217話 突然の帰国はちょっと寂しいです
サレストの依頼から3日経った今日、あの時のジジイを含めた4名をレグラスに連行することになった。
お母様が脅した効果か、全員まとめてになったのは良かったね。言ってはアレだけど、被検体は多い方が情報を多く得られるもんね。
ただなぁ
「お母様とお姉様、今日帰っちゃうんですか?」
朝食中、いつかは来るであろう宣告が、ついに来てしまった。
覚悟はしていたけど、なかなかこれは堪えます。聞いたとたん、手に持っていたパンを落としそうになっちゃったよ。
「いつまでもレグラスを留守にできないのと、解呪と調査もできないからね」
「ずっと一緒に居たいんだけどねぇ。それに、リョウ様も少し怒ってたし……」
「あー……たしかお姉様、お兄様の反対を押し切って滞在してましたね」
王族だけあってお母様よりもお姉様の方が忙しいのがねぇ。
しかもお姉様って国内外問わず人気だから、いろんなとこからお呼びがかかる。ほんと大変そうです。
「でもでも、急すぎます」
「私たちも同じ気分よ。あの国王がここまで早く引き渡すとは、正直思っていなかったの」
「ユキちゃんも見たから分かってるかもだけど、セイリアスの国王は我儘で欲深い人なの。そんな人が悪魔という世界共通の敵に関係する神官を捕らえ、さらに情報を得ることができるという絶好の機会、逃すと思う?」
「思わないです! 譲歩しても引き渡しでなく、セイリアス内で共同研究しようって流れの方がしっくり」
レグラスに引き渡すという事は、主導権だけでなく成果もレグラスに譲ることになるからね。
しかも、本来なら知り合えた情報を各国へ展開するという、ある種の上下関係も生まれる大きな事だからねぇ。欲深い人なら譲りたくない部分です。
「たしかに脅し……説得はしたのだけれど、それでもだいぶ渋っていたからね。放置すると国が滅ぶとか、悪魔の手先になるとか、色々説明したのだけれど、どれも素直に聞いた感じではなかったわ」
「全然聞いてくれなかったってことですか?」
「そうなのよ。なので仕方なく、ちょっと強めに出たけど、それもイマイチだったの」
「あ、やっぱり脅しちゃったんですね」
「しちゃったわ。もともと私はあの国王もこの国も好きではないから、その影響で少し対応が雑になっていた気もするわ」
そう言ってお母様は、苦笑いしながらなでなでしてくれる。むふぅ、やっぱりお母様のなでなでは最高です。
まぁお母様の気持ちはよくわかる。
わたしも嫌な奴相手は結構雑になるし、それこそ命を奪う事もためらわない。ほんと敵に対して冷酷になりやすいんだよねぇ。
こういう所、お母様から精神面も受け継いでるってことだね。お母様要素が多いのはうれしいけど!
ただ、お母様だけでなくみんなして、わたしのそういう性格は治す、もしくは抑えるように教育してくる。
教育の内容も、まるで『お母様と完全に同じ思考』にしないため、色々と模索してる感じなんだよね。
この模索は嫌じゃないけど、気になる。
ひょっとしたら、わたしがお母様の娘なのに弱い理由も入ってるのかな? 同じような境遇のメイと比較すると、強さがさらにハッキリだからなぁ。
いつか詳細、聞けたらいいな。
「ちなみに、引き渡しが早まったのはサレスト王子のおかげなんだよ」
「それって友達を早く解呪したいから、ですか?」
「みたい。どうやら父親である国王に対し、レグラスへの移譲をお願いし続けたらしく、結局国王が折れた、という流れなの」
「むぅ、やってることは正しいんだけど、そのせいでお母様とお姉様がもう帰る事になると、ちょっと複雑」
「お姉ちゃんもだよ~」
今度はお姉様がなでなでをしてくれる。はふぅ、お姉様のなでなでも最高で、ほんとヤバいです。余計に帰ってほしくないって思っちゃうわ。
「そうそう、私とサユリ様が帰っても、ユキちゃんたちはこの大使館を使ってね」
「宿屋に移らなくていいんですか?」
「いいよ~。というより、移らせたくないってのが本音かな」
お姉様だけでなく、お母様も少し真面目な顔になったけど、はて?
