232話 勧誘なんてご破算よー
ミツキをナンパするというふざけたことをする奴ら、どうしてくれようか。
「お嬢様、落ち着いてください。お気持ちは分かりますが、ここで手を出してしまいますと」
「たとえユキさんであっても、この場で暴力行為を始めたら庇えませんよ? アリサさんが言うように、少し冷静になりましょうね」
「むぅ……わかった」
アリサだけでなく、フローラさんにまで止められちゃったわ。
という事は今のわたし、そうとう殺気出してたわけだね。いかんなぁ……。
昔っからだけど、好きな人や大事な人が傷ついたり奪われそうになったりすると、抑えが一気に吹き飛んじゃう。
そして、そういう事をする輩を敵とみなし、殺意がどんどん溢れてくる。
さすがにこの性格はマズいので変えようと一応は努力してるけど、ぜーんぜん変わらない。変える気あるのか? って自己ツッコミできちゃうくらい変わってない。我ながら、ほんと困った奴ですね!
「あの、その、どうして私なのです、か?」
おどおどしつつも、やはりミツキも疑問だったようで質問しだしたわ。
まぁ声を掛けられた1秒後には不安対策の為か、わたしの手を握ってきたけど。しかも、その、いわゆる恋人繋ぎなので、ちょっとだけ恥ずかしいです。
「それは君が〝聖女〟だからだ。〝聖女〟といったら〝勇者〟と一緒に冒険する、そう思わないか?」
「思わない、です。それに私、〝聖女〟じゃない、です」
「いやいや、そう否定しなくとも。俺には〝スキャン〟というスキルがあって、相手の職業や力をある程度調べることができるんだ。テンプレだと鑑定スキルって言った方が良いかもな」
そう言って自慢げに語りだしたけど、なるほど〝聖女〟目当てか。たしかに〝聖女〟って珍しいからなぁ。
あとは比較的珍しい〝賢者〟であるマナミの方に声を掛けなかったのは、仲間内に似た種になっている奴が居るからだろうね。マナミが怖いからって線も考え……って、うん、余計なことは考えないでおこう。一瞬マナミに睨まれた気がしたからね……。
それと発言からして、どうやらコイツも勇者のようね。テンプレうんぬんも言ってたし、地球から召喚されたのかしら?
まぁ勇者だったからか、コータが『本当に勇者って希少性ないな……』ってボヤいたけど、ホントそうね。しかも微妙な感じというオマケ付きで。
「なぁユキ、この世界にもスキルってあるのか? まぁ魔法もあるんだからスキルもあるんだろうけど」
「んっと、あるにはあるよ。ただ、わたし達は〝スキル〟ではなく〝能力〟って言ってるけどね。あとはそうね、発動という手順を踏まない能力がほとんどになるかな? トースケ達にわかりやすく言うなら、アクティブスキルでなくパッシブスキルが多いってとこだね」
「パッシブって言うと筋力アップとかか? なんとなく地味だなぁ」
「まぁねぇ。しかも、一部の能力は異世界召喚者時に付与される限定的な力なのがね。そいつが使った〝スキャン〟って能力もそうだと思うよ」
「つまり後から覚えられないってことか……残念過ぎるなぁ」
がっかりって感じにトースケがなったけど、気持ちは分からないでもないわ。
せっかくなら目に見える能力、例えばアイテムボックスとか欲しいよねぇ。
能力について少し話している間も、この勇者はミツキに対して何やらいろいろ言ってるね。
たけど興味が無いので流しちゃう。ミツキも流してるしね。
にしても、相手の情報を読み取る能力ねぇ。
ギルドカードを発行する際に似たようなことはしてるけど、分析や測定といった複数の機能を組み合わせた魔道具を使ってるんだよね。なのに、それを個人の能力でお手軽再現とはねぇ。
まぁコイツの話からして、読み取れたのは出身と種族だけっぽいね。名前もそうだし、魔力量とかも無理かな?。身長体重とかもダメだろうねぇ、見ることができたらぶっ飛ばしてるけど!
「――というわけで、俺達と一緒に」
「そろそろ終わりにしない?」
「そういえば君はなんだ? 先ほどからずっといるが」
「何って、わたしはミツキのお嫁さんですが!」
ドヤァ!
うん、勢いで宣言したけど、かなーり恥ずかしくなった。
案の定、ミツキは顔を両手で被ってイヤンイヤン状態になっちゃったし。ちょっとやり過ぎた感。
「嫁? あぁそうか、この世界だと同性も普通にあるのか。だが、まだ小さい子供じゃないか」
「ぐふっ! や、やはりこの身長だとそう思われちゃうのね……」
「あんたの場合、身長だけじゃないと思うわよ……」
ちょっとマナミさん!? ここでその追加攻撃はわたしに効果ありすぎだよ?
性格が子供っぽいの、自覚はしてるけど指摘されるとなかなかくるんだよ?
