231話 登録かんりょー
「こちらが皆様のギルドカードになります」
ミツキたちの記入が終わったこともあり、ついにギルドカードの発行となった。
やっぱ異世界定番だけあって、みんな嬉しそうですね。フローラさんがカードについて説明しだしたけど、それも熱心に聞いてるわ。
「やはり異世界の方から見ると、ギルドカードを持つのは相当強い憧れがあるのでしょうか?」
「かな? わたし達、まぁわたしも転生してはいるけど、この世界だと定番な物ではあるけど、地球だと架空の存在に近いからね」
「冒険者ギルド自体無いのでしたっけ?」
「わたしやミツキ達が居た時代はそうだね。大昔にはあったかもしれないけど、基本は漫画やゲームの中にしか存在しないの。そもそもダンジョンどころか魔物も居ない世界だからねぇ」
「私としては、そういった世界の方がおとぎ話に聞こえてしまいますね」
アリサがしみじみとそんなことを言ったけど、たしかにそうね。
というか、前の世界でも魔物はいたから、地球が特別なだけかもしれないなぁ。わたしが知らないだけで実は居たって可能性もなくはないけど……。
「あの、この表示って隠す事、できますか?」
「できますよ。もちろん他の部分も任意に隠せます。手順ですが――」
おや? ミツキが少し恥ずかしげに、フローラさんにカード情報の一部隠蔽方法を聞いてるわ。
何か隠したいものあったのかな? 少し気になっちゃう。
「ねーねーミツキ、何を隠したいの?」
「その、これ、なの」
「どらどら……あぁ、少し納得」
恥ずかしがりながらミツキが指さした先には、バッチリと〝聖女〟の記載があるね。
ミツキたちは召喚されただけあって、やっぱり特別な種が付与されていた。ミツキは聖女、マナミは賢者、コータは勇者、トースケは剣聖と、なかなか強そうな感じです。
ただ、ミツキとしてはこの〝聖女〟というのがすごく恥ずかしいみたい。わたしもその気持ちは同感だけど。
だけど、本人が望まなくてもそうなっちゃったのはしょうがない。それが勇者召喚という物だからねぇ。
「まぁミツキが聖女なのは、ウチとしては違和感無いかしら」
「確かに、ミツキは大学でも気を引く外見にお淑やかな感じが男子にうけ、人気が非常に高い女子大生だったからな。ボクも紹介してくれと何度も言われたよ」
「へぇ、そうなんだ。ジー……」
「そ、そんなこと、ない、よ?」
じっとミツキを見たら、少し恥ずかしがって手をワタワタさせちゃって、ほんとかわいいですね!
でもまぁ、聖女とか淑女とか、大学でもそういう感じだったのは想像できるわ。
「というか、隠せるならボクも隠したいな」
「隠すのか? 勇者コータ参上! ってやらねーの?」
「さすがにこの歳だと、ボクも抵抗あるぞ?」
コータが苦笑いしながらそんなこと言ってるけど、歳のせい、ねぇ。
「この世界だと15歳だからだいじょーぶでしょ? というか、自称勇者なんて腐るほどいるし」
「そうなのか? いやまぁ、勇者が一人じゃないのは知っているが」
「一応この世界でも〝勇者〟って特別感はソコソコあるからね。ただし雑魚ばかりで、強いのはレイジくらいよ。まぁレイジは〝勇者族の勇者種〟という、なんかよく分からない存在になってるけど」
ほんと、勇者で強いなーって感じるのはレイジだけなんだよねぇ。
とはいえ勇者だってソコソコ強いのは事実。それ以上にわたしが化け物なだけなんだけど。
「そういえば、大道芸人している勇者も見たよーな?」
「大道芸人って……なんか一気に勇者の特別感、薄れたな……」
「そういうものです」
勇者は一人じゃないからなおさらだねぇ。とゆーか多すぎだけど!
