っこ」
「わ、わかりました。それでは失礼しますね」
アリサにそっと抱かれるけど、ほうほうこれはなかなか。相手の身長が少し上くらいだとまた違いますね。
ただ、うん、アリサ意識しすぎよ。真っ赤になっちゃって、可愛い奴め。
「んじゃこのままお風呂とかもお願いねー」
「そういえばお嬢様は朝も必ずなんですっけ。あれ? ということは」
「もち洗ってね~」
「か、かしこまりました」
お風呂も着替えもやってもらうとか、こういうところってまさにお嬢様だよね。
でもそうか、今後はアリサにやってもらうことになるのか。ん~歳の近い子にやってもらうとか、ちょっと恥ずかしいかも。
自分でやりたいけど、ダメって言われるんだろねぇ。それがメイドの仕事なので! とか言われそ。
「ふーさっぱりした。アリサって洗い方も丁寧だし、着替えもばっちりだし、初日からすごいね~」
「あ、ありがとう、ございましゅ」
アリサに洗ってもらって、髪と尻尾も乾かしてもらって、最後に着替えさせてもらって、わたしは大変満足です。シズクさんには劣るけどなかなかでした。
ただね、何度も言うけどアリサ意識しすぎよ。ほんと乙女だねぇ。
「えっと、お嬢様、しばらくは朝のお支度が終わり次第、私は午後までシズク様とのメイドの訓練となります。ですので」
「あーりょうか~い。遊ぶならそれ以降ってことね」
メイド訓練もシズクさんが直接行うとか、期待されてる証拠だね。大変かもしれないけど、無理しない程度にがんばってもらいたいな。
「さてと、それじゃ朝ごはんに行きましょー」
「かしこまりました」
「はい、抱っこ!」
「は、はい」
ほんとはがんばればもう歩けるけど、こうね、アリサを照れさせてみたいのです! あ、ジト目された、バレた?
はふぅ、今日の朝ごはんもおいしくて幸せでした。おいしいからつい食べ過ぎちゃうけど、太らないので気にしない! ちょっと卑怯な体質だけど、こういうのは積極的に活用しないとね。
さってと、お昼まで何しようかな。
たしかお父様は後片付けがあるとかで今日は王都勤め。あのロリコン勇者が何してたか聞きたかったけどこれは後回しね。
お母様はお弟子さんの稽古だっけ。ん~、そこに行くとみんなわたしのほう優先するから駄目ね。
シズクさんはアリサとメイドの訓練中だしなぁ。
かといって部屋で本を読む気分じゃない。だけど今日は外に出掛けちゃいけないってさっき言われたから、街に遊びに行くもできない。
他のこと他のこと、あーそうだ、アリサにあげるポーチを作ろう。となるとわたし専用の工作部屋にレッツゴー。
ん~、相変わらずわたしの工作部屋、素材がはんぱないな。
空間拡張と状態保存の術式が部屋自体に組み込まれてるのをいいことに、ダンジョンとかで取ってきた素材を片っ端から入れてるから、ほんと凄まじい量になってるわ。
こういうところって前世からの貧乏性な性格がでてるんだよね、お金とかあってもとりあえずため込む悪い癖ともいうけど。まぁいっか。
まずは素材にカイザードラゴンの鱗と~、シャドウタイガーの皮と~、クイーンアラクネの糸と~、あとはエルダースライムの核と装飾用にレインボーダイヤってとこかな。
うん、超高級素材だろうが腐るほど持ってるね。めちゃくちゃ狩っておもいっきりため込んだ結果だわ。
さてさてまずはダイヤ以外を合成しないと。
この世界って面白いよね、素材によっては掛け合わせることで上位魔物の素材よりも硬くなったり強くなったりするとかさ。逆に上位同士を掛け合わせると弱くなったりとかもあるけど。
組み合わせは合成レシピの本を見ないとさっぱりわからない。でもこういう仕組みってパズルのようでちょっと面白いから好きだなぁ。
では術式展開して~、次に素材をこーねこねのぐーるぐるっと。混ざったら引っ張って伸ばして~、よっしこれで素材の布完成。
次に布をずばーんと切って~、針にアラクネの糸通して~、ちくちくぬいぬいっと。ほんと手慣れたものだわ、これなら将来は裁縫の仕事に就くこともできるね。
あとはダイヤで装飾して、ポーチに術式書き込んで、よし完成。う~ん我ながら良い出来、アリサ喜んでくれるかな。
そういえばアリサって専用の武器がまだないんだったかな。ん~、魔石もわたしの物だった存在だし、あれを作ってみようかな。
「というわけで、アリサにあげたい物があります!」
「ほんといつも唐突ですね……シズク様との午後の訓練終わったとたんにですから」
あら、少しあきれられてる。でもそこはほら、わたしだし?
「まぁまぁ、えっとまずはアリサ髪の毛1本もらうね~」
「はい、どうぞ」
「ありがとー、それをこのポーチ入れて術式梱包っと。はいど~ぞ」
完成したポーチをアリサに手渡したけど、あれ、状況が呑み込めてない顔してるね。
「あの、これは?」
「アリサ専用のポーチです、わたしとおそろいです!」
「あの、ありがとうございます。もう出来たのですか?」
「がんばりました!」
ドヤァ。お、尊敬の眼差しですね、ちょっとこそばゆいです。
「使い方も教えるね~。そのまま入れてもいいけど、大きいものは物体に触れながら〝収納〟って念じれば触っているものが入ります。取り出すときは出す物を思い浮かべて〝展開〟って念じれば取り出せます。目の前に出す情景も追加すれば目の前に出るよ」
「転生者の方が使うアイテムボックスと同じ感じなのですね」
「そそ。もしも中に何入れたかわからなくなったときは紙の上にポーチを置いて、ポーチを触りながら〝転写〟って念じれば紙に入ってる物の一覧が書き出されるよ」
アイテムボックスみたいに脳内に一覧表示できればいいのにね。
というかわたしも転生してるけど、基本ともいえるアイテムボックスを持ってないんだよなぁ。ステータス表示能力とかもないし、ちょっと使ってみたかったな。
「もちろん状態保持も組み込んでいるからポーチ本体も丈夫だし、定番の入れた物の時間停止もばっちりあるよ。空間拡張はわたしの全力の魔力で組み込んでいるから、惑星一個くらい入れることができるよ。あとは使用者限定と、どこでも引っ付くやつだね」
「あ、相変わらずすごいです。大事に使いますね」
「はいよ~。見た目を変えたくなったら新しいの作るから言ってね~」
アリサがうれしそうな顔してて、ほんと良かった良かった。
それに大事に使うって言われるとこっちもうれしいよね。壊れるどころか汚れること皆無だけど、それはそれだから。




