226話 時間かかるのは理由がある
はふぅ、ちょっと食べ過ぎちゃった。
ベアトリーネとの話が終わった後、食堂でお母様の作ってくれたお昼ご飯を食べてたけど、ヤバいね。
牛のすき焼きに肉じゃが、牛のしぐれ煮に牛の甘辛炒め、さらには肉巻きおにぎりまであって、まさに超牛肉祭りって感じで素晴らしすぎたわ。
そう言えばミツキたちはご飯の量もそうだけど、ミツキたちからすれば異世界なのに和食が出てきたから、戸惑いというか少し驚いてたね。
セイリアスの大使館ではどちらかというと洋風で、この世界ならではの料理が主だったからねぇ。地球の料理に似てはいるけど素材が全く違うとか、色が全然違うとか、異世界風味がそこそこあったもんね。
だけど、今日お母様が作ってくれたのは、日本の和食とほぼ同じ物だったのがね。
まぁこの世界の牛は地球産と比べて何十倍も大きく、高級和牛なんか目じゃないくらいの美味しさの物が多いから、日本の料理と全く同じってわけじゃないけど。
それはともかく、ほんと食べ過ぎたなぁ。いつもの倍くらいは食べたかも?
やっぱね、おいしいご飯はいっぱい食べたいのです! 食べ過ぎて動けないとか、そんなのは考えません! ……ホントに動けないのは笑えないけど。
「うにゅぅ、しばらく動きたくない」
「あらあら、これじゃユキちゃんが牛さんになっちゃうわねぇ」
そう言ってお母様がなでなでしてくれるけど、うん、動きたくないのは食べ過ぎたからじゃないね。
お母様に抱っこされた状態でご飯を食べ、そして動けなくなっても抱っこされたままだからか、離れたくないって気持ちがすっごく強くなってる。ホントわたしってお母様のこと大好きすぎるなぁ、問題ないけど!
「ところでユキちゃん、今日はこの後どうするのかしら?」
「んっと、ミツキたちを冒険者ギルドに連れて行って、そこで冒険者登録しようと思ってます」
「なるほど、それなら問題ないわね」
「ほへ? 問題になることがあるんですか?」
少し気になったので、お母様の表情を見るために少し見上げたけど、いつも通りの優しい感じですね。何かヤバい問題ってことはなさそう?
「問題と言っても、レグラスの民限定の施設はまだ使えないだけよ」
「あれ? まだ使っちゃダメなんですか? もうレグラスに籍を置いてるのかと思ってました」
「本当は1日でも早くそうしたいのだけれどねぇ」
転移門の使用許可が下りるくらいだから、てっきり手続きがすべて終わってると思ってたのに、まだだったとはねぇ。
「ミツキちゃんたちはレグラスで預かることになったのだけれど、神聖王国が召喚した者というのが少し厄介で、手続きが終わらない弊害となっているの」
「そうなんですか? ひょっとして、神聖王国側の間者かもって言う疑惑でもあるからですか?」
「心配しなくても大丈夫、疑惑も反対意見も無いから安心してね。原因は単純で、神聖王国側がなかなか手放そうとしない事なの」
あらま、少し深読みしたけど違ったのね。
てっきり反対勢力でも居て、お母様たちが説得してるのかと思ったわ。いくらレグラスとはいえ、神聖王国の勇者を迎え入れるのは難しいだろうって考えもあったからだけど。
「ミツキちゃんたち以外の子もそうなのだけれど、手放したくない意志が強いのか、条件の二転三転がほんと多いの」
「そんなになんですか? ミツキたちはともかく、他の面子は渋るほどの力は無いのに」
「そうね。ただ、それは私達だけでなく、レグラスやアルネイアの基準なの。神聖王国の基準からすれば、他の子たちも既に立派な戦力なの」
「潜在能力に賭けるとかでなく現状で、ですか?」
「そうよ。それだけ神聖王国には弱い者しか居ない、という事なのだけれどねぇ」
そう言ってお母様がなでなでしてくれるけど、なんていうか、ほんと神聖王国には呆れたって顔してるね。
確かになぁ、そこまで弱い人しか居ないのにレグラスに喧嘩売ろうとしてるとか、超バカですね。
「神聖王国との交渉は難航してはいるのだけれど、ミツキちゃん達を受け入れるのは既にレグラス、アルネイア、セイリアスの三国で決定した内容だから、神聖王国に戻すことは絶対にないから安心してね」
「は~い。でもでも、その交渉っていつまで続くんですか?」
「大丈夫よ、ユキちゃん達のセイリアス研修期間が終わる前には完了させるから」
「とゆーことは?」
ちょっと期待を込めた眼差しでお母様を見ちゃう。
それを見たお母様は、ニコニコしてわたしを撫でてくれる。むふー、これは期待大ですね!