「これで登録は全て完了です。お疲れ様でまでした」
「「「「ありがとうございました!」」」」
みんながお辞儀しながらフローラさんに感謝を述べてたわ。こういう態度、わたしだけでなくフローラさんにも好感触ですよ。当たり前のことだけど、かなーり大事です。
「無事完了したし、どうしよっかなぁ」
「何か依頼を請けますか? ユキさんとアリサさんが一緒ですので、最初から討伐関係の依頼もご紹介できますよ」
「それも良いんだけど、実はセイリアスには今日中に戻らないとダメなの」
「となると依頼達成は少し難しいですね。出来ないことは無いと思いますが、焦って危険な事態になられたら困りますし」
「安全第一だからねぇ」
フローラさんと頷きあっちゃったけど、ほんと安全は大事。
そりゃわたしとアリサが居れば、上級層での討伐だろうが1時間もあれば余裕で完了できる。
だけど、それはあくまでわたしとアリサが慣れていて、なおかつ最適な行動に徹することができるからなわけで。
みんなに説明しながら、なおかつ補助しながらだと、時間がもっとかかる。しかも帰る時間が決まってるってなると、要らぬ焦りが出そうだしね。そういう状況はダメダメです。
「でしたら、ルアスを案内されるのはどうですか? 皆さん、ルアスも初めてでしょう?」
「だね。案内だったら時間の調整もし易いし。みんなもそれで良い?」
「うん。いろいろ、見てみたい、かな?」
みんな頷いてるし、これは決定ですね。
正直なとこ、わたしも生まれ育ったこの街を見てもらいたいって気持ちもあるしねぇ。
「とゆーわけでフローラさん、今日は観光にするね。手続きありがとー」
「いえいえ、お気になさらず。でも、できれば一緒にユキさんに昇格してもらいたかったんですけどねぇ」
「むぅ、なかなか諦めてくれないね」
「それだけユキさんの功績はすごすぎるってことですよ」
やはりいろいろとやり過ぎたかぁ……。
アリサ達と一緒に行動するようになって効率が爆上がりになったからか、昔以上にギルドへの貢献をしちゃってるしなぁ。
まぁ、うん、フローラさんに泣きつかれたら考えよう!
「それじゃフローラさん、いろいろあり……ん? なにアレ」
フローラさんに手を振ってからギルドを出ようとしたら、入り口から変な団体がやってきた。
鎧を着た男女が5名だけど、見たことのない鎧だなぁ。
「アリサは知ってる?」
「いえ、私も初めて見ます。フローラ様、何かご存じですか?」
「ユキさんとアリサさんが知らないのは当然かもですね。先ほど少しお話しした例の連合に便乗している国、彼らはその国に所属している戦士です」
「へぇ、あれが……」
機能性を重視したのか、丸みを帯びた露出が少ない鎧を着てる。それにぱっと見だけど、防御系の魔法だけでなく、身体強化、それと魔法反射かな? そのあたりが付与されてる感じ。
材質は……オリハルコンか? 色は違うけど、アダマンタイト製の鎧よりも軽そうで、ミスリル製の鎧よりも魔力量が豊富そうだし。
「ダンジョンに入るための許可証を貰いに来たのかな?」
「だと思いますよ。このところ、彼らの様な戦士の方が、遺跡や幻想といった高難度ダンジョンへの許可証を発行されに来てますから」
「冒険者登録はしないでダンジョンだけ利用ってことかぁ」
冒険者になれば、たいていのダンジョンはギルドカードがあれば入ることができる。
だけど冒険者以外は、冒険者ギルドでダンジョン毎に許可証を発行してもらう必要がある。
この制度は、ダンジョンは危険な所なので、一般の人が興味本位に立ち入ることが無いようにするため。力が無いのに勝手に潜って殺されるとか、流石に嫌だしねぇ。
「なるほどねぇ……って、なんかこっちに来てない?」
「来てますね。彼らの担当は私ではないのですけど、どうしたのでしょうか」
並ぶ気もないのか、人を押しのけてズイズイこっち来るんだけど……。う~ん、なんとなく嫌な予感。
関わる前に出ようかなぁって考えてたら、もう目の前に来た。えらい行動が早いわね……。
そして先頭のリーダーらしき男がわたしたちをジッと見まわしたのち、口を開いて
「よかったら俺達と一緒に冒険しないか!」
「え? わ、私?」
ミツキに手を差し伸べて、そんな事を急に言いおった。
って、ちょっとまてーい! なんでわたしのミツキを急にナンパしてるんですか! 意味が分かりません!




