234話 おもちゃ屋さんもあるよー
「はぁ、ほんと良かったわ。日本の映画館よりも没入した感じがするわ」
「でしょ~」
見終わった後、マナミがハンカチで目元を拭きながらそんなことを言ってきたけど、やっぱり泣いたんですかね?
物語自体は王道で、カップルのすれ違いや離れ離れ、ライバル登場とかのてんこ盛りで、最後は仲直りのイチャイチャエンドだった。
最初から最後まで超定番って感じはあったけど、わたしはこういうのが結構好きです。まぁアリサとミツキが両隣だったので、映画そっちのけでいちゃついてた気がするけど……。
「魔道具って何でもありなんだな。まさかアニメに変更できて、さらに声優まで選択できるとは思わなかったぞ」
「それはね、トースケの様に実写よりアニメが良いとかって好みもあるけど、種族によって視覚や聴覚が違うからだよ。見ても区別がつかない、特定の声が聞こえないなど、色々あるからね」
地球と違ってほんとーにいろんな種族が居るからねぇ。
視覚や聴覚を補助する魔道具も当然あるけど、それに頼りたくない人もいる。魔道具を受け付けない体の人だっている。
そういった人でも楽しめるよう、色々な仕組みを盛り込んでるのがこの世界の映画館。良くできた物です。
「ところでユキ、ひとつ気になるんだけど」
「な~に?」
映画館を離れ次の店に向かう途中、マナミが質問してきた。
表情も普通で深刻な感じはしないから、さっきの映画館がらみかな?
「こっちの世界だとDVDとかブルーレイってどうなってるの? 映画館があそこまで凄いと、家で見るのも少し変わってそうなんだけど」
「んっと、個人で映画館並みの施設を揃える、地球の様に魔道スクリーンで普通に見る、仮想空間を作り出してそこで見る、という3種類の方法があるよ。値段は……ねぇアリサ、いくらだっけ?」
「施設の場合、廉価製品で揃えたとしても大金貨10枚はかかります。仮想空間はさらに高く白金貨1枚ですので、一般のご家庭では魔道スクリーンを用いた再生機を使うのが定番となっています。再生機ですと、安い製品であれば銀貨50枚ほどですしね」
「なるほどねぇ。そういう所は日本と同じで、拘ると天井知らずになりそうね」
「ひょっとして、目標ができた?」
「まぁね。どうせなら一番良い物で揃えたいし」
マナミも変わってないなぁ、そういうとこ。
わたしが覚えてる限り、バイト代とかを全部使って高いスピーカーやアンプを買ってたしねぇ。でっかいテレビもあったね。
そういえばエレンの弟君も映画とか好きで、自宅の設備もすっごい拘ってるんだったかな。
冗談半分で二人をくっつけようって考えてたけど、同じ趣味ってことは相性バッチリな気がしてきたわ。これは割と真剣に進めていっても良い気がしてきたね。
そんな事を考えつつ、やって来ました次の店。
少し大きめの建物で、アニメ調のキャラクターが描かれた看板が人目を引き付ける定番の形。
「次はここです!」
「ここって模型、いや、おもちゃ屋か? こっちの世界にもあるんだな」
「そりゃねぇ。まぁ売っている商品はちょっと問題ありかもだけど……」
どういう事だって顔してるけど、うん、見ればわかるよ。
「とりあえず中に入って……こんにちはー」
「よく来たねユキちゃん。それに……ほう?」
「おっとおにーさん、それ以上は言わなくていいよ!」
ほんとね、友達が少ない事をみんな知りすぎてるから、新しい子が居るたびに驚かれるのは少し恥ずかしいです。
「えっと、今日は観光案内とギルドの依頼で来ました!」
「なるほど。そういえばさっきも、依頼を請けたからって説明してきたお客さんが来てたよ」
「同じ依頼で? う~ん、あの連中かなぁ。だけど……」
確かフローラさんが用意してくれた依頼だと、このお店はわたし達の方にしか無かったよーな。
ひょっとしてあの連中、依頼票をちゃんと読んでないんじゃ? だとしたらダメダメだねぇ。
店員のおにーさんに挨拶をした後、店内を見てまわる。
うん、いつも思うけど、いろんな物がいっぱいあるね。プラモデルやフィギュア、ぬいぐるみや身につけて遊ぶおもちゃなど、ほんといっぱいです。
こういうお店、見てるだけでもちょっと楽しいんだよねぇ。子供心を刺激されまくりだし!
