238話 参加のためのじゅーんび
セイリアスで開かれる〝異世界から来たミツキ達の歓迎会〟への参加うんぬんは、お母様に相談したらあっさり許可が貰えた。
既にレグラスにも招待状が届いてたそうで、レグラス内の貴族さんが数名参加することが確定。あとは王家、もしくはうちからも出席者を出すかどうかって感じだったようで。
なので、今回はわたしが代表して参加することになったわけだけど。
「ねぇアリサ~、これで行かないとダメなの?」
「ダメです。今回、お嬢様はレグラス代表と言ってもいいくらいのお立場ですので、それなりの格好が必要ですから」
急展開というか話しが早いというか、サレストとの会談から3日しか経っていない今日、その歓迎会が開催されるわけで。
なのでおめかししてるけど、これなのかぁ……。
今回はドレスでなく巫女服に近い着物なのはいいんだけど、振袖や背中部分の刺繍が多い儀式用に近い物。
当然帯紐なんかも高級な素材だし、髪飾りや首飾りといった装飾品には純度が高い精霊石を使ってるし。
「普段の格好の方が動きやすいんだけどなぁ。長い袴とか、ちょっと動きにくいもん」
「そこは我慢してください。本来でしたら千早も着ていただく予定でしたのに」
「アレ、わたし嫌いなんだよねぇ。敵との遭遇を考えると、動きにくくなるのは極力避けたいのです」
「お嬢様、その考えは戦闘狂に近いですよ……」
「うそん!?」
わたしの後ろに立ち、髪を整えてくれるアリサを鏡越しに見たけど、うん、すっごい呆れてるね。
いかんなぁ、わたし、そんな戦闘狂じゃないはずなのに。
「もしかして、エレンもそう思ってるの?」
「わたくしですの? ん~、戦闘狂というより」
「というより?」
「戦闘好き、な気がしますわ!」
「マジかぁ……」
わたしの隣で、ノエルに手伝ってもらいながら身支度をしてるドレス姿のエレンにそう言われるとは、ちょっと項垂れちゃう。
たしかにエレンたちとの模擬戦は楽しいけど、戦闘好きじゃないんですよ?
弱いままでいたいって事は無いけど、戦闘に生きる女傑ってわけじゃないんですよ?
う~む、これはどこかでじっくりと話し合う必要がありそうですね。
このままだとわたしのイメージが、戦闘大好き娘になってしまう。
「エレン様~、次はこっちのですよー」
「分かりましたわ。それにしても、わたくしもなんですの?」
「ですよー。今回はエレン様の今後にも関わってますからねー」
エレンが少し戸惑ってるのも無理ないわ。
ノエルがエレンに渡してるのって、わたしが着けてるのと同じ純度の精霊石を使った指輪やネックレス、それにイヤリングとかだからねぇ。
うちの人以外でそんな純度の精霊石を使った装飾品を着けるとか、普通はありえないことだし。
「今回、エレン様はアルネイアの代表としての参加ですが、実は他国に向けてある宣言をしていただく予定もあるのです」
「宣言ですの?」
「簡単に言ってしまえば、エレン様はお嬢様と親しい、というより婚約同然という宣言ですね」
「ほ、ほんとうですの!?」
おっと、アリサの一言で、エレンがすっごい慌てちゃったんだけど。まぁ嫌な方というよりも、普通に驚いてる方だね。
とゆーか、わたしも驚いてるんですけど!? そんな意図があるって事、初めて聞いたよ!
