214話 終わればいちゃつくのです
みんなを一通りなでなでして労い、満足したところで送還っと。
せっかく来てくれたんだからね、帰るときも満足してからじゃないと嫌だしね。
さてと、エレンたちの方を……むぎゅ!?
「手伝う必要もなく終わってましたわね」
「まぁねぇ。とゆーかエレン、その気配を完全に消して近寄り、そこから急に抱きつくのはどうなのよ……」
「うふふ。だってユキさんが少し驚くところ、かわいいんですもの」
「むぅ、そう言われると、なぜか反論できない」
気を抜いてたわたしも問題だけど、不意打ち気味に後ろからガバッと来たからね。
まぁわたしの性格上、敵じゃない相手、特にエレンたちのような親しい相手に関しては完全に無警戒状態になるから、気を抜いてなくてもこうなる気がするけど。
「ところで、その方はどうしますの?」
「んと、一応セイリアスに引き渡すけど、たぶんお母様たちが尋問するとは思うよ。悪魔関係の偉い人っぽいしいね」
「だから精神を破壊してませんのね」
「そゆこと。完全な廃人にするのは容易だけど、それだと情報も得られなくなっちゃうからね」
普通の敵ならば容赦なく、それこそ即殺しても問題ない。慈悲を与えて逃した結果、余計な痛手を負うってこともあるからねぇ。
とはいえ、わたしって楽観視し易いのか考えが甘いのか、どうもうまくできない。まだまだお子様ってことかな?
だけど悪魔関係はちょっと事情が異なる。
悪魔関連は謎なことが多すぎて、お母様たちも情報を欲しているんだよね。
なので、悪魔関係は出来るだけ生け捕りにしないとダメ。そして情報が収集できるようにもしておかないいとダメなのだ。
「本当はこのジジイ、サクッと殺っちゃいたいんだけどねぇ」
「アビスドラゴンを召喚してましたものね」
「うん。既に召喚士としてもそこそこな実力を持っているのは、今後脅威になるかもしれないからねぇ」
悪魔化によって寿命が延びるのかは分からないけど、危険なのは確かだからね。数年から数十年、もしかしたら数百年、敵として厄介な存在になる可能性があるもの。
そう考えると、脅威は今のうちに排除したほうがって考えちゃうわけで。
まぁ倒したら倒したで、悪魔関係の情報が手に入らないという問題もある。なかなか厄介ですねぇ。
「そういえばレイジは……あぁ、そゆこと」
エレンにぎゅーっとされたままレイジを探したら、少し離れたところで苦笑いしてたわ。
あの表情は、こんなところでもお構いなしにエレンとイチャイチャしてたせいだね。わたしも同じ立場なら呆れてるわ。
とはいえお仕事は完了したっぽいので、手招きをして合流する。さぁおいでおいで~。
「えっと、もういいんですか?」
「あー、うん、お仕事の方は終わったから、そう苦笑いするのは止めよーね?」
「そうですわよ。ですけどレイジ、ユキさんは渡しませんわよ!」
「いやエレン様、奪う気なんて皆無な以前に、急にその発言は会話としておかしいと思うんだけど……」
うん、わたしもおかしいと思う。ちょっとエレンが暴走気味だなぁ、何かあったのかしら?
「それよりもユキさん、先ほど言いましたわよね?」
「なにを~?」
「終わったら好きにしても良いと、ですので~」
「あっ、ちょ、ほら、まだ家じゃないから」
「そういえばそうでしたわね。わたくし、少し発情していますので先走ってしまいましたわ」
発情しちゃったのかぁ……だからちょっと暴走気味なんですね。
只人と違い、獣人や竜人は動物的本能が出やすかったりする。発情もその一つだね。
大体は制御できるので問題ない。発情も少し過激なスキンシップになるくらいなので、重く考える必要はない。
だけど
「発情って、原因はもしかして……」
「お察しの通りですわ。ミツキさんへの敵意などは皆無ですけど、少し妬いてしまったのは事実ですわ」
「なるほどねぇ。アリサもちょっとそんな感じだったし、やっぱ気にしちゃうんだねぇ」
前世の幼馴染というのが強かったのか、それともわたし自らが助けに行くことをしたからか、はたまわたしの魔石から生み出した術装を与えちゃったのが影響しているのか、それとも全部かな?
