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22話 少女はメイドさんになりました

今回はアリサの視点です。

少し長めになってます。

 急に倒れてきたので、正直心臓が止まるかと思いました。とっさに抱きしめてしまいましたが、どうやらひどく疲れてるようです。


 小さな体でどこまで無理をされたのでしょうか、時折苦しそうな顔をされます。このような状態に陥った原因は私にあるため心苦しいです。


 ですが、同時にあなたに助けていただいた事がとてもうれしいのです。命の危ないところを助けられるとか、ほんと、あなたは私にとって王子様のような存在ですね。


 お返ししたい御恩は山ほどあります。ですが、今はあなたが目覚めるまで私の命に、いえ、頂いた魔石に誓ってあなたをお守りします。


 ですので今はお休みください、強くて優しい私のお嬢様。





 あれから30分くらい経ったでしょうか、先ほどから周囲に何か気配を感じます。頂いた魔石のおかげでしょうか? 以前よりも広範囲で感知できる気がしますね。


 どうやらここに来るみたいですね。となると敵の援軍かもしれません。武器がないため非常に厳しいのですが、やるしかありません。教えていただいた術式を使いながら切り抜けましょう!


「ユキ、大丈夫か! 一人でって、これはいったい?」


 なんでしょうかこの方は、突然入ってきたと思ったらユキ様のお名前を叫ぶとか。

 服装を見る限り、助けに来たというよりは捕まっていた方のようですが。他にも数人の方が居るので、おそらくこの方がリーダーだとは思いますが。


 しかし正確な状況が分かりませんし、念のため警戒した方がいいかもしれません。


「あの、あなたたちは誰でしょうか? ユキ様のことを探していたようですが」

「あ、あぁ、俺たちはユキに助けられてな。だが途中で急に一人で転移してしまって。えっと、君がユキが探していた子なのかな?」


 何となく状況が見えてきました。おそらくこの方たちと一緒にいたが途中で私を発見、急いで転移されたのでしょう。

 私のためにこの方たちを危険にした可能性もあるので心苦しいのですが、同時に私を優先してくれたことをうれしいと思うのは不謹慎でしょうか。


「はい、そうです。私はメイドのアリサといいます」

「俺はショージ、それでこっちにいるのが――」


 さすがに先ほど急に『今日からうちのメイド』と言われた者ですとは言えませんけどね。


 それぞれ自己紹介していただきましたが、なんでしょうかこの方たち。気のせいか何かに怯え、もしくは恐怖しているのですが。

 そういえば先ほどユキ様が『アリサ、わたしのこと嫌い? 怖くない?』と、聞かれました。あの時、凄い悲しそうで思いつめた顔をしていたのが印象深いです。もしかして、この方たちの状態を見て心配になられたのでしょうか。


 だとしたら、そうですね、私のすべきことは考えるまでもありませんね。

 これからもユキ様と一緒に笑っていられるよう、ずっとお傍に居るということだけですね。私は決してあなたを嫌いになりません、怖がりもしませんから。


 詳しく話を聞くと、どうやら彼らはユキ様が一人で転移したことを心配して皆で追いかけてきた、とのことですね。


 ですが言葉通りに受け取っていいのか難しいです。ユキ様を狙っている可能性が無いとも言い切れませんし。とりあえずあまり傍には寄らないでいただきましょう。


「な、なぁ、俺たちを警戒するのはわかるんだが、その、そこまで睨んだり距離をとらなくてもさ」

「主を守るのがメイドですので」

「いや、だから」

「メイドですので」

「……」


 ユキ様には指1本触れさせません!