「エレン様は自覚ないかもですけど、エレン様狙いの人って本当に多いんですよー」
「そうなんですの?」
「竜の巫女というのもそうなんですけど、お嬢様と凄く仲が良いじゃないですか。それってかなーり大きいんですよー」
「ひょっとして、わたくしを落とせばユキさんも、という事ですの?」
「ですですー」
ノエルが明るく答えてるけど、わたしとエレンからしたらたまったもんじゃない。
だってそういうの、竜の巫女関係だけでなく、うちの力も手にしようという不届き者、ってことだもんね。しかも考えようによっては、エレンはただの踏み台ってことだし。
「ですけど、既にお嬢様との仲が深いのを周囲に知らしめることができれば、流石にその間に入ろうとする人はいなくなるわけですねー」
「なにより、今回エレン様に身に着けていただく装飾品には大きな意味があります。こちらも簡単に言ってしまえば、レグラス王国公認という証ですね」
「どういうことですの? 確かにすごい精霊石を使っているのは分かりますけど」
「それはですね、今回使用している精霊石は国宝相当、他国へは絶対に渡してはいけない純度を秘めている物だからです」
「こ、国宝相当……」
あらま、アリサの説明でエレンが恐縮って感じになっちゃったわ。少しプルプルしてるし、結構ヤバい物を着けてるって思ってそう。
でもまぁ確かに、国宝みたいな物を他国の貴族であるエレンが着けるとか、結構ヤバい事だって思っちゃうよねぇ。
「んっと、つまり国宝を貸して良い存在ってことを見せつける感じ?」
「ですね。そして同じ純度の物をお嬢様も着け、なおかつお二人が共に入場したら……というわけです」
「なっとくなっとく」
「わたくしも納得ですけど、その、突然すぎてちょっと戸惑ってしまいますわぁ。もっと順序みたいなものがあると思ってましたもの」
「しょうがないですよー。だって今朝、サユリ様が急に仰ってきたんですからー」
「おそらく、今回の参加者を知ったサユリ様が心配のあまり、少し急いで進めたのだと思います」
そう言えば今朝、お母様が通信でアリサとノエルに何か伝えてたね。
シズクさんじゃなかったのが少し珍しいなぁと思ってたけど、そういう事かぁ。
参加者の一覧は見せてもらったけど、たしかにいろんな国から人がくるみたい。しかも飛び入り参加もあるようなので、どんな人たちが集まるか把握しきれてないんだよね。
セイリアスとしてはミツキ達の歓迎会をきっかけに、自国の技術力を披露する場としても活用するとか、友好関係を結ぼうとするっていう思惑はあるんだろうけど、来る人達にもそれぞれ別の思惑があるはず。
当然、わたしとエレンが参加するってのは他国の人も知っている。だとすれば、わたしとエレンを狙う人だって当然いそうなわけで。
「なんとも厄介だねぇ……」
「本当ですわぁ……」
「「はぁ……」」
エレンと二人してちょっとため息ついちゃったわ。
わたし達狙いの人、減ってくれませんかねぇ……。
「そういえば、アリサ達はどうなの?」
「私とノエル、それとレイジも着けますが、お嬢様とエレン様ほどの物は着けません。とはいえ、私達はお二方の従者としてすでに仕えている、という意思表示がこれでできます」
「お嬢様とエレン様ほどじゃないですけど、私達も結構勧誘されますからねー。なので、既に主人が居ますよーって言うのが必要なんですー」
「なるほどねぇ。確かに欲しがる人は多いだろうしなぁ」
アルネイアの学園でも、未だにアリサ達を従者にしたいと声をかけてくるのは大勢いる。それだけアリサ達が優秀ってことなんだけど。
となれば当然他の国、しかも初めて見るような人はさらに欲しがるわけで。ほんと嫌だねぇ、そういうのって。
「対策はしっかりと、という事ですわね」
「いちいち断るのって面倒だしねぇ。あー、ちなみにミツキ達はどうなってるの?」
ミツキ達は今回の主役だからか、会場の別室に既にいるらしい。まぁベアトリーネ達はレグラス居るので、そこはレイジが迎えに行ってるけど。
流石にわたし達が居ないのに悪魔化していた集団、というか敵対していた元クラスメイトを同じ部屋にってのは抵抗あるからね。ギリギリまではレグラス側で待機してもらい、封印などを再度掛けてもらってるのだ。
「本来であればミツキ様にも着けて頂いた方が良いのですが、今回は着けていません」
「そうなの? でもどうして?」
「簡単ですよー。ミツキ様だけ着けてたら、他の方、えっとクラスメイトさんでしたっけ? その人たちとの関係が悪くなるかもだからですよー」
「ただでさえ、レグラスで受け入れる方を絞っているのがありますからね」
そういえばそっか。全員をレグラスで受け入れるって事はせず、前世の幼馴染組だけ受け入れるって事になってるからねぇ。
しかも他のみんなはレグラスを選ぶ権利すらなかったわけで、何かしら思っていても不思議じゃない。
そんな状況で、さらにミツキが精霊石を使った特別な装飾類を着けていたら……ヤバイね。
特別扱いの中のさらに特別扱いですってことだから、嫉妬とかする人だってたぶん居るはず。今後一切クラスメイトとの関係を断つならわかるけど、きっとそうはならないだろうからなぁ。
「いつかはミツキ様の立場も公表する事になると思いますが、今でなくても、というわけです」
「だねぇ。そもそもミツキ達、こっちに来てからそこまで日数経ってないし」
「何でも急ぎ過ぎはダメですわね。ところでユキさん」
「な~に?」
「式はいつ挙げますの?」
「うぉい!?」
ちょっとエレンさん、キラキラした感じで何急に言ってくるんですかね? とゆーか今、急ぎ過ぎたらダメって本人が言ったよね?
昔っからほんと積極的だなぁ……嫌じゃないけど。