わたしの中では、あえて差をつけるならアリサが上というか特別ではあるけど、基本的にみんな同列で誰かを優先ってことはしない。
それはエレンたちも分かってはいるけど、それでも妬くことはあるってことですね。醜い嫉妬ではなく、ちょっと羨ましいって方っぽいけど。
「ところで、そこでぐるぐる巻きになっている元従者が、サレストのお友達で合ってる?」
「ですね。悪魔化してたけど、そこまで強くはなかったですよ」
「だから簡単な捕縛用の術紐で縛ってるだけなのか」
捕縛用の術紐は、相手の魔力とかを押さえつける事もできる便利な使い捨て道具だけど、ある程度強い相手に対しては無力なんだよね。
だけど、この元従者はぐるぐる巻きの状態で捕獲されてるから、そこまで強くないってことになる。悪魔化したのに、なんか残念な人ですね。
「ただ、少し気になるんですよね」
「なんか深刻そうな顔してるけど、何かあったの?」
「それがどうもおかしくてね。情緒不安定というか、会話が成り立たないレベルで言動がめちゃくちゃになってたんですよ。具体的には――」
レイジが元従者君の状態を説明してくれたけど、う~ん、ベアトリーネ以上におかしな状態になってるみたい。
悪魔化が中途半端なのか、それとも別の要因があるのか、調べたほうが良さそうねぇ。
「そういえば、彼はエレン様に対して相当熱を上げてましたよ」
「熱、ですの? それはおかしいですわね。わたくしとジョイスは、そこまで仲の良い関係でもなかったですし」
「ほんと-に?」
「本当ですわ~。だってレイジと違って冗談の一つも言わないどころか、貴族はこうあるべきみたいなのを押し付けてきて、正直面倒でしたわ」
思い出しただけでも相当嫌なのか、エレンがさらにギューッとしてきたわ。完全にわたしが癒しの道具と化してるなぁ、嫌じゃないから良いけど。
「そういえばこいつ、サレストの友達ってことは貴族なんだよね?」
「ですね。確かエレン様のお従者を解雇された後、セイリアスの貴族が養子にしたはずですよ」
「へー。養子にするってことは、それなりに見込みがあったってことかぁ」
召喚されたものなら誰でも良いって程、セイリアスの貴族は節操なしってわけじゃないからねぇ。
となると何らかの力を目当て、もしくは潜在能力をみたってことだけど。
あれ? 潜在能力って、まさか
「悪魔化しやすいから養子にした……とか」
「迎え入れた貴族がどのような方か知りませんし、無いとは言い切れませんわね。それに、悪魔化は只人族だけのはずですけど、あの糞トカゲまで悪魔化モドキになっていたのも気になりますわ」
「むー、分からないことがどんどん増えていく」
しかも悪い事ばっか出てくる感じで、ちょっと嫌になっちゃう。救いなのは、今回はわたしが原因でない事件ってことかなぁ……わたしのせいじゃないよね?
「とりあえず敵の増援や、神聖王国側にバレる可能性もゼロじゃないですし、ここは長い居せず、彼らを連れて早めに帰った方が良さそうですね」
「だねぇ。それに救出だけでなく、悪魔関連の神官っぽいジジイを捕まえるという、ちょっと予定外の収穫もあったから、早く引き渡してお母様たちに褒めてもらわないと!」
「ですわね。それに、わたくしも落ち着いたところの方が良いですわ~」
そう言ってエレンが頬ずりしてきたけど、うん、安全とかそういう意味じゃないっぽいね。
発情したエレン、ちょっとというかかなり肉食系の様で、少し恐ろしいわ……。