 どのくらい時間が経ったのでしょうか、ユキ様は私の膝の上で眠ったままです。倒れた時よりはだいぶ落ち着いたようで安心しました。

 そういえばお迎えの方はどうやって来るのでしょう。場所もわからないと思うのですが……。


「おい! あそこで何か光ってるぞ!」


 おや、彼らの、名前はなんでしたっけ、忘れました。ともかく、あの方の示す先にあるのは転移門の動作ですね。どうやってこの場所を見つけたのでしょうか。

 そして転移門の中から、


「は~いユキちゃん、お母さんが迎えに~って、あらお休み中ね。ありがとうアリサちゃん、ユキちゃんを守ってくれて」

「いえ、私の方がユキ様に助けていただいたので」


 迎えに来られたのはサユリ様でした。

 それにしても助けに来たのではなくただの迎えに、なんですね。ユキ様なら解決できるのを信じていたのでしょう。


「あ、あの、俺はショージって言います。その、ユキには助けていただいて」

「……そう。あっ、アリサちゃん怪我とか大丈夫だった? ユキちゃんに治してもらったようだけど」

「はい、大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」


 なるほど、この反応なわけですね、ユキ様が言っていた他国の者たちに冷たいというのは。一瞬ですが、彼らを見る時の目が非常に冷たいものでしたし。


「ならよかった。それじゃ帰りましょうか、細かい話はおうちで聞くわ」

「はい、わかりました。あの、それでそこの犯人の方と他の方たちはどうされるのでしょうか」


 私が聞くしかない感じですからね。


「心配しなくても大丈夫よ。うちの国の親衛隊が転移してこの館を完全に包囲してるの。内部を確認しながらだけど、そのうちここにも来るはずよ。なので私たちは帰っても平気なの」


 親衛隊の方たちまで導入ですか。やはりそれだけの規模だったのですね。


「それじゃ帰りましょ。ユキちゃんは抱っこして、はい、アリサちゃんは私と手を繋いでいきますよ~」

「あの、ありがとうございます」


 サユリ様に手をひかれて転移門をくぐります。

 おや? 後ろで倒れる音がしましたね。あの部屋にいた方々、サユリ様の魔力にあてられていたのでしょうか?









「そう、そんなことがあったのね。疲れているところありがとうね。なるほど、魔石をね」


 そして私は現在、お屋敷の一室でサユリ様に何があったのかのご説明を終えたところ。後でよいと仰られたのですが、私としてはご迷惑をおかけした立場ですので、早めにしたわけですが。


「あの、サユリ様、申し訳ございませんでした! もし取り出せるようでしたら、私の中にある魔石をユキ様に戻していただければと」


 サユリ様が冷たく恐ろしい顔をしているのです。私のせいでユキ様の魔石が半分になったことが原因なのはわかります。なのでお返しするしかないと考えるわけですが。


「あら、ごめんなさい、アリサちゃんを怒っているわけじゃないのよ。勘違いさせてごめんなさいね~」


 どういうことでしょうか。先ほどとは真逆、とてもお優しい目をされ、私の隣に座りそっと撫でてくださります。ユキ様の魔石のことではないのでしょうか?


「ユキちゃんが魔石をアリサちゃんにあげたのはむしろ良いことなのよ。さすが私の娘だわ! なにより時間が経つほど魔石の再定着は難しいから最善の策だったのよ。それに自分の魔石を使ってでも治してあげようという心、ほんと優しい子に育ってくれてうれしいわぁ」


 ユキ様の取った行動が誇らしいのでしょう、サユリ様がすごくにこやかに話されてます。

 となると原因はなんでしょうか? 少し気になります。


「あの、お怒りではないのでしょうか?」

「あぁ、さっきのことね。あれはアリサちゃんの魔石を砕いた虫けらに腹が立っていただけなの。アリサちゃんはユキちゃんのお気に入り、私も娘のように可愛がってるからなおさらね」


 不謹慎ですが頬がほころびそうです。私のために怒ってくださることがとてもうれしいのです。


「そうそう、アリサちゃん、これから少し真面目な話をします」

「は、はいっ!」


 先ほどとは違い、少し重い空気がこちらにも漂ってきます。


「いずれユキちゃんも知ることになるけど先に教えます。正直ね、ちょっとだけユキちゃんはやりすぎたの」

「やりすぎた、ですか?」

「ユキちゃんの呼んだ魔物の被害、どのくらいか予想できる?」


 ユキ様の呼んだのは確かノーライフキングでしたか。それ以外にも居たそうですし、そうなると。


「都市が半壊くらいでしょうか?」

「正解は神聖王国の東側、つまりうちの国と隣接するあの国の魔法の最前線の土地かしら。あの土地にあるすべての都市や町、村が滅んだのよ」


 え? あの土地のすべてというと……


「本当にすべてね。大人や子供も関係なく、それどころか動物に至るすべての生命が滅ぼされたの。人の数だけならおそらく5億とかじゃないかしら、あの国は相当広いから」

「それって、その」


 信じられない、いえ、信じたくないからか、次の言葉が出せません……。


「そう、ただの虐殺ね。召喚時に心が相当まいっていたようなの。〝敵〟の指定が今回の事件の関係者じゃなく、ユキちゃんにとって敵となる可能性が少しでもある存在、つまり〝あの土地に居るものすべてが敵〟として設定しちゃったみたい。もしも土地でなく国を指定してたら、今頃あの国は地図から消えていたわね」