「なぁユキ、このプラモってさぁ……」
おっと、コータがプラモデルの箱を手に取って複雑な表情になったけど、うん、気持ちは分かるよ。
「あきらかーに日本の奴だけど、この世界で再現した物なの。材質はちょっと違うけど、プラスチックに限りになく近い感触になってるかな」
「拘ってるなぁ。まぁこういうのを見ると、日本に帰りたいって思ってた人でも、帰る気が薄れそうだな」
「実はそういう理由もあって、地球の物を積極的に再現する文化もあるの。帰れないならこっちで再現しようって考えね」
人は無理でも物は再現できるからね。地球の物だけでなく、他の異世界の製品もたくさんあるし。
そして、再現できるという事は、元世界の物が恋しいという気持ちもだんだん薄れるわけで。
まぁそういうことをしないと元の世界への未練が強すぎて、この世界で生きていこうって気持ちに切り替わらない人が多いとかだった記憶。マナミたちも若干そういう感じがあったから、今回の観光はちょうどよかったかも。まぁミツキは早々に日本への未練が無くなってたけど。
「あとは飛空艦やゴーレムなんかの模型は、組み込み式魔道具を使うと動かすことができるよ」
「ラジコンみたいなものか。それはちょっと楽しそうだな」
「大会とかもあるから、気になったら出てみるといいよ」
自分で改造した模型を実際に動かし競うとか、かなり楽しいんだよね。
しかも模型製作技術だけでなく魔道具制作の知識もかなり必要だから、ただの遊びのはずが優秀な技術者発見の場にもなってるという。この仕組み考えた人、かなり頭いいです。
「とりあえず今日はわたしが全部出すから、模型に限らず色々な物を買ってみるといいよー」
「お金、大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫だよー。ぶっちゃけ、このお店の商品を全部買い占める事も可能です!」
「さすがにそれは止めなさいよ? あんただけでなく、ウチ等まで白い目で見られるから」
あらま、ジト目までされちゃった。とゆーかさすがのわたしでも、そんな事はしませんよ?
まぁ魔道具の素材はたまに買い占めちゃうけど、それはしょうがないよね。
「おいおいマジかよ!?」
その後も店内を見たり、気に入った物を籠に入れたりしてたら、突如トースケが驚いたんだけど、なんだろ?
「何におどろい……あぁ、それか……」
「コレって……」
「あんた、いつフィギュアになったのよ……」
ミツキとマナミが何とも言えないって顔で、トースケが手に取ったフィギュアのサンプルを見たけど、気持ちはすっごいわかる。だってそのフィギュア、巫女服着たわたしなんだもん。
「こちらの世界では、お嬢様やサユリ様といった有名な方を題材にした商品が数多くあります。こちらのフィギュアもその一つですね」
「日本にもあったけど、こっちの世界にもそういうのがあるのか。ボクはフィギュア自体持ってなかったけど、トースケは色々持ってたよな」
「まぁな。俗にいう美少女フィギュアだけじゃなく、戦国武将とか特撮物とか、気に入った物を手あたり次第だったぜ」
「でもでも、えっちぃのが最大派閥だったよね? しかもわたしに熱く語ってくれましたね!」
「なぁユキ、お前ってホントどうでも良い事はハッキリと覚えてるんだな……。オレとしてはその情報も忘れてもらいたかったぜ……」
トースケがすごい苦笑いしてるけど、まぁ思い出しちゃったからしょうがない!
たしかミツキは本、マナミは映画、コータは模型、トースケはフィギュアと、一番の趣味みたいなのがばらけてたねぇ。ゲームの様に共通したのもあるけど。
「それにしても、ほう、これは……」
「急に真面目な顔して、なに下から覗いてるんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
スッパーン!
「ちょ、どこからそのデカいハリセン出したんだよ? 後頭部を思いっきり叩かれて、少し痛かったぞ?」
「もちろんバッグからです! しかもこのハリセンは特製で、良い音がする割にダメージがってそうじゃなーい! なぜ覗いた!」
「だってスカートの中は気になるだろ?」
「分からないでもないが、わたしとしては分かりたくないです!」
確かにね、細部の作りこみの確認は必要だと思うよ。
でもね、自分が元になってるフィギュアで、しかもわたしの目の前で覗くのはマジで止めろと。
「しかしこれ、フィギュアなのに服は布っぽく、髪も揺れ、さらに手足も球体関節とかが無いのに稼働するって、どんな超技術だよ」
「サラッと話を変えおって……えっと、そのフィギュアはゴーレムの技術を応用してるの。まぁ応用しただけで、フィギュアを戦闘用ゴーレムにするのは難しいんだけどね。ちなみに、各関節は人と同じように稼働する設定だから、ありえない角度に動かすと簡単に壊れます」
「それ、フィギュアってレベルを超えないか? ほんと異世界、技術がスゲーな」
みんなが少し呆れたけど、その気持ちも分かる。だって究極の再現度を目指してますって感じだからねぇ。まぁ肌部分がちょっと柔らかいとか、やり過ぎって感じがする部分もあるけど。
救いなのは、実在する人物を元にしたフィギュアには〝えっちぃ仕様が無い〟ってことですね。脱げるどころか水着も無いので健全です!
ただ、調べたことないけど、きっと魔改造とか非公式製品とかでえっちぃのは存在してるんだろうなぁ。こういうのは世界が変わっても共通だろうし。
どんな感じかちょっと見てみたい気もするけど、自分が題材だった場合はすっごい複雑なので、絶対に調べません! こういうのは知らぬが仏ってやつです、きっと。
補足:
フィギュアをゴーレム化するのは難しいだけで実現可能です
そういった敵を出すかはちょっと考え中