「えぇ、ミツキちゃん達と離れることなく、そのまま学園に通えるようになるわよ」
「やったー!」
せっかくならね、そのまま一緒に学園へ通いたいからね。
ふとミツキの顔を見たら、うん、ニコニコして喜んでますね。前世で一緒に通うのは途中までしかできなかったけど、その続きがようやくできるって感じだからか。
そんなミツキを見てちょっと思い出したけど、大学も同じところに行くって約束してたんだよなぁ。
とゆーか、冗談交じりだったけど老後辺りまでの計画を話してたよーな。……うん、そこまで話てれば夫婦扱いされるのも納得だわ。
そんなことを話してたら、マナミがふと真面目な顔でお母様を見て、口を開いた。何かあるみたいね。
「あの、学園に通う事について、少し聞いても良いですか?」
「もちろん大丈夫よ。遠慮しないでどんどん質問してね」
「ありがとうございます。えっと、学園に通う場合、ウチ等の学費って幾らかかるのですか? 恥ずかしいですけど、懐具合が少し……」
そう言ってマナミだけでなく、コータとトースケも少し恥ずかしげな顔をしたわ。確かになぁ、お金が無いのでどうにかしないとって状況だからねぇ。
まぁミツキだけはそんな事よりも、わたしと一緒に通えるという喜びの方が強いようで、ニコニコ状態のままだけど。
「あぁ、そのことね。学費に関しては私の個人資産ですべて出しても良いのだけれど、それだと気にしちゃうわよね」
「です。さすがにこれ以上ユキの家族に迷惑をかけるのはちょっと」
「ならわたしが出そーか?」
「いや、ユキにこれ以上おんぶにだっこも流石にね。そこまでされちゃうと、なんか友達って感じじゃないでしょ?」
「かも?」
わたし自身はそこまで気にしないけど、みんなは気にしそうねぇ。
まぁ上下関係でなく、対等の友達関係を作るなら当然か。
「じゃぁ奨学金を受ける?」
「奨学金制度があるなら使いたいんだけど、なんか嫌そうな顔をしてるわね」
「まぁねぇ。いろいろあるので、わたしはお勧めしたくないのです」
ショージ君たちが奨学金を維持するために、学業などで上位になれるようがんばる、というか、少しがんばりすぎてる感じだからねぇ。それと同じ光景はちょっと見たくないわ。
額を抑えたらそんなことはないんだろうけど、それでもなんか嫌だねぇ。
「そうね、簡単な所だとダンジョンで稼ぐかしら。細かいところはユキちゃんが教えてくれるわよ」
「ダンジョン、ですか」
「ダンジョンはお金の稼ぎ場としては最高だからね。わたしたちの場合、余裕を持った狩りでも1時間で大金貨1枚くらいは行けるよー」
「大金貨って確か日本円だと……100万円!? とんでもないわね……」
マナミたちが驚いてるけど、たしかに日本の感覚だとそうだねぇ。
たしか1時間2000円、こっちだと銀貨2枚か、そのくらい貰えたら高い方だったね。
「その分、物価が高めなところも多いけどね」
「そうねぇ。ルアスほどじゃないとしても、アルネイアもそれなりに高いわねぇ。となると、遊ぶお金も考えたら、学費込みで1年あたり白金貨1枚はかかるかしら。ユキちゃん達と同じ食生活をするのなら、もっと高くなるかしら」
「ですです。わたしの場合、アリサへのお給料とお駄賃を除いても、だいたい1年で白金貨50枚くらい使ってるから、たぶんそのくらいは行くよー。まぁアルネイアで使うお金以外も含めるともっとだけど」
「いやいやまって! 白金貨1枚って1億円の価値でしょ!? ちょっと眩暈がしてきたわ……」
おやおや、今度は手を頭に当てて唸っちゃったわ。
やっぱり日本との金銭感覚のズレ、相当あるみたいだねぇ。わたしは今の感覚しかないけど!
でもでも、これで目標は決まったね。
ミツキたちは1年で白金貨1枚以上稼げるよう、ほどよくダンジョンに通ってもらいましょー。
もちろん稼ぎ方もビシバシと実践で教えていくよー。
まぁ、今は食べ過ぎて動けないので、もうちょっと休ませてください。
それに……
「今日のデザートは各種団子にしてみました。みたらし、餡子、ゴマ、きな粉と言った定番の物から、チョコレートソースを絡めた洋風の物もありますよ」
「きゃー!」
お父様がデザートを作ってきてくれたので、つい両手を上げて喜んじゃったわ。
むふぅ、おいしそうなお団子がいっぱいで、ほんと幸せです。
「それじゃいっただきまーす!」
「まだ食べるの!?」
「すごい……」
「あむ?」
おっと、マナミたちは呆れて、ミツキは目をキラキラさせて、何とも対照的ですね。
まぁ『食べ過ぎて動けない!』って言ってたのに、さらにお団子を食べてるからねぇ。
でもほら、これは甘いものは別腹ってやつだから!




