213話 わたしはドラゴン派です!
アビスドラゴンをなでなでしていてふと思うのは、相変わらずこの子はかわいいいってことですね!
召喚時の反応から、ジジイたちからすれば禍々しい悪の化身みたいな印象なんだろうけど、わたし視点だと違うわけで。
お願いはちゃんと聞いてくれる素直な性格だけど、わたしに良いところを見せようと張り切り過ぎちゃう子。アビスドラゴンという戦闘力の高い魔物が張りきると、たまーに大惨事になったりするけど……。
戦闘以外では今みたいに、わたしに撫でてもらおうと屈んですり寄ってくる。そして撫でてあげると嬉しそうに尻尾を振るとか、本当にかわいいです!
「とりあえずそうね、魔力をわたしので上書きしちゃうね~」
このままでも問題は無いけれど、この子の体はジジイの魔力で形成されている。それってなんか嫌だし、この子も嫌がってる。
エレンとかが呼び出すなら全然問題ないし、この子だって不快感を持たない。
だけど今回は見ず知らずの、そしてわたしの敵となるジジイの魔力。問題は無くとも不快感はこの子にだってあるのです。
「上書きだと!? そうはさせんぞ狐!」
「この状況でもまだ元気とか、腐っても悪魔連中だねぇ」
「アビスドラゴンよ、今すぐその娘を食い殺せ! これは〝命令〟である!」
そう言ってジジイが指を天に掲げ、妙な魔方陣を空中に描いた。
そしてジジイが空中に描いた魔法陣と同じ物が、なぜかアビスドラゴンの頭上にも現れた。
ふーむ、見たところ隷属関係の呪文が書かれてるな。命令って言ってたし、召喚対象を強制的に操る魔法みたいなものね。
詳細は分からないけど、そこそこ難易度の高い魔法みたい。低級の魔物なら抵抗なくすんなりってかんじかな。
ただ、アビスドラゴンに効くかって言うと、無理でしょ。いくら召喚主という強みがあっても、格が違いすぎるわ。
このクラスの魔物は各種耐性が強く、状態異常にすらならないってことが多い。
それを突破できる強い魔法も無くは無いけど、このジジイが使える内容じゃないわ。
なにより
「はい、魔力の入れ替えかんりょーっと。これでいつも通り、わたしが召喚主となり顕現させた状態になったね」
「なっ、この短時間でだと!?」
「もっと時間かかると思ってた? 残念でしたー。そもそもわたしは規格外の存在なわけで、魔力の入れ替えなんて1秒未満でできちゃいます!」
ドヤァ!
同じ事をこのジジイがやる場合、数時間、下手すれば数日かかる。
だけど、わたしなら秒で済む。魔力の強さといい制御のうまさといい、ほんと化け物だねぇ。
まぁ、こういう能力は自慢もできちゃうからいいんだけど!
魔力の入れ替えも済んだことで、この子も不快感が無くなって嬉しそうね。
ジジイだけなら不快感とかは無いんだろうけど、この子のような存在は精霊同様にわたしとかが居ると、受けた魔力の質とかを比較しちゃうからねぇ。こうなるのもしょうがないよね。
「さてと、それじゃ反撃になるのかな? はじめよっか」
「なぜだ、なぜ命令を聞かん!」
「え? またやってるの?」
ほっといてなでなでしてたら、ジジイが別の隷属魔法を発動したらしいけど、無駄だねぇ。
もともとアビスドラゴンを隷属するほどの力が無いのは当然だけど、今はわたしが使役する状態になってるからね。そんじょそこらの魔法じゃ奪い取れないよー。
「せっかくだし、絶望、与えちゃおっかな?」
「こうなれば、さらなる召喚で」
「そう来ると思ったから、先に仕掛けちゃうわ」
追加召喚をさせる前に、心を完全にへし折るのです。
そういえばアビスドラゴンの召喚で。ジジイ側の絶対的な勝利を確信したような反応だったね。
だったらそうね、部屋の大きさを考えて、アビスドラゴンを4体追加が良いかな? ノーライフキングの召喚を考えてたけど、どうせならこっちの方が衝撃的だろうし。
