230話 登録は順調……かなぁ
「そろそろ書き終わった?」
「大体は、かな?」
ミツキたちの記入が終わったか確認したけど、まだ全部じゃないみたいね。
やっぱりこの世界の文字に慣れていないからか、読むのと書くのが少し遅いからだね。こればかりはしょうがないわ。
そう考えると、やっぱりアリサって天才だなぁ。
神聖王国側のあの奇妙な文字から、うちの国も使ってる世界基準の文字への覚え直しだったはずなのに、すぐに適応しちゃったんだもん。しかもわたしよりも綺麗な字だし……。
「どうしましたか?」
「いやぁ、アリサってやっぱ天才だなぁ、と再認識しただけだよ~」
「私がですか? それって……あぁ、文字の読み書きですか」
「そそ。だってアリサ、わたしの専属になって数日で完璧になってたし」
「お嬢様、それは天才だからではありませんよ」
「そうなの? ……まさか」
「そうです、メイドだからです!」
アリサがそんなこと言いながら少しドヤったけど、だからメイドって何なのよ……。
明らかに世間一般で言うメイドとは違う領域に入ってるよね? 何でもできる超人がメイドじゃないんだからね?
ほんと、うちと王家に勤めてるメイドさんと執事さん、ちょっと異常です。
「内容が分からない箇所がありましたら、遠慮なく言ってくださいね」
「それじゃ早速で悪いんだけど、ここってどう書けばいいのかしら?」
マナミがフローラさんに登録用紙の一ヵ所を指さしながら聞いてるけど、あら、みんな同じところで詰まったみたいね。
「なるほど、相続者ですね。簡単に説明しますと、冒険者というのは依頼中に予想外の出来事が発生しうる危険なお仕事です。それゆえ、依頼中に死亡される場合も想定する必要があります」
「という事はこの相続者って、そのままの意味ってこと?」
「そうです。発生時は、お仲間やご家族の方が居る場合は要相談となりますが、基本は記載された方に遺品などが渡されます」
フローラさんが言うように、無茶をして死亡する人ってソコソコ居るから、どうしても相続人を決めておかないとダメなんだよね。
もちろん本人が無茶をしただけなら良いけど、パーティに騙されたとか、家族に裏切られたとか、そういう可能性だってある。遺品を仲間や家族に即渡さず、相談してから決めるのはそういう理由から。お金欲しさに悪い事する人はこの世界にだっているからねぇ。
「青年期前の方は相続人でなく保護者を記入していただきますが、皆様は青年期とのことですので、ご自身がすべてを託したい方を記入してください。ちなみに無記入でも問題はありません。その場合はギルドが代理で相続し、孤児院へ寄付させていただきます」
「死亡保険の受取人って感じなわけね」
「そうです。ちなみに保証人の欄は、皆様が損害を発生させたのに弁償できない、もしくは逃亡した際、代理で弁償していただく方になります。一般的には相続人と同じ方を記入しますが、別の方でも構いません。ただし、こちらは無記入不可となります」
「バックレは許しません! 払えなければ保証人が払ってください! ってことだよ。まぁ特に理由がなければ、保証人に関してはお母様の名前を書いといてね」
「それっていいの? バックレる気は無いんだけど、ウチらってユキの友達だけど他人でしょ? なのに保証人になってもらうとか、問題ないの?」
不安というか、心配になるのはもっともだねぇ。
確かに日本、というか地球での文化を考えると、友達の親が保証人とかあまりない感じだよね。あるのは家族か友達本人ってとこか。
「問題ないよー。というか、これはお母様が決めたことなので、むしろ断った方がヤバいね」
「そうなの? 普通なら嫌がる方だと思うんだけど」
「普通ならね。うちの場合、金銭面もすさまじいから気にしないで大丈夫だよー。それに、お母様の権力ってヤバすぎるから、その好意を無下にしたら……わかるよね?」
「納得よ。断るのもそうだけど、弁償できずにバックレでもしたら、社会的に死ぬどころじゃないってことでしょ?」
「そゆことー。うちのお母様とお父様の好意はしっかり受け止め、それに反しない行動をするのが、この国、というかこの世界でうまく生きる秘訣です!」
特にお母様と敵対したら、ほんと悲惨どころじゃないからねぇ……。そのあたりも暇なときに話した方が良いかも。
まぁ敵対することは皆無だからどうでもいいけど、恩恵の方は熱く語ってあげないと!