 地図から消えた可能性もあるほど、しかもあのお優しいユキ様がですか……


「どうしてそこまで……」

「原因はこれね」


 うろたえる私をなでながら、サユリ様は何かを取り出します。これは……


「そう、アリサちゃんの着ていた服の一部ね。血がべっとりだから、これを見て正気じゃいられなくなったと思うの。ちなみにこれ、ユキちゃんが持っていたのよ。服の中に入れて、願掛けのお守りのような形でね」


 自分で見てもぞっとします。服にはおびただしい血痕、これは致命傷を負っていることが容易に想像できる状態です。

 でも、ユキ様は諦めなかったのですね。


「それでね、アリサちゃんはこんな虐殺をするようなユキちゃんが怖いかしら?」


 心配そうなお顔をされます。でも、あれ? この質問は……


「サユリ様、ユキ様にもはっきり言いましたが、私は決して嫌いになったり怖くなったりしません!」


 そう、はっきりと言います。

 それを聞いたサユリ様、先ほどとは打って変わってにこやかなお顔になられました。私は間違えなかったようですね。


「はい、その言葉で私はすごーく安心しました。なのでアリサちゃんは今日からユキちゃん専属のメイドになってもらいますね~」

「あ、あのサユリ様、急すぎて話が見えてこないのですが」


 ユキ様もそうですがあなた様もですか。


「そろそろユキちゃんには専属の子をつけたかったの。誰にしようか迷っていたんだけど、アリサちゃんは仲も良いし歳も近いから適役かなって」

「でも私は神聖王国の、」

「そこは大丈夫よ。今タツミさんが事件の後処理と、アリサちゃんをうちの子にする手続きしてるから。この件は王室も関係省庁も全て了承済みだから安心してね」

「は、はい」


 このお方たちは何と言うか、やることがすべて規格外で、それでいて素早く行動されますね……。悪いことではないのですが、圧倒されてしまいます。


「しばらくはシズク、うちのメイド長の勉強もあるから覚悟はしてね。お部屋は今日はとりあえず客室だけど、数日中にはユキちゃんのお部屋を広くするからまっててね。一緒のお部屋で暮らした方がいいものね」

「い、一緒って、あの、その」

「でも、もし他に好きな子ができたら、その時は別の部屋を用意するからね。そうなってもユキちゃんの専属メイドというのは一生涯だから安心してね」

「は、はぁ、わかり、ました」


 少し慌ててしまいましたが、どうやら私はユキ様とずっと一緒に居ることができるのですね。


「ただし、私ができるのはここまで。専属メイドでも、明らかに能力が低ければ専属じゃなくなります。なので」

「サユリ様、私は専属メイドの座は絶対に譲りません!」


 ユキ様の専属になれるということに気持ちが高ぶってしまったのか、つい言ってしまいました。恥ずかしいです。


「ふふっ、なら問題ないわね。さてと、それじゃこれはもう要らないわね。似合わないし捨てちゃいましょ」

「あっ」


 そう言ってサユリ様は、奴隷の証である首輪にそっと触れました。

 すると首輪が一瞬光り輝き、その光が収まると首輪は砂のように崩れていき、そして消えました。


「こ、これは」

「これでよし、今までがんばったわね。ではあらためて、お帰りなさいアリサちゃん、今日からここがあなたのおうちです。これからは私たちは家族です、何かあったら遠慮なく頼ってきてね」

「あの、その、えっと、ただいま、で、す」

「あらあら泣いちゃって、可愛いお顔が台無しですよ」


 首輪が無くなったからでしょうか、サユリ様のお言葉が優しく心に響いたからでしょうか、私は思わず泣いてしまいました。





 私は帰る家を失いました。

 ただいまと言える家族も失いました。

 そして私は人であることを失いました。

 失ったものは二度と手に入らないと思っていました。


 ですが、


 私には帰る場所が出来ました。

 ただいまと言える家族もできました。

 そして私は奴隷から人になれました。

 失ったものをもう一度手にすることができました。


 なにより、取り戻しただけでなく、とても大切なものが新しくできました。


 このような奇跡は何度も起こるものではありません。

 私はこの大切なものを二度と失いたくない、いえ、絶対に失わせません。大切なものを、今度は私が守ります。


 そして、いつの日か天国にいるお父さんとお母さんにいっぱい報告したいです。

 そして、伝えたいです。私は幸せだよって。

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