まずはお札を4枚取り出して、そこにサクッと術式を書き込む。
そして
「術式展開、我が前に顕現せよ、アビスドラゴン!」
4体のアビスドラゴンを同時に召喚する。やろうと思えば分体も含めて1万体くらいは出せるけど、この部屋でそれをやるのは無理だからねぇ。絶望を与えるって意味ではちょっと残念です。
まぁ計5体居るだけでも、かなーり狭くなったけど。
「ま、まさ、まさか!?」
「はい、みんなせいれーつ。ちょっと狭いのは我慢してね」
召喚した子たちも順番になでなで。
うん、いつ見てもカッコいいし、かわいいですね! 尻尾を振ったり嬉しそうな声を発したり、ホント喜んでますねぇ。
「今日のお仕事は、そこのジジイを倒すことです。だけど殺しちゃだめだよ? 生かしたまま持ち帰る予定だからね」
そう言うと、5匹は一斉に頷いた後、承諾の意味も兼ねた雄たけびを上げたわ。
一糸乱れぬこの感じ、流石ドラゴン! 知能がすっごい高いのがよくわかるねぇ。
そんな状況を見たからか、ジジイがだんだん青くなってきてる。
何か召喚しようとしてたのに、中断状態ね。計算通りではあるけれど、なにを召喚するのかちょっとだけ興味あったかな? 未知の魔物の可能性もあったかもしれないしね。
「さてと、それじゃはじめよっか。方法はみんなに任せるねー。それじゃ、行きなさい!」
わたしの命令を受け、5体のアビスドラゴンは一斉に吠え、そのままジジイを囲むように移動した。うん、いつもながら素早い動きです。
「くそっ、このまま終わってなるものか! 大いなる力を持つは古の巨人よ、我にその力を貸せ! 出でよ、サイクロプス!!」
「へぇ、3体同時召喚か」
召喚陣が3個出現し、その中から3体の巨人が出てきた。
巨人を選んだのは悪くない選択ね。ドラゴンほどじゃないけど、結構強いもの。
しっかしサイクロプス、一つ目の巨人かぁ。
知識でしか知らないけど、性格は野蛮で扱いにくいって魔物のはずなのに、ジジイの命令はしっかり聞くようね。召喚と同時に跪いてるんだもん。
ただなぁ
「かっこわるい」
「貴様、我が巨人を侮辱する気か!」
「だって事実だし? わたしは要らないなぁ、ソレ」
だって腰蓑を装備しただけの、でっかい裸のオッサンって感じなんだもん。
カッコよくない、かわいくもない、むしろ卑猥です。強かろうがそういうのは嫌なのです。
それに強さもなぁ……
「サイクロプスよ、ドラゴンを打ちのめせ!」
「まぁ先手を打とうとはするよね、無駄だけど」
サイクロプスが武器として両手にハンマーをそれぞれ召喚し挑んできたけど、無駄だねぇ。
うちの子たちは焦らずに、そのまま口を開け、一気にブレスを発射した。
発射したらすぐにドッゴーンってすごい音がし、衝撃波と瓦礫などがこっちにまで襲ってきた。やっぱブレスだからねぇ、当たった瞬間に巨大な爆発が起きちゃったか。
わりと凄い衝撃波がおきたけど、わたしは防御用のヒトガタが待機してたので埃すら浴びて無い。というかあの子たち、防御用のヒトガタを展開してたからブレスを放ったようね。でなければ、わたしを気遣って肉弾戦をしてるもの。
攻撃から1分少々、爆発で起きた煙幕も晴れてきたので、状況の確認を……こうなったかぁ。
サイクロプスは完全に消滅、ジジイも丸焦げ状態。あの子たち、うまく調整したね。サイクロプスを消滅させるくらいの威力は保ちつつ、ジジイにはその余波で黒焦げになる程度に抑えたと。ほんと賢いねぇ。
「はいみんな、お疲れさまーって、ちょっ、もう、みんな順番に撫でてあげるから。だかほら、おちつこーね」
わたしの確認が済んだのでお仕事終了と判断したのか、一斉にすり寄ってくるんだもん。ほんと甘えん坊ですね~。
さーてと、エレンとレイジはどうなったかな~。終わってたらいいけど、まだだったら手伝わなくっちゃ。
サイクロプスのカッコいい戦闘は今後もたぶんないです