「ボクからも一つ聞きたいんだが、この種族というのは只人族って書けばいいのかな?」
「ですね。その後に続く記入欄ですが、勇者種や武芸種などを記入していただきます。皆様の世界にあてはめますと、職業欄に近い分類になりますかね」
「え? 勇者って、種族に続く分類なんですか?」
「そうです。もっとも、職業が勇者という方もいますので、ここでは潜在的な要素が勇者、となります」
結構衝撃的だったみたい。コータだけでなく、みんなポカーンとしちゃったわ。
まぁこの世界特有だからしょうがないね。勇者種だけど職業お花屋さんって人もいれば、調理種の人が騎士団長という職に就いてることもあるからねぇ。
そう言えばみんなの種族と分類、調べて無かったな。
「ねーねーフローラさん。測定機、たしかあったよね? せっかくだからみんなの調べたいんだけど」
「もちろんありますよ。どこまで表示できるものにしますか?」
「んー、最新の全部出る奴で!」
「全部ので、良いのですか?」
「もっち!」
「でしたら、少しお待ちください」
そう言ってフローラさんが置くに行き、一つの木箱を持って戻ってきた。
「こちらが最新のものです。使い方は従来と同じですよ」
「ありがとー。それじゃちゅうもーく!」
せっかくなので実演です。
みんなの視線が集まったところで、木箱の蓋を開ける。
「この木箱に収まってる星型の結晶、これが測定の魔道具なの。箱自体も魔道具で、測定内容を表示する機能が備わってるの」
「ゲームみたいに水晶とかじゃないんだな」
「トースケさんが言う水晶も昔はありましたが、今はこちらの魔道具が主流なのです。理由は単純で、水晶と違って保管が楽だからですね」
「水晶だとゴロゴロ―って転がっちゃうからね。だけど箱型ならば転がらないし、積み重ねもできるのだ!」
水晶を使うのは確かに〝らしい〟けど、保管する人のことを一切考えて無いのがねぇ。
そう言えば〝らしさ〟を優先してる偽ギルドだと、水晶の方を未だに使ってるんだっけ。利便性でなく異世界テンプレを優先とか、ほんと恐れ入るわ。
「とりあえず、手本がてらにわたしのを見せるね。使い方はこの結晶に触れて、魔力を少し流すだけだよ」
そう言ってから魔力を少し流し込む。
すると箱の上に魔道スクリーンが現れ、わたしの名前とかがズラズラっと表示されていく。
「こんなふうに表示されるの」
「ハイテク? だね」
「かも? この世界の魔道具って、地球とかの科学製品とは段違いの物ばかりだからねぇ」
まぁママ様が異世界の科学技術に対抗して、魔科学でさらにすごい物を作ってるだけではあるけど……。
「んで内容だけど、名前の横にある数字が年齢、その下にあるのが種族とかね。わたしの場合『獣人族・狐種(五尾)・天魔』になってて、この最後の〝天魔〟が今の進化度合いになるよ」
「あれ? だけどユキくん、狐族って」
「それは俗称なの。わたしの様に獣の要素がある人は獣人種、鳥類の要素がある人は鳥人種、フローラさんのような精霊に近いエルフさんは霊人族、アリサやミツキたちのような人は只人族が本来の名称なの」
「この種族というのは年々改変されています。これは新たな人種が生まれたり、召喚によって異世界からの固有種族が増えたりする影響ですね。そのため、改変が発生する学術的な名称より、外見的特徴を指した俗称を使うのが一般的になっています」
ほんと、種族って色々ありすぎるからねぇ。
エルフなんて妖人、エルフ人、霊人 というように何度も変化したし。
「あとは見ての通り、出身国に両親の名前、それと冒険者ギルドでの現在の級に称号、あとは身長と体重に胸囲と腹囲……って、ちょ、まって!」
急いで表示を消したけど……うん、バッチリ見られたみたい。
あうぅぅぅ、身長とかまで出るなんて、知らなかったんですけど。
「フローラさん、これって」
「全部、ですから……」
「わたしの自爆かいな……」
そう言えばフローラさん、全部で良いかって聞き直してたね。そりゃ聞き直すよね……。
救いなのは、他の冒険者たちは見てないってことか。だけど、むぅ……。
「そ、その、すごい、ね」
「え、えっと、だいぶ軽いのね。羨ましいわ」
「ま、まぁ、女の子なら普通じゃないかな」
ミツキ、マナミ、コータの順になんとも言えない反応してきて、余計に恥ずかしくなるんですが!
「というか小学生の低学年くらいか? ホント小さいのな!」
「具体的な指摘をするなぁぁぁぁぁぁ!!!」
トースケめ、マジでデリカシーって物が無いですね!
わたしだって気にしてるんです! ここまで身長が伸びないとは、マジで思っていなかったんだから!
身長とか体重、スリーサイズは秘密