「それはね、ユキちゃんとエレンちゃんを欲する貴族がこの国には多いからなの。ユキちゃんは私の娘だし、エレンちゃんは竜の巫女だからね」
「レグラスとアルネイアの秘宝とも言っていいお姫様を手に入れたい、ってことなんだよ~」
「うげぇ、やっぱそうなるのかぁ」
すっごい嫌そうな顔をしちゃったのか、お母様とお姉様だけでなく、この部屋に居る人みんな苦笑いしちゃったよ。ほんとわたし、感情が顔に出まくるなぁ。
「今は大使館だから、貴族たちは接近しようとしても容易じゃないの。だけど宿屋に移ったら大使館に赴く手続きが不要となる。手続きが不要という事は、それだけ接近しやすくなる、というわけね」
「貴族の勧誘だけならばいいけど、同時に変な気を持つ人もいるからね。もしもユキちゃんが被害者になったら……お姉ちゃんとしてはそっちの方が心配です」
「変な人は確かに困っちゃう。どこまで加減したらいいか分かんないもん」
いまのわたし、万が一痴漢にでもあったら、冗談抜きにやり過ぎちゃいそうなんだよなぁ。
嫌いな人だけでなく、知らない人に触れられるのすら本当に嫌だから、手加減しないで消滅させちゃう気がするもの。
それに、もしもアリサたちが被害者になったら……周辺一帯を消滅させそう。最悪、国ごと滅ぼしちゃうかもしれないわ。
過激な行動だけど、それが今のわたしだからなぁ、どうにもならないわ。
「それにユキちゃん、他の宿だとご飯、少ないわよ?」
「それ無理です! ご飯少ないとか死んじゃいます!」
「ふふっ、そうね」
あぅ、ちょっと食い意地が張りすぎてたかも。お母さまがニコニコしながら撫でてくれるけど、ちょっと恥ずかしいです。
だけどね、わたしにとってご飯は超重要なのです。
食べることで魔力が回復するとか、魔石が成長するとか、そういうのは関係ない、ただ単純に美味しものをお腹いっぱい食べたいのです!
でもそうだね、宿に移ったら料理が少なく、さらに不味いご飯だったら……きっとわたしは耐えられなくて暴走しちゃうね。
少ないと不味いの同時攻撃、耐えられる気はしません。
朝食から2時間ほど経ったところ、お母様とお姉様は準備を整えたようで、いよいよ帰国となった。
なので、二人と手を繋ぎながら大使館の中庭に向かう。やっぱね、ちょっとの間でも一緒に居たいからね!
歩くこと数分、中庭に到着。ゆっくり喋りながらだったのに、もうついちゃった。
中庭には白くて大きな転移門が設置されている。この転移門はレグラス直通であり、レグラス大使館専用の転移門。
ただ、専用であっても稼働にはセイリアスの許可が要る。国を跨ぐ移動だからしょうがないね。
「それじゃユキちゃん、何かあったら私やシエラちゃんに連絡するのよ」
「は~い」
「無理もしたらダメだからね? お姉ちゃんとの約束だよ!」
「ほどほどにがんばります!」
いっつも心配されちゃうなぁ、ちょっと嬉しいけど!
だけど、うん、心配かけないで済むよう、ほどほどにがんばって元気にいきましょー。
キリが良いのか悪いのか微妙な所ですが、これで第6章は終わり、次回から第7章となります。
このままだと6章だけとんでもない話数になってしまうので、いったん区切った形です。
なので、7章は6章の延長を予定してます。
日常回多めにしたい気持ちもあったりするので、6.5章に近いかもしれませんけど。
7章も好き勝手書いていきますが、引き続きお読みいただけたら幸いです。