「それに君、戦いとは無縁な感じだろ?」
「……ほう? このわたしがひ弱に見える、だと?」
「というよりも、ただの子供だな」
むぅ、完全にただの子供に見られてる、そんなにかなぁ?
「まぁ噂で聞く〝金狐の姫様〟って言う冒険者なら相当強いとは思うが、君のような子供の狐族じゃなぁ」
『金狐の姫様?』
わたしだけでなく、アリサたちもキョトンとしたあと、すぐに苦笑いしちゃった。
だって〝金狐の姫様〟という噂は聞いたことが無いけど、冒険者で、なおかつ金色の狐族って
「わたし、だよねぇ」
「ですよ。他国ですと、ユキさんのことを〝金狐の姫様〟や〝金の巫女姫〟、〝黄金の女神〟といった呼称が複数存在します」
「マジ? わたし、どれも聞いたことないんだけど……」
「ユキさんの場合、ここルアスが拠点ですから。担当である私はもちろん、ギルド職員やルアス在住の冒険者全員、ユキさんがどのようなご家庭の方で、どういったお立場か知っていますからねぇ」
「そういえばソウダッタ」
フローラさんがニコニコしながら教えてくれたけど、確かにわたし、ルアス以外の冒険者ギルドによることってほとんどなかったわ。
アルネイアにも冒険者ギルド自体はあるけど、依頼の受注と報告はルアスの職員、特にフローラさんにお願いしたいからね。やっぱね、安心感が違うのだ!
さて、そんな呼称があるのがわかったけど、どうしようかな。
ギルド内での揉め事はダメダメだから、穏便に解決したいところなんだけど。
「つまり、あなた方はミツキさんの加入を望み、ユキさん達はルアスを観光したい、という事ですよね」
「そうなるかな? もしかしてフローラさん、良い手があるの?」
「えぇ、ぴったりの依頼があります」
依頼? 時間に追われるのはダメだからってんで、今日は依頼をしませんって決めたはずなんだけど。
「こちらの依頼、請けてみませんか?」
そう言ってフローラさんが二つの依頼票を見せてきたけど、ほう?
「新しい決済端末の現場確認、ね」
「そうです。先週から試験運用していますが、決済用の新型魔道具をルアスに導入したのです。以前よりも小型で処理能力が1.5倍、使い勝手もより向上した製品を目指したそうです」
「という事は、この依頼は使用している現場を実際に見て、そして感想を貰ってくるお仕事?」
「その通りです。ただ、設置済みの店舗が非常に多いため、依頼書にはまわってもらいたい店舗が複数記載されています」
フローラさんが指さした所を見ると、依頼票ごとにまわる店舗が違ってるね。それに固まってないで、結構散らばってるかな?
おそらく立地条件や時間帯など、様々な情報を集めてもらおうって意味が込められてるね。
「だが、この依頼を請けるのと、彼女を受け入れる事がどう繋がるんだ? そもそもだが、俺達は冒険者じゃないぞ」
「ご安心ください、この依頼に限っては冒険者である必要はございません。ですので、登録されていないあなた方も請けることができます」
「なるほどな。だが彼女の方は違うだろ?」
「えぇ、ですので競っていただきます。ユキさん達が勝てば潔く手を引き、あなた方が勝てばミツキさんと再度交渉する、というのでどうでしょうか」
ほほー、こうしたわけね。
この依頼はルアスを色々見てまわるので、わたし達は観光になる。しかも勝負に勝った場合、こいつらも手を引くことになるという一石二鳥。
万が一負けたとしても、あくまで奴らが手に入れるのは〝交渉権〟だけ。交渉しても拒否されたら潔く諦めてください、ってことになるわけだね。
「良いだろう。それではさっそく済ませてこようじゃないか!」
そう言って勇者は依頼票を手に取り、少し急いだ感じでギルドを出たけど、詳しい説明聞かないで良いのかね?
「ねーねーフローラさん、そもそもだけどこれ、勝ち負けないよね?」
「ないですね。早く報告すれば勝ち、という依頼でもありませんし」
「だよねぇ。しかも報告内容が正しかったかの裏付けもあるだろうから、最終結果って後日だよね?」
「さすがですね。仰る通り結果は後日、という事は」
「わたし達はセイリアスに戻ってるので、勝ち負けが無いことにごねてもどうにもできない、てことだねぇ」
さすがフローラさんだなぁ、わたしだとここまで瞬時に思いつかないよ。
「でもさぁ、一応ギルドって公平公正な組織だよね? でもこれって」
「えぇ、ユキさんの不利益にならないよう対応しましたね」
「それって良いの?」
「問題ないですよ。確かに組織は公平公正ですけど、私個人はユキさんの味方ですので、多少の依怙贔屓はしちゃいますよ」
あらま、ニコニコしながらすごいこと言っちゃってるよ。
わたしは嬉しいんだけど、ちょっと申し訳ないなぁって気持ちもあるわ。う~ん……恩返しじゃないけど昇級するの、前向きに考えるかなぁ。